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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
第一章 異世界(ゲーム世界)転移
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セコルの町

 レズールとの話を終え、リリーアはグッタリと椅子の背もたれにより掛かる。


「お疲れ様です、姫」


 セルヴィナは、一杯の紅茶を差し出す。


「ありがとう、セルヴィナ」


 紅茶をすすり、レズールの置いていった銃を見つめる。


「最悪ね、彼は黒も黒。真っ黒よ……」

「では、宰相閣下の見立て通り」

「ええ、彼は帝国と繋がってるわ。もしくは、帝国の一部とね……。『見る』に、この武器は未完成だと思うわ」


 リリーアは、政には首を突っ込まない。しかし彼女の能力がそれを許してはくれなかった。

 貴族の動きや言動を『見る』為に、重宝されている現状だ。無論、宰相が指示を出すだけではない、父親である国王もまた彼女の能力ちからを頼りにしていた。


「では、帝国は自分達の武器を教える形になるのでは?」


 リリーアの言葉にセルヴィナは、思った事を口にする。


「これ以上の武器があるのでしょうね……」

「話は戦闘した兵士達から聞いてます。遠くのものに対して、強力な物理攻撃が可能だとか、弓矢より威力があるとか……」


 セルヴィナは『魔導銃』を手に取る。構えてみたり、振り回してみたりと一通りいじって机に戻した。

 リリーアは額に手を当てて、苦悶の表情になる。


「参ったわね、モンスターだけでも大変なのに……。帝国が宣戦布告してから、小国を潰して回っているのは聞き及んでいたけれど、ここに来て遂にミーティアラまでも……」


 深い溜め息をつく。


「取り敢えず、『見た』事をお父様とトーマスに報告しなくてはならないわね」

「レズールの始末は?」

「それは、トーマスに任せます。アレク公爵の弟子である、トーマスなら良い案を出すでしょう」

「アルフの父親ですか……」


 セルヴィナはかつて、共に剣の道を研鑽した男の顔を浮かべていた。常に微笑を浮かべて、軽薄そうにも見える男。

 しかしその剣の腕は、剣聖を継ぎし者と謳われたセルヴィナですら手こずらせた事もあった。


「アレク公爵は辺境の南部を領地にしているけど、その知識は底が知れないとお祖父様がおっしゃていたわ。そんな彼が認めたトーマスなら、大丈夫よ。駄目なら、貴方の旧友を呼ぶのも悪くないかもね」

「旧友……」


 セルヴィナは、部屋の窓へ行き空を見る。彼女の胸中をリリーアは、『色』で見てクスリと笑った。


「認めているからこそ、認められないのね。自分の領地に帰った事が」

「アイツは王国騎士団に入って、筆頭となれる腕前。私より劣るが、指揮の面ではどの剣士にも劣らないですからね……」


 セルヴィナとアルフは同じ歳であった。

 ミーティアラ王都立高等学校時代では、五本指と言われた一人としてアルフは居た。セルヴィナはその筆頭として立っていた。


「とにかく、この件はトーマスに任せるとして……。さぁ、こっからは私の時間よ!」


 リリーアはおもむろに立ち上がると、部屋の外に飛び出す。セルヴィナは慌てて、彼女の後を追ったのだった。



 一晩の野営の後、タクロー達はようやくセコルの町にたどり着いた。

 道中にアルフが、父親の魔導車を借りれば早かったのにとぼやいたが、エンディの「魔導車は四人乗りです」の言葉でため息をつきつつ揺れる馬車に身を任せていた。

 セコルの町で一泊した後、翌日朝の列車にて王都に向けて出発すると告げられたタクロー達は、列車の手配と宿の手配をアルフに任せて自由行動になった。


 セコルの町は、南部からすれば王都への玄関口となる。その為、ファストの町やトルツェの町とは一線を画する。

 町外れには二軒の大型工房があり、列車の部品などを作っていた。また補修の為の線路もここで製造されている。

 町を行く人々の服装も、地球世界の現代と変わらない格好だ。アルフ曰く、王都の人々の格好もこうだと言う。タクロー達は、これからの旅に向けての買い出しに出かける事にした。

