偉大なる死体
ミーナはトリスに向けて一本の槍を投げる。トリスの足元に突き立てられた槍は、雷鳴と共に帯電してるかの如く周りに電流を走らせる。
その名は『神槍・雷音』。レアリティの高い武器の一つだ
ミーナが手を入れている事もあり、その槍の攻撃力は絶大なものだった。
最終決戦時、魔王に対抗する為の一つとして携帯していた。
それをタクローは知っていて、ミーナに指示する。トリスがハルバードを見事に使いこなしていたのを見ていたミーナは、正にそれがベストな選択だと納得してその指示に従ったのだった。
「使って!」
ミーナの言葉に恐る恐る、トリスは槍を手にする。まるで自身の力も上がったような気がするほどに、槍に込められた強大な力を感じた。
「借りますぜ!」
暴力的な笑みを浮かべたトリスが、槍を振り回す。そして近くにいたモンスターをなぎ倒して行く。
それを見たタクローは後ろに居るアリーシャを確認すると、トリスに声を掛ける。
「トリス、交代だ。俺の位置について、護衛」
「応!!」
トリスは突進する、槍を構えて真っ直ぐに。
タクローのいる場所に来ると、タクローは直ぐにその場を離れ、ヒカルが泣きながら応戦するイービル・リッチの元へ突撃を仕掛ける。
一体のイービル・リッチがタクローのH・Rソードの餌食となり、闇に溶ける。
「ヒカル、射線右! ホーリーセイバー、セット!」
ヒカルが指示通り右に向けてホーリーセイバーを放つ準備をする。
タクローは残るイービル・リッチ三体に同時攻撃を仕掛ける。炎の魔法『フレイム』に『ショット』を追加して打ち出す。
炎を避けようとした一体のイービル・リッチの背中から、光の剣が突き刺さる。断末魔の叫び声を上げて、またも一体闇に溶けた。
撃破確認をしていて硬直気味のタクローの背後に一体、イービル・リッチが迫る。そこに光の矢の牽制とも取れる、一射が飛ぶ。
イービル・リッチが右に避けると、いつの間にか光の刃が待ち構えていた。タクローは後方確認もせずに、イービル・リッチが来る方向を予測し、そこにH・Rソードを振り抜いたのだ。
最後の一体となったイービル・リッチが、鎌召喚の闇魔法を使用した。
それは即死効果を持つ、『ヘル・サイズ』という魔法だ。くるくると回転して、鎌がタクローに襲いかかる。
避ければ後方の馬車に居るヒカルに当たってしまうと言う、逼迫した状況だ。
H・Rソードを構えて、防御の姿勢をとるタクロー。闇の鎌を光の刃で受ける形になった。
光の刃が闇の刃とぶつかり合う。その様子を見た、イービル・リッチが距離を取る為に後方に下がった。
光が闇を打ち払う。
タクローが周囲を確認すると、いつの間にか雑兵モンスターの数が激減している。
次いでイービル・リッチを確認すると、全身から赤黒いオーラが出ていた。様々なゲームでよくあるパターンの一つ、『覚醒ボス』や『第二形態』と呼ばれるモノだと確信する。
「ミーナさん、トリスとアリーシャを馬車へ! ヒカルとシンジは馬車を護衛! アルフさん達も、馬車から離れない!」
タクローが短い言葉での指示を出す。
シンジは全体を見てタクローの指示通り動いているかの確認をする。そして少なくなった、雑兵モンスターの処理を優先させる。
ミーナがトリス達を馬車へ誘導しながら、こちらも雑兵モンスターの処理にまわった。
「ミーナさん、タクローさんの援護に行かなくて良いんですかい?」
トリスは一人イービル・リッチへと歩くタクローを見る。
「『前線指揮官』様の命令は絶対だよ」
ミーナの満面の笑みを見たトリスは、その時初めてこの戦場に流れるニオイを感じる。それはタクローの仲間三人が確信する絶対的な勝利と、タクローからにじみ出る狂気と冷静さを持った闘気だ。
