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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
第一章 異世界(ゲーム世界)転移
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出発の時

 タクロー達が駅に入ると厳戒態勢が敷かれていた。

 駅員による荷物検査が行われている。それを見たシンジが武器系の荷物を全て、アイテムボックスにしまうよう指示する。

 シンジが恐れたのはアルフの持つ『魔導銃』だ。改良版とは言え帝国の武器を持っているというのが知られてしまっては不味いとの考えからだ。

 トリスもミーナから借りていた神槍・雷音をミーナに返す。タクローの鎧だけはアイテムボックスに入らない。そこはアルフが何とかすると荷物検査場へと歩く。

 アルフは検査員に骨董品だと説明して事なきを得た。

 こうしてタクロー達は駅の中に入る。そしてアルフが厳戒態勢の原因を知った。


「おやおや、王族専用車両ですか……。なるほどなるほど、こちらに要人が来ていた訳ですか」


 アルフが指差す先には、他の客車とは見た目的にも大きく異なるきらびやかな客車が見える。

 全体的に緑色でパッとしない作りの一般客車に比べて、王族専用車両は二両あり中二階構造になっている様に見える。全体的に赤で塗られた車体に様々な装飾が施されていた。

 アルフは辺りを見回すと黒いスーツの人物を何人か見つけた。だが王族の誰が来ているのかは解らなかった。


「取り敢えず私は皆さんの切符を買いますね」


 アルフは駅の受付へと歩みを進める。アルフに待合室で待っている様言われたタクロー達は、受付に並ぶアルフとエンディの姿を眺めていた。


 ここからは長い列車の旅になる。

 料金については事前にアルフが持ってくれるとの話が付いていた。タクロー達は資金面には一切困っている訳ではなかった為に、自分の分は払うと言ったが「恩人から金は取れませんよ」と体よく断られたのだった。

 暇を持て余していたタクローが立ち上がる。


「俺、ちょっとぶらついてくるわ」


 仲間達にそう告げて歩き出す。仲間達はそんなタクローを見送った。


 駅の中は様々な人が行き交っている。

 タクローが不思議に感じたのはファストの町やトルツェの町とは違い、獣人などと言った亜人達の数が圧倒的に少ない事だ。全く居ない訳ではない。

 しかしまるで小間使いの様に人間に付いて回り荷物持ちなどをしていた。その光景に大きな違和感と胸の奥でモヤモヤしたモノがこみ上げてくる気がした。

 暫く辺りを歩いていると売店を見つけた。

 旅のお供に何か買っていこうかと考え、中を覗く。

 中は小さな商店と言った佇まいだった。雑貨や食べ物が売っている。

 中には護身用として魔法効果の付いたナイフまで売っている辺りがファンタジー世界だなとタクローは思った。

 保冷用の棚にはドリンクや回復薬などが置かれている。その中の一つに目が釘付けになった。


「嘘だろ……。マジかよ、プリンじゃねぇか!?」


 思わず声に出してしまうほどに驚き、商品に手を伸ばす。

 その時、色白で細いスラッとした手とタクローの手が重なった。

 タクローが顔を上げて色白の手の持ち主を見ると、向こうもこちらをキョトンとした顔で見つめていた。


「あらあら、いけない私ったら。ごめんなさい、貴方もこれを?」


 一人の可愛らしい少女が首を傾げながらタクローを見つめる。

 綺麗な白い長袖のシャツにスラリとしたグレーのズボンを履いていた。頭にはキャップを深くかぶり、長い髪は後ろでまとめられている。


「いや、ちょっと気になってね……」


 タクローはなんとなく言葉を返すと、少女はニコリと笑いかける。


「そうですか。ここのプリンは有名なんですよ。私は帰る時必ず買ってしまうんです」

「やっぱり、『プリン』なんだ……」


 タクローの言葉に少女は不思議そうな表情を見せる。


「ああ、いやこっちの話」


 笑い顔でごまかすと、更に不思議そうにタクローを見つめる。


「ここでこうして居るのもなにかの縁、良かったら名前を教えていただけます? あ、私はりー……リリアです」

「りーりりあ?」


 タクローが首を傾げながら尋ねると、少女は首を振りながら「リリアです」と答えた。


「俺はタクローだ」

「タクロー様……。良い名前ですね」


 リリアはタクローの名前を胸に刻む様に聞こえない程の小さな声でタクローの名を呟く。


「タクロー様もこういった菓子はお好きなんですか?」

「好きかぁ……。まぁ、糖分は大事だよなぁ。うん、好きだな」


 リリアはタクローの言葉にクスクスと笑う。それに対してタクローは苦笑いをする。


「君はこれを食べた事があるんだよね? 美味いの?」

「それはもぅ! 卵の風味とミルクと砂糖の絶妙なハーモニー。少し加えられた香り種がそれを更に引き立てるんです。そこに焦がし砂糖を掛けてる事でほんのりほろ苦くも甘い口当たりが更に美味しさを引き立てるんです!」


