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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
第一章 異世界(ゲーム世界)転移
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センターの長い夜1

 セルヴィナ・ストーリスと剣聖親衛隊の面々が中央区魔導管制塔に招集される。

 事態を知らされた面々は直ぐに乗ってきた魔導車から、武器を取り出し装備する。

 ロック・クラブ戦後、タクローにより剣を破壊されたセルヴィナと、剣聖親衛隊現隊長となるギグナオ・エブリウスは真新しい剣を装備していた。ギグナオは新しい剣を喜んだが、セルヴィナは自身の体の一部としてきた暴風聖剣を失い、なんとも言えぬ心境だった。


 魔導管制塔前の広場には、各国の武装集団が続々と集められてた。

 剣や槍、弓矢にナイフ、はたまたモーニングスターやメイスと武器のバリエーションは多彩に及んだ。全員がその国独特の戦闘用の服装だった。

 勿論、セルヴィナ達も戦闘時に身に纏う黒いスーツスタイルだ。

 男はシャツにネクタイとジャケットにパンツ。女はシャツにパンツとジャケットといった様相だった。どれもこれも、動きやすいように細部に至るまで工夫が施されてる。

 おまけに魔法効果の付与がしっかりとしているだけではない、上着となるジャケットには金属繊維が織り込まれている事で強度もしっかりとしている。

 セルヴィナ達以外にも、ミーティアラ大使館に勤務する保安部隊も招集されている。この者達はセルヴィナ達とは服装が異なり、軽鎧で身を包んでいた。


 緊急事態の為に、統括としてラルフが広場前で武装集団に対し、国ごとにまとまるように号令を出した。その後、四列隊形に整列させる。

 集まった人数は総勢二百三十名である。中隊以上ではあるが、大隊にはやや満たない人数でアンデットの群れと対峙する事になる。


 敵の規模は未だ不明で、地下下水道をモニターしている映像を見る限りでは百を軽く越えるとされている。しかし、楽観は出来ない。

 何故ならモニターできているのは数箇所しかないからだ。

 一箇所だけでも数十体以上は居るため、モニターできている範囲での数が百とすればその数倍は居ると見ておかしくない。

 なぜなら、センターの地下に網の目の様に通る下水道は、センターと同等の規模だからだ。リリーア以下、各国の大使達は千規模と推測していた。つまりは、現段階の兵員では全くもって人手不足なのだ。


 そこでリリーアは一つ、人手不足を一気に解消出来る人物たちを思い出す。

 大隊編成で無ければ撃退不可能とさえ思える、モンスターの大群を打ち負かした者達。また、一人だけでも一個大隊相当とアレクの息子アルフに言わしめた者。

 銀色の全身鎧を着る、タクローその人と仲間達だ。


 リリーアは、直ぐ様セルヴィナを呼ぶようにと近くに居た者を使いに出す。

 リリーアが中心に立って、大きく物を言えるのには訳がある。

 センターは各国が出資して施設運営等を行っているが、実のところは大国であるミーティアラがその大半を担っている為に他ならない。これ故、この様な大規模とも言える緊急事態では出資の多い順に意見が強くなる。

 つまりこの時点で、最高権限はリリーア・ニルス・ミーティアラその人なのである。


 リリーアの呼びかけで、セルヴィナ・ストーリスが彼女の前に参上する。

 リリーアは現状を教え、必要な人材の確保を命じた。


「了解です、姫殿下」


 セルヴィナは、敬礼してその場を後にしようとした。


「待って!」

「はい?」


 リリーアはセルヴィナの近くに来て、耳を貸すようにジェスチャーする。


「いい、タクロー様にはあの件を知られないようにして。その為にと、今後の貴方の為に現時刻をもって貴方を彼に仕えるよう命令します」


 セルヴィナは覚悟の元、真剣な面持ちで首を縦に頷いて見せた。


「もう一度念を押すわね、絶対地下組織の件は知られないように……。バレたら下手すると、この都市は持たないわよ」


 リリーアの言っている事が何を意味するか、セルヴィナは痛いほど解った。


「任せて下さい。『剣聖』の、ストーリスの名に誓って……」

「頼んだわよ。これは、姫として、友人としてのお願いね……」


 ココまで言う程に、リリーアはタクローと言う存在を恐れているのだろうと察する。普段、彼女は彼に対して好意を持っていると言う接し方は、事実と建前が入り混じった事だと、セルヴィナは知っていた。

