長い夜を終えて
アンデット騒動から二日後の夜、センターで最も大きな大使館であるミーティアラ大使館の迎賓館では盛大な立食パーティーが開かれていた。
リリーア・ニルス・ミーティアラはその中心で、各国の大使達と笑顔で話をしていた。
今回の事件で陣頭指揮を取っていたのは彼女である。そんな、彼女の功績は大きいとされたのだ。
しかし、もう一つの人だかりも出来ていた。それは、タクローを始めとする実際に戦ったメンバー達だ。特にタクローに対する関心が強い。
素性のよく解らない人物に対して、本来であれば警戒すれども友好的な態度を取るというのは、それぞれの国を代表とする大使という立場の人間達からは普通は、考えられない事だ。
だが、リリーアが彼とその仲間達の保証人の様な立場になった時、彼等の目の色が変わったのだ。
実際、下水道の外でアンデットと戦っていた者達の話と、中央管制塔のモニターに映し出された光景を目にしていた事で、その活躍を知っていたからに他ならない。
特に、一人で圧倒的な力を見せつけたタクローには、いつしか大使館職員やら、はたまた大使の娘達と言った女性陣に囲まれる状況になっている。
そんなタクローの背後には、露払いをするべくセルヴィナがピッタリと寄り添っていたが、酒を飲み気分が高揚しているタクローは、若い女性に囲まれている状況を楽しんでいるのだった。
他のメンバーたちにも、勿論人が集まる。
ヒカルやアリーシャには、男性達が群がり、ミーナやシンジにもやはり女性達がタクローほどではないが集まる。
そして、驚いた事に亜人を差別する人間が多い状況であるはずにも関わらず、トリスにもまた人が集まっていた。それは、戦闘を繰り広げていた武装集団の者達だ。
トリスが最初に見せた、南部入り口での初戦に始まり、はたまたモニターに映し出されたセルヴィナとの見事な連携攻撃の話が人伝いに広がったためであった。
いつの間にかあった亜人差別にさらされてきた、トリス。生まれ育った所には無かったが、外の世界に出て味わった苦渋はいつしか彼に、卑屈な感情を与えていた。それ故に、今現在の人々の熱い眼差しや、戦友としての扱いに、照れた様子をみせる。
食事と飲酒を満喫したタクローは、女性陣から逃げる様に迎賓館の外へと出る。
近くにあったベンチに腰を下ろすと、タバコを咥えた。何も言わずに、セルヴィナはマジックアクティベーターをライター代わりに火を付ける。
軽い感謝の言葉を掛けて、胸いっぱいに紫煙を吸い込む。そして、ため息と似たような形で一気に吐き出した。だが、それはある意味ため息でもあった。
後ろで控えるように立つ、セルヴィナに隣に座るよう促すと、「御命令なら」と言われた通り、隣に座る。そして、何故か密着するようにやや腰をずらした。
これまでの疲労からか、それに対して突っ込む事はせずに、タクローはまた紫煙をため息と共に吐き出した。
セルヴィナの変化に対しては、事件以降何度となく仲間を交えて話し合った。しかし、彼女は頑なにタクローを『主様』と呼び、側に居ることを譲らない。
剣を直して返しただけの話での忠義ならば、別にそこまで恩を感じなくても良いと言われたが、彼女の中ではそうでは無かった。
タクロー達、プレイヤーからしてみれば何てこと無いアイテム使用であっても、その現在価値を正確に知っているセルヴィナにとってはそうはいかない。おまけに、直したと言っても更に限界強化までされている。それは、おそらくミーティアラ王国にとっては国宝以上と言える代物になっている。そんな物を渡されては、もはや何も言えないに等しかった。
それだけではない、彼女自身タクローやその仲間に対して様々な恩を感じていた事も大きかった。
ロック・クラブ戦に始まった出会いから現在に至るまで、タクロー達の上げた功績は大きい。それに、何も褒美が出ないのなら、せめてもの恩返しと考えたのだ。
セルヴィナは、あまり頭が回る方ではない。
そのため、自分の出来る最大限の恩返しと考えたのだ。しかし、今は少し考えが変わってきている。
リリーアが言う、『魔王(魔法を統べる王)』と言う言葉にふさわしいと感じ、また人を惹き付けるような魅力を感じていた事で、本当にこの人間に仕えたいと考え始めたのだ。
セルヴィナは女性陣やその後からやって来た、様々な人達に取り囲まれて疲れた顔をしているタクローの横顔を見つめる。
女性が、男性に仕えるなら体を求められる事もあるのだろうか? と考え、自分の体に目を落とす。男性を相手にするのはもっぱら剣の稽古相手だけで、男女の関係と言ったワードは現在に至るまで一切無縁であった。だが、近い年代の女性達との話で、ある程度の知識は持っている。
再びタクローの顔を見ると、視線に気が付いたタクローもセルヴィナを見る。
「ん? なに?」
「い、いえ、別に……」
顔を赤くして、セルヴィナは視線をそらした。
「アイツ等、どうすっかなぁ……」
タクローは夜空を見上げる。満点の星が広がる空に、自分の吐いた煙が漂ってみえる。
ふいにタクローの背後から腕が伸びた。そして、タクローに抱きつく。
「タクロー様!」
「リリーア!? ……姫様」
「もぅ、リリーアで良いですよぅ」
最初は何気なく呼び捨てにしていたタクローだが、公の場では自重するようシンジに言われていた。
「公の場では、一応……なんだ、アレだ」
「体裁ですね」
セルヴィナの言葉に、「ソレだ」と返す。
「それで、どうしたんですか? こんな所でたそがれて、セルヴィナを口説こうとしていたんですか?」
「違うよ。アイツ等の事だよ……」
「あいつら……。ああ、あの子達ですか」
リリーアは、タクロー達が泊まる宿に身を寄せ合っている八人の少女達を思い出す。
「どうすればいい?」
「そうですね……、王都に家を買って、そこで彼女達を住まわせてはどうでしょう?」
「なるほど……」
「それだったら、私もお手伝い出来ると思いますよ?」
「なら、アイツ等も王都に連れて行かなきゃな……」
「そうですね」
リリーアはタクローを抱きつく腕に少し力を入れる。それにより、密着度が上がった。
タクローはそんな事を気にもせずに、深い溜め息を吐いた。そして、二本目のタバコに手を付ける。セルヴィナがすかさず火を出した。
「あの人数だからなぁ……」
「私も出来る限りお手伝いしますよ。だって、あの子達タクロー様から離れないから、こちらで保護したくても、可愛そうで……」
八人の少女達は助けたタクローを『マスター』と呼び、離れようとしない。
リリーアが保護の為に、大使館へと一時的に引き取ろうとすると「捨てないで」や「売らないで」、はたまた「私だけでもそばに置いて下さい」と泣いて哀願される。
気の毒になったタクローは引き取る事にし、リリーアもまた同様に無理に連れて行く事はしなかったのである。




