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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
第一章 異世界(ゲーム世界)転移
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ロック・クラブ討伐戦2

 蟹は左右から挟み込む形で波のように押し寄せて来た。


 魔導列車が完全に下がり戦場が整うと全容が露わになる。

 ミーナとヒカル、シンジによって線路左側は蟹の死体の山が築かれていた。

 メイスによって叩き潰された蟹の死体。両手剣で叩き切られた蟹の死体。破砕矢が甲羅の岩ごと貫き潰した死体。成人男性の腰くらいある大きさの蟹がグチャグチャバラバラになっている。


「やだぁ、なにこの蟹……。叩き潰したら変な液が飛び散るし……」


 ヒカルは服がシミだらけになっている。匂いを嗅ぐと変な匂いがした。

 ミーナにも少し掛かっている。だがヒカルほどでは無かった。


「蟹のエキスかな? ってか、この蟹食べられるのかな?」

「えっ!? ミーナさん食べる気?」

「いや、モンスターの肉とか食事に出たりするじゃん。コレも食べるのかなぁって思って……」


 ミーナの話にヒカルはあからさまに嫌そうな顔をする。

 二人の様子を先頭車両の上から見下ろすシンジは余裕が有ると見て取った。


 ヒカルもミーナも基本的に激しくは動いてはいない。迎撃体勢で敵を迎え討つ形を取っていた。

 シンジも含めた三人は全てが一撃で仕留めている。

 ヒカルはまるでワニを叩くアーケードゲームの如く出てきた蟹を横移動で叩きまくった。

 ミーナはまるでバッティングマシーンの要領だ。両手剣をバットのごとく構えて横薙ぎに叩き切る。

 シンジに至っては先頭車両から一歩も動かずにただ的を絞って当てるだけの作業になっていた。

 時折右側のトリスやアリーシャなどを気にするくらいで他は完全に矢を射るだけだ。

 それ故に左側の残敵は圧倒的に少ない。

 次のウェーブが来ても余裕でこなせる状態だ。


 右側はあまり余裕がが無い。

 敵の注意を引きつけようと黒いスーツの集団が離れた位置で戦っている。しかし全くその機能は果たせていない。そもそも本当に注意を引きつけようとしているかも怪しいくらいだ。

 暴風聖剣を持った女性が中心で戦っている。

 確実に蟹を切り伏せているが、一人で縦横無尽に動くせいで、他の仲間が追いつくのにやっとの様に感じられる。取りこぼしは追いついた者達で倒して回っているが、手際が悪い事この上ない。

 おかげで列車の護衛にはアルフとエンディ、トリスとアリーシャが立ち回る事になる。

 連携はなかなか良く取れていた。

 アルフとエンディ、トリスとアリーシャでツーマンセルを組んでお互いをカバーしあっている。しかし右側が本命なのだろう。湧き出る蟹の量が多い。だが左側の攻撃を右へと割く事が出来なかった為に彼等には苦労を強いている形になってしまった。

 それもこれも黒スーツ集団のせいだと彼女等を睨んでシンジは舌打ちをする。


 気がつけば列車からは声援が送られていた。

 百人以上いる乗客達からは戦う者達に送られる声。それが戦う者達の活力になっていた。

 中にはトリスに対してだけ罵声を浴びせる声があった。

 しかしその声は一変する事になる。

 特定武器スキル『槍雷円舞』が炸裂したからだ。

 十数匹の蟹が一斉に灰となった瞬間、恐怖にも似たどよめきが起きその後静寂が乗客達の間に訪れる。



「トリス、大丈夫か!」


 シンジの掛け声に対してトリスは右手に持つ槍を掲げて返事とした。

 すると一斉にトリスを称える声が大きくなって湧き上がったのだ。


 列車から大きな歓声が聞こえる。

 自分の活躍に乗客達が声を上げているのかと思ったセルヴィナ・ストーリスは列車の方に目を向ける。

 しかしそこには迸る雷を大気中に走らせて槍を掲げる獣人の姿が目に入る。


(なんだ、アイツは……。獣人ごときが何をした!?)


