動き出す帝国と、平和な王国
ミーティアラ王国王都ウンディエネに平和な空気が流れる中、アレクシア帝国にはやや不穏な空気が流れていた。
帝国の城にある、王の執務室で皇帝グラディオーレ・ティーワイ・アレクシアが日々の職務に追われていた。
そんな彼の元に、宰相であるナグルス・ヴァン・オルスキーがやって来たのは、昼少し前だった。
「皇帝陛下に置かれましては、ご機嫌麗しゅう……」
いつもの挨拶にいやいや返答すると、ナグルスはご機嫌といった表情を浮かべていた。
「で? 一体どうした?」
雑務と書類の束に、ほとほと嫌気がさしていたグラディオーレの機嫌はすこぶる悪い。
「東の小国を陥落させたお知らせを……」
頭を下げつつも、ナグルスはこれから来るであろう称賛の声を待ちわびている。
「ああ、そうか……」
しかし、グラディオーレからもたらされた言葉はそっけないものだった。
(アレだけの装備と、おまけに新開発のアレを出したんだぞ? 当たり前だろう……)
ため息混じりで、書類の整理に追われる身としては、騒ぐほどではないといった様子だった。
「なるほど、流石ですね。陛下は既にご存知でしたか……。いやいや、私が最初のご報告かと思ってましたよ」
普段は温厚なナグルスは、皇帝への賛辞も忘れない。
「いや、アレだけの装備なら問題無いと思ってな……」
ナグルスは、グラディオーレを見てニコリと笑顔を見せる。
「で? 被害は……、多分、少ないのであろうな……」
ナグルスの表情から推察すると、また、賛辞が送られた。
「流石ですね、その通りです。陛下のご指示通り、五百の歩兵と十二台の魔導車で楽に落とせたそうです」
「そうか…」
グラディオーレは、少し口元を緩め、一息つく。それをナグルスは見逃さなかった。満面の笑みでグラディオーレを見つめた。
「お次は、いよいよですか?」
「ああ、そうなるな。その前に、魔導車……いや、戦闘用特殊魔導車『エム・ワン』の指揮担当並びに、戦車長にの話を聞こうか。改善点があれば、設計した私も聞かねばなるまい」
「なるほど、確かにそうですね……。解りました、直ぐに手配を」
「頼んだぞ」
去って行くナグルスの背中を見つめ、執務室から完全に出ていった所で、グラディオーレは大きなため息を吐いた。
「元々、『帰る』為に始めたんだけどなぁ……。どうして、こうなっちゃったんだろう……。まぁ、賢者達の記録では、大陸を巡らなきゃいけない訳だし、まぁ、大陸統一なんてのも……良いか……な? 大アレクシア帝国構想か……。漢字だと、『大亜帝国』……なんちゃて……」
グラディオーレは、独り言を言って一人で、笑い出す。
普段、人前では滅多に笑う事は無い。いや、含み笑いや、苦笑いなどはあっても、大いに笑ったりする事は、一国をまとめる王として、許されないと自分に言い聞かせて居たのだ。
一方のナグルスは、王の次の計画を進行させる為に意気揚々と城内を歩き回った。
変わってミーティアラ王国、王都ウンディエネにある王立魔導研究所内にある魔法試放室。
そこは衝立で仕切られ、一人一人が個別で、的に向けて魔法を放つ場所。射撃場にも似た場所で、自身のマジックアクティベーターの性能を確かめる為に研究員達が試し撃ちをしたり、目標に向けて的確に魔法が当たるかを見る場所だった。
研究員、リルヒア・アーミンバスも自身が改造したマジックアクティベーターの性能を調べていた。
「ファイヤーボール! 付与魔法発動、ショット!」
ゴルフボールよりもやや小さめな火の玉が、素早く的に命中する。
「良し、いいぞ!」
自分が改造を加えたマジックアクティベーターの反応に、ガッツポーズで喜ぶ。
「ようし、次だ……」
マジックアクティベーターを操作し、次に使う魔法を選んでいる時だった。
試放室内に、聞いたことの無い金属音が響く。
ガチャンともガシャン聞こえる音と、ガキンガキンと石床に金属が当たる音も聞こえる。
何気にリルヒアが、衝立から外を見ると、そこには何人もの地位の高い研究者達と見慣れぬ女性、ソレに王国随一と言われる魔法の権威、オリヴァレ・フランケルストリア・アーリーの姿があった。
驚いたリルヒアであったが、偉い人達が囲んでいては近づく事が叶わないと思い、自分の作業に戻る。
ズドドン! ズドドドン!
試放室に一際大きな音が鳴り響く。
十数名が思い思い魔法を放っていたが、音に驚いて誰しもが魔法を放つのを止める。
衝立から身を乗り出し、音のする方に目をやると、銀色の右のガントレットがニョキリと出て、魔法陣を展開させている。
耳をすませば、魔法の名称を言っている。
「フレイム、追加、ショット、追加、バースト」
大きな火球、いや炎球が的に向かっていき、一気に弾けた。
それを見た、一般の研究員達は一体どんな人物が撃ったのか気になりだす。
次いで聞こえてきたのは、聞き慣れないモノだ。
「ファイヤーボール、追加、ショット、追加、ラピッドファイア、追加、バースト」
同時三個の付与魔法など、聞いた事が無かった研究員達は、固唾を飲んで的を見つめる。
ズドドドドと、リルヒアよりも何倍も強力そうな火球が勢い良く何発も出る。その後、的に当たり一気に破裂したのだ。
驚異的な威力に、的として用意されていたミスリル合板が砕け散った。
一斉に驚きの声が上がり、誰もがその存在を確かめようと、発生源へ飛び出す。
それは、見事なまでの銀色に輝く全身鎧だった。
高位の研究者達と一般人に思える格好の女性、そして、この場所では最も偉いとされるオリヴァレに連れられて、銀色の全身鎧は試放室を後にしたのだった。
「おいおい、なんだよアレは……」
リルヒアの仲間と言える研究員の一人の言葉を皮切りに、その場に居た全員がざわめき立つ。
「王国の新兵器かな?」
リルヒアが近くに居た研究員に声を掛けると、両手を肩の位置まで上げて、解らないのジェスチャーをした。
こうして、王立魔導研究所内にあっと言う間に試放室での出来事が、ニュースとなって駆け巡っていったのだった。




