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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
第一章 異世界(ゲーム世界)転移
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暗雲

 時は遡り、ファストの町から南東に少し行った先、タクロー達が現れた草原より更に東に行くと川がある。その川の向こうはアレクシア帝国領。


 川近くにあるのはかつては獣人の村があった所。

 今では、アレクシア帝国軍が占領し、かつてそこに居た獣人達は少なく、残っていた者達は奴隷のように扱われている。かつては、アイン村と言われた場所にはいつしか木でできた簡易の砦が造られていた。


 簡易砦にある見張り台では、暇な一日を時々望遠鏡で周囲を窺う一人の帝国軍兵士が独り立っている。

 この砦に居る兵士達は皆正規兵ではなく、アレクシア帝国の帝都の近隣の町や村から集められた者達、果てはかつて犯罪を犯し極刑を免除してもらう代わりに兵士になった者達の寄せ集め部隊。規律は皆無に等しく、アイン村に駐留というよりも占拠している状態だった。それ故に、この村の住人達は彼等の気分を害しただけで簡単に殺されてしまう。村人達が弱いわけではない。


 どこの地域でもそうだが、人々は常にモンスターの脅威に晒されている。

 全てが獣人である村人達は、人間と獣人の半々で構成されている帝国兵士達に対しては力では幾分か分があったが、しかし、敵わなかった。それは、帝国軍が武器として正式採用している物にあった。

 昨今、マジックアクティベーターが万人に普及し始めた状態であり、誰もが簡単に魔法を行使できる。兵士達は一般に流通しているものよりもグレードの高い、軍用マジックアクティベーターを持っているが村人達より人数が少ない。

 攻撃と魔法を行使し、村人全員でかかれば勝てたかもしれない。しかし、村人達は簡単に抵抗をやめることになる。それは、帝国軍が新しい武器を持ち出したためだ。


 帝国軍正式採用魔導兵器『魔導銃』。

 それは、爆発魔法を使い攻撃する物だ。魔法自体を直接攻撃に使うのではなく、攻撃の手段としたのだ。鉄の筒である銃身に木でできた銃床、上に伸びる長方形の箱の中身は鉄の玉。

 銃床の中は金属でできた空間があり、その空間には魔法を発動させるための魔石が組み込まれている。

 トリガーと呼ばれる部分を引くことにより、魔石に書き込まれている魔術式が発動、装備者と大気の魔力マナを使って爆発魔法が発現する。それにより、鉄の筒内に固定された玉が勢い良く射出されるのだ。

 これはマジックアクティベーターの理論を簡略化した上で、限定的にしたもの。そのために発動から発現に至る時間が極めて短い。使用者に、また、使用されたのを見たものにも、トリガーを引いた瞬間には玉が発射されていると感じるほどにだ。


 村を制圧するのに時間は掛からなかった。何人かの村人が抵抗を試みるも、数発の爆発音の後に彼等が倒れたのを見て、他の者達は抵抗を辞めて降伏したためだった。

 それでも、力で押さえつければ反発がある。しかし、それも簡単に押し込まれてしまった。次第に村人達は数を減らし、抵抗を完全に止めて奴隷のように扱われていくのだった。


 帝国領の外れの地であったが、王国の動きを警戒するためにと派遣された兵士達。しかし、王国としてもかなり遠い位置になっているために、王国が近辺で動きを見せることは一切無く、兵士達は暇を持て余す毎日を送っていた。ある者は、村の住人の娘を手篭めにし、ある者は村人を暇つぶしの道具のようにいたぶる。ここは正に無法地帯である。


 見張り台に立っている兵士も、今晩の食事はどうするかなどを考えながら大きな欠伸をしていた。


「どうせ、今日も今日とて平和だな」


 ボヤキにも似た一言を発すると、時たま望遠鏡を王国領であるファストの町の方角に向けている。いつも見える風景は一緒。木々が立ち並ぶ林と草原。


 しかし、今日は違ったものが見えた。


 遠い所ではあったが、はっきりと見える不可解なモノ。それは、半透明で青白く光る六角形によって作られた壁のようなもの。長さや高さからしてそれはまるで城壁のような圧力感を持っている。


