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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
第一章 異世界(ゲーム世界)転移
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決闘

 センターにも外とを隔てる高い壁がある。それは勿論モンスターから都市を守る為の物だ。

 タクローは壁の外に居た。そこは広大な平地が広がる場所だ。手には木でできた剣を持っている。

 表情と言えばまるで間の抜けた感じであり、置かれている状況がさっぱりと理解出来ない様子だった。

 対峙する形で目の前には、セルヴィナ・ストーリスがタクロー同様に木の剣を持って立っている。その背後には数名の部下が並ぶ。

 タクローの後ろにはヒカルとシンジ、アリーシャにトリスと言ったメンバー。


「さぁ、尋常に勝負だ!」


 セルヴィナの声に、タクローは目を点にさせていた。


「勝負って……、一体全体何がどうしてこうなった……」



 時は宴会の夜に遡る。

 部下達と共に食事を取っていたセルヴィナに、タクローは声を掛けた。それは自身が怒りに任せて暴力を振るった事に対する後悔があったからだ。

 現状、タクローは常人とはかけ離れた力を持っている。簡単に人を殺める事さえ出来るその力を振るってしまった事を悔いているのだった。

 声を掛けたのは、謝罪する為の口実を探す意味合いも含まれていた。しかし、そこへリリーアがやって来た事により事態はおかしな方向へと流れた。

 酒の飲み比べに始まり、いつしかロック・クラブ戦でのセルヴィナ達のダメ出しに移行する。おまけに、鎧をしまっている棺桶を隠すように積み上げられた荷物の持ち主がセルヴィナ達だと知ったタクローはグチグチと説教が入る。

 反論しようとしたセルヴィナであったが、タクローはそれを許さなかった。

 最初は半泣き状態になったセルヴィナであったが、酒を煽り着ていたスーツのジャケットを脱ぎだしシャツをはだけさせた辺りから人格が変わった様になった。

 そしていつしかタクローとの決闘を申し出たのだ。

 馬鹿にした口調で断るタクローに対してセルヴィナが罵声を浴びせながらタクローを煽る。

 売り言葉に買い言葉と言った事でいつしか二人が決闘をする運びになったのである。その時二人を含むソコに居た全員がかなり出来上がった状態であり、そんな二人を囃し立てるのだった。