その場のマナが四人に支配されている、そう感じて彼等の指示に従い行動する。何故かアリーシャも四人と同じマナを帯びていた。
タクローがイービル・リッチと対峙する。
イービル・リッチもタクローにのみターゲットを絞った様で、ゆっくりと横移動しながらタクローと一定の距離を保つ。
「イービル・リッチがレベルアップっていや、エルダー・リッチだろ? ほら、出し惜しみすんなよ」
右手にH・Rソードを構え、左手で手招きをする。
骸骨の表情は解らないはずだが、まるでそれは笑ったようだった。
赤黒いオーラが次第に肉体を帯びたように変わる。
そしてゾンビの様相に変わり、リッチとしての本当の姿を見せる。リッチと呼ばれるモンスターは、本来ゾンビの様相を呈している。しかしイービル・リッチは何故か、ゾンビと言うよりもレイスに近い。
どうしてこう言う設定になったのかは、プレイヤーであるタクロー達には解らなかった。しかし解っている事は、ノーマルのリッチとは違いイービル・リッチは最上位種たるエルダー・リッチに変わるという事だ。
「汝ガ魂ヨ、我ガ糧トナレ……」
禍々しい赤い光を瞳に宿した、エルダー・リッチがタクローの前に立ちはだかった。
「はいはい、お決まりの文句をどうも。じゃぁ、ジャンケン、最初はグーでいくぜ!!」
タクローは身構えた。
「フレイム追加ショット、も一つ追加でバースト」
左手から、炎の巨大な固まりが打ち出される。エルダー・リッチは横移動で避けるが背後にはトンネルの壁がある。
壁に当たったフレイムが弾けて、エルダー・リッチの背中に炎が襲いかかる。
気が付いた時には遅く、エルダー・リッチは背中が燃える。苦悶の声を上げて、自身が使える水属性魔法で炎を消す。安堵感と共に敵に視線を移すが、そこには銀色の全身鎧は影も形も無い。
右の背後になる部分に光を見た。身を翻すも、気がつけば右腕が宙を舞う。
「全く……、タクロー君相手に魔法戦は無いよね?」
「そうそう、あの人は魔法は攻撃の手段じゃないもん。一つの武器だから」
「ヒカルちゃん、武器も攻撃の手段だと思うけど?」
余裕で、タクローの戦いを見つめる三人の仲間達。アルフは目前の光景が信じられない。エンディもトリスもそうだ。この様な戦いは見た事が無い。
「魔法がまるで、剣であり銃の様でも有る戦い方だ……」
アルフの言葉が、驚いている者達の耳に入る。
銀の全身鎧が、赤黒いオーラに照らされて、紅蓮の人影を見せる。それはまるで、彼等にはデーモンにも見える。
アンデットモンスターを弄ぶ、悪魔だ。
そう感じたのはきっと、エルダー・リッチも同じなのだろう。タクローから距離を取ろうと必死に持てる魔法を連発する。
『弾幕』そんな攻撃で、遂に地面が悲鳴を上げたように土煙を撒き散らせた。エルダー・リッチはここぞとばかりに後方に下がる。
しかし土煙が巨大な暴風で爆発する。
「ストーム! 追加バースト」
風の中位魔法、『ストーム』を暴発させて自身の推進力としたタクローの渾身の突きがエルダー・リッチの喉元に突き刺さる。
H・Rソードの刀身が中間まで来た時、手首をクイッと曲げてその首を跳ね飛ばした。
エルダー・リッチの頭が宙を舞い、そして落ちる。
決着が着いた。
エルダー・リッチは闇に溶けて消える。タクローは光の刃を消して、剣身をホルスターに収めた。
「おつかれー」
「おつおつ!」
「コングラッチュレーション!」
三人の仲間達が当たり前の様と言った様に声を掛ける。
アリーシャを除いて、他の者達は目を見開いたまま固まっていた。
暫しの余韻の後、一行はガルア北のトンネルを進む。エルダー・リッチ戦のおかげだろうか、トンネルを抜けるまでモンスターとの遭遇はなかった。
こうして彼等は、今晩の宿となるシャンナ村にたどり着いたのだった。




