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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
第一章 異世界(ゲーム世界)転移
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ジンナイ

 魔王は世界を滅ぼして、自分の理想の世界を作ろうとしました。

 そんな最中、とある村の少年が立ち上がります。少年の名前は『クロウニン』。

 彼は各地の青い石を集めて回りました。

 やがて彼はその石から大いなる力を得たのです。

 彼は聖剣を手に一人モンスター達と戦い成長していきました。そんな彼を人々はいつしか勇者と呼ぶようになりました。

 勇者は大いなる力を手についに魔王と対峙します。

 魔王は大いなる力を強める七つ道具で勇者を追い詰めていきました。しかし勇者は何度傷ついても何度倒れそうになっても立ち上がりました。

 それは青い石の加護と数多の精霊達、妖精達の加護があったからです。

 そして勇者はついに魔王を倒しました。




「ってな話だ。色々端折ったが、まぁ、そんな内容だよ……」


 トリスの話を全員が静かに聞いていた。そんな中タクローだけが、一人苦笑いをしている。


「勇者クロウニンだって? 苦労してそうだねぇ……」


 それに対してシンジは一人真剣な面持ちに変わる。


「タクロー、その名前、聞いたことないか?」

「クロウニン?」

「ああ、昔そんな名前のキャラネームの人が居たよな……」

「いや、いや……だって、あの人は……」

「もし、もしもだぜ? 俺達みたいにこっちの世界に来たんだとしたらどうだ?」

「てめぇ、ふざけるなよ……。あの人がどうなったか知ってるだろ!?」


 タクローは急に激怒し、シンジに掴みかからんとした。咄嗟にそれをミーナが止める。


「どうしたの、タクロー君。急に、らしくないよ」

「ミーナさんには関係無いっす!」


 ミーナの制止を振り切り、シンジの胸ぐらを掴みかかる。


「お前だって、一緒だったんだ。知ってんだろう! あの人は、あの人は……死んじまったんだよ! リアルで!!」


 それは、タクローもそうだがシンジも触れたくない話だった。




 かつて、タクローがゲーム『フェアリーストーンストーリー』を始めた頃の話だ。

 魔法使いでありながら、前線で戦うタクローに手を差し伸べた仲間達が居た。

 その最初のメンバーの一人がシンジだ。そして、その中のひとりで『苦労人クロウニン』のキャラクターネームの人物が居た。

 彼は当初、タクロー達のパーティーの中では一番の功労者として戦闘に参加していた。良く気がきいていて、仲間達が争うと必ずフォローに入る優しい人物だった。

 いつしか彼の周りには必ず人が集まり、共にゲームをする。

 あまりゲームでの文句は言わなかったが、仕事の愚痴を言い出したら止まらない人物だった。社会人として、長く過ごしているらしかった彼は仲間内でも年長者だと囁かれていた程だった。

 しかし、学生や働いていない者達にとっては彼の愚痴はあまり好ましいモノでは無かったらしく、次第に離れる者も現れた。

 それを危惧した仲間の一人が、『社会人限定チーム』を立ち上げようと言い出すに至る。しかし、気が付けばいつしか社会人だけのチームになっていたのは皮肉と言えた。

 こうして、タクロー達とクロウニンは楽しいゲームライフを過ごす事になったのだ。


 それは、突然だった。クロウニンと次の日の約束をしたタクロー達であったが、その日は来なかったのだ。

 彼等はイベントそっちのけで彼を待った。しかし、彼は二度とその姿を見せる事は無かったのである。


 全国版のニュースにある訃報が流れた。

 それはある会社員の過労死と言う内容だ。そんな話は何処にでもあるだろうと、出勤前の朝食時タクローは考えていた。だが、死亡推定日時を聞いて食事が喉を通らなくなった。

 それは、次の日のゲームイベントを楽しみにしていたクロウニンと別れた正にその『次の日』だったからだ。

 直ぐに、連絡先を知る仲間に片っ端から連絡を取る。それはシンジ含めた仲間達も同様だった。

 相次ぐやり取りに、全員が遅刻しそうになるほどだった。本名は知らなかったが、職種も、年齢も、家族構成に至るまで全てが一致する。そして、何より彼がゲームに上がらなくなってから、何度か連絡をつけようとした仲間のリーダーの話では、返信は一切無いと言っていた。

