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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
第一章 異世界(ゲーム世界)転移
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列車の旅

 セコルの町を出発した列車は、けたたましい蒸気音で旅のリズムを刻む。

 タクロー達地球世界の住人達は普段とは違う列車の旅に興奮気味である。

 特にミーナやタクローは機関車の構造に興味が尽きない。まるで子供に戻った大人達は列車の旅を満喫していた。


 車窓から見える見慣れぬ景色。窓を開けても石炭を使用していないおかげで全然すす汚れしない。

 蒸気機関車の旅の悪い所の一つが石炭のすす汚れだ。それが無いだけでもかなり快適な旅になる。

 おまけに車両の揺れが少ない。これは魔法によるリニアサスペンション機構が入っているからだ。


 以前タクローが銃弾摘出の際に使用した魔法『マグネイト』。この魔法にを使用することでガタガタとした揺れが無い。ソレだけではなく車両の重量軽減にも繋がり、少ない力でも楽に移動できる様になっている。

 事実、蒸気機関で起きる力はそれほどでもない。

 地球世界で貨物列車と言えばディーゼル車が主流である。しかしこの世界に置いて列車は全てが蒸気機関だ。


 蒸気機関以外に魔導エンジンと呼ばれるモノがある。

 それは魔法で直接シリンダーにピストン運動を起こさせクランクシャフトを回転させて動力とする物である。

 これは蒸気機関より遥かに力を起こすことが可能な上に小型化も容易だ。

 燃料噴射が無いものの極めてガソリンエンジンやそれこそディーゼルエンジンに近い構造になっている。

 だが列車にソレが採用されない一つの理由がリニアサスペンションにあったと言える。また製造コストも挙げられる。


 魔導エンジンは動かすための人工精霊石の純度が高くなければならず、総じて高いコストが求められる。しかし蒸気機関車は熱を起こす魔法と水を生成する魔法、磁力を発生させる魔法の三種類が基本となっている為に低い純度の人工精霊石でまかなえるのだ。

 現在タクローが乗っている列車は優に三十近い車両編成だ。だが全く劣っている様子は無く力強く線路を進んでいる。

 アルフ・フォルン・アレクの列車に関する説明を簡単に受けたタクロー達は、魔法世界の利便性について改めて痛感していた。


 日は傾き旅の一日目が終わろうとしている。

 列車には食堂車やシャワー施設のある車両など宿的な機能も充実している。各車両に小さいながらも動力となる人工精霊石を持たせている事により、生活魔法が十分に使える様になっていた。


 二日目に突入するとタクロー達にやや飽きが見えはじめる。

 車両メンテナスの為に小さな駅で小休止する事があると、売店であれこれ購入するが、携帯ゲームがある訳でもなくまた漫画や小説もありやしない。

 タクローはこの世界には娯楽が少ないと感じていた。


 一日目に仲間と過ごした談話室には誰もおらず、各々が部屋で過ごしている様子だった。

 相部屋のトリスは横になってゴロゴロしていたのでタクローは他の部屋に行ってみる事にした。


 隣の部屋のシンジとミーナ組はシンジは本を読んでいる。アルフの家から借りた賢者に関する伝記の様なものらしい。

 ミーナは銃の手入れとマガジンへの弾丸補充をしている。銃生産の際に大量に作らせた弾丸のチェックも欠かさない。「錆弾は弾づまりの原因」と言いながら弾の良し悪しをチェックしている。


 ヒカルとアリーシャは女性同士でおしゃべりをしながら売店で買った菓子をつまんでいる。どんな話なのか気になったが笑顔で楽しそうな二人の邪魔をするのも無粋と思いその場を後にする。


 アルフとエンディは静かに外の景色を眺めていた。列車には乗りなれている様で様々な事に無駄がない。それ故に持て余す時間も多いのだが「このご時世、のんびり出来る時間は貴重ですよ」と言ってぼーっとした時間を過ごす事を楽しんでいる様だった。


 昼にはやや早い時間だがタクローは食堂車へと足を運ぶ。

 日中は喫茶的な用途も兼ねている二両からなる食堂車は、暇を持て余す人々が思い思いの時間を過ごしている。

 空いている席に座ったタクローはこの世界にもあったコーヒーを注文する。タバコの煙とコーヒーの相性はこの世界でも良いらしく、まったりとした時間を満喫出る。


「あら、炒り豆ドリンクですか?」


 タクローの後ろから少女の声がする。

『炒り豆ドリンク』とはこの世界のコーヒーの事だ。仲間達で「そのままのネーミングだなぁ」と笑いあった事があった。


 タクローが振り向くと昨日とは違った格好だったが、可愛らしい顔は見間違えようも無かった。帽子を深くかぶり近づかなければ顔が解らない様になっている。

 ジーンズにシャツとジャンパーと言った格好は少年にも近い彼女はリリアと名乗った少女だった。


「特にやる事も無いからね。コイツで時間つぶしだ」

「そうだったんですか」


 ニコリ笑う少女に思わずドキリとしてしまうが、自身の歳を考えて極めて冷静に振る舞う様務める。


「ご一緒してもいいですか?」


 特に断る理由がないタクローは「どうぞ」と答える。

 小さなテーブルに二つの椅子が向かい合う形で置かれている為、リリアはタクローと向かい合う形になる。

 タクローの顔をじっと見つめるリリアに対して、「顔になんか付いてるか?」と尋ねる。ニコリと笑い「別に」と答えが返ってくる。


(なんか、やりづらいな……)


