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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
二大国家戦争
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脅威の足音~開戦前~

 アレクシア帝国軍が、イースタル要塞攻略戦を開始する数日前に遡る。


 ミーティアラ王国、アレク公爵領トルツェの町に一人の男が訪れる。

 男の名は、アクーリア・フォルン・バイゼル。帝国領内である、バイゼル自治領の長だ。

 彼は、人目をはばかりながら、ライクラ・フォルン・アレクの屋敷を目指した。

 特別な通用口を使い中に入ると、勝手知ったる我が家同然に当主の部屋を目指す。

 軽く扉をノックして、部屋の主の返事を聞くと、直ぐ様部屋に飛び込む。

 そして、ようやく大きなため息を吐いた。

 ライクラは彼の姿を目にして、驚きのあまり持っていた本を落とした。


「あ、ああ、アクーリアではないか!?」

「お久しぶりです、叔父上……」


 ライクラは、驚きの表情からだんだんと嬉しさを堪える表情に変わる。


「久しい、なんてものでは無いぞ! どうした!? なんの連絡も無くとは、火急の用であろう? なんだ、何があった!? あやつが死んだか!!?」


 アクーリアの元に駆け寄ると、ライクラは笑顔で泣きそうになりながら、アクーリアの肩を掴む。


「ご安心下さい、叔父上。父は体を壊しておりますが、健在ですよ」


 アクーリアの笑顔を見て、ライクラは安心したように大きなため息を吐いた。


「そうか、生きているか……。体を壊しているだと? けしからんな……。わしよりもひ弱なのは相変わらずか……、愚弟め」


 ライクラは嬉しそうに、悪態をつく。


「ハハハ、そう父を責めないで下さい。今日は、こちらの動きを少々……」


 ライクラは目を細め、真剣な表情に変わる。


「手紙である程度は知っている。お前が、危険を犯してまで来るという事は、よほどな事だな……」

「はい、帝国が近日中にミーティアラへ進軍を開始します」


 ライクラ・フォルン・アレクには、歳が二つ下の弟が一人いた。名をクライト・フォルン・アレクである。

 クライトは、小さな頃から体が弱く、よく本を読んでばかりの人物であった。

 ライクラと共に王都ウンディエネの学び舎へ行く事になり、共に知識を競い合った。

 しかし、ライクラの方が二つも上な為、クライトは置いてきぼりをくらう。体力面でもそうだった。だが、クライトはそれを悔やむことは無かった。なぜなら、ライクラは彼にとっては自慢の兄であったからだ。知力、体力共に上を行く兄はどうあっても敵わないと感じていたのである。

 しかし、ライクラはそんなクライトを邪険にする事は一切無い。むしろ過保護とも言える程に、面倒をみた。

 友人の誘いを断り、クライトの勉強に付き合うのは当たり前と言った感じであるほどだ。

 兄が王国宰相の座に就くと、クライトは実家に戻り、次期領主としての教育を父親から受ける。

 だが、ライクラは宰相の座を辞する事になる。

 その原因が、クライトだった。

 クライトは急に、他の領地の婿になると言い出したのだ。

 その地こそが、バイゼル。

 帝国領にほど近い、領地だ。


 家を飛び出したクライト。

 ライクラは仕方なく、実家に戻り領主の座に就いた。しかし、それはクライトの暴挙では無かった。

 彼は、彼なりに考えて行動を起こした。それは、自身が内部から帝国を監視すると言う事だ。それは、危険が伴うモノだ。だが、彼はそれを選択したのは、一重に兄のためだ。ミーティアラ王国の為では無い。

