シャンナ村
エルダー・リッチとの戦闘は終わった。
ガルア渓谷北のトンネルを抜ける最中、タクローは馬車に揺られながら項垂れている。
仲間達は戦闘の疲れだろうと、そんなタクローをそっとしておいた。しかし当のタクローは疲れて項垂れているのではない、兜の中の表情は安堵感でいっぱいだった。
(良かった、今度は誰も傷ついてない……)
タクローは帝国兵士達との戦闘を思い出していた。傷つき倒れる、仲間であり友人である者達の姿を。そしてその時に殺した人間達を。
タクローの胸の中に常に付きまとう棘。人を殺した罪悪感と、傷ついて倒れる仲間達の姿。
時折突然押し潰されそうになる感覚を取り払う様に、モンスター達と戦った。
トルツェの町に移動する際に戦った、モンスターとの集団戦。そして今回の戦い。
全員での戦闘時には、特にあの時のイメージが浮かぶ。それを払拭しようと必死だった。軽口を叩いたり、余裕ぶってみせたのも全ては悟られないようにすると言うよりも、虚勢の様なモノだったのだ。
トンネルを抜けた所に、線路の終点が見えた。
ここから先を繋げるのが、アルフの願いと言うのは痛いほど理解できた。
列車がどれほどの速度かは解らなかったが、この道程が楽に出来ればどれほど良いことだろうかと、四人は思っていた。
線路のから北西に暫く行くと、シャンナ村にたどり着く。
木製で出来た壁に設けられた大きな扉をくぐると、十数軒の家々が立ち並ぶ。
「やぁ、アレフ様。今日も買い出しですかい?」
村人だろう初老の男性が、声を掛ける。
アルフは笑顔で王都に向かうと話すと、男性も笑顔で無事を願う旨を伝えた。
タクロー達が周囲を見ると、村人は若いのから年寄りまで女性が多い。男性もチラホラ見られるが、老人ばかりだ。
アルフ達は村唯一の宿に着いた。
馬車から降りると、アルフが先に宿へと入っていく。
タクローが宿の外観を眺めると、どこか民宿の様に見える木造二階建ての建物だった。
中は客室が二人用で8部屋となっていた。受付には、痩せ型の落ち着いた雰囲気を醸し出す女性が立っている。
「あら、アルフ様いつもありがとうございます」
「やぁ、ミトゥーア。今日もお世話になりますよ」
アルフの笑顔にミトゥーアも笑顔で、答える。そこへ一人の少女が奥から、出てきた。
「いらっしゃいませ、アルフ様。今日はお共の方達は少ないですね」
「やぁ、スーリア。エンディ以外は、私の共では無いよ」
苦笑いのアルフに、「じゃぁ、お友達?」とスーリアが可愛らしい顔でタクロー達を観察する。
「こらスーリア、お客様をジロジロ見ないの! すいません、うちの娘が……」
申し訳なさそうに、ミトゥーアが頭を下げる。
タクロー達は苦笑いで返答する。
ミトゥーアに言いつけられて、スーリアが部屋の案内を務める。
アルフは決まった部屋が有るらしく、エンディとそこへ入っていく。
ヒカルとアリーシャの女性二人が一緒の部屋になる。
残ったメンバーはトリスとタクロー、シンジとミーナだった。
適当にタクローが部屋を選んで入っていく。鎧を持つトリスがその後に続いた為に、必然的にシンジとミーナと言う部屋割りになった。
部屋に入ったタクローは、戦闘の疲れを癒やすべく備え付けられているシャワーを浴びる。
シャワーから出ると、トリスの姿は無かった。
タクローはベットに腰を下ろして一息ついていると、部屋の扉がゆっくりと開く。トリスが、首を傾げながら戻ってきた。
「どこ行ってたの?」
「ああ、タクローさん。ミーナさんに槍を返そうと思ったら、持ってろと言われてなぁ……」
「ん? ああ、雷音?」
トリスが背中に、挿していた神槍・雷音を抜く。
「持ってて良いんじゃない? それはミーナさんのメインじゃないし」
納得のいかないトリスは、反論を述べる。「こんな希少な武器は」と雷音を手に申し訳なさそうな顔を見せる。二人きりになってタクローは初めて気が付いたが、トリスの感情にあわせてしっぽが動いていた。そこら辺が動物なんだなと、少しやんわりとした気持ちになった。
