壊滅する地下組織
下水道で巨体の悪魔との戦闘後、タクロー達は本来悪魔が居た場所へと向かった。
そこは大きな空洞に成っていた。地面には幾つも、布の塊がある。
最初にその空洞に入ったタクローは、その目を疑った。布の塊からは、人の手らしき物が出ている。一つの布を剥ぎ取ると、中には醜い姿の少女らしきモノが入っていた。
見るからに、息はしていない。また、一つを剥ぐと、同様に今度は亜人の少女の体があった。
よくよく辺りを見ると、一箇所に山になって布の塊があるのだ。
「まじかよ……」
タクローはその場所に近づくと、百は軽く越えるだろう塊が見て取れる。
悪魔との話を思い出す。そして、溢れ出たアンデットを考えると、ここには本来千は越えるだろう死体の山があったことになる。
後からやって来た仲間達も、小さな灯りで照らし出されたソレを見た。
誰もが声を上げて、少女だったモノに対して嘆きの声を漏らしていた。
タクローが一つ、一つ死体の山を崩し丁寧に布を取る。それは、生存者が居ないかを調べているのだ。
すると、空洞の上部から人の声らしきものが響く。タクロー達の居るソコはある種、密閉空間の様になっている。その為、音がよく響くのだ。
天井を見つめると、一箇所光が射した。
光が一瞬陰ると、何かが落とされたように見える。
タクローは直ぐに、落ちてくるもの何か悟り、それを空中で受け止める為に、エアロダッシュを行う。
両腕に布の塊を抱え込むと、地面に落着する。
慌てて布をめくると、そこには虫の息と言うよりも、今正に事切れんばかりのエルフの少女が居た。
「ヒカル!」
タクローの怒声にも似た声に、ヒカルは慌ててタクローを探した。完全な暗闇な上に、音が響く為に手探り状態でタクローの元へとやって来る。
「どうしたの?」
「これ、いや、この子の回復を」
タクローが差し出したエルフの少女見て、ヒカルは息を飲んだ。直ぐ様、自身のマジックアクティベーターを取り出して、中に入っている中で最高の回復魔法を使った。
だが、それでも少女の状態は少し良くなったくらいだ。何度も魔法を掛けて、ようやく完全に回復したように見えた。
次に、発熱しているという事がわかり、状態異常回復魔法を掛けて、ようやく万全な状態になった。
天井で光の射す場所から、「下で声がしなかったか?」、「誰か居るのか?」と声が聞こえていた。
タクローはそこを睨みつける。
「こ……こ……、あ……た……」
少女が僅かに声を上げて、タクローは兜を脱いで心配そうに少女を気遣う。
「大丈夫か? 上で何があるんだ?」
「ど……れ……い……、ぺ……っと……」
そう言って、少女は気を失った。
タクローはヒカルの顔を見る。ヒカルは「多分、気を失っただけ」と少女の口元に耳を傾ける。
少女は寝息に似た呼吸音を上げている。そして、タクローの顔を見て、無言で頷いた。
タクローは安堵の表情を見せた後、直ぐに奥歯をギリッと鳴らして天井を睨みつける。その表情をヒカルは、見たことが無い。
直ぐに兜を被り直すと、ヒカルに少女を預けた。
「や、やべぇ……」
トリスがタクローの感情を読み取り、全身を震わせた。自身がセルヴィナに切られた時と似たような恐怖が彼を襲う。
「トリス、大丈夫か? 震えてるぞ」
セルヴィナがトリスを気遣うと、トリスは弱々しく笑った。
「タクローさんが怒ってやがる……」
セルヴィナは暗闇に居るであろうタクローを直ぐ様探す。
空洞奥に居る、ヒカル。彼女を呼んだセルヴィナは、そこにタクローが居るはずと走った。
「主様、早まっては駄目です! リリーア姫達に報告をしてから!!」
ふいにセルヴィナの足が何かに引っ掛かり、転倒した。そこには、布に包まれた獣人の少女の死体が転がっていた。
「エアロブラスト、レッグ・ダブル! 追加、バースト!!」
空洞内にタクローの声が響く。
暗闇の中、魔法陣の光が二つタクローを足元から照らしている。ミーナが脚部に取り付けた魔石が強く光だし、魔法を発現させる。
爆風が空洞内に吹き荒れる。
タクローはほぼ一直線に光が射す場所を目指した。
リリーアとラルフ・グエウ・フォーリナ、アルフ・フォルン・アレクとその従者エンディ・レイダス、剣聖親衛隊隊長ギグナオ・エブリウスと部下達全員が息を飲む光景が広がっていた。