 タクローもまた古参の一人として、連絡を試みたが駄目だった。


 ニュースを見た日、彼等は仕事が手につかず、会社終わりに集まれるメンバーだけでもとオフ会を開いて、事態を話し合った程だった。

 それほどにメンバーから慕われていた人物は突如、別れを告げた。

 その後のニュースで、家族が会社に対して過剰労働を訴えたが、会社は俄然それを認めずに裁判になったと言う話をきいていた。


 タクロー達は知っている。

 彼が、常日頃こぼす愚痴は仕事の内容だ。

 ゲームをする時間等ろくに作れず、メールでやり取りをする日々が続いたり、ようやくゲームが出来るようになっても一時間足らずしか出来ない状態だったりと、彼は名のごとく『苦労人』だと言われる程だった事を……。

 そして、それは唐突だった。

 彼からのアドレスで、メールが届いた。だが、それは彼の家族が出したものだったのだ。

 ゲームのメンバー全員が心の何処かで抱いていた、希望が粉々に砕かれた瞬間だった。


 昨今、過労による死亡や精神障害での自殺など珍しい事ではない。

 だが、ニュースとして全国に広まる事はない。そして、会社側はよほどの事でも無い限り因果関係は無いとして、家族の訴えを退ける。

 政治家が残業時間を減らす様に、リフレッシュ休暇を持たせる様にと言った話は一部にしか適用されていない。事実、社会人は疲れ、疲弊する毎日を送り、命を削っている者達が多い状況なのだ。

 労働基準監督署が動いた時だけ、体裁を取り繕うのだ。


 タクロー、そしてシンジと他の仲間達も、彼の死で世の中の仕組みの一部を垣間見た気がしたのだった。


 だからタクローは怒った。

 蒸し返したシンジにもそうだが、常々感じた社会に対してもだ。何故なら、大切な『仲間』を奪ったから……。

 シンジはタクローを真剣な眼差しで見る。


「タクロー、あの人の本名覚えてるか? 俺は忘れてないぜ……」


 シンジの胸ぐらを掴む手が緩む。そして、手を完全に離すとタクローは崩れ落ちた。


「じんない……、陣内明憲ジンナイアキノリ……」

「こじつけかもしれない、願望なのかもしれない……。だけど、その名はココにあったのかもしれないぜ……」


 シンジの目はいつしか赤く潤む。タクローもまた同様だった。


「だったら良かったなぁ……。だったらよぉ……」



 そんな彼等に、ミーナが声を掛ける。


「俺は後から入ったから、その人の事は少ししか知らない……。けどさ、今日の午前中ジンナイさんに言われたんだ、『剣だけじゃなくて、他にも鍛えなきゃいけない物があるだろう?』って。なんでか解んないけど、鎧の話をしたら彼が持ってこいって言うんだ。そんで言うんだよね、装備者は連れてこなくて良いって。『なんで?』って聞くと、『後で見せてびっくりさせてやれ』って言うんだ。言われるがままそうしたけど……」


 ひどく落ち込んだ様子で話すミーナ。そこにトリスが口を挟む。


「爺さんに聞かれたよ、鎧を着る奴は良い奴かってね。肯定したら、遠くを見るように優しく笑ってやがったよ。もしかすると、そうなのかもしれないな……。それに、ヒカルさんにアイテムを渡す為に禁忌を使ったとか言っていたな。だけど、それ以上は言えないとも言っていた。おそらく、アレだな……」


 黙ってこれまでの話を聞いていたアリーシャが「行使の為の制約……」と呟いた。

 トリスは黙って頷いたのだった。




 タクローは年甲斐もなく、大粒の涙をこぼした。


「そうか、ここに来ていたんだ……。そうか、爺さんになって……」


 独り言を呟く。

 タクローにつられるように、シンジもまた顔を伏せる。いつしか、ミーナもヒカルも涙を流した。


 暫しの間、全体が悲しみに包まれる。

 そこに居たのは、タクロー達の他にもアルフとエンディもいたが彼等はまるで蚊帳の外で、静かに押し黙っていた。



 ある程度時を置いて、ようやく全員が落ち着きを取り戻すと、時刻はすでに遅くなっていた。


 全く煮え切らない状態になったが、話す時間はまだあるとして、今日はお開きとなったのだった。

 それぞれが、ミーナとシンジの泊まる部屋を後にしようとした時だった。扉を強くノックする音が部屋の外から聞こえる。そして、ノックする主はタクローの名を呼んでいた。

 未だに潤む、目を服の袖で拭いタクローはミーナ達の部屋の扉から顔を覗かせる。

 タクローが泊まる部屋の前に、必死な形相のセルヴィナ・ストーリスがいたのだった。

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[良い点] クロウニンさんのエピソードで涙腺崩壊しました
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