気晴らし旅行へ
タクローはヒカルから、一つのケースを渡される。
それは、丁度トレーディングカードが入りそうな大きさの物だ。
「これは?」
「魔石カード、もとい、マジックカードよ。そのケースの中に中位魔法以上の魔法がカード方式で入ってるわ。まぁ、術式が単純なヤツから順に入っている感じね……」
タクローはケースから、数枚カードを抜き取ってみる。
「魔法の属性で色分けされてるから、一応見やすい……はず?」
「なんだよ、『はず?』って?」
「基礎原理は私が構築したんだけど、後は研究員の人達が作ったから……」
「なんでまた?」
「オリヴァレさんが、今後の糧になればって事らしいわよ……」
タクローはマジマジとカードを見つめる。試すわけにもいかないため、取り敢えずアイテムボックスにしまった。
ある日の夕食時、ひっきりなしにため息を吐くシンジを眺めて、タクローはある事を思いつく。
「なぁ、まだ古い本を読み漁ってるのか?」
「まだまだまだ……、調べる本は山のようだよ……」
「エルフって長寿だよな? 賢者について知ってるやつを探したほうが、早くね?」
シンジは目を真ん丸にして、タクローを見る。
「なんだ、気づかなかったのかよ……」
「そういや、そうか……。だよなぁ! だよだよ!」
シンジは嬉しそうに何度も頷く。
そこへトリスが大きなため息を吐いた。
「はぁ……、知らないのかい? エルフは昔程長命じゃ無くなってきてるんだよ……」
「えっ!?」
トリスの言葉にタクローとシンジ、ヒカルとミーナが同時に声を上げる。
「近年人口が増えて、町や都市が広がって自然が少なくなっているのと、エルフ達も人里に降りてきているのも相まって、寿命が短くなっているらしいな……。しかし、相変わらず主様の作る食事は美味いな……」
食べ物を頬張りながら、話すセルヴィナ。そんなセルヴィナに、アリーシャが行儀が悪いと注意をする。
「え? イツキ、そうなのか?」
イツキは困ったような表情で、食事の手を止める。
「すいません、マスター。私はまだ、二十を数えるくらいでしか生きていないので、よく解りません……」
申し訳なさそうに、深く頭を下げる。
「いやいや、別に気にするなよ」
「そういや、近年の研究ではエルフが人間の寿命と大差が無くなるまで、後十数年足らずだろうって話があったような……」
セルヴィナは腕を組んで、首を捻る。
「要は、森が減っているのさ。森が減ると、植物系モンスターやら森で生活しているモンスターが一箇所に集中するだろ? そうなると、エルフの住処がだんだんと無くなっていくらしい……」
トリスは隣で、ニコニコと食事をするもう一人のエルフであるシズクの頭を撫でた。
「だから、奴隷ってか……?」
トリスは、タクローからピリリとしたニオイを感じる。
「い、いや……。皆が皆そうじゃねぇよ。俺の居た国では、皆で仲良く暮らしていたし……」
「だけど、もう無い」
アリーシャの一言で、食卓は一気に凍りついた様になる。
「アリーシャ! 余計な事を言うな!」
「でも、事実でしょ?」
アリーシャとトリスが睨み合う。
「二人共、話がそれてるよ……」
すかさずミーナが仲裁に入る。
「はぁ……、何処の世界でも、そういう問題はあるんだなぁ……。確かに、王都もだけど、センターも人工物が多かったしなぁ……」
タクローが腕を組んで考える。
「じゃぁ、エルフ頼りは駄目かなぁ……」
ガッカリとした様子で、シンジは再びため息ばかり漏らす。
「どうかな? トリス、ハイエルフはどうだ? 奴等なら、まだ何処かに隠れ住んでるんじゃないか?」
セルヴィナの言葉に、トリスが難しい表情になる。
「そりゃ、探せばまだ居るだろうさ……。ハイエルフだけじゃない、ダークエルフだって帝国じゃ奴隷として売り買いされてるらしいからな……。でも、森を荒らして奴隷にする奴を連れてくる連中だって居るんだぜ? 簡単に見つからないように隠れてるだろ? 普通に考えて……」
