セーブストーン
話はまだ終わりでは無い。
それはアリーシャにとっては始まりに過ぎなかった。
アリーシャ・ドロセルは、王妃に命じられるまま、ある少女と共に逃亡する事になる。その少女は王と王妃の娘、つまりはランドールの姫君だった。
アリシア・フェルド・ランドール、彼女と共に後からやって来た兵士達の目をかいくぐって城を後にする。
事態を知った王の側近は、トリスに護衛に就くよう命じた。父を殺した憎い敵を討てぬ悔しさを噛み締めて、トリスはアリーシャと合流、共に城から抜け出る。
しかし、城は包囲されていた。城下町に逃げる道も、城の後ろにある森への道も塞がれていた為、一行は城の周りにある堀へと飛び込む。
城を囲む堀の中には一つの隠し通路があった。それは城内から逃げ出る為のもであったが、一方では城の地下奥深くに続く隠し通路もあった。その為、三人は城の地下に身を潜めることにしたのだった。
石造りの城は頑丈で、数百年経っていてもどこも傷んでいる様子はない。
地下は寒く、三人は身を寄せ合って下へ、下へと迷路のような通路を進む。そして、通路はある所を境にガラリとその見た目を変える事になる。
その昔、ランドール建国以前からあったとされる地下神殿へ通じる道。
それはランドールのどの時代のどの様式とも異なる作りで、古の時代の物だと感じるのに大した時間は掛からない。
神秘的とも言える彫刻が立ち並び、高級な石材が使われているのか全く風化した様子も無い。
トリスが時折モンスターを警戒するように、鼻をひく付かせるがモンスター独特のニオイは一切感じられなかった。
お互いを励まし合いながら、三人は長いと感じる道を進む。
そして、行き着いた先は正に神殿と言うにふさわしい場所だった。
様々な彫刻に囲まれた中央には、大きくひし形の青い宝石の様な物が浮かんでいる。その大きさたるや、現在のトリス二人分ほどであるとアリーシャは語る。
その石の名は『セーブストーン』。過去を記憶する石としてソコにあり続ける。
石の名を聞いたタクローと仲間達は、大きな声を上げる。
「セーブストーンだって!?」
『セーブストーン』はゲーム時代、シングルプレイ時に存在して物だ。
セーブポイントでセーブして、途中から再開するというのは、どんなゲームでも今や共通である。
近年はオートセーブにより、チェックポイントから再開出来るモノもあるが、未だに『セーブポイントで記録する』のは、まだまだ当たり前の事である。そして『セーブストーン』は正にそのセーブポイントに設置されていた石の事だった。
タクロー達の反応を見たアリーシャは、続く言葉を躊躇った。そこへトリスがすかさず咳払いをして、タクロー達を鎮めると共にアリーシャに続けるよう促す。
「セーブストーン、それは現在を記憶する物。現在までの全ての知識、現在までの全ての人々、現在までの全ての出来事、現在までの全ての魔法と現在までに起きた事を全て記憶する石。それをランドールでは守っていました。セーブストーンは間違えて使用すれば、世界そのものを大きく変えてしまう物として賢者達が封印したという話です。場合によっては世界が崩壊するとも言われています」
アリーシャは語る。
現在を記憶するだけでなく、過去へと戻る事の出来るその石は未来を壊すモノだと。そしてセーブストーンを使った者は現在の記憶をそのまま過去に持ち込むことが出来る。
そう、正にゲームのセーブ機能がそのまま使えるのだ。だが、実際ゲームではやり直したりと言う事になるが、実際の世界でそれは脅威としか言いようがない。何故なら起こるはずの出来事を根底から変えかねないからだ。
事象は崩れ、矛盾は矛盾を呼び世界は法則を外れ崩壊してしまう。
シンジとタクロー二人は、その事を少しばかり想像して険しい表情になる。
アリーシャは話を続ける。
「それを守るのが王族であり、最後の生き残りとなるアリシア姫なのです。王族には不思議な力がやどります。それはセーブストーンの力を部分的に使用できるというものです。セーブストーンは本来、使用すればたちまち過去へと戻してしまいます。大きさによって力はまちまちだけれど、城の下にあった大きさはこの世界そのものを変えてしまう……」
