ロック・クラブ討伐戦1
ロック・クラブはその名の通り蟹のモンスターだ。
ただこの蟹は海中や岩礁に居るモノとは別物である。
甲羅部分は岩が張り付いている。見た目は蟹だが動かずに身を丸くすると他の岩群に紛れ込む事が出来る。
擬態の一種であるが、外敵から身を守るだけでなく餌を取るのにも有効とされている。ゲーム時代でもこの能力により急に襲われるといった戦闘シーンも数々あった。
魔導列車の周りにある岩が次々と動き出す。
「おいおい、やべぇ……。何匹いんだよ?」
タクローの顔は引きつる。
その場に居る仲間達は圧倒された様に後ずさる。
「シンジ、初期戦闘は頼む!」
「あいよぅ……」
タクローは踵を返して列車内に戻る。目指すは後部車両の貴族専用貨物車両だ。
シンジは狩人の身軽さで列車の天井に登る。辺りを見回すと、そこらかしこに動く岩の群れがあった。
ゲーム時代では俯瞰視点だった為に周囲の状況を見るのが楽だった。しかし現在は一人称視点である。
視界はまさに目で見えている状況しか把握できない。
「はぁ……参ったね。タクローのヤツ、面倒事押し付けやがって」
シンジは脳をフル回転させる。
まずは列車をまたいで戦闘する事は人数的に問題がある。二班に分けるとなると人数的に厳しい状況であると言わざるを得ない。
特にアリーシャは武器戦闘を見たことが無かった。基本マジックアクティベーター頼りの戦闘だ。
魔法は物理攻撃に耐性のあるロック・クラブには特に有効ではある。しかしソレだけでは物足りない。
襲いかかられた時に護身とする武器は必要になる。
「アリーシャちゃんは、武器は扱える?」
シンジの声にアリーシャは「ナイフかショートソードなら」と答えた。
シンジはナイフなら所持している。しかしナイフがロック・クラブに有効かと言ったら否と答える他ない。で、あればショートソードだが、チームのメンバーで持っている者は誰も居ない。
(せめて、全クラス装備武器でもあれば……)
シンジは頭を抱えるが、取り敢えず無いよりマシと自身で所持しているナイフを投げ渡す。
シンジも含め、タクロー達は最終決戦の為の装備または必要な装備しか持っていない。投げ渡したナイフもまたその一つであった。
『バニシングリッパー』と名のついたソレはナイフの中でも最上位クラスに位置する武器の一つだ。主に暗殺者の職業が好んで使う武器だが、能力が高く様々な職種で好まれていた。
ゲーム時代では高レア武器にカテゴライズされている為に、滅多に見る事が出来ない物の一つでもあった。
「取り敢えずソイツを預けておく。ミーナさんの自信作の一つだから無くさないでくれよ!」
アリーシャは真剣な眼差しをシンジに向けて頷いた。
「さてと、アルフさん。列車を下げてもらうことは出来ますか?」
シンジの問いかけにアルフは考え込む。
「これだけの車両を押すのは少し時間がかかりますが!」
車両の屋根の上に居るシンジに大きな声で返すと、「構いません」と返答が返る。
アルフはエンディに目で合図を送ると先頭の機関車に向かって駆け出す。
そんなアルフと丁度入れ違いになるように前の方に位置していた王族専用車両から、黒いスーツの一団が降りてくる。
それぞれに武器を携えていた。
先頭の女性は一瞬すれ違ったアルフを目で追っていた。その後全体を見回す。
出てきた黒いスーツの一団は総勢八名。先頭のモデルの様な女性の他に二人の女性と五人の男性。チームの様に見える彼等彼女等は周囲を警戒する。
(なんだアイツ等、今の今出てきて警戒とか遅すぎだろ……)
シンジはため息を吐いて彼等の頭上に走る。
「あなた達、ロック・クラブは既に周囲を囲んでいます。今、車両を下げて貰って戦闘を少しでも車両から離す様にしますので不用意な事は避けて下さい!」
シンジの呼びかけにリーダーらしき女性が睨みつける。
「貴様はどこの家の者か!?」
怒鳴りつける様な声にシンジは少し不快感を示した。状況が解らないのかよと心中で思ったが引きつった笑顔で「家とは?」と聞く。
「どこの貴族かと聞いている?」
アルフに聞いてはいた。貴族と言う人間は何処に行こうが家だの家名だのを気にするモノだと。彼女もその類なのだろうと思ってため息を吐く。
(家柄云々は関係ないだろ……)
だが貴族社会ではそうはいかないともアルフに聞かされている。貴族は平民を下に見ると言うのは至極当たり前の事らしかった。
「アルフ・フォルン・アレク様の命令です」
本人にはこういう状況の際は名前を出す許可を貰っている。そしてシンジはその名を口にした。
「ふん、じゃぁやっぱり今走っていったのはアイツか……」
先頭車両の方を見る女性リーダー。
「やつの戯言にかまうな、お前達構えろ!」
事態は急展開を見せるかのごとく、黒いスーツの女性リーダーが号令を出す。
「手当たり次第魔法を打ち込んで蹴散らせ! 私が先陣を切る!!」
