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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
第一章 異世界(ゲーム世界)転移
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センターの長い夜3

 地下下水道は暗い。

 所々に非常灯と思われる灯りが、ポツリポツリと点在しているが、間隔が広いせいで真っ暗と言っても過言ではない。

 ヒカルは、前を行くアリーシャの背中に隠れる様に進む。ライトボールの魔法で全体を照らしながら、アリーシャは警戒態勢で進む。手には一振りの剣が握りしめられていた。その剣はタクローから貸し与えられた物だった。


 戦力的にアリーシャに欠ける部分は、やはり武器だ。

 ロック・クラブ戦では、シンジからナイフを借りて戦ったが、それだとリーチが短い。ナイフは護身用として携帯するのには向いているが、実際に戦闘行為を行うには技量をかなり要求される。

 アルフの従者として、常に側に居るエンディはナイフ使い。

 彼は身のこなしからナイフの扱いと全てが、洗練されていた。それは一重にエンディがナイフ戦の為だけに訓練を重ねてきた賜物である。

 一方のアリーシャは、ナイフ戦の訓練はしていない。近づいて来た敵に対して、迎撃という形を取るくらいしか出来ないのが現状だ。

 ロック・クラブ戦では正にそれで良かった。おまけにシンジのナイフは、最終戦に持っていくだけの力を持っている。

 しかしながら遊撃となれば、話は変わってくる。向かってくる敵もいるが、そうでない敵に対しては近づいて攻撃をしなければならず、必要な足運びや体の動かし方をアリーシャは知らない為に無駄が多く生じてしまう。

 シンジは全クラス装備可能武器が無い、仲間に聞いた所、丁度タクローがソレを持っていた。それ故に、アリーシャに貸し与えられたのだ。


 剣の名は、『幻想聖剣レーヴァテイン』。

 全クラス装備可能武器は比較的低い能力の物が多い。しかし、コレは他とちょっと違った。

『聖剣』の名を与えられたその武器は、入手条件が特殊な為に、他の全クラス装備可能武器とは一線を画する。入手困難であるが故に、その能力はクラス装備に匹敵する物であった。だが、それは限界まで鍛え上げた場合に限るが。

 タクローは魔法使いであるために、近接戦闘は不向きな職業だ。ソレをカバーする為に持っているのだが、実際に使ったことは数えるほどに少ない。その為に、どんな能力が付与されているかや、どんな攻撃手段があるのかといった事はすっかり忘れている。

 実際、シンジに言われるまでは存在すら忘れて、アイテムボックスに入れっぱなしになっていた程である。

 かつて、タクロー達が所属していたギルドのギルドマスターが装備していた武器。

 タクローのゲーム仲間で最も古い友人だが、ある時を境にパッタリとゲームに顔を出さなくなってしまった。

 アリーシャが持つのはその友人の物では無く、タクロー自身専用にカスタマイズが施された物であった。だが、当の本人は魔法での戦闘にある種のプライドを持っていた為に滅多に使わなかった次第である。


 警戒しながら進む、アリーシャとヒカル。

 暗闇と言うのは、恐怖心を増幅させる最もポピュラーな要素だ。

 ホラー系が苦手なヒカルにとっては、正に苦行でしか無かった。だが、僧侶の職業のヒカルはアンデット戦に必要不可欠であるために、半ば無理矢理連れてこられたのだった。


 トリスとセルヴィナでチームを組まされ、ヒカル達とは別のルートを進んでいる。

 比較的敵が多めの場所をチョイスされた様で、連戦に次ぐ連戦となっていた。息が上がり始める二人だが、お互いを励まし合いながら先へと進む。

 セルヴィナはいつしか、獣人であるトリスに対して差別的な態度を一切とらなくなっていた。むしろ逆に良き相棒として、共に歩みを進めていたのだった。


 シンジとミーナもまた別なルートを行く。

 シンジは、アリーシャに貸していたナイフと弓矢を器用に使い分けている。左手でナイフを持ちながら、弓を引き絞り矢を射る。近づいて来た的には、右手に弓矢を持って左手のナイフで対応するといった形だ。

 一方のミーナは銃を構えていた。ツーマンセルでのクリアリング行うと言った感じである。シンジには剣を使うよう指摘されるが、頑なに銃を使うのは「ゾンビ戦はやっぱり銃だよ!」と言う持論を貫くためだった。