「なんだ、アレは?」


 見張りの兵士が食い入るように望遠鏡を覗き込む。すると、青白い城壁は少し動いた。それが何なのか、確信には至れないものの望遠鏡を外してもかろうじて見えるそれは、確かに存在していた。

 見張りの兵士に、その現象が魔法ではないかと思い至るのにはしばしの時間を要する。それほどまでに規格外の代物だったのだ。彼は直ぐに見張り台の下に居た仲間の兵士達に声を掛ける。


「おい、向こう側でおかしなことになってるぞ!」


 その言葉に、ちょうど見張り台の下に居合わせた者達が何人か上がってくる。


「なんだよ、何か面白いことでもあったのか?」

「ミーティアラの連中、中央を攻めあぐねてこっちにでも来たのか?」


 半笑いで集まってきた兵士達の一人に、見張りの兵士が望遠鏡を渡し、無言で見るべき方角を指で指し示す。


「なんだあれ?」


 それが、見たものの第一声だった。こちらにも貸せと、集まってきた者達が仲間から望遠鏡を奪い取る。それぞれが不可解なものを見たという言葉が飛び、兵士達は戸惑う。それから、それぞれの憶測が行き交う。

「ミーティアラが行っている魔法実験ではないか?」や、「何らかのマジックアイテムの実験」といったものだが、杳として掴めない。だが、筒の向こうに、確実にそれはあったのだ。

 暫くして、彼等の上司である部隊長が現れる。城壁のような魔法の壁を目撃した一人が呼びに行ったのだ。


「おい、向こう側で面白いことをやらかしてるそうじゃないか?」


 アイン村の砦を占拠する、兵士達の部隊長オルス・ガイエ。顔から体にいたるまで傷だらけの四十を過ぎた巨漢はにやりと笑い、見張り台に居た兵士達の顔を眺める。

 彼等は一同まるで夢を見てるような顔つきでオルスを見る。「貸してみろ」と一人の兵士から望遠鏡ふんだくったオルスは、呼びに来た兵士の言葉の位置を見る。


「なんだありゃ!? はは、向こうの連中なんかおっぱじめやがったな」


 オルスは楽しそうに笑い声を上げる。アイン村を占領し砦を建てる命令を受けてから数ヶ月、彼等は暇を持て余していた。というのも、この地に拠点的価値は無い。

 ミーティアラ王国、アレクシア帝国の両国から辺境の地となっているためだ。帝国軍が彼等をこの地に派遣した理由は、厄介払い。

 荒くれ共の寄せ集め部隊、そんな者達を帝都に置いておく訳にはいかず、まして正規兵達のいる主要砦に行かせても問題ばかり起こすからだ。

 彼等とて馬鹿ではない、それくらいは察しがつく。山賊まがいな彼等は、この町で好き勝手に暴れまわっていた。しかし、ここ最近では一人、また一人と今の生活に飽き始めてきていた。そんなさなかに起こった出来事は、彼等を楽しませるには十分な内容だった。


「ミーティアラの奴等、なんか魔法実験でもやってるのか? あんなの見たことねぇ」


 オルスはニヤニヤと笑みを浮かべながら、食い入るように望遠鏡を覗き込んでいた。


「おい、近くの砦に使いを出せ。向こうさんで大規模な魔法実験やってるみたいだ、とな」


 見張り台の中に居た一人の部下が返事一つ、見張り台から降りていった。

 暫くオルスがファストの町の方角を眺めていると、魔法障壁は静かに消えていった。オルスが出した伝令は、帝国軍正規兵に偵察の伺いを立てに向かうものだった。


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