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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
第一章 異世界(ゲーム世界)転移
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ガルア北トンネルの戦闘

 狼の獣人トリス・ライナ、彼には特殊な能力があった。それは周囲のマナを『ニオイ』と言う形で感じる事が出来るのだ。

 禍々しいニオイ、敵意に満ちたニオイ、静寂のニオイ、恐怖のニオイ、と感じる事が出来るのは周囲のマナに干渉する全てに及ぶ。それは特殊な嗅覚だった。

 人の感情はマナに干渉する為、ニオイとして感じる事が出来る。

 これから起こる事に対しても、予兆じみた干渉があった場合はそれを感じる事が出来た。

 これはトリスを含めても極稀にしか備わらない能力であり、その能力に対して名も付いていない程に希少なモノだった。他にもマナを視覚で『色』として感じられる能力や、肌で感じる事が出来るといったものも有るらしい。

 しかしその能力保持者は生まれ持ってのモノで、普段からその感覚が『普通』として生活している為に人に説明しなければ解らないままで終わってしまう事も有るという。


 アリーシャはトリスのこの能力に何度か助けられたと語る。

 それほどに、トリスの感覚は高い性能を持っているのだ。そのトリスが危険だと言うという事は、よほどの事だとアリーシャとアルフにエンディは身構えた。


「若、もしもの時は自分が……」


 普段ほとんど口を開かないエンディ。彼の声を初めて聞いた気がしたタクロー達。

 暗闇の中、シンジやミーナも身構える。

 ヒカルは「もぅ、許して……」と弱々しい声を上げる。

 周囲の空気は、南のトンネルより一段と冷えている気がした。


 トンネルを中間まで来る。

 この際モンスターは一切出てこなかった。

 入った来た所の光は完全に見えなくなった。

 トンネルは曲がりくねっている。『ライト・ボール』で照らしていなければ、完全な闇になるようなそんな場所に来たのだった。


 南のトンネルは岩盤がある程度掘りやすい様になっていた為、直線に近い。しかし北のトンネルは硬い岩盤が多く、曲がりくねってしまったのだ。


「なんかさぁ、コレってボス戦って感じしない?」


 皆が緊張する最中、タクローだけは余裕な感じの口調で話す。

 全身鎧の兜は顔を完全覆っている為、その表情は誰にも解らない。しかしトリスは引きつった笑みをタクローに向けた。


「あんた、怖いモノって無いのか……?」

「怖い? まぁ、視界良好だし特に無いかなぁ……」


 場の空気が少し和らいだ気がした。

 トリスはタクローが今どの様な心境なのか『ニオイ』で感じた。それは恐怖ではない、純粋なまでの高揚感だった。それを皆に伝えようかと思ったが、止めたのは周囲に一気に敵意のニオイを感じたからだ。


「おいでなすったな……」


 トリスは持っていたハルバードを握る。

 トリスの言葉に全員が身構えた。ただ一人、見えないその表情は暴力的な笑みを浮かべていた。



 暗闇の中に青白い5つの炎が突然現れる。

 その炎は馬車を囲む形になった。そして完全に包囲陣を敷くと、一気に燃え上がる。

 周囲からはカサカサと音が聞こえる。青白い炎に照らされて、大蜘蛛やオオムカデなどの昆虫系モンスターの姿が映し出された。


「あらら? ザコさん大勢系のボス戦だと、レイドクラスかなぁ?」


 タクローの軽い口調に怒りを露わにした様に炎が大きくなった。そして炎はその姿を変える。

 ボロボロのフード付きのローブを身にまとい、フードの中に見えるのは頭蓋骨。瞳は赤く禍々しい光を宿している。見えるのは上半身までで、時折見える背骨は腰の部分までで終わっていて股関節は無い。