 ライクラの知力は王国に知れ渡り、知らぬものは居ないと言う程になっていた。

 コレを好機と考えての行動だったのだ。

 兄に、情報を流せば兄は必ず家を、民を良き方向に導くと信じてのクライトなりの行動だったのだ。

 彼が残した手紙で、全てを知ったライクラは、辺境の領主の座に就いた。

 それは、領地の民を守る確固たる覚悟を持ってだった。そして、弟の期待に応えるためでもあった。

 クライトは領主の座を退き、息子アクーリアにその座を譲りはしたが、未だ権力を持って、領地を陰ながら支配している。それは、ライクラと同じく知力が高い証明でもあった。


「そうか、アレクシアめ……、そこまで……。しかし、解せぬな。現皇帝はそこまで頭が回るのか?」

「驚くほどですよ。父も頭を抱えておりました。それと、コレを御覧ください」


 アクーリアはアレクシア皇帝のこれまでの経緯を話した後、数枚の光沢を帯びた紙を懐から取り出す。


「これは……、銀板転写式風景画だな」


 銀板転写式風景画とは、地球世界の写真だ。魔法で銀板に風景を焼き付け、それを紙に転写するという代物だ。それは、絵を描くそれとは違い、風景を完全忠実に写し出す。


「なんだこれは!?」


 一枚の写真を手に、ライクラは手を震わせる。


「それこそが、帝国主力とも言える軍事兵器、戦闘用特殊魔導車……通称『戦車』、『エム・ワン』です」

「箱に、筒が伸び出ている! この筒は、もしや巨大な魔導銃ではあるまいな!?」

「叔父上、魔導銃をご存知で!?」

「あ、ああ、知っているとも……」


 ライクラは、ファストの町で起きた事から今日に至るまでを話した。


「なるほど、既に帝国が……。クソッ私はなんと動きが遅いか!」

「アクーリア、自分を攻めるな。事が事だからな……。そしてそれは、おそらくタクローと呼ばれる者達から始まっている。誰も予想は出来ぬよ……」


 アクーリアは、悔しそうに頭を下げる。


「アクーリア、それよりも現状を詳しく聞かせてくれ」


 アクーリアは語りだす。

 帝国の現状を――――。



 アクーリアがライクラの家を訪れているのと時を同じくして、アレクシア帝国の城、皇帝執務室に一人の男が訪れていた。


「久しぶりだな、レムナン……」


 グラディオーレが、机に肩肘を付いて紙の束とレムナンと呼ばれた男を交互に見る。


「ほんと、お久しぶりですよ……陛下。でも、本当に良い休暇になりました」

「軽口も相変わらずだな……」

「どうも」


 レムナンはニッコリと笑顔を浮かべる。

 一方のグラディオーレは深い溜め息を吐いた。


「で? 報告を聞こうか、ゴースト・ワン」


 そう、レムナンこそ皇帝直轄特別部隊『ゴースト』の隊長である。


「報告書をご覧いただければよろしいかと」

「後で目を通す。お前の率直な意見が聞きたい」

「光の障壁ですよね?」

「そうだ」


 レムナンはファストの町に潜入した所から話しだした。

 町の人々に聞いたが、意外と知る人間は少なかった。それは、城壁が展開されたのが町から離れていたせいもある。だが、不思議な事に箝口令が布かれているフシも見受けられた。

 苦労して手に入れた情報を元に、一人の男に行き着く。

 それはトルツェの町にある領主館に捕らわれている、辺境監視部隊のグレクセン・オーデヴァル伍長だった。

 グレクセンから、事の全てを聞き出して彼等は撤退したのだった。


「なるほど、では、光の城壁……で、あったか? アレの人物の特定は出来なかったのだな?」

「はい、出来ませんでしたねぇ。それに、銀色の全身鎧の存在は解りましたが、それを装着している人物も解りませんでした」


 グラディオーレは頭を抱えた。


(魔法が使われた痕跡は有った……。城壁なんて聞いたこと無いぞ……。なんじゃそれは。おまけに、銀のフルプレート!? そんな、設定あったっけ?)


 険しい顔で物思いに耽るグラディオーレだったが、ふいに一人を思い出す。


「それで、グレクセンという奴はどうした?」


 レムナンはニコリと笑う。


「助け出すメリットが浮かばなかったので、処分しました」

「しょぶん?」

「はい、南部方面隊に確認しましたが、彼、元々捨て石だったらしいので情報をあまり持ってないんですよ。なので……」

「そうか、解った……。下がっていぞ……」

「はい。では、失礼します」

「ああ、待て。お前だけに、一つ命令を出そう」

「はい?」


 グラディオーレはレムナン、ゴースト・ワンにある勅命を下した。

 それは、彼に適任な任務だった。



「ミーナさん、コレはどうするんです?」

「ん?」


 製図板と睨めっこをするミーナに声を掛けたのは、スルト・ブロケン。

 アレク領の工房から、魔導銃製作指導の為にスパッタ・メルトと共にウンディエネの工房に派遣されていた。


「ああ、それは、スプリングを縮めて押し込んで」

「あいよー」


 王都ウンディエネの工房では、魔導銃の量産体制が出来上がっていた。

 ウンディエネだけではない、アレク領のトルツェの工房でも魔導銃の生産は継続して行われている。スルト達以外も、良品を生産出来る体制が整ったので、彼等は王都にやって来た次第だ。