 好意を持っている反面、恐れも持っているのだ。


 セルヴィナは三台の魔導車を従え、タクロー達が泊まる宿を目指した。焦るのは気持ちばかり、魔導車内では体を揺すって「早く、早く……」と呟いていた。


 ラルフ・グエウ・フォーリナがリリーアの指示を受け、集まった武装集団へと配置の命令を下す。

 人員の多い者達から、順に重要と思える箇所に配置していく。


 下水道はある箇所で地上へと顔を出す部分がある。

 運河の上流から下流に掛けて、東西南北に八箇所。

 北と東側は比較的下水道へと繋がるトンネルは小さく、少人数でも守れる場所だった。

 変わって西側はやや大きめで、中規模な人数を要求される。だが、ココまで人数を割いてみると。

 一番大きな南側の人数が手薄になってしまう。そこを剣聖親衛隊を含むミーティアラの武装集団のみ、五十四名のみで守らねばならない。これでも、人数を貰えた方だ。

 北側に三箇所ある出入り口となる場所には、一箇所あたり二十五名ほどだ。これを三箇所で七十五名。西側二箇所は五十一名と五十名になる。

 南部にある出入り口になる場所は一箇所のみだが、運河に下水を全て流し出す為に大きくポッカリと口の開けたトンネルがあった。大の大人が二十七名が横二列に並んでやっと防げる程の大きさだった。

 中央には下水が流れ出ている。構わず、武装集団はその水の中に足を突っ込んでアンデットを待ち構える。

 彼等に与えられた任務は、『現状待機』と言ったものだった。

 それは、タクロー達が来るまで戦場を荒らさないのと、兵力の温存の二つの意味が込められている。

 下手に突っ込ませて、アンデットが外に流出してしまっては意味がない。また、その事で戦う者達が傷つき倒れ、タクロー達の戦力を余計な所に回させない為にとった、リリーアが最も最善と思える案だったのだ。