セルヴィナからもたらされた知らせを元に、直ぐ様商業区にある数カ所の飲み屋を手当たり次第調べたリリーア達。そして、遂に奴隷売買を行っている場所を見つける。
飲み屋の地下に作られた、巨大な施設には多くの愛玩奴隷として連れてこられた少女達がいた。
他にも、完全に労働目的でこき使われている獣人達も多い。男性は、全てが施設の管理する人間達。
調教師や、『餌』の料理人、監視役など様々な人間が居た。
リリーア達が施設に来ると、そこには凄惨な状況が広がっている。
見る限りでは誰一人として、死んでは居なかったが人間の男達は一様に瀕死の重体だ。血が壁にべったりと塗られ、その下では腕をなくした男が荒い息をして居る。
足を、腕を潰されている者も居たし、腕があらぬ方向に曲がっている者、腹の肉が抉れている者、大きな火傷を負ってのたうち回る者など多種多様な状態だった。
ここで働く人間総勢二十八名と、客なのかよく解らない人間十五名全員動けない状態だ。しかも、放っておけば確実に死んでしまう者達ばかりであった。
リリーアは都市が焼かれなかった事に安堵すると、部下達に指示を出して、死にそうな者から回復させて、そのまま捕らえるように命令した。
幾つかの部屋を巡る。
長い廊下を曲がった所に奥まった空間があった。そこは休憩所の様な場所に成っていて、幾つもの椅子とテーブルが置かれている。
そこのテーブルに、銀の下地に赤の斑模様に染まった全身鎧が静かに座っている。
「タクロー様……?」
リリーアの声に反応を見せ、全身鎧は彼女を見た。
リリーアがタクローの背後に目をやると、傷と打撲だらけの年齢層や種族がバラバラな七人の少女達が隅っこで小さく身を寄せ合って居る。
「……その方達は?」
リリーアの視線に、怯えた表情で身を震わせる者達。
「奴隷だってよ……。なにが、奴隷だよ。完全に玩具扱いじゃねぇかよ」
怒気を孕んだ声と共に、ブワリとタクローから狂気とも取れる『色』が溢れ出る。
そして、『色』は一箇所へと流れた。
リリーアがそこへ目をやると、言葉を失う。人間だったモノが無残な姿と成っている。
頭部が砕け散り、壁に叩きつけて弾けたようになっている。頭としての原型は解らなかったが、そこに頭部が叩きつけられたであろう事実として、何本かの白い歯や骨の一部が壁に刺さっていたのだ。そして、その下には首のない太った男の死体が転がっていた。
「な、なにを……」
震える声で、リリーアがタクローを見る。
「ここの責任者だとよ。なんでも、王族や貴族様が黙ってないとかうるさいから、ぶん殴った」
右手で拳を作って見せる。それは、真っ赤に染まっていた。
後処理をリリーア達に任せて、タクローがその場を後にしようとすると、背後で怯えていた少女達がその後についていこうとする。
足を引きずりながら、懸命に歩く少女。
片腕がダラリと下がり、力が入っていないだろうソレをぶらつかせながら歩く少女。
足の腱を切られているのか、まともに歩けずに這うようにする少女。
他にも多種の傷を負っている少女達が、必死にタクローの後を追う。
タクローがそんな七人の少女達に付いてこないよう、優しく声を掛けると、リリーアに少女を託そうとした。
しかし、涙ながらにタクローに哀願を繰り返す少女達に負ける形になり、タクローは自身の泊まる宿に全員を連れて行く事になる。
勿論、少女達の肉体的傷は完全に治した状態で、だ。
宿に戻ると、支配人を呼び出し、金を渡して少女達に部屋と女性による身の回りの世話を要求する。
リリーアも共に来て、半分命令的に言われては、断る事も出来なかった。
そして、ボロ布を纏った少女達に服を買い与え、風呂に入らせて、食事を与えて、寝る場所を提供したのだった。
少女達は、泣いてタクローに感謝の言葉を述べる。言葉があまり話せない子も、全身を使って感謝を現したのだった。
いつしか、少女達はタクローを『マスター』と呼び、側に寄り添う。
それは、圧倒的な力を振りかざしたタクローに、心の支えの様なモノを見出したからに他ならないのだった。
立食パーティーから一夜明け、タクローは息苦しさを覚えて目が覚める。
体には温かな感触と、柔らかい部分と硬い部分が体に纏わり付いている感覚があった。
気が付けば、タクローのベッドの上には八人の少女達が寄り添うように、寝ていたのだった。




