センターの長い夜6
タクロー以外のメンバーは戦闘終了後も、未だ視界がぼやけている。
「終わったぞ」
タクローの終了の知らせがなければ、肉体派であるトリスとセルヴィナはむやみやたらに、武器を振り回していただろう。
ヒカルから、全員に対して謝罪の言葉があったが、それは「しょうが無い」という事で決着となる。
タクローは左手の手甲を見た。
魔法陣は消え、左手に対する魔法的な繋がりは消えたように感じる。手甲をスライドさせて、魔法のカードを取り出すと、それからは術式が消えていた。
「ありゃ? このカードは一回きり?」
「え? おっかしぃなぁ……。何度でも使えるはずなんだけど?」
「さっき見た時は、図形やら文字があったけど今は透明だぜ?」
ヒカルが薄目を開けて、手渡されたカードを見ると、タクローの言った通りであった。
「あれれ? なんでだろう?」
ヒカルは首を傾げた。
「それより、あのキツイ臭いが無くなってるんだけど……」
シンジの一言に、全員がその事に気がつく。
中央部に立ち込めていた、悪臭がすっかり消えていた。
「タクローの魔法のおかげか? 確か、ホーリー・マジェスティって浄化だかの効果もあったよね?」
全員が、驚いた声を上げた。
「もしかして、ヒカルちゃんはこれも狙ったの!?」
シンジは、中央部に足を進める。
「まさかぁ……、偶然ですよ。ってか、本当だ、臭いが消えて……は、いないけど全然キツクない……」
「ソレだけじゃないよ、眠気や疲れとかダルさなんかも全然ない……。なんか、頭がスッキリしてる……」
ミーナがシンジの後ろを歩く。
ミーナはヒカル同様にジンナイの工房で、半日を繰り返しているため疲労感が酷かった。しかし、今はそれを一切感じないのだ。
「状態異常回復効果だっけ?」
タクローが首を傾げながら、ヒカルを見る。ヒカルは縦に首を振った。
「だから、浄化みたいな効果になるのかな……?」
アリーシャに、トリスとセルヴィナもタクロー達の元に集まる。ライトボールの灯りが一箇所に集まる事により、周囲を照らす光量が増えて目視出来る範囲が広がる。
足元付近に流れる汚水と思われる水は、かなりの透明感があった。
これまでは、やや深緑と黒や茶色が混ざったような、見るからに汚い水だった。しかし、今はそうではない。綺麗と言って差し障りのない水が流れている。
「主様の魔法はここまでの効果が……」
セルヴィナは言葉をつまらせ、タクローの前に再び跪こうとする。
タクローはそんなセルヴィナに目もくれない。
まるで現状に興味が無いと言った様に、北へと歩き出す。
「ちょ、どこいくの!?」
直ぐ後ろにいたヒカルが、タクローを呼び止めようとする。
トリスだけが、タクローの感情を読み取った。それは、静かな怒りの感情だった。
「タクロー……さん、北に何かあるのか?」
「さぁな、だが、今回の事態の全容がこの先にあるらしいぜ……」
「あの、悪魔じゃないのか?」
その場に居た全員が、悪魔の仕業だと思っていた。
しかし、タクローは悪魔と対峙し、言葉を交わしてある事実を知った。
「違うらしいぜ? アイツが言ってたけど、どうやら死体がこの下の洞窟に捨てられまくってる、らしい……」
セルヴィナの顔が青くなる。
「主様、待って欲しい! 取り敢えず周辺の一掃で、アンデット達は数を減らしたのだから、急いで行かなくても良いではないですか! リリーア姫に報告と、調査隊を編成して調べれば……」
セルヴィナの言葉はタクローの耳に確実に入っているはずだ。だが、タクローは歩みを止めない。
セルヴィナはタクローの前に出ようと、走り出そうとする。しかし、直ぐにトリスに肩を掴まれた。そして、トリスは首を横に振る。
そんなトリスの顔を見つめ、セルヴィナには焦りから、絶望的な表情へと変わった。
「リリーア……、リリーア姫に知らせてくれ!」
セルヴィナは魔導通信機に怒鳴りつける。
その場にいる全員だけでない、外で待つアルフにもセルヴィナの声が響いた。
タクローは気にも止めずに、歩く。
下水道北通路、グレート・デーモンの使い魔が死体を持ってきていた通路に入る。
暫く歩くと、壁が壊され、大きな穴が空いている。
石を積み上げた壁ではなく、天然の洞窟の様な通路がそこにはあった。
「こいつか……」
タクローは仲間に目もくれず、一人歩いていく。
そんなタクローの後を少し離れて仲間が続いていくのだった。
そこはかつて、トルステネ魔窟と呼ばれた場所だった。
センターはかつてあった丘陵地帯を切り崩し作られた場所。そこに、ポツンと存在していたのがトルステネ魔窟だ。
中クラスレベルでようやく踏破出来るソコは、正にゲーム中盤から入る入り組んだダンジョンだ。
時代の変化とともに、その場所へ至る道は塞がれ、その上に都市が作られて数百年が経っていた。
タクローが入ると、早速既存のモンスター達の出迎えがある。
タクローはそんなモンスター達を、一撃で討ちながら先を進む。かつては、仲間と共に進んだダンジョン。その道はある程度で覚えていると思っていた。
しかし、鎧の魔法『INTブースト』のおかげで、まるで昨日ダンジョンに行ったかの様に鮮明に内部構造等を思い出していた。
グレート・デーモンとの簡単な会話の中から、必要な言葉をピックアップして、タクローは一直線に悪魔の本来居る場所を目指す。
仲間達の話す言葉に対して、適当な返事を返しながら進む。
ダンジョンの作りでは、地下へ地下へと降りる作りでは無く、一層構造になっている。
多少の下り勾配を降りる箇所があったが、比較的なだらかで地下深く潜る構造では無い為、簡単に目的の場所に辿り着こうとしていた。
多数の既存モンスター、そして、アンデット達を倒しながら……。