 必死な顔でタクローにしがみつく、セルヴィナ。それに応えるようにタクロー達は、用意された魔導車に乗り込み、一路魔導管制塔へと向かった。

 勿論、魔導車のトランクには鎧の入った棺桶も積まれているのだった。


 中央区魔導管制塔に到着した、タクロー達一行はリリーアの元へ向かう。

 中央区魔導管制塔、中央会議室。そこでリリーアと他の人間達がモニターと机に広げられた見取り図を交互に眺めながら議論をしていた。


「姫殿下、タクロー様御一行をお連れしました」


 セルヴィナの声で、中央会議室内が一瞬だけ静まり返る。

 各小国の大使達が、セルヴィナの背後に居る人物達に視線が向けられた。リリーア姫の秘蔵っ子と思われる人物達。一人は獣人と見て、数名の大使達が含み笑いをしていた。

 トリスは場の空気を感じたが、気にはしない。慣れっこだと言えばそれまでだが、何故かタクローと共に居る事で穏やかな気分になれていたからでもあった。


「タクロー様と仲間の皆様、来ていただきありがとう御座います」


 満面の笑みを向けるリリーアにタクローは怪訝な顔を向ける。


「こんな時間に、面倒くさいなぁ……」

「すいません、でも、現状頼る事が最善と思いまして」


 リリーアの言葉遣いが、普段とは違い公の場用のものと思い、タクロー達は彼女が改めて『姫様』なのだと実感した。


 時間がないと、タクロー達にモニターと見取り図を交互に見ながら事態の説明をする。タクロー達は黙って聞いていた。


「アルフには、ここで陣頭指揮を取って欲しいの。私は南部出口でラルフと共に、現場指揮を取ります」


 リリーアの言葉に、アルフ・フォルン・アレクが彼女の目の前に立つ。


「姫様、それはいけませんよ。重要人物が前線に立つなど、もってのほかです」

「アルフ、貴方の方がこういった事が得意でしょ? 私は最善と思える配置を……」

「いえ、陣頭指揮は貴方で大丈夫でしょう。私達をココへ呼んだ時点で、最良の選択をされている」


 アルフは、いつも浮かべている穏やかな笑みでリリーアを見た。そして、シンジに顔を向ける。


「シンジさん、見取り図と配置関係をどう見ます?」


 シンジは腕を組みながら、下水道見取り図に目を通す。


「下水道から地上に繋がる場所が八箇所……。一番大きい所が南側か。配置関係はなんとも言えないなぁ……。個々の能力がわからないから」

「セルヴィナがここに居ますから、南部の戦力的には少々物足りないと思いますね」

「その前に、アイツ等の動向だなぁ……」


 シンジが魔導水晶モニターを眺める。そして、見取り図に記入されたモニター設置箇所と見比べる。


「ココにこれだけ居るんだから、千以上はくだらない……か。確かに、面積から求めても妥当だろうなぁ……」


 シンジは引きつった笑いを浮かべた。


「いっこ良いか?」


 タクローがシンジとアルフのやり取りに口を挟んだ。


「なんだ?」とシンジがタクローの顔を見る。


「俺は、眠いんだよ。お前等さぁ、今何時か解ってんの? 良い子は寝る時間だぜ。俺はさぁ、良い子だから寝たいんだ……」

「はぁ?」


 中央会議室がシンと静まり返る。

 その場の空気は「コイツはなにを言っているんだ?」と言った空気に包まれる。それは、リリーアもそうだった。


「だ・か・ら、俺は眠いの! グダグダやってんじゃねぇよ!」


 タクローが大声を上げたせいで、誰もそれに対して怒る事を忘れていた。


「トリス!」


 タクローに呼ばれて、トリスがいつの間にか用意していた棺桶をタクローの横に立てる。


「あいよ、いつでも!」


 棺桶の扉が開かれ、立ち上がった状態の銀色の鎧が現れた。

 タクローは直ぐに鎧に手を差し伸べる。いつの間にか、ミーナとヒカルがトリスとタクローの両脇に立って不敵な笑みを浮かべていた。

 鎧が自身の体を開き、タクローを迎え入れる。それは、ミーナとヒカルが新たに加えた新機構の一つだった。


 ミスティック・アーマー・オリジン改め、ミスティック・アーマー・ナイトが今その姿を晒した瞬間だった。


「シンジ、アレコレ悩むのは現場に俺達を送ってからにしろ! さっさと終わらせて、皆でゆっくり寝ようぜ!」


 兜の下のタクローの顔はきっとドヤ顔なのだろうと思って、シンジは笑い声を上げる。つられて、アルフも笑い出す。


「眠い、ですね。確かにそうだ、もう真夜中。皆寝ている時間ですものね……」

「ああ、そうだぜアルフさん。俺達はなにを言い合ってんだがなぁ……」


 リリーアは『見た』。

 タクローを中心に部屋を包みこむマナの『色』を。それは力強い、勇気や情熱と言ったモノが入り乱れている。


「タクロー様ったら、まったく眠いからさっさと終わらせてしまおうって言うの?」


 リリーアも笑い出す。


「当たり前だろう? リリーア、夜更かしは女の敵だぜ?」


 ヒカルも隣で、「そうだ、そうだ」と笑いながら言う。

 周りの大使達と、管制塔職員達はついていけなくてポカンと口を開けて見ていた。



「解りました。アルフ、現場指揮を任せます。魔導通信機を持って、南部に皆様をお連れして!」

「かしこまりました、姫殿下」


 満面の笑みで、アルフは敬礼して見せた。

 リリーアも、コロコロと笑いながら敬礼を返す。


「シンジ! とっとと、行くぞ!」


 タクローは中央会議室に背を向けて歩き出す。

 遅れまいとシンジはその横に駆け寄った。そんなシンジにタクローは呟く。


「クロウニンさんが居たかもしれない場所なんだ、ぜってぇ守るぞ……」


 その言葉は先程と打って変わって、真剣そのものであっ

た。シンジは兜の中のタクローの顔が真剣な表情なのだろうと解る。


「ああ、当たり前だろう。特攻は任せたぞ」

「後衛は任せたからな」



 リリーアはタクローの後ろ姿を見て、ゾクリと背筋が凍る様な『色』を見た。そして、同時に不敵な笑みを浮かべたのだった。

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