アリシアは、その力を悪用されないようにと自身をセーブストーンに記憶させて、自らのマナを使用してセーブストーンの力の一切を封印する事にした。
それは王族の秘技の一つであった。
自らの体を石の中に収めて、内部から封印を施す。コレにより外部から石の力を使用すれば、内部から拒絶する事が出来るようになるのだ。
こうして、アリシアは長い眠りについたとアリーシャは言葉を締めくくる。
「それと、俺にくっついて回るのとでどんな関係があるんだ?」
タクローのが何気なく言葉を投げかける。するとアリーシャはタクローを見つめた。
「タクローさんの強大なマナはセーブストーンを強く活性化することが出来るはずです。それは、破壊出来るほどだと私は思います。私は探していました、アリシア様を助け出してくれる人を、そしてあの石を悪用されないよう破壊できる人を……。私が魔法を勉強するのはその為でした。ですが、私には無理です。無理なんです……」
タクローは「なるほどねぇ……」と腕を組んで渋い顔をした。そして、少し考えてアリーシャを見る。
「よく解らないな……。賢者が封印したのなら使えなくなっているんじゃないか?」
アリーシャは困った顔をする。
「私も、詳しくは解らない……です」
「賢者にセーブポイント、巨大なセーブストーン……。ってか、そんなでっかいセーブストーンってあったっけか?」
シンジは独り言の様に話しながら視線を泳がせる。
「無かったと思うよ、グラフィック上での大きさは確か人間半分くらいだったはず……」
ミーナは腕を組んで難しい顔で唸る。
「そもそも、過去に戻るくらいなら問題ないんじゃない? ほら、タイムリープってやつでしょ?」
ヒカルは気楽に考えてる様子でいた。
タクローは考える、過去に戻るなら現在の世界はどうなるのか、と。
「未来改変、いや、過去改変……。事象変異……因果律の崩壊……。因果律の崩壊!?」
タクロー独り言は一つの結論を見出した。そして、それにミーナも乗っかる。
「タクロー君多分それっぽい。絶対的な過去は未来を無かった事にしてしまうって感じじゃない? そもそも未来の記憶を過去に持ち込んでも、世界は未来を知覚出来ないで、人、もしくは世界を変えてしまうとかそんなヤツ」
そして二人は盛り上がる。過去にそんな内容のゲームがあった為に、一時期そんな話で盛り上がった事がある二人は目を輝かせて語りだす。
「大体、未来を変える為に過去に戻ったら、戻ってしまった後の世界はどうなるのかって話ですよね? 改変される? パラレルワールドとして存続する?」
「そんなの、知覚出来なきゃただの推論でしか無い。で、あれば崩壊って話になるよね?」
「そうそう、なるなる」
「セーブしてゲーム進めたは良いけど、死んじゃってセーブポイントに戻る。ゲームならそれが当たり前だけど、実際はどうなんだろう? 主人公が死んだ後の世界も続いてるんじゃない? パラレルワールドとして……」
「だけど、それが知覚出来なきゃ……って話に戻りますね」
二人の議論は白熱しはじめる。それを遮ったのは、シンジだった。
「二人共、盛り上がるのは良いが、今議論する事じゃ無いと思うけど……」
トリスはため息をついて、咳払いをする。
「まぁ、あれだ……、セーブストーンにはもう一つの力がある。空間に空間を記憶させる力だ。これこそ、ジンナイって爺さんが使った俺の国の最大の禁忌だな」
それから、トリスはアリーシャに代わり知っている範囲内でセーブストーンについて語りだす。
セーブストーンはその昔は各地のいたる所に存在していたらしい。しかし、それが危険なモノだと解ったのは魔王の存在によってだった。
千年くらい前に魔王と呼ばれる存在が姿を現した。魔王は七日間で大地を焼き、大陸全土に大いなる災いをもたらしたとされている。その魔王が力をセーブストーンによって手に入れていたと言われている。
一度全ての力を使い切っても、使い切る前の力を呼び出せば何度も全力が出せる。これがセーブストーンの大いなる力の一つだと、ランドールの古い文献には残されているそうだ。
「そんで、魔王は多くのセーブストーンを求めたらしいぜ。だけど、そこに勇者が現れたんだ。コイツはおとぎ話になってる有名な話だ……」




