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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
第一章 異世界(ゲーム世界)転移
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ロック・クラブ討伐戦3

 車窓から見る景色は飽きるばかりだった。

 話し相手を周りに求めるが、楽しい時間を与えてくれる者は居なかった。

 ただ一人タクローと言う男性との話だけが心から楽しいと思えた。しかし、彼と話す事を側近である女性が許してはくれない。

 昨日こっそり王族専用車両を抜け出した事が効いている様だった。当初は自室に居るものだと思われていたが、昼食の時間になっても出てこない事で事態が発覚したようだ。

 後方に位置する食堂車まで探しに行く羽目になったセルヴィナの怒り様は尋常ではなかった。今では常に側に居る。現在でも相対する形で座り読書に励んでいる。

 一度席を立とうものならトイレの入口まで付き纏う。下手をすれば中にまで入ってきてしまうのでは無いかと思っていた。

 そんな時に急なモンスターの知らせにリリーア・ニルス・ミーティアラは驚きと高揚感が湧き上がった。

 自身の部屋に飛び込むと荷物入れから自分の剣とマジックアクティベーターのセットを取り出す。安全の為に持たされている胸当ても取り出す。


 リリーアは剣の腕には少しばかり自信があった。

 彼女の剣の師はセルヴィナの父親だ。つまりセルヴィナとは姉妹弟子関係にあった。リリーアは小さな頃から活動的な性格であったためにソレを危惧した父親である国王が、剣聖の名を持つセルヴィナの父親に預けたのだった。


 ザイアン・ストーリスは基本的に穏やかな人だった。

 剣の稽古もそれと共に行う魔法の稽古でも叱られた事はあまりない。その為かセルヴィナは少々我儘で自信過剰に育ってしまった気がする。

 リリーアがそうならなかったのは、彼女には相手の思いが見えるからに他ならない。駄目な点が有るとザイアンは諭すように教える。的確なポイントを指定してくれるが終始優しげな口調な為に聞き逃しがちになってしまうのだ。

 それ故にセルヴィナは雑な剣捌きになりがちになった。それでも誰よりも強いのは正に才能としか言い様がない。

 学校も中等部から高等部に上がるとセルヴィナの才能は更に花開く事になる。剣の腕を競い合う授業がある。ソコで数名からなる剣の腕の立つ者達が居たからだ。

 その者達と研鑽を繰り広げ、ついにセルヴィナは頂点に立つに至った。


 一方リリーアはセルヴィナよりも三つ年下。

 セルヴィナの背中を見て育ったと言っても過言ではない。自分も少しでもセルヴィナに近づける様に頑張った。

 彼女もセルヴィナが卒業した後に学年トップになったがそれは剣の才能があったからではないと感じていた。

 彼女には特別な『目』がある。その能力で手にしたに過ぎないと思ったのだ。

 王族、いや国を挙げての秘匿事項となっている彼女の『目』。誰にも話してはいけないと言い聞かされている。

 セルヴィナもつい最近まで知らされる事は無かった。そんな『目』の力に後ろめたさを感じていたが「それも才能だよ」と父親に言われた時に初めて受け入れる事が出来たのだった。


 リリーアが部屋を飛び出すとセルヴィナが陣頭指揮を取っている。部下を二つの班に分けてリリーアを護衛する者達とセルヴィナとモンスターを討伐する者達だ。

 リリーアも共に戦うと申し出ると「馬鹿を言わないで」と一蹴されてしまった。

 仕方なく外で戦闘が行われている今も、王族専用車両内に缶詰状態だった。


 一般客車から歓声が聞こえる。

 リリーアは車窓を開けて外を見た。列車右側で繰り広げられる戦闘が凄まじい光景が広がる。

 体の大きな獣人が、長い槍を巨体からは想像できない繊細な動きで、ロック・クラブと言われるモンスターを翻弄している。

 時折雷撃を発生させた大技も見せる。それに乗客達が歓声を上げるのだ。だがそれだけではない、自分よりも若いように見える少女が獣人の後ろを走り回り魔法で正確に援護している。息の合った二人の攻撃で次々とモンスターが倒れていた。


 先頭車両の方では見知った顔が戦っている。

 アルフ・フォルン・アレクだ。

 セルヴィナと同じ年の彼は剣の腕だけではセルヴィナに劣るものの父譲りであろう戦略的知識では群を抜いている。戦闘も全体を考慮して行われる為に、周りの負担を最小限に留める事ができる。

 現に共に戦う男性とは息が完全に合わさり魔法と剣を巧みに入れ替えて戦っている。それだけではなく、獣人コンビの援護に回る事もあり、いかに戦闘を巧みにこなせるのかを表している。