 シンジとしては、はた迷惑この上ない。

 銃の発射音は敵に自分達の位置を知らせる事になる。その上、閉鎖環境での音は反響し合ってうるさいとしか言い様がないのである。

 静かに先へ進みたかったシンジであったが、ミーナのおかげでそうはいかずに闇雲に戦闘を繰り返しているのだった。


 タクローは一人で下水道内を歩く。

 暗闇とは無縁と言えるタクローならば、一人で十分だと言うシンジの指示で孤独と戦う羽目になってしまっていた。

 事実、周囲に誰か付いて来てもタクローの独壇場になる為に、二人は必要なかった。だが、一人というのは寂しい気持ちにさせられる。魔導通信機で、全員と通話している事が唯一の救いである。

 丁度、ボイスチャットをしながらシングルプレイをしている感じでタクローは戦う。だが、戦闘の話題を共有出来る相手が居ないというのは、それはそれで寂しい気持ちを加速させるのだった。

 シンジがミーナに対して、「銃声がうるさい」と言った話が聞こえる。

 ヒカルが事あるごとに、恐怖の叫び声を上げてるのに、困り果てるアリーシャとの話が聞こえる。

 セルヴィナとトリスが、互いに牽制し合って戦う話が聞こえる。

 やるせない気持ちを抱えながら、タクローはひたすらアンデットを処理していくのだった。


 アルフ・フォルン・アレク達、南トンネル班はタクロー達の取りこぼしを処理していた。ある程度、処理すると余裕が生まれる。そこでアルフはある事に気が付いた。


「エンディ、このアンデット達、ある偏りがありますね……」


 横でアルフを援護するように立ち回る、エンディもまた同じ事に気が付いていた。


「女性……、しかも、幼い者から若い者が多いですね」

「これには何か理由があるのでしょうか?」


 そんな二人の会話を、横で聞いていたラルフ・グエウ・フォーリナは一つの答えを導き出していた。直ぐに、専用回線型の魔導通信機でリリーアを呼ぶ。


「姫様、これはもしや例の件が関わっているのでは?」


 リリーアの居る中央区魔導管制塔、中央会議室でリリーアは難しい表情になっていた。


「恐れていた事になったみたいね、現状を細かく伝えて」


 ラルフは見た様子の詳細をリリーアに伝えた。話を聞いて、リリーアは深い溜め息を吐いた。


「アルフを呼んで」


 リリーアの言いつけを守り、ラルフは専用回線魔導通信機をアルフに渡す。


「アルフ、聞こえる?」

「感度良好ですよ、姫様」

「いい、聞いて欲しいのだけれど……」


 リリーアは、アルフに奴隷売買が行われている地下組織の話をアルフに話す。そして、それを調査した結果、奴隷売買施設に入れられた奴隷と、売られたりして出ていった人数が大きく違う話をする。


「成る程、『使い捨て』もしくは『不慮の事故』による者達ですか……」

「たぶんね、しかもかなり古くから溜まった膿が、一気に出てきていると思ってもらった方が良いわね……」

「この話、タクローさん達には?」

「言える訳無いでしょ? あのトリスにってだけじゃないわ、貴方の話を聞く限り、こういった事を許しておく人ではないでしょ?」

「そうですね……、ふむ……、そうですね……。彼に自覚は無いようですが、正義感の塊みたいな方ですから」

「怒って、大規模魔法なんて使われたら地下から大崩壊だってあるはずよ。彼の周囲のマナに対する影響力は計り知れないんですからね。小さな魔法のはずが、彼の感情一つでそれこそ高位魔法ハイスペル相当に匹敵しかねないんだから……」


 アルフはその言葉に苦笑いを浮かべる。確かにそうなのだろうと思い、どうしたものかと考える。

 一方、リリーアは話を続けた。


「一応、セルヴィナにはタクロー様の歯止め役として彼に付くよう命じましたが、どうやら別行動を取っているみたいね。実態を把握する事は無くても、アンデットの容姿からある程度の事態は読み取られてしまう可能性があるわね……」


 アルフはそんなリリーアの考え方に、一人の人物を思い浮かべていた。

 ミーティアラ王国宰相、トーマス・ロッツ・アクリバルその人だ。自分の父の教えを受けて、宰相の地位を手に入れた彼は、リリーアの教育係も兼任していた。

 事態を先読みしようとする考え方が、正しく彼と一緒なのだ。


(トーマス卿、貴方の弟子は着々と育っていますよ……)


 などと、余計な事を考えていると、リリーアに「聞いてる!?」と怒られてしまった。


「さて、姫様これは難問ですよ。どうします?」

「お願い、貴方の知恵を貸して!」


 ヤレヤレと、アルフはため息をつきながら穏やかに笑っていたのだった。

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