トリスの言葉に、イツキは勢い良く席を立つ。駆け足でタクローの元に来ると、ヒシっとタクローにしがみついた。
イツキが震えているのを感じたタクローは、彼女の腕を優しく撫でる。
「この反応が、そういう事なんだな……」
タクローがトリスを見ると、苦笑いで頷く。
「イツキ、言いたくなかったら言わなくて良い。だが、聞くぞ。お前の住んでいた所はどうだ?」
イツキは全身を震わせながら、タクローをきつく抱きしめる。
「燃えました……。火がいっぱい……。仲間達も、オトト様も、オカカ様も……。人……、人の手がいっぱい……、私を袋に……」
「解った、もぅ良い……」
涙を流し震えるエルフをタクローは優しく、抱きしめた。
気が付けば、奴隷少女達全員がカタカタと震えている。
「セルヴィナ?」
タクローに睨まれて、セルヴィナは何故睨まれているのか解らずに、目を泳がせる。
「どうにか出来ないのか? 王家ってやつは?」
そういう事かと理解して、タクローに真剣な表情を向ける。
「私もかつてはそうでしたが、貴族の間では『人間至上主義』と言う考え方があります。その考え方が、彼女達の様な事に繋がると、リリーアが言っていました。だから、考え方を根本的に変えないと、こういった事は無くらないでしょう……」
「旧時代のどこか、かよ……」
シンジは頭を抱える様に、呟く。
「トリスも、その被害者」
アリーシャが、また一言付け加える。
そんなアリーシャの頭を、トリスが強く撫でる。髪をクシャクシャにされ、アリーシャは不機嫌そうな顔でトリスを睨んだ。
「よし、決めた!」
タクローがイツキを抱きつかせたまま、勢い良く席を立つ。
「皆、気晴らしにちょっと出かけよう!」
「はぁ!? おまっ、また、唐突に何を言うんだ!!?」
シンジは、驚きの声を上げたがヒカル以外は全員が同じ表情だった。
「いや、俺さぁ、最近家に引き篭りがちじゃん? どっか、出掛けたい訳さ。ちょうどこの前、買い出しに出掛けた時に、観光スポット的なガイドブック見つけてな、巡ってみようと思ったんだよ!」
タクローの提案に真っ先に賛成の声を上げたのが、ヒカルだ。
「良いと思いまーす。ここに来てから、家を買って、車買って……、皆結構充実ライフじゃん。たまには気分転換も必要だよ!」
シンジとミーナは困った顔で、ヒカルを見る。
「すまん、俺はパスだわ……。帰らなきゃいかんのに、気晴らしとか……。無駄な時間は割けないよ……」
「ごめんね、ヒカルちゃん。せっかくのタクロー君の案でも、俺も行けないや。工房で色々頼まれてるし……」
そんな二人をタクローは気にしない。
「良いよ良いよ。無理にとは言わないから。だけどシンジ、俺が先に帰る方法見つけても、文句言うなよ」
ニヤリと笑うタクローにシンジもニヤリと返す。
「言ったな……。俺が先に見つけても、絶対文句言うなよ!」
二人は、笑いながら火花を散らす。
「他はどうする?」
ヒカルが全員を見回す。
セルヴィナは、「主様の行く所、何処へでも」と返事をする。
アリーシャとトリスは一瞬顔を見合わせ、同時にヒカルに対して無言で頷いて返事とした。
「わ、私達も……」
未だタクローにしがみついて居るイツキが、初めて自分から発言をしたようにヒカルは感じた。イツキを皮切りに、「私も」「アチシも」と声が上がった。
結果、シンジとミーナ以外がタクローと共に王都の外へ出掛ける事になったのだった。
翌日、タクロー達は昨晩準備した荷物を二台の魔導車に詰め込む。
ミスティック・アーマー・ナイトが収められている棺桶も忘れない。
ミーナとシンジが見送る中、十三人を乗せた二台の魔導車が王都ウンディエネを後にするのだった。
二・三日となるはずであったが、やや誤差がある気晴らしの旅になるとは、その時は誰も考えもしなかった。