 リリアの力説にタクローは食べてみたい衝動に駆られた。ケースに置かれている数だと仲間の人数分買っても余るくらいに置かれている。


「なら、皆に買ってってやろう」


 タクローは近くにあった買い物かごを取ると、仲間と自分を含めた八人分を取る。

 リリアも四つほど取って、満足そうに微笑んだ。

 二人揃って会計へと向かう。最初にタクローが会計を済ませると、リリアが続く。


「あらら、どうしましょう!?」


 リリアの出した硬貨ではプリン四つは買えない。困った顔のリリアが何故か放って置けなかったタクローは一枚のルクセン銀貨を出した。


「ほれ、色々教えてくれたお礼だよ」


 リリアはタクローの顔を見つめる。笑顔で返すタクローに対してリリアは目を輝かせていた。こうしてリリアはプリンを四つ購入する事が出来た。


「本当にありがとうございます! この御恩、一生忘れませんわ」

「オーバーだなぁ……。良いよ、別に」


 可愛らしい女の子、そんな子が困っていたから助けて上げた。タクローの中ではそんな感じでの事だった。


(名前を教えあった仲だしな……)


 一方的なものだったのかも知れないが、タクローの中では小さな仲間意識みたいなモノが芽生えていた。


「じゃぁ、俺は皆の所に戻るよ。君もこの列車で?」

「はい、これで王都に向かいます」

「なら俺と行き先は一緒か……」

「それなら、列車の中でも会えますね! お礼はその時にでも」

「だから、いいって……」


 苦笑いのタクローに対して、リリアは目を輝かせタクローを見つめていた。

 やや疲れを覚えたタクローは簡単に挨拶をして、その場を後にする。

 リリアはそんなタクローに小さく手を振っていた。




「ここに居た!」


 セルヴィナ・ストーリスが怒りの表情でリリア、もといリリーア・ニルス・ミーティアラの元へやって来る。


「見つかっちゃったか……」


 名残惜しそうにタクローが人混みに消えた場所を眺める。


「プリンですか? 言えば、使いに買わせましたものを……」

「しょうがないじゃない、急に欲しくなったんだもん」

「そんなにお金持ってたのですか?」


 リリーアはほとんど所持金を持たない。姫であるがゆえに買い物はセルヴィナを含む他の者が行うからだ。


「買ってもらったわ」

「はぁ!? 誰に?」

「タクロー様……」


 うっとりと宙を眺めるリリーア。


「彼は優しいだけでは無く、紳士だったわ……」


 セルヴィナは「タクロー」と呟いて目を細める。

 リリーアに言い寄って来る男は多い。それらの類ではないかと考えたからだ。しかし気になるのはリリーアの反応だ。

 邪な考えから彼女に近づけば、簡単に見破られてしまう。だが当のリリーアには全く警戒している様子が無いのだ。

 セルヴィナには不可解な人物としてまだ見ぬ『タクロー』と言う者を警戒する事にしたのだった。



 タクローが仲間の元に戻ると、切符を買い終えて待っていたアルフから一枚の切符を手渡された。

 タクローは買ってきたプリンを皆に見せると、ミーナ、シンジ、ヒカルの三人が一番の驚きを見せる。


「おや、ここでは一番有名な奴ですね。お土産としては日持ちがしないのですが、列車の旅のお供に買い求める女性が多いとか……」


 アルフの言葉にタクローはリリアの事を思い出して納得する。そしてヒカルとアリーシャは目を輝かせていた。食べるのは列車に乗ってからと言うことにして、一同は列車に移動する。

 客室は二人一組の個室形式で、寝台車になっているのは長旅に備えてだった。体の大きなトリスもギリギリ入れる仕様になっている。

 客室用の車両の他に食堂車もある。場合によっては娯楽車両もあるらしいのだが、今回は王族専用車両のせいで無い様だった。

 タクローの鎧が入った棺は貴族専用の貨物車両に収められる。

 貨物車両は貴族用と一般用のがあった。一般用は貴族用に比べて乱雑に置かれており取り出す際に大変らしいと後にアルフから言われた。一方の貴族用はキチンと整理して置かれる為に後で出す際に楽なのだ。アルフはれっきとした貴族である為使用する事が出来る。

 指定された客室に行く事にしたタクロー達。

 シャンナ村での部屋割り同様にタクローとトリス、ヒカルにアリーシャ、シンジにミーナ、アルフにエンディとなった。



 貴族貨物車両にセルヴィナと部下数名が居た。


「なんだ、これは? 棺桶……」


 セルヴィナは棺桶を開くと、中には銀色の全身鎧が入っている。


「誰だ? こんな薄気味悪い物を持ち込んだやつは?」


 部下に聞くと、全員が全員首を横に振る。


「全く、デカイ棺桶のせいで我々の荷物が置けないじゃないか……」


 セルヴィナは困った顔でため息をつく。


「仕方ない、誰のかは知らんが我ら『剣聖親衛隊』より上のお偉いさんが乗っているなんて聞いてないからな……。よし、お前達、構わないこの棺桶の上に荷物を載せてしまえ。なぁに、文句を言ってきたら私が返り討ちにしてやる」


 部下達は頷いて、棺桶の上に剣を咥えた獅子の紋章の入った荷物を積み上げていったのだった。

 セルヴィナ達の荷物により、棺桶はその姿が見えにくくなるほどとなった。ここから鎧を取り出すのは困難極まれりと言った状況になったのだった。


 こうしてそれぞれの人々を乗せた列車が今駅から出発しようとしていた。

 向かうはセンターと呼ばれるミーティアラ王国中央部へと。

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