運び込まれるモノ
王立魔導研究所一件もタクローにとっては、どうでも良い話で、日々をのんびりとすごしている。
オリヴァレがミスティック・アーマー・ナイトの性能が見たいと言うので、見せた程度の話だと思っていたからだ。
そして、王都での平和な日々が暫く続く。
シンジは一向に賢者の手掛かりを掴めずにいた。
ある日の夕食時に、それぞれが今の状況を話し合う状態になる。
トリスとセルヴィナは、イツキとニコ、サツキとコズエにある程度の武術を教えていた。それは、今後の為に自衛手段を取れるようにとトリスが提案したためだ。
アリーシャは元々勉強熱心だった事で知識が豊富という事もあり、少女達に読み書き等を教えている。
ミーナは相変わらずの工房通い。
時折タクローの鎧の整備も行い、また、購入した魔導車のワゴンタイプをミスティック・アーマー運搬用に改造なんかも行った。
そして、ミーナのおかげでミスティック・アーマー・ナイトはバージョンを1.0から1.2へとアップグレードされる事になる。それは、脚部魔法展開時間を短縮させる機構を追加するため、魔導伝達回路の拡張を行った。
コレにより、エアロダッシュの威力は上がらないが、発動までの時間を短縮させる事に成功したのだった。
ヒカルは、センターの時に見せたマジックカードの製作と調整だ。マジックカードは最初に使った時、一度だけしか使う事が出来なかった。それは、タクローの魔力量と、相性にあった。
本来魔法使いは、僧侶などが使う魔法とは種類が異なる、そのために制限が掛かったと思われた。だが、他のタクローが使用可能な魔法でも数回使えれば良いと言う状況である。それが、魔力量だ。
ミスティック・アーマーで魔法を使用した際は、鎧がある程度魔力を抑制させる効果があるらしい。それは、王立魔導研究所の魔法試放室で明らかになった事実だ。
マジックカードは、タクローの純粋な魔力量から魔法を発動する。
限界を突破した領域での魔法使用は、通常の魔石にインプットされた術式では耐えられないということらしい。研究者達の話では、魔石カード自体もそんなに長持ちしないと言う考察が成されていた。そのため、ヒカルはカードをある程度の枚数で用意する事にしたのだった。そして、カード作成にはタクローの意見が、全面的に反映される形になった。
「そんでシンジ、賢者の件はどの辺りまで解った?」
「どの辺りも何も、断片的過ぎてよく解からん……。第
一、どれが誰の記述なのかもてんでバラバラなんだぜ? 読み解くにはパーツが少なすぎだよ……」
シンジは頭を抱える。相当に困難な事なのだろうと、一同は察する。
「それならさぁ、変だと思った事は無かったのか?」
タクローの言葉にシンジはくたびれた顔を見せる。
「お前さぁ、聞いてたか? 記述がバラバラだって……。変だと思った事なんて……あ――」
シンジはズボンのポケットから一枚の紙を取り出した。
「断片的に記載されていた魔法の文字を書き出したら、こんな魔法陣になったんだが……」
王立図書館で賢者に関する記述のある本は基本的に、貸出はしていない。その為、シンジは気になる事は紙に書き出していた。これもその一つだ。
「魔法陣ならヒカルか……、どう?」
タクローはヒカルに紙を手渡す。
「なにこれ……。そら? いや、空間かな? 術式を分解して見ないとわからないけど、外輪は空間、中心が……なんだろ?」
ヒカルの言葉に、シンジとタクローが顔を見合わせる。他のメンツは蚊帳の外とばかりに、黙々と食事と酒飲みにふける。
「何かに類似魔法があれば、良いけど……。あれ? あれれ? コレ、どっかで見た事が……。ミーナさん、コレ見たこと無い?」
ヒカルに紙を見せられ、ミーナは首を捻る。
「見た事……あったっけ?」
「ほら、何かで……アレ、アレだよ!」
ヒカルは喉まで出かかった答えが出きらずにイライラした感じを覚える。
「アレ! アレ? あー、もどかしい! アレなのに……」
「アレアレ言ってるのは、歳な証拠……」
タクローの茶化し言葉で、一瞬場が凍りつく。ヒカルは「ほっとけ」とだけ返して、頭を抱えた。
結局答えが出ないまま、その日はお開きになった。
帝国領、グレートウォール要塞。
朝日が地平線にチョコンと顔を出しかけ、朝靄が視界を奪っている。魔導列車の音と、前照灯の灯りだけがグレートウォール要塞の列車出入り口にある門番詰め所から見聞き出来た。
「おお、補給列車か? こんな朝っぱらに?」
夜間勤務の見張りの男が、椅子から重たそうに立ち上がると、詰め所から出る。
線路脇にある踊り場から、列車の到着を待つと、視界数メートルまで来てようやく列車がブレーキを掛けて止まろうとしている事が解った。
「よお、今日はどうしたい?」
見張りの男が声を掛けると、列車の動力とも言える機関車から一人の男が顔を出す。
「特例だってよ。ほれ、命令書」
見張りの男が、機関車から降りた男を見ると、彼が運転助手だとようやく解る。
「特例だって?」
運転助手から封書を受け取ると、中の紙を取り出して読む。
「は、はぁ!? 皇帝陛下からの勅命!!?」
「らしいな、新設の部隊をお届けだ」
運転助手の男が親指で列車後部を指差すが、朝靄で見えない。
見張りの男が機関車後部へ駆け出すと、ホロを被った不可思議な存在を目にした。
「何だこれは!?」
「戦闘用特殊魔導車『エム・ワン』だそうだ。最初の便で二十台、次の便で二十台。第一便、新設第一機甲師団のお届けだよ」
運転助手は、ニヤリと笑ってみせた。
「き、きこうしだん?」
「この、せんとう……、ああ、めんどくせぇ『戦車』の乗組員四人が二十組計八十人と、歩兵部隊五百人と、魔導機械部隊五十三人で、一個師団計六百三十三名と、武器弾薬をたんまり持ってきたぜ!」
見張りの男は目をパチクリとさせ、命令書と言える紙に二度見する。
「門を開けてくれないか? 後ろの貨物車に詰め込まれた連中、結構殺気立ってるらしいから……」
苦笑いの運転助手に、見張りの男は無言で頷き、詰め所に戻る。
詰め所内にある開閉装置を操作して、グレートウォールへの扉が開いた。
「お、おい! 本気なのか? ミーティアラに本格的に仕掛けるって!?」
「らしいな、俺は関係ないが……。そこら辺は後ろの連中に聞いてくれ」
運転助手は機関車に戻る。
長い長い貨物列車が、グレートウォール要塞内へとゆっくり侵入していった。
ホロを掛けられた通称『戦車』は、箱型に似た車体から円柱の筒が長く伸びている。
見張りの男は、呆然と進む列車を只々眺めていることしか出来なかった。




