センターの長い夜2
センター下水道南部トンネルの前には、アンデットを待ち構えるべく武装集団が待機している。
そこへ三台の魔導車が勢いよく停まる音が聞こえてきた。
何事かと、ラルフ・グエウ・フォーリナが上階にある踊り場へと駆け上がる。三台の魔導車から出てきた面々を見て、驚きのあまり身を硬直させた。
アルフ・フォルン・アレクを筆頭に、セルヴィナ・ストーリスと獣人、人間が五人と銀色の全身鎧を着た者、総勢九名。
シンジが号令を出す。
「アルフさんと、エンディさんはここの部隊の指揮をお願いします。俺達は内部に潜って各個撃破しつつ一旦中央を目指します」
「了解です。我々はここで、あぶれ出てきた奴を外に出さないように尽力しますよ」
「お願いします。あと、誘導をお願いします。姫さんとの連絡も」
「任せてください!」
アルフとシンジが頷きあう。
「っしゃ、いっちょやったりますかぁ!」
タクローが右の拳を左の掌に打ち付ける。ガキィンと激しい金属音が大気にこだまする。
タクローを中心に横一列に並んで、歩き出す九人。それをラルフは口を開けて見ていた。
アルフがラルフに気が付いて、駆け寄る。
「ラルフ殿、お久しぶりです」
「あ、アルフ君、こ、この者達は?」
ラルフは異形の集団を震える手で指差す。アルフはそれに対して、いつもの穏やかな笑みを向けた。
「リリーア姫殿下のご友人と言った所でしょうか。私の友人でもありますね」
「リリーア姫の!?」
「とにかく、時間が無いので手短に参りましょう。詳しい事情などは後ほど……」
アルフの言葉に、生唾を飲み込んでラルフは頷いた。
「エンディ、皆さんにアレを」
「かしこまりました、坊っちゃん」
アルフの指示で、エンディはいつの間にか持っていた金属ケースを開け、歩きながらタクロー達に小型のヘッドセットの様な物を渡して回る。
「これは?」
シンジの問いに、「魔導通信機でございます」と答える。立ち止まること無く、エンディは軽やかに足取りで全員に使い方を説明して回った。
『魔導通信機』は言わばラジオ無線機のような物だった。固定チャンネルで、通話が可能だが設定は全体通話しかない。
また、大気中のマナの影響を強く受けるようで一定の距離間でしかやり取りが出来ないのだ。だが、無線機同士を中継すれば距離を稼ぐことは可能となっている。
欠点は多いものの、障害物の影響を受けないと言う利点がある。それぞれを確認するのが難しいダンジョンなど閉鎖的空間では、意外と重宝されている。
地下下水道もまた、ダンジョンの様なもの。そのため、この通信機がある意味必須アイテムであるのだった。
タクロー達が下水道入り口とも言えるトンネの前に立つと、奥からはこの世のものではない声が多々聞こえる。
アンデットは目の前に迫っていた。
剣聖親衛隊と、武装集団が身構える。
「ああ、そうだ、そうだ」
タクローがなにかを思い出した様に声を上げる。
「ミーナさん、セルヴィナのアレ出来てるんでしょ?」
「ああ、アレか。勿論だよ」
ミーナがアイテムボックスから、一振りの剣を取り出した。
「はい、セルヴィナさん。君の剣だよ」
訳も分からずに、セルヴィナはミーナから剣を受け取る。
「これは?」
「君のストーム・スラッシャーだよ。もう、暴風聖剣って二つ名では無いけどね」
ニコリと笑うミーナに、セルヴィナは首を傾げた。
「取り敢えず、抜いてみろよ」
タクローに言われ、それに従って鞘から剣を抜き放つ。
『暴風聖剣』の名が付いていた時には、風を感じたが今は無風。なにも感じない。
「これは、どうゆうことですか?」
刀身を眺めると、淡く輝きと揺らめきを見せる。
「それこそが、ストーム・スラッシャーの真の姿。『疾風聖剣ストーム・スラッシャー』だよ。トリスが使っている、雷音同様覚醒能力が使用可能になってるよ」
ミーナの言葉に、セルヴィナが身震いする。
「ば、馬鹿な……。いかに名工でも行き着けない境地、限界の領域にまで鍛えたのですか!?」
セルヴィナは、剣を握る手が目に見えるぐらいに震えていた。
「こ、国宝……、いや大陸秘宝に匹敵する代物を私に!?」
その言葉にミーナは首を傾げた。
「そこまでの代物なの? 材料を揃えれば、出来るでしょ。まぁ、成功率は低いけどね」
苦笑いを浮かべるミーナに、セルヴィナは「材料だと!?」と掴みかからん勢いを見せる。
「タクロー君が手持ちのアイテムと、蟹を倒した時に手に入れた鉱物を出してくれたんだよ。楽に出来た感じだから……」
「タクロー殿!?」
セルヴィナは、今度はタクローに掴みかからんとした。
「な、なんだよ!? わ、悪かったよ、大事な剣だったんだろ?」
「そんな話をしているんでは無い! 材料とは何か!?」
セルヴィナの勢いに押されて、流石のタクローもたじろいだ。
「精霊石と、ヒイロカネ、アダマンタイトとオリハルコンだよ。ついでに金剛石も付けといた」