 声援は自分では無く獣人に向けられていると知ったセルヴィナの感情は怒りで満ちていく。貴族である自分よりも、最も劣る存在の獣人が歓声を得るなど、許し難い事だと言わんばかりに険しい顔で剣を振る。

 しかも戦闘に戻った獣人の槍捌きは見事なもので、確実にロック・クラブを仕留めていく。背後からは少女が魔法で援護し、更に抜き出たロック・クラブはナイフで一突きの元に絶命させていた。

 奥歯がきしむ程に強く噛み締めてセルヴィナは部下達を叱咤する。


「貴様達、獣人なんぞに遅れを取るな! 私の後ばかり付いて来るな、各個撃破に専念しろ!」


 返事と共に厳しい表情で分散するセルヴィナの部下達。しかしそこに計画性は一切無い為、連携はままならずになってしまった。


 シンジは大きくため息を吐いた。


「アイツ等本当になんなんだよ……。ここにタクローが居たら絶対怒るよなぁ」


 シンジは主に後方で指揮を取る事に長けている。

 サッカーで言えばフォーメーションを考えて攻撃手順を支持する監督の役割だ。タクローはピッチ内で先陣を切って戦う司令塔に近い役割を担っていた。

 その司令塔が居ない状況でも線路と列車付近だけはある程度ゲームメイク通りに出来ているのは、ヒカルとミーナという古くから共に戦ってきた仲間の信頼関係と、最近では有るがアルフ達との戦闘経験がものを言っている。


 新たなウェーブが始まり蟹の群れが一斉に襲いかかってくる。

 今まで岩だと思っていたモノが蟹として地面から突如顔を出す。気がつけば地面からにょきにょきと岩が生えていた。


「どんだけ居るんだよ……」


 そのボヤキはシンジだけでは無かった。眼下からも同じ様なボヤキが聞こえる。


 シンジには一つ気がかりがあった。

 ゲーム時代のロック・クラブ討伐戦は最後にジャイアント・ロック・クラブと言う大きな蟹が出てくる。それは線路の向こうに居る事は解っていた。

 そもそも、その存在の為に列車は止まったのだから。

 しかしジャイアント・ロック・クラブ戦は極稀に二体現れる。ノーマルの茶色い体色を持つ存在と、希少種と呼ばれる赤い体色を持つ存在だ。

 シンジがスキル『遠見』で見る線路の先に居るジャイアント・ロック・クラブは茶色だ。何処を見ても赤は見えない。

 そもそもジャイアントと名が付く大きさだ、軽く見回しても見つからないのであれば居ないはずなのである。しかしシンジは妙な胸騒ぎを感じていたのだった。



 列車の中を後方車両へ向かうタクローはようやく貴族用貨物車両にたどり着く。急いだために息は絶え絶えになっていた。最後の力を振り絞る様に貨物車両の扉を開けた。


「な、なんじゃこりゃ……」


 タクローの目が点になる。

 トリスに聞いた話では、入って直ぐの所に有るとの事だった。しかし入って直ぐ目に入ってきたのは旅行カバンやら木箱などの荷物の山だ。何処にも棺桶は見当たらない。


「くそぉ!!」


 悪態を付いて荷物の山を掻き分ける。

 所狭しと置かれた荷物の山の殆どには剣を咥えた獅子の紋章が入っている。

 荷物をどかせて空いた隙間にまた新たな荷物を置く。その繰り返しは、どこのリアル倉庫番だよと思うくらいだった。

 貨物車の中にはいつしか乗客達の歓声が入り込んでくる。


(アイツ等上手くやってるみたいだな……)


 このまま任せて高見の見物も良いかなとか少し考えて、頭を振る。何時何処に危険が迫ってくるか解らない。

 高みの見物を決め込んだ矢先に仲間のピンチに出くわしてしまっては自分が許せなくなってしまう。そう考えて上着を脱ぎ、シャツの袖を捲くる。


「いっちょやってやるわ、ごるぁ!」


 タクローは誰も居ない空間に怒声を響かせ荷物との格闘劇を繰り広げるのだった。

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