トリスとそんなやり取りをしていると、スーリアが夕食の知らせを持ってくる。スーリアに案内され、食堂となる場所へ来ると、メンバーが全員揃っていた。
アルフの話では、ここの料理は家庭的な料理だと言う。
野菜炒めの様な物や、スープに肉料理と色々と出てきた。
食事を始める、タクロー達。
素朴な味付けであったが、タクロー達を体の芯から癒していく様な気がする。酒も出てきて、今日の事を振り返って盛り上がる。
無口だと感じていた、エンディもいつしか話の輪に入り、楽しい食事となった。いつの間にか、スーリアとミトゥーアも話の輪に入っていた。
「タクローさんが本当にすごかったなぁ……」
エンディは顔を赤くして、タクローに憧れの目を向ける。
「そういや、ミーナさん『前線指揮官』ってなんだい?」
トリスが大きなジョッキを片手に、楽しげにミーナを見る。
「ああ、タクロー君の事だよ。タクロー君って後衛はダメダメだけどね、前衛になると全体を上手くコントロール出来るんだよ。だからついたあだ名が『前線指揮官』とか、『前衛指揮官』とかって言われるんだよね」
酔いが回っているのだろう、少しろれつが回っていない。タクローはその話で、酔いが醒めたようで「その話はいいだろ……」と不機嫌そうな声を上げる。
こうして、夜は更けていく。
何気にアルフがミトゥーアに、主について聞く。するとミトゥーアは、町の男達が一同で近くのダンジョンに行っていると話した。
ここシャンナ村近くには、一つのダンジョンがある。
シャンナ村南西に位置するダンジョンの名は、ガルア渓谷の近くという事で『ガルア洞窟』と呼ばれていた。
ダンジョンには様々な鉱石や、魔石の原石が存在する。それがこの村の収入源として、成り立っている為にこの村の男達は時々大勢で採掘に向かうのだった。
理解したアルフは、再び飲食に戻った。しかしそれを聞いていた、タクローが遅くまで帰らないものなのかと不思議に感じていた。
夜は更けていく、満腹した一同は解散し、部屋へと戻っていく。
トリスがシャワーを浴びている時、タクローは寝る前に一杯の水が飲みたくなる。二階に位置するタクロー達の部屋には、水分を取る為の設備や道具は無い。
仕方がないので、一階にある食堂へと降りると女性二人の不安そうな声が聞こえた。
声の主は、ミトゥーアとスーリア親子だ。夫の帰りが遅いと、不安そうな表情で話をしている。
タクロー達が食事中は、客にいらぬ気を使わせないようにとしていたのだろう。しかし時間が経つにつれて、不安感は膨らんでいったのだ。
そんな二人の元へタクローが顔を出すと、慌てて接客用の態度に変わる。それは、幼いスーリアもだった。
しかしタクローはそんな二人に優しく、接する。そして事の次第を訪ねた。
ここ数日前から、モンスターの動きが少なくなってきたから、村の男達はダンジョンに潜ろうと今朝方出ていったとタクローに話すミトゥーア。
これまで夜遅くまで帰ってこないといったことは無く、この様な事態になったことに不安が募っていると話した。
状況を理解した、タクローは「なら、俺が見てくるよ」と軽く告げ、一杯の水をもらうと部屋に戻る。
部屋に戻ったタクローは、鼻歌交じりでシャワーを浴びるトリスを尻目に、棺桶から鎧を出して素早く装着する。
トリスには、「ちょっと出かけてくる」と声を掛ける。特に気にならなかったのだろうトリスは「あいよー」と返事を返すに留まった。
全身鎧を纏った、タクローが二階から降りてくる。それを見た親子は、驚いた顔を見せた。
場所を聞いて大体把握したタクローが、宿を出る。
村の出口へ一気に駆け出すと、エアロダッシュを巧みに使い高い木造の壁を飛び越える。
そして夜の闇の中へ、銀色が月明かりを反射させながら村の外へと飛び出していったのだった。