セルヴィナは口をアングリと開けて、目が点になる。それは、この世界では最も希少な物ばかりだった。特に精霊石は言わずもがなである。
「く、国に、ミーティアラ王に……け、献上を……」
泣きそうになりながら、セルヴィナは震える手で剣を鞘に収めて丁寧に扱うべく、両の手で握りしめる。
「何いってんだよ? 元素材はお前のコッパミジンコになった奴だぜ? それは、正真正銘お前のもんだよ」
タクローの言葉に、半泣き半笑いで剣を見つめる。
「よ、良いのだろうか? こんな、物を……、まだ半人前の私が……」
「良いんじゃねぇの? 俺は、お前にソレを返したかった。ミーナさんは、ソレを直すのをオッケーしてくれた。そして、なんか強くなって戻ってきた。それで、良いじゃん」
セルヴィナはタクローを強く見つめる。それは睨みつけるといったものではなく、尊敬の眼差しに近かった。
タクローの前に立った彼女は、跪く。そして、両手に持った剣をタクローに捧げるような動作をする。
「今日、この日から貴方を主として、付き従う事を誓います。私、セルヴィナ・ストーリスは今この時より、貴方の下僕として忠誠を誓います」
それは、騎士が王に対して行う行為だった。セルヴィナは迷うことなく、タクローに騎士の誓いをたてたのだ。
「な、なんだよ……、急に!?」
「主様、私にご命令を!」
立ち上がり、セルヴィナはまっすぐにタクローを見つめる。
「お二人さん、お熱い所スイマセンがいい加減現実見てくれませんかねぇ……」
シンジの声に、タクローがトンネルを見ると自分達二人以外は全員が溢れ出んとしていたゾンビを中心とした、アンデット集団との戦闘に入っていた。
「あ、悪い……」
タクローが戦闘に参加しようと歩きだすと、セイルヴィナが強く呼びかける。
「主様、ご命令を!」
タクローはやや面倒臭そうにため息を吐いて、項垂れる。
「あぁ! もぅ! わぁったよ!!」
タクローは何かを吹っ切ったように、大きな声を上げた。
タクローが前面に出て、魔法攻撃を行ってアンデットをほんの少し退ける。
「トリス!」
やや、ヤケクソ気味にタクローは声を荒げた。薄く笑みを浮かべて、トリスはタクローの横に付く。
「なんだい? タクロー様」
「お前もかよ……、ええい、くそっ! トリス、前面に突っ込んでスキルで敵を蹴散らせ!」
タクローが真っ直ぐ前、トンネルの奥を指差す。
「はいよ!」
トリスが突っ込んでいった。アンデット集団に潜り込むと『槍刃乱舞』改め『槍雷円舞』を叩き込む。
「セルヴィナ!」
タクローは次いで、セルヴィナを呼んだ。真剣な面持ちで、セルヴィナがタクローの横に付く。
「主様」
「トリスの攻撃が止む瞬間にトリスの懐に飛び込め、それからアンデットに向けて『一文字斬り』を使え!」
「御意のままに!」
セルヴィナはタクローの命令に忠実に従うべく、トリスの動きを注視する。
スキルを使うとリキャストタイムが生じ、ほんの少しだが硬直時間が生まれる。タクローはソレをカバーさせる為にセルヴィナに命令を下した。
トリスの『槍雷円舞』がアンデット達を蹴散らす。
実体のあるゾンビやグールなどは灰になり、レイスやゴーストは煙となってかき消える。しかし、ソレはトリスの周囲だけだ。
トンネルの奥からはまだまだ、アンデットが湧き出てくる。トリスがスキル発動が終わる瞬間、腹部に風を感じた。それは、セルヴィナだ。
一陣の風になって、セルヴィナがトリスの懐をすり抜ける。
「一文字斬り!!」
セルヴィナは横薙ぎに剣を振るった。
剣閃から突風が巻き起こる。
『疾風聖剣ストーム・スラッシャー』の覚醒能力は『真空』。それは、風の追加ダメージなどと言う生易しいモノではない。エアロスラッシュ並みの風の剣撃が全てを切り裂く。
スキル『一文字斬り』は、その風の力を得て『真空裂斬』と変わる。
セルヴィナは数体が関の山と思った剣撃だったが、放って初めて知った威力に自分自身で驚愕する事になった。それはアンデット十数体を横から、真っ二つにしていた。
「ほぉ、やるもんだねぇ……」
セルヴィナの背後から、トリスが驚きの声を上げたが、セルヴィナのソレほどではない。
「おっと、お嬢さん手が止まってるぜ!」
トリスがセルヴィナの背後から回り込み、セルヴィナの前面に立って襲い来るアンデットを蹴散らす。
「ば、馬鹿にするな!」
セルヴィナはトリスの横に立って、アンデットを切り倒す。
いつしか、二人は互いにポジションを入れ替えながらスキルの応酬を繰り返すのだった。
「ありゃ、一発成功かよ……」
タクローは引きつった笑みを浮かべて、二人を眺めていた。
「よぅ、『前線指揮官』殿。見事な采配だな」
シンジに茶化されて、「うっせ」と返した。
「よし、これで配置は決まった」
シンジが、トリスをセルヴィナを眺めて満面の笑みを浮かべた。
気が付けば、二人の独壇場となっている南側トンネル入り口。そして、そんな二人をタクロー達以外はポカンと見守る。
それは剣聖親衛隊の面々も例外ではなかった。