 車両の上から声が聞こえる、そこには指揮官が居るのだろうか。

 アルフ達と獣人のコンビに巧みに指示を出している。指揮官はアルフではないのかと驚いたが話を聞く限り適任者なのだろうと納得する。

 指揮者の指示はアルフに対しては大雑把で獣人達には細かな指定が入っている。


 リリーアは戦う者達の『色』を見た。

 四人ともそれぞれを信頼しあっている『色』だ。完全に背中を任せあっている姿が眩しくさえ見える。

 しかし時々であるが苛立ちの『色』も見え隠れしていた。そしてその色の指す方向には、土煙とモンスターの群れでよく見えなかったが、黒いスーツ姿がチラチラと見え隠れしていた。


(セルヴィナ、あなた達は何やってるのよ……)


 本来王族や貴族は民を守る為に戦うモノだ。

 だが只々いたずらに戦いをしているようにしか見えない。遠くて良くは見えないが怒りの『色』が湧き上がっているように見えた。


 次いでリリーアは車両の左側の車窓へと行って外を見る。

 女性と男性がまるで作業をこなす職人かの如く一撃でモンスターを潰して切っていた。


(こっちの人達は何なの!? 一撃って……)


 リリーアは目を疑い二、三度目をパチクリとさせる。一番の驚愕する事はこちらでは無いかとリリーアは思った。


 二人の『色』は疲労と虚脱感が見える。ほぼほぼやる気が無いのだ。声を掛け合っているがどこかダルそうにしている。


 リリーア顔を引き攣らせる。どこか見てはいけない何かを見た気分になる。

 セルヴィナはこれを見たらどんな顔をするのだろうかとさえ思う。

 着々と増えるモンスターの死骸が山になっていた。

 試しにセルヴィナの部下一人の男性にその光景を見せると、表情と体が固まっていた。


「私も戦闘に参加したいなぁ……」


 リリーアはそんな事をボヤキながら右、左と車窓に向かい車内を行ったり来たりしていたのだった。



 戦闘は遂に佳境に入ろうとしていた。

 シンジがざっと見回した感じでは蟹の死骸は全体で60を優に越えようとしている。


「こりゃ、鍛冶師と錬金術師はウマウマだなぁ……」


 ロック・クラブは岩を甲羅の一部にしているために、ゲームの時には鉱物を効率よくドロップ出来る存在として重宝されていた。また戦闘をしなければならいので経験値も手に入る為一石二鳥なのだ。

 生まれ変わった世界ではどうかは知らないが。


 ヒカルに目をやると疲労感を露わにしていた。もはや無気力に只々一撃でモンスターを潰している。

 ミーナはもっと酷い様に見える。剣を杖代わりにしながらも向かってくる敵を切り伏せていた。


「二人共、タクローが来るまで頑張ってくれ!」


 そう声を掛けると手を上げて返事をした。既に言葉を返す気力も無い様だった。

 頼みの綱になっているタクローは依然として戦場に姿を見せない。

 後方に有る貨物車両を不安気に見つめる。


「ほんと何してんだよ……。皆疲弊でくたばっちゃうぞぉ……」


 初めてシンジから弱音が漏れた。

 アルフ達とトリス達も疲労を見せ始めていた。二人だけで相手をしているヒカル達程ではないものの、数が数なだけに蓄積されていく疲労感は拭えない。


 そしてその時はやって来た。

 シンジはその光景を見てこれがラスト・ウェーブなのだと感じた。

 一斉に地面から岩が生えた。数を数えるのが面倒に思えるほど大量に。


 シンジはもはや笑うしか無い。

 頼みの綱が未だ来ない以上ここも踏ん張るしか無いからだ。


(来たら絶対文句を言ってやろう。めちゃくちゃ文句を言って怒鳴りつけて泣かせてやる……)