シンジは目を耳を疑った。
蟹の集団は車両一方の側面だけに居るわけではない。それこそ包囲されているのだ。
女性リーダーが抜き放つ剣には見覚えがある。それは暴風聖剣・ストームスラッシャー。
〇〇聖剣シリーズの一本である。しかしきちんと鍛え上げ無ければ大してその能力は高くない。
見た感じではそれなりに鍛え上げているようにも見えるが、シンジにはよく解らなかった。
黒いスーツの女性リーダー、剣聖の称号を持つ男の娘セルヴィナ・ストーリス。
彼女は列車の屋根から声を掛けてきた男の言葉も聞かずに飛び出した。
平民の言うことなど聞きはしない。ましてやアノ男の言葉なら尚更だった。
学生時代、知恵比べでは決して勝てなかった男、アルフ・フォルン・アレク。
そんな奴が兵法関連の成績がトップクラスだったのは誰もが知る事実だった。剣でなら負けない自信があったが、それでも負けず嫌いなセルヴィナにとっては許し難い事だった。だから聞かない。
自分が一番強いと証明するために。
セルヴィナの一太刀が一体のロック・クラブにヒットする。同時に風が巻き起こりロック・クラブの体を風が切り刻む。
暴風聖剣の能力の一つカマイタチだ。
土属性のロック・クラブには弱点属性となる風魔法。だがダメージは少なめに見える。
舌打ちをしたセルヴィナは二連撃を加える。仲間の魔法支援も受けて一体目を倒す。
これに気を良くしたセルヴィナは仲間に指示し自身に続く様にさせた。
「なんだあの娘? 戦場を引っ掻き回す気かよ……」
ゲームでよく見る初心者プレーのソレに似ている。
きちんとした手順も踏まずに手当たり次第攻撃を加えて自身にヘイトが及ぶと急に退散したりする様な戦い方だ。
呆れて物が言えないシンジ。
アルフの指示がようやく伝わったのか、ゆっくりと列車が後退を始める。
「トリスとアリーシャちゃんは右翼を! あのお嬢さん達の尻拭いを頼む。ミーナさんヒカルちゃんは左翼を俺が支援する」
全員が了解の返事をする。
列車進行方向右側は黒服一団が引っ掻き回して混乱を極めている。
ミーナから再度借りた槍を見事に使いこなしトリスは戦う。アリーシャはその援護にまわった。
列車の先頭に走るヒカルとミーナは途中アルフ達と合流して左側面の戦闘を開始する。
ヒカルはアイテムボックスからメイスを取り出した。最終決戦用の武器、『神罰のメイス』だ。
ミーナも最終決戦用の両手剣『エンド・オブ・グローリー』を出して構える。ミーナは銃よりも剣を選んだのは、確実性を求めた為だ。
シンジはこの世界に来ていつも使っている弓『ラスト・シューター』に『破砕の矢』をつがえる。
左側面はシンジの一射で戦闘が開始された。
こちらはきちんとした指揮の元、戦闘が繰り広げられる。
本来貴族として戦闘の指揮を取るアルフだが、シンジの見事な指揮を実際に肌で感じ、今ではその指示に従って行動する。エンディもまた同じだった。
本来は主の命令が絶対であったはず、しかし事戦闘ではシンジの命令を優先させていた。
ヒカル、ミーナ、シンジの個体撃破は右翼よりも圧倒的に多い。
ある程度片付けると、シンジは息を切らしつつアルフ達に右翼への加勢を指示した。
アルフとエンディは若干名残おしそうに戦列を離れる。
右翼は極めて劣勢だった。
列車に被害が少ない(まったくない訳ではない)のはトリス達のおかげである。
黒服一団が好き勝手暴れているだけで、一向にヘイトを取ろうとしないおかげで蟹達が列車に突っ込んで来ているのだ。
「アイツ等、ふざけてるのか? コレは防衛戦なんだよ! 各個撃破とかどうでも良いんだよ!!」
怒りのあまりトリスが大きな声を上げる。それは一つのスキル発動でもあった。
戦士スキルの一つ『戦士の咆哮』。敵の注意を引きつける技だ。
蟹は一斉にトリス目掛けて突進する。トリスは一人列車から離れた。
「ミーナさん、槍の力試させて貰いますぜ! スキル、『槍刃乱舞』」
槍を縦横無尽に振り回す。
神槍・雷音はミーナが限界を超えて鍛え上げた品の一つだ。
武器には限界を超えた先に一つの能力、『覚醒能力』と言う能力が与えられる。それは武器によって決まっている。
神槍・雷音の覚醒能力は周囲にミドルスペルクラスのカミナリを発生させる。そしてトリスが使った槍使いのスキル『槍刃乱舞』は範囲攻撃技。コレらが合わさると隠しスキルが発動する。
周囲にカミナリが発生して近づくすべての物を刻んでは灰燼とかえるその名も『槍雷円舞』。発動者を中心に円を描くように周囲のロック・クラブは灰になっていく。円の外にいるロック・クラブはカミナリの影響を受けて感電死する。
「すげぇ……。なんだよコレ……」
トリスは周囲の状況を見て驚きを隠せなかった。
しかしロック・クラブの大群は未だ第二ウェーブを過ぎたにしか過ぎなかった。




