センター
タクローが飛び起きて自身の格好を見る。
シャツにパンツといった格好で服は寝室に散乱している。
寝室は見慣れないものでここが自分が泊まる部屋ではないと直ぐに解る。
フローラル系の匂いがする部屋で女性物の小物が沢山置いてある。
ベッドに横たわる下着姿のリリーアを見て、ここが彼女の部屋だと推測出来る。辺りを確認し、自分の服をかき集めて外へ出ようとすると、リリーアが声を出した。ゆっくりと振り向くと薄目を開けてこちらを伺っている様にも見える。
「お、おはよう……」
朝の挨拶と一緒にタクローは嫌な汗が吹き出る。
「おはようございまふ……」
結果的に言えば二人の間には何もなかった。
泥酔したリリーアを部屋に連れて行ったタクローが半ば押し倒される形になったが、タクローもかなり酔っていたのと戦闘とその前の鎧を引っ張り出す作業の疲れでいつしか強烈な睡魔に負けてしまう形になったのだ。
服が散乱していたのは、お互い寝ぼけて服を脱いだためであり何らかの行為があった訳ではない。
リリーアの寝室を後にし寝台車両から応接用車両へ移動すると、そこには屍の山と言うがごとき光景があった。
食べ物等や部屋は綺麗に片付けられていたがタクローのメンバーとセルヴィナを含む剣聖親衛隊の一部が倒れるかの如く眠っている。トリスやミーナは大きないびきをかいていた。
応接用車両の中にある調理場に顔を出すと、女性の料理人が朝食を用意している所だった。
「やぁ、おはよう。よく眠れたかい?」
若い女性料理人はにっこりと笑った。タクローは挨拶と共に簡単な返答を返す。
「昨夜はまぁ見事に盛り上がったもんだ。食事を作ったかいがあるよ。それに、姫様もあの堅物も楽しそうだったのは何よりだ」
ニッコリ笑って朝食の準備に戻る。そんな彼女にタクローは一杯の水を頼んだ。
正直な話タクローは昨晩の事をあまり覚えていない。
二日酔いだと思われ、頭がふらふらとしていた。
王族専用車両と一般車両の連結部分に腰を下ろし、タバコを吸う。流れる景色を見ながら列車の走る風を感じていた。
吹き付ける風は心地よかった。季節は夏になるくらいなのだろうと思われ、暖かくタクローを包んでいた。
「なぁに黄昏れてんのよ?」
後ろからヒカルの声を聞く。
「別に、何となくだな」
ヒカルはタクローの横に座って同じ景色を眺めた。
「帰れるのかな……」
ボソリとヒカルが呟く。
「ホームシックか?」
「まぁ、ね。タクローさんは?」
「俺は……、愛車に乗れないのは寂しいな」
「バイク? 車?」
「どっちもだよ」
タクローはヒカルの顔を見てニカッと笑ってみせる。そんなタクローにヒカルは苦笑いを浮かべた。
列車はセンターへ向けて走る。
本来は昼ぐらいに着く予定であったが、昨日のロック・クラブの戦闘の為に大幅にダイヤが遅れていた。
到着は次の日の朝方になったのである。
アレクシア帝国の王城の一室で、皇帝グラディオーレ・ティーワイ・アレクシアは机の上に置かれた一丁の銃を眺めていた。それは本来の形を取り戻した姿になっている。
ナグルス・ヴァン・オルスキーと、新しく着任した兵器廠開発部工房長アレレル・ギビナスが机を挟んで、二人並んだ形で立っている。
アレレルは若干三十八歳と言う若さで工房長に就いた。それは一重に彼の才能が突出していたからに他ならない。
最初に銃の違和感に気が付いたのも彼だった。
前任の工房長に意見したが「若いのが何を言うのか」と相手にさえされなかった。その為に管理役人に直接申し出た。すると事態は一変し、彼が工房長に抜擢される事になった。
グラディオーレはそんなアレレルと彼の手掛けた銃を見て、正解だなと思ったのだった。
「アレレルよ、これの試射はやったのか?」
「はい、絶対的信頼性を持たせる為に数十発からなる試射と、本体の改良を施しました」
「ほう、改良とな?」
「はい。従来の物では装弾に難が有る箇所があったので本来の形に戻した際に、スライダーと弾倉のスプリングの強度を少し上げています。これによりスムーズな装弾が可能になっています」
キビキビと答えるアレレルに、グラディオーレは満足げに銃を手に取る。
弾倉を外し、スライダーを引く。若干抵抗が強いように感じたが、スライダーのガタツキが抑えられており、弾づまりが少しでも解消できる様に感じた。
「なかなか良くできているな」
グラディオーレの言葉に、アレレルは「ありがとうございます」と姿勢を正した。
(これこれ、これだよ……。はぁ、やっぱり若い方が新しい事に対する飲み込みが早いなぁ……。大体古株ってヤツは『こうでなくちゃいけない』みたいなモノがあるから時としてろくな事にならない)
グラディオーレは目前の二人に気付かれないように小さくため息をついた。
「ナグルス、銃と同時進行の物は出来たのか?」
「はっ、攻撃用魔導車ですね。現在一号車が完成して、始動試験待機状態です」
「そうか。では、始動から実動まで私も立ち会おう」
「はっ、かしこまりました。しかし、恐れながら……」
ナグルスはやや言葉につまる。
「なんだ? 気にするな、申してみよ」
「はい……。あの『履帯』と呼ばれる物は本当にどこでも走れる物になるんでしょうか?」
その言葉にグラディオーレは困った顔を見せる。
(そうだよなぁ……。まぁ、履帯はあくまでもタイヤの一部だけど、あんな金属の帯で走れるかと疑問に思うのは当たり前、なのかなぁ……)
表情を確固たるものに変えたグラディオーレは「問題無い」と答えるだけにしたのだった。
かくして帝国の軍備強化は着々と進行していた。
翌朝、センターにたどり着いたタクロー達は驚く光景を目の当たりにした。
幾重にも伸びる線路が一箇所に集中する大都市がソコにあった。
センターは言わば『玄関口』としての機能も持っている。ルクセンドル大陸を二つに割って東側をアレクシア帝国側とするなら西側はミーティアラ王国側と呼ぶ。だが、ミーティアラ王国側と言っても何も西側全土がミーティアラ王国が支配している訳ではない。
センターより西に行くと、シーサイド公国がある。近年ではリゾート地として発展を遂げている小国だ。さらにセンターから西南、レウラ領北西に位置する山岳部にはアプッス小王国がある。他にも何カ国かの小国がある形になっている。
センターはそれらの小国と大国ミーティアラを繋ぐ為の玄関口になっているのだ。
尚、ミーティアラ王都はセンターから北西に位置していて、ソコへも線路が伸びている。
センターには、各国の交易品を取り扱う店が立ち並ぶ区画、各国の大使が駐留する区画、一般市民区画、宿が集中した区画などで区画分けされている。
都市内部には運河が流れており、中型貨物船や小型貨物船が行き交っている。
一見するとここが王都ではないかとタクロー達は思う程の規模だった。
センターの中央には魔導管制塔と呼ばれる巨大な高層ビルが置かれ、都市のマナの流れを集中管理している事にも驚かされる事となった。
ミーティアラ王都へは列車を乗り換えねばならない。
センターから南部の線路は貨物目的が大半を占める為に大型車両が使えるよう、線路の幅が広く作られていた。しかし、王都へ向かう線路は人員輸送が目的な為に、小型車両が使われている。その為に線路の幅がやや狭く作られていたのだった。
タクロー達は一日、ここセンターに滞在することにした。王都へ入る為の手続きと観光目的の為に。