 セルヴィナは先に潰れ、その場で眠りにつく。一方のタクローはその後も飲み続けた。それは記憶が曖昧になってしまう程だった。

 そんな一件があったことなど完全に記憶から飛んでいたタクローは、流されるまま現在に至る。


 昼少し前、天気は今日も今日とて快晴だった。良い決闘日和と言えよう。

 都市の外であったが、周囲にはモンスターは居ない。

 邪魔する者が誰も居ない状況でもはや逃げると言う選択肢は無いようにタクローは思えた。


「なぁ、止めないか? アレは酔った勢いってヤツだったって事でさぁ……」

「貴様が言った言葉を忘れたのか!」

「はぁ? 俺が何を言ったんだよ?」


 タクローは首を傾げる。それを見たセルヴィナは顔を真っ赤にさせてタクローを睨みつける。


「負けた方が下僕になるとか言ったのは貴様だろう!」

「はぁぁぁ!?」

「私に『土下座』なる非常識極まりない格好で謝罪を要求したり!」


 その時タクローは酒の恐ろしさを噛み締めていた。

 酒が飲めるようになってある程度年が経つ。それなりに失敗談はある。そしてこれもまたその一つになろうとしていたのだった。


「下僕になる云々はセルヴィナが先だぞ」


 シンジが助け舟を出したように思える。記憶が曖昧なのは何もタクローだけでは無かったようだ。


「見物人は黙っていろ!」


 烈火のごとく怒るセルヴィナはシンジに木剣の先を向けた。

 シンジは驚いた仕草をして見せ、半歩後ろに下がる。


「で? コイツで殴り合うってのか?」


 タクローは気だるそうに片手で持つ木剣で自身の肩を叩く。


「ああ、基本はそうなるな。だが、防御魔法や支援魔法なら使っても構わないぞ。貴様は魔法使いなのだろう?」


 ここぞとばかりにセルヴィナはタクローを見下す様な表情になる。


「そうかよ……。そっちも魔法を使うのか?」

「私は剣士だ。魔法に頼らずともコイツで十分だ」


 セルヴィナは木剣を突き出してみせた。

 タクローはため息をついた。

 自分より若い、しかも女性と殴り合う気は更々無い。どうするかを思案する。


「さて、そろそろ行くぞ!」


 唐突にセルヴィナは開始の合図を出した。


 これは有る種癖の様なモノだったのだろう。

 魔法を使って良いと言われた事で、タクローは向かってこようとする剣士に向かって防御を固める思考になっていた。


「壁よ、拒絶する壁よ。我が前に現れ、我を守れ……」


 タクローが詠唱する。その言葉を聞いたシンジとヒカルは「あ」と同時に声を上げた。


「詠唱魔法か、古臭いな……」


 不敵に笑ったセルヴィナは木剣を構えた後、タクローとの距離を詰めるために一気に飛び出す。


「プロテクション・フィールド!」



 タクローの前、なにもない空間に六角形の巨大な青白く光る半透明な一枚板が出現する。それを確認したセルヴィナは、足を止めた。

 プロテクション・フィールドと言う魔法がどういうものかを知っていたからだ。

 スキルを使用して、防御魔法を打ち破らんと光の壁に剣を向ける。しかし、攻撃をするのをためらう事態に急変する。

 六角形の魔法障壁は無数と言うほどに出現していく。一枚でもタクロー一人を完全に守る大きさの代物が壁を作るように何枚も現れていったのだ。

 やがて、それはセンターを守る為の壁と同等の高さまで展開する。横はどこまでも続くとさ思えるほどだった。

 何気に壁の切れる方向に目を向けたセルヴィナは、遠くで体を真っ二つにされたモンスターを見た。

 この魔法の城壁を知っているものは、三人だけだ。

 トリスも遠くから見た事と話を聞いてという程度では知っていたが、実際に目の当たりにするのは初めてだった。


 魔法の城壁を初めて見た者達は、口を開けて固まっていた。セルヴィナに至っては木剣を落として、膝から崩れ落ちる。ポカンと上を見上げると、魔法の城壁は空さえ分断している様に見えた。

 この状況で決闘をどうのと言う者は誰一人居ない。

 セルヴィナは完全に戦意を喪失し、「まいりました」と呟いたのだった。

 一方のアリーシャとヒカルにシンジは、苦笑いでタクローの背中を見つめていた。


 魔法の城壁が消えると、セルヴィナと部下達は放心状態であった。そんな彼女達をタクロー達がセンター内へと戻す。

 都市に戻った一行はそれぞれの目的地に歩き出すのだが、セルヴィナ達は足取りがふらついていたのだった。


 ミーナは、タクローの頼みを叶えるためにセンターの工業区画に向かっていた。

 事前にリリーアから紹介を受けたその場所は、列車部品などを扱う大きな工房に飲み込まれた形で存在していた。あまりにも小さな工房だったが、タクローの頼みを叶えるのには十分な設備の整えられている。そこにはあまりにも偏屈そうに見える腰が大きく曲がった老人男性が一人いるだけだった。


 アルフはタクロー達の為に、今日の宿を手配していた。

 リリーアの取り計らいにより、獣人であるトリスも泊まれる様になっている高級宿だった。ロック・クラブ戦で手に入れた鋼材や鉱石を換金すると、良い額になった為に奮発する形になったのだった。

 そんな最中、アルフと合流するべく指定された宿にタクロー達がやって来る。

 宿の受付で手続きをしていたアルフにタクローは声を掛けた。


「おつかれ」

「ああ、お疲れ様です。どうでした? セルヴィナは強かったですか?」


 そんなアルフの問いにタクロー達は顔を見合わせる。


「いや、戦ってはいないよ」


 苦笑いでタクローが答えると、アルフは不思議そうな顔をする。


「彼女の場合、簡単に引き下がるとは思えませんが……」

「防御魔法を見せつけてやったわ」


 タクローの言葉に一緒に行っていた仲間全員が無言で頷いていた。

 怪訝そうな表情になるアルフに、「事情は後で」とシンジがその場を曖昧にする。


 宿の受付の際に、タクローは自分達の宿代は「いい加減自分達で出す」と言い出した。断るアルフであったが、タクローがレアル金貨を出したことで事態はとんでも無い事になった。

 あれよあれよと気がつけば、アルフを含むメンバー全員が高級宿の王族が主に泊まる特別な部屋を用意される事になったのである。


 タクローとの決闘を終えたセルヴィナはリリーアの元へと戻る。


「ああ、なんだあの男は……。夢? 夢か? 酒の飲み過ぎで未だ夢の中なのか?」


 うわ言のように夢だと繰り返し、フラフラと歩く。

 リリーアはセンターの管理区画に有るミーティアラ王国大使館に居た。

 セルヴィナが大使館に入ると、彼女の様子を心配する他の部下達に囲まれた。セルヴィナに理由を聞くも答えが返らないので共に付いて行った部下達に聞くが、反応はセルヴィナとあまり変わらない。

 セルヴィナおぼつかない足取りで、リリーアの部屋を目指す。リリーアの居る部屋の扉をノックして、返事を聞いてから中に入る。

 セルヴィナの様子を見たリリーアは何故が満足げな表情であった。


「タクロー様は強かった?」

「戦いにすらならなかった、アレは化物だ……」


 セルヴィナの言葉にリリーアは怒ったように頬をふくらませる。


「化物じゃなくて、『魔王』よ!」


 リリーアの言葉に、セルヴィナは何故か納得していた。


「確かに、アレがおとぎ話に出てくる『魔王』だと言っても驚かないな……」


 勇者と魔王の話は、この世界のこの時代ではおとぎ話として語り継がれる『物語』となっていた。


「違うわよ、あんな物騒なやつじゃないわ。魔法の頂点に立つ王で『魔王』よ」


 セルヴィナはリリーアの『色』を見る能力を知っている数少ない一人。

 リリーアが何かの『色』を見てそう言っているのだろうとは思ったが、それが何を意味するかは全く理解できなかった。


「魔法の頂点に立つ王……ですか?」

「そ、彼の放つ色は周囲のマナを大きく変化させるわ。それは自身にも強大な魔力とマナを秘めている証拠ね」


 彼女の説明はザックリしていた。しかし、セルヴィナはその説明で合点がいった。

 そう、あの『魔法の城壁』が正にそれを体現しているから他に無かったからだ。


「で、どうするのセルヴィナ。下僕になっちゃう?」


 リリーアはニコニコとセルヴィナを見つめたのだった。


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