 王都へ行くのだから、それに沿った格好をする事にしたのだった。



 トルツェの町に、三人組の男女がやって来る。

 ファストの町から来た事を告げたその者達は、すんなりとトルツェの町の中に入る事が出来た。

 男二人、顔に傷がある者はシグル・エイと名乗り、シグルより一回り体の大きな男はツスト・ビーと名乗る。そして最後の女性はサクル・シーと名乗った。


 彼等の目的は、一人の男を探すことだった。

 男の名は、グレクセン・オーデヴァル。アレクシア帝国辺境監視部隊南部方面隊の隊員だ。

 第53特別小隊の顛末を知ったシグル達は、グレクセンを探した。

 足取りはファストの町の南部にある小高い丘から途絶えている。ファストの町で手に入れた情報を精査した結果、トルツェの町にあるアレク公爵邸が浮かんだのだった。

 彼等は昼に町を歩き回り情報を探った後、夜の闇に消えた。

 後日、アレク公爵邸の地下にある留置場で一人の男の死体が発見された。その男こそ、グレクセン・オーデヴァルその人だった。

 ライクラ・フォルン・アレク公爵指示の下、死因の特定や事件性について調べる事になった。しかしその時には、シグル達の姿はトルツェの町から消えていたのだった。


 アレク公爵邸で事件が起きているとも知らず、タクロー達は思い思いに買い物を楽しむ。

 何店舗もある魔法道具屋を巡る。

 服屋も、女性専用から男性専用まで多種に及ぶ。

 アリーシャとヒカルは、ファッションショーでもしているかのようにとっかえひっかえ試着を繰り返した。アリーシャに至っては、タクローを捕まえ服の良し悪しを選ばせる始末である。


「モテる男はつらいねぇ」


 ミーナの冷やかしに、ヒカルは少しムキになって服を選んだ。

 皆がそれぞれ楽しんでいる最中、トリスは一人無言でメンバーの後を付いていく。

 シンジがその事に気が付き、周りを見れば、トリスに対して偏見の眼差しを向ける者達が多かった。

 トリスがトルツェの町で言っていた事が、この時初めて解った気がした。

 店の中に入らず、外で待つトリス。「自分には必要な物がない」や「自分には着れる服がない」など、話を濁して店の中には絶対に入らなかった。

 店の者達は、店の前にいるトリスに対して怪訝な表情で見ていた。

 ミーナとヒカルはシンジから事情を聞かされていたために、そんなトリスに対して最大限のフォローをする。全てはタクローに気づかせない為に。


 タクローは仲間に対しての攻撃をどんな形でも嫌っていた。

 それが差別といったものであれば、尚更だ。そしてそういった事に対しては、簡単にキレてしまう事も昔あった。

 ここはリアルであり、ネット内ではない。ネット内であれば、暴言を吐くくらいですむが、リアルな状況でタクローがキレた事を考えると、シンジは背筋に寒いものを感じた。

 鎧を着ていなくても、魔法は使える。怒りに任せて、魔法を放つとどうなるのか……。考えたくもなかった。

 鎧を着ていても、タクローは帝国の兵士達を皆殺しにした事がシンジの不安の種になっていたのだ。


 タクローがトリスの事に気がつくこと無く、セコルの町の満喫が終わった。


 アルフの手配した宿へとチェックインすると、それぞれが指定された部屋へと足を運ぶ。しかし、そこにトリスの姿は無かった。

 アルフは、トリスの為だけに別の宿を取っていた。人間が泊まる宿では、獣人は宿泊を拒否されてしまうからだ。

 この件でも、シンジ達がタクローに様々な言い訳を思いつく限り話して聞かせた。


 こうして、セコルの町の夜は更けていく。

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