王都にて2
王都から西の端に、大きな一軒家があった。
そこは、一軒家と言うよりも少し小さめのお屋敷と言った感じの風貌であり、貴族が暮らしていそうな感じになっている。
かつては、何処かの貴族の隠れ家として作られたらしいが、息子が資産を食いつぶしてしまった為に、売りに出されたらしい。
不動産業者が、王家の指示で物件を手配することになった。
あまり大きくなくて、目立たない場所にある家が良いと言われて直ぐにココが候補に上がったのだ。ただ、王都中心部からはかなりの距離があるため、徒歩での移動は難しい。
タクロー達は、ゲーム時代の金貨を大量に所持している。
そのため、魔導車二台と家を軽く一括払いで購入した。四人の中で、一番所持金が多かったヒカルが全額負担したのだ。
魔導車を購入する際、懸念された『免許証』問題は、この世界では免許が無い様で簡単に購入して誰でも乗れる様になっていた。それは、一重に一般人からしてみれば、魔導車がいかに高級品であり、いかに一般普及していない証でもあった。
魔導車にも、様々な種類がある。セダンタイプや、バンタイプにワゴンタイプもあり、見た目やデザインは違うものの地球世界と変わらない種類がラインナップされている。それに、一番高い物ではスポーツカーと思われるものも存在した。
エンジンは大体が直列4気筒魔導エンジンで、大きな物では六気筒やV型エンジンも存在する。
基本的に、化石燃料と言う概念が無いこの世界では、全てのエネルギー源が魔法の源であるマナで賄われている。
エンジンも、地球世界で言う所のスパークプラグ部分に魔法で、爆発を起こさせてピストンシリンダーを回転させる仕組みになっている事から、基本的構造は地球のソレとあまり変わらないと言っても良い。ただ、魔法であらゆる面を構築しているため、地球世界の車よりも極めてシンプルな構造も多い。
おまけに、ガソリンが燃料では無いため、排気ガスは一切出ない。マナを消費した際の空気が外に排出されるくらいなため、大気汚染の心配がいらないのだ。
タクロー達は、バンタイプにワゴンタイプを購入する。それは、荷物が運びやすい為と、メンバーが多くなった為である。
インテリア等は、家を買ったヒカルの案が全面的に反映され、やや女性向けになっている。
かつての奴隷少女達は、リリーアからよこされたメイド数名から立ち振舞いや、家事全般の教育を受けている。
住む場所が出来ると、イツキが中心となり、家に閉じこもりがちになる。
何もしてないのは良くないと、タクローがセルヴィナを通じて、リリーアに相談する。すると、彼女は自分の身の回りの世話をしてくれているメイドを数名、教育係として派遣してくれた。
八人も居るのだから、それぞれ分担すれば小さな屋敷を綺麗に保つのは簡単だと、思われた。しかし、全てが一からとなったために、上手くいかず時間を要する事になる。
食事はもっぱら、タクローが担当する。
それは、彼が地球世界で生活していた時、趣味の一つとして料理が出来たからだ。
この世界では、和食に必要な調味料は無かった。塩と砂糖がもっぱらの味付けで、スパイスは黒胡椒。香草もあり、バジルやオレガノ、レモングラスからローズマリーにミントと他多種存在する。
調理油は、オリーブオイルに香りも色も似た油が主流で、基本的にはイタリアンなテイストが強いと感じられる。
乳製品から、牛に似た肉やら豚肉に似た物、鶏肉に卵もある。
主食は小麦に、大麦。そのため、パンやパスタに似た物が一般的だ。
野菜は人参やじゃがいも、玉ねぎやら他多数存在する。
取り敢えず、タクローはイタリア料理から手を出し、様々なアレンジを加えて、メンバーを飽きさせない様に工夫した。
また、地球世界では無い食材として、モンスターの肉がある。臭みが強く、ジビエ料理と呼ぶにふさわしい物だが、きちんと下処理をすれば美味しく食べる事が出来る。
湯通しや、煮込みなど工夫が必要だが、タクローはあの手この手と研鑽を繰り返して、独学で料理の腕を上げていく。それは、自身がこの世界の料理に飽きはじめていたのと、三食、自分を含めて十四人分の食事を準備しなければならないからだ。
最初は、意気揚々と取り組んでいたが、数日で嫌気がさしはじめる。所詮は趣味の領域であるが為であった。
そのため、アリーシャやかつての奴隷少女であった最年長のイツキと、その下になるニコが料理の手伝いにまわった。こうして、何とか全員分をある程度決めた時間までに準備する事が出来るようになった。
ヒカルは数日過ぎた頃に、王立魔導研究所と呼ばれる場所に通いはじめる。
シンジは相変わらず、本の虫と化していた。
ミーナは、別の場所に下宿しているアルフと共に工房通いだった。
タクローは暇を持て余し、家事全般を少女達と共にこなしている。
ある日、タクローが「俺、このまま専業主夫に転職かなぁ……」と言うと、少女達は不思議そうな顔で首を傾げる。
「このまま、のんびり家で過ごすって事だよ」と答えると、少女達は嬉しそうにタクローに抱きつた。
タクローの部屋には少女達が、ひっきりなしに出入りしている。
最初は『捨てられたくない』といった動機であったが、いつしかタクローに懐いた形になっている。
当初はタクロー以外には、警戒する節が多々あったが、いつの間にか全員と笑顔で接している。それは、彼女達の心が少しずつ癒やされていった証とも言えるだろう。
ある日、ヒカルに言われてタクローは久々に家を空ける事になる。
向かう先は、ヒカルが通っている王立魔導研究所だ。
王城の近くに、一際目立つ形の建物がある。
学園区画と呼ばれる場所にあるのが、王立魔導研究所。魔法の研究や魔導エネルギーを探求する場所だ。
そこは、大学の様な場所でもあり、高等部を卒業した者達の中で、最も魔導学で優秀な成績を収めた者のみ、そこへ立ち入る事を許される場所だった。
魔導研究所のある一室へ連れてこられたタクローは、一人の老人を目にする。
何かの書類だろうか、紙の束に囲まれ一人黙々と紙と手元にあったフラスコを交互に眺める。
髪の毛はボサボサで、髭は手入れをしていないのか長く伸びている。
薄汚れたローブに身を包み、顔の大きさからはやや小さいと思えるメガネを掛けてた老人男性の名は、オリヴァレ・フランケルストリア・アーリーだ。
「お爺さん、話の人、連れてきましたよ」
ヒカルが声を掛けると、オリヴァレは険しい顔で紙を眺めている。
「お爺さん!」
もう一度声を掛けて、初めてヒカルに気が付いた様で険しい顔をヒカル達に向ける。
「ほぉ、ヒカルさんか……。して、その後ろの男がそうじゃな?」
「そうです、彼がタクローさんです」
「はぁ……、あの王の嘆きの元か……」
オリヴァレはため息を吐いて、手に持った道具と紙を置いてタクローに近づく。
値踏みするように、タクローをジロリと睨みつけた。
「な、なんだよ?」
「ふん、コヤツがのぉ……」
オリヴァレは、タクローの話を国王であるサナビルドから聞いていた。
これまでの経緯は伝え聞き、また、ヒカルの話を聞いて会ってみようと思ったのだった。