 タクローのみ気まずく感じていた。

 リリアが店員を呼んで注文したのはケーキと紅茶だ。楽しげにケーキを頬張りながら二人は世間話をする。


 タクローが仲間と共にファストの町からの旅の話をすると、リリアは楽しげに聞いていた。

 途中突っ込んだような質問があれこれあったのには困ったが、なんとか上手くごまかした。無論、ファストの町の帝国兵襲撃の話はしていない。


 ファストの町からトルツェの町へ向かう道中のモンスター戦。

 ガルア北トンネルの戦闘などモンスター戦の話には花が咲いた。気がつけば昼食も一緒に取る形になる。

 いつの間にかタクローはリリアのペースに呑まれていた。立場上あまり外を知らない彼女はタクローの話が楽しくて仕方なかったのだ。

 そしてリリアのペースに翻弄されるあまりいつしかゲーム時代の話になる。各地にいたモンスターやボスモンスターとの戦闘の話やかつて居た仲間達の話。

 言葉はとめどなく出てくる。

 対してリリアも自身の立場としての活動以外で見聞きした話をする。それは各地を回る際に見た風景や料理と言った内容だ。


 昨日今日出会った二人だったが、いつしか打ち解けていたのである。

 しかし楽しい時間は不意に終わりを告げる。

 いつの間にか黒いスーツのを来た女性がリリアの隣に立った。


「お嬢様、そろそろお戻り下さい」


 やや怒気を孕んだ言葉にリリアは圧倒される形になった。タクローに申し訳なさそうにすると、タクローは苦笑いで返す。

 殺気立った視線をタクローに向けた女性はスーツのポケットから数枚の金貨を出す。


「食事代はこれで」


 そう言ってタクローに言葉を掛ける猶予を持たせずにリリアの手を取り足早にその場を後にした。


 三日目の朝。

 のどかな列車の旅は残り一日となる。

 タクローは目を覚ますと車窓のカーテンを開けて外の景色を眺める。日毎に変わる風景は飽きはしないが退屈なのには変わりない。

 今日の風景はゴツゴツとした岩が目立つ山岳地帯の風景だ。まばらな木々の緑がアクセントになっている為か悪い景色では無いとタクローは思った。


「おお、ようやくここまで来たか……」


 眠そうにした声の主は同室のトリスだ。

 軽く挨拶を交わして朝食を取るために食堂車へ移動する。

 それぞれが何気ない会話を交わしながら朝食を終えると、各自の部屋に戻っていく。

 今日もまた暇な一日が始まる、皆がそう思っていた。それは列車に乗る者達の大半がそうであった。


 センターから南に百数キロの場所。

 現在魔導機関車が走るその地の名は『ゾルグ山地』と呼ばれている。かつて歩行や馬車での旅の難所の一つとして知られている。

 難所の理由は足場がゴツゴツとしているという事ともう一つ、硬いモンスターが出現するからだった。

 表面を岩の様な硬いモノで覆ったモンスターが多く、倒すのには手間が掛かる。列車の線路はこのモンスターの出現場所を避けるように通っているが、最悪の場合は質量を持って撥ね飛ばせる様前面部分は固く作られていた。


 列車の運転士が前方に大きな影を見た。それは線路にまたがる形で居る。

 大きさを見る限り列車に勝ち目がないと判断すると、直ぐ様制動装置を動かす。

 急な制動に乗客達は声を上げた。

 列車が完全に停車すると、乗客の何人かが文句を言い出す。ソレをなだめるために列車の乗務員が忙しく動く。


「只今、モンスターの影を進行方向の線路上に確認したために緊急停車しました。状況を調べますので暫くお待ち下さい」


 列車内にアナウンスが流れる。


 タクロー達も車窓から身を乗り出して周囲を見る。そして全員がその異変に気がつく。

 ゴツゴツとした岩の固まりの中で幾つか若干色が違うのが混ざっている。

 おまけに少しずつではあるが動いていた。


「車両前方に巨大なロック・クラブを確認しました!」


 車内アナウンスに大きな声が響く。



「蟹かぁ……、懐かしいな」


 タクローは遠くを見て目を細める。


「って事はゾルグの大蟹退治ミッションだね」


 ミーナは昔を思い出し苦笑い。


「レイドクラスじゃねぇか……」


 シンジは疲れた様な表情になる。


「うわぁ、めんどくさそう……」


 ヒカルはアリーシャと顔を合わせて二人でヤレヤレとため息をついた。


 セルヴィナは部下全員に号令を出す。

 集まった部下達を二班に分けて、リリーア護衛とモンスター討伐に割り振る。


 戦闘可能な者達がこの列車には少数しか乗っていない。今回王族専用車両が来るに当たり武器を所持する為には申請を出さなければならず、おまけに面倒な事が沢山あったため大半の戦闘要員となる者達が乗車を見送った為だ。

 列車の外に出たタクロー達は、戦闘要員の圧倒的少なさに驚いていた。



「はてさて、どうしたものか……」


 アルフは途方に暮れた表情で辺りを見回していた。

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