 タクローを泣かせる事が出来るのか? と思って更に笑った。気が付くと古い仲間も新しい仲間も壊れた様に笑っていた。

 それぞれが一頻り笑うと、決死の表情になった。


「皆! 気張れよ、ここが正念場だぁぁぁ!!」


 シンジの叫び声にも似た号令にそれぞれが雄叫びを上げた。

 蟹は地面から飛び上がり群れをなして襲いかかって来た。


 セルヴィナは遂に青ざめた表情になっていた。


「一体何体出れば気が済むのだ……」


 疲労はピークに来ようとしていた。

 倒しても倒しても切りが無い。気がつけば部下達の足は止まりつつある。後方を取られ驚きの声を上げてロック・クラブのハサミの餌食となった。

 気がつけばセルヴィナ達の損害は大きくなっていった。そこにさらなる群れの出現は絶望に感じた。

 そんな彼女達に列車の上で矢を射る男の声が聞こえた。その後列車付近で戦うモノ達の雄叫びが聞こえた。

 何故か胸に熱いものが込み上げてくる。


「お前達、平民達や獣人に遅れを取っていてどうする!」


 全員を鼓舞するように声を掛けた。少しばかりだが部下達の目に光るものが戻ってくるのだった。


 それからそれぞれが、死に物狂いで戦った。傷ついて倒れては仲間の回復で立ち上がりを繰り返して。


 一方のタクローはと言えば、荷物の下敷きになっていた。

 ようやく棺を見つけたもののその上に積み上げられた剣を咥えた獅子の紋章入りの荷物が覆いかぶさってきたのだ。

 悪戦苦闘して汗だくになりながら何とか這い出して、ようやく棺を開けようとすれば、今度は小物が棺と壁の間に填まったようになって思うように開けない。

 タクローのストレスは限界を越えようとした時、ようやく棺を開ききる事が出来た。


 戦況は完全に劣勢の極みだった。

 突出している黒いスーツの集団は戻る気配は無い。闇雲に蟹を狩っている。

 そして遂にシンジは絶望を見た。それは予測していた最悪の自体だった。

 正面と左側から一体ずつ巨大な蟹が土煙を上げて向かってくるのだ。

 そのまま突進攻撃をされればヒカルもミーナも為す術がない。列車もただでは済まないだろう。


 列車の後方から轟音が聞こえる。

 その後シンジの背中を押すように突風が吹いた。

 シンジが後ろを振り向いたが列車の後方には何も見えなかった。



「ヤバい、飛び上がり過ぎた……」


 タクローは眼下に小さくなった列車と巨大な蟹二体を見る。上空から見ると位置関係が手に取るように解る。

 列車に一番近いのは正面から向かってくる巨大蟹だ。

 最初の狙いを定めたタクローはエアロダッシュで降下ポイントを修正する。

 魔法は何を使用するか悩んで自分の現状を考えた。


「ライトハンドに術式限定展開。グレイブ・ニードル。追加オーバーヒュージ!!」


 右腕に巨大な土の針が現れる。しかしそれは針というよりもあまりにも巨大な槍の様でもあった。

 自由落下する。距離は十分あった。

 質量に対して重力加速度が大きくなる。更に標的に最終降下修正の為に小規模な爆発魔法を起こす。


 巨大な蟹に巨大な土の針が突き刺さる。硬い岩で身を守っている筈の甲羅は粉々に砕かれ貫いた土の針が蟹を地面に突き刺した。


 タクローは次の目標に直ぐに移動を開始する。


 ヒカルとミーナの目の前まで巨大な蟹が迫っている。そしてその前には普通のサイズの蟹達もいる。

 だが二人は武器を下げた。疲れ切った表情でその場に座り込む。

 それは諦めたからではない。自分達の仕事が終わったからだ。


 地面にくぼみを作り銀の全身鎧、ミスティック・アーマー・オリジンが舞い降りた。

 兜のフェイスガード下の魔法水晶が光る。


「待たせたな!」


 一言告げると仲間達から背を向けて、向かい来る敵を正面に置く。

 蟹達はなんの反応も示さずに向かってくる。

 タクローは後ろから聞こえた「遅くなった分倍働けー」と言うヒカルの声に兜の中で苦笑いをした。


「じゃぁ、少しばかり割増でMP削りますかねぇ」


 タクローは両手を前に構える。


「術式をダブル展開。フレイムをライトアームに、ストームをレフトアームに……」


 それぞれ違う魔法陣が双方の手に展開される。そのどちらも中位魔法ミドルスペルだ。その為HUDに表示されているMPのゲージが一気に減った。


「追加フォルティッシモ」


 この特性付与魔法はその名の通り魔法を極限にまで高める力を持っている。これによりタクローのMPゲージは三分の一削られた。


「結構持っていかれるじゃないか……。まぁ、いいか。追加フュージョン!」


 フレイムとストーム、炎と風を融合させる。両手に展開されていた魔法陣が一つに合わさった。

 暴力的な笑みを浮かべて、前面に押し寄せる蟹の集団に向けて魔法を放つ。


「一気に逝けや、ファイアストーム!!」


 広範囲に炎が地面から湧き上がる。次いでそれは渦を巻いていく。

 蟹の集団全てを包み込み炎の渦は空を目指す。

 やがて赤く熱い強大で巨大な火柱が上がった。飲み込まれた蟹達は炎の中で身動きが取れなくなる。

 熱で甲羅の中身であるタンパク質が一気に固まっていく。まごうことなき焼きガニが出来上がっていくのだった。


 火柱は全ての人間の視線を釘付けにする。


 タクローは火柱が上がる光景を確認もせずに車両右側へと移動する。

 そしてトリスやアルフ達加勢に回る。

 タクローが来たことで戦いは一瞬の内に終わりを迎える形になった。ファイアボールでは火力不足と判断したタクローはフレイムとショットを組み合わせて大きな炎弾で蟹を撃退する。時にはH・Rソードも活躍を見せた。


 アルフに頼まれた為に黒いスーツの集団の加勢にもまわった。

 リリアを連れていった女性を見つけたが、気にすることもせずにタクローは淡々と蟹を倒した。


 こうして長かったロック・クラブ討伐戦がようやく終わりを告げることになったのだった。


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