「ミーナさん、コレはなんです?」


 スパッタがミーナが描く図面をマジマジと見つめる。


「これも、魔導銃だよ」

「内部機構が複雑ですね……」

「かもねー……。でも、タクロー君の意見を参考に描いたらこうなったんだよね」


 ミーナは苦笑いで、製図板の横に拡げられた紙を見る。そこには、手書きで様々な機械仕掛けが描かれている。

 それは、タクローが部品単位で描いた銃の機構だ。


「試作品の弾丸、面白いですね」

「でしょ! 俺も、そう思ったよ」


 ミーナは満面の笑顔で近くに転がる、弾丸を手に取る。


「タクロー君は、時々『コイツ頭大丈夫か?』って思うような事を言うんだけど、それがこういう発想になるとは……」


 ミーナが手に取る弾丸は、コレまでのモノとは全く違うものだ。見た目だけなら、地球世界で現在使用されている弾丸と変わりない。

 しかし、唯一違うのは火薬が入っている部分は空洞で、ましてや雷管すら無いのだ。だが、これこそがこの世界では正解なのである。それは、火薬と言う存在が無いと言うからではない。

 魔法が全てを解決するからだ。


「これ、全体が弾丸ではないのですか?」

「違うよ、弾丸は先っぽだけ。弾丸を抑えるように包んでいるのが、ケースボディ、または薬莢やっきょうって言うけど……。そうだな……、コレなら爆筴ばっきょうと呼んだ方が正解かな」

「ばっきょう?」


 地球世界の銃は、薬莢内に火薬ガンパウダーを詰めてあり、後部にある雷管を撃針が叩いて火薬ガンパウダーを燃焼させ、燃焼ガスで弾を外へと押し出す。

 タクローが提示した案は、それを根本的に変えるものだった。

 この世界での魔導銃は、爆発魔法により膨れ上がる空気で弾丸を外へ押し出す機構だ。ガスを銃床内に設けられた空洞内で、膨張させてそれを圧縮して、弾丸を押し出す。

 だがタクローは、コレをダイレクトに出来ないかと言い出したのだ。

 剣と槍、弓と魔法の世界で、帝国が提示した魔導銃は画期的な武器である。

 だが、それを軽く凌駕し、魔法を体よく利用した機構を編み出したのは、タクローもまた、ミーナに負けず劣らずミリタリーオタクでもあったに他ならない。

 ただ、タクローの場合は映画の影響が大きく、ミーナの様に世界観や各国の武器や歴史が詳しいわけではない。だが、それを補填する様に知識を持っていたのは、ゲームがあったからだと言えよう。

 敵施設に潜入して、敵に気づかれること無くを倒していくゲームだったり、大量のゾンビなどを倒していくゲーム……他にも、様々あるが銃を使ったゲームは当たり前の様に多い。そんな中で、知識が増えていくのは、当然とも言えよう。

 余談だが、タクローは気に入ったものはネットを使って徹底的に調べる質であった。それが、今回は変な方向に進むきっかけになったのは言うまでもない。


撃針げきしん、もとい瀑針ばくしんを爆筴の後ろにある穴へ差し込んだ際に、爆発魔法が発生して弾丸を打ち出す仕組みだよ」

「この円錐状の部品ですね……」

「そう、それは魔石で出来てるからね。この爆筴の穴に入ると、蓋の役割もになってるんだよ」

「なるほど! 密閉状態で爆発させて、弾丸が発射! そうか、そういう事か。爆発室を弾丸と一つにしたんですね!?」

「正解!!」


 やや離れた所で、スルトが苦笑いでミーナとスパッタのやり取りを見ている。

 スルト自身、気になっていた案件だが、変なプライドが邪魔して聞けなかった話を、若いスパッタは好奇心の塊と言わんばかりの表情で目を輝かせて質問攻めを行っていたのだった。


 シンジは、毎日図書館通い。

 賢者達の断片的な記録をかき集めている。


 リリーアは暇を持て余していた。

 タクローの元へ遊びに行こうとするが、何度もトーマスにその道を塞がれた。

 この日も、勉強漬けだ。

 最近はもっぱら、戦術論や戦略論ばかりだが、戦争が起こっていない昨今では、この知識が本当に必要なのかと思い適当に聞き流していた。



 グレートウォール要塞から出発した、第一、第二機甲師団。

 戦車四十台と、歩兵二万と魔導通信機付きの『指揮車』と呼ばれる魔導車二台が、イースタル要塞を目指すべく西に移動する。

 万を越える歩兵の足並みに合わせている為、魔導車だけよりも進みが遅かったが、確実に歩を進める。

 かくして、イースタルに確実なる脅威が近づくのだった。


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