 宙を漂い、五匹のゴースト系モンスターがタクロー達を取り囲むようにして、睨みつける。それは既に攻撃だった。

 馬車を操る御者は、恐怖で身を震わせて縮こまる。

 ヒカルもまた同じ様になったが、コレは彼女の心境的なものである。何故なら彼女は『恐怖耐性』のスキルがあったからだ。

 そんなヒカルに対して、「たかがモンスターじゃん、しっかりしろよぉ……」とタクローがため息をついた。


「さってと……」


 タクローがH・Rソードを手にする。首をゆっくり左右に曲げると、コキリと音がなる。


「タクロー、コイツは『イービル・リッチ』だぞ! 気をつけろ……」


 シンジの言葉に「わかってるよ」と返すタクロー。


『イービル・リッチ』、ゴースト系のモンスターでは中クラスでレベルは30~75ほどだ。

 ゲーム時代、比較的低いレベルのモンスターが多い土地であった。

 しかしゲーム時代ではガルア渓谷にトンネルは存在しない。新しいマップが多い為に未知数もまた多い。

 その為にシンジは警戒を強めた。ミーナは銃での戦闘を諦め、マジックアクティベーターを取り出す。

 イービル・リッチ五体の瞳の赤が強く光りだした。


「来るぞ!!」



 トリスの言葉と共に、イービル・リッチと昆虫系モンスターが一気に馬車に近づく。シンジは牽制となる矢を射る。


「トリス、昆虫系のモンスターを頼む。ミーナさんは銃で援護しつつ、マジックアクティベーターでイービル・リッチをお願いします。アリーシャちゃんは、魔法で全体にダメージを。アルフさんとエンディさんは馬車の護衛頼みます! ヒカルちゃんは、イービル・リッチを!」


 シンジは指揮を取る。

 それに答えるように、それぞれが動き出す。一人を除いて。

 ヒカルは恐怖で身を小さくしていた。


「無理、マジ無理だからぁ……」


 弱々しい声を上げる。

 タクローがシンジの肩を叩き、首を横に振った。タクローは悟る、なんでH・Rソードという物をヒカルが作り上げたのかを。

 タクローはヒカルの頭を軽く撫でて、「待ってな……」そう告げて馬車を飛び出した。


 光の剣が一体のイービル・リッチを捉える。危険を感じたイービル・リッチがその身を宙にヒラリと翻す。

 タクローはその動きを止めるべく、H・Rソードを持たない左手で『ファイヤーボール・ショット』による牽制、動きを鈍らせる。すかさずエアロダッシュで近づき、光の刃で斬りつける。

 イービル・リッチは強烈なダメージを得て、この世のものでは無い声を上げる。


 アリーシャに、一体のイービル・リッチが迫った。アリーシャは何度も、ファイヤーボールなどの、炎系魔法で威嚇する。しかしイービル・リッチは、物ともせずに迫る。

 シンジの狩人スキル『光の矢』がイービル・リッチの足を鈍らせる。しかし、シンジの背後にはもう一体のイービル・リッチが襲いかかろうとしていた。


「シンジさんあぶねぇ!!」


 トリスの言葉に助けられた。トリスが声を掛けなければ、シンジはイービル・リッチの攻撃を躱すことは出来なかっただろう。繰り出された爪をすんでの所で回避する。

 のけぞる形になったシンジは、直ぐに左のズボンのポケットに入れていた、マジックアクティベーターを抜き出す。『フレイム』の魔法を選択して、実行。炎がイービル・リッチを襲う。しかし強烈なダメージとはいかない。


「クソッ、所詮はミドルかよ!」


 悪態を付く間に、別なイービル・リッチがシンジを狙う。


 アルフはエンディと共に、昆虫系のモンスターをメインに戦闘を繰り広げる。


「しかし、困ったね……。余裕が無いよ」


 アルフの表情は笑みを浮かべているが、長く仕えていたエンディには声の端々に見え隠れする緊張感が見て取れ、本当に余裕が無いのだと思った。


「もしもの時は私が殿を務めますので、アルフ様達は先をお進み下さい」

「それは、本当にもしもの時だね……」


 軽くため息を吐いて剣を振る。アルフは剣の腕には長けている。かつては王都の高等学校で数本の指に入る腕前であった。


 アルフが視線を後方に向ける。銀色の輝きが暗闇を舞うように戦う。その姿を見た時、彼の瞳はまるで憧れを抱く少年のソレであった。


 三体のイービル・リッチがタクローに襲いかかる。最初の一体に強烈なダメージを与えた事が、タクローに注意を向けるきっかけになったのだ。

 タクローはそれにものともしない。何故なら、今戦っているのは人間とかでは無い。モンスターだからだ。躊躇や迷いを一切生じさせる事が無いのだ。


 壁を蹴り、時には昆虫系モンスターを踏み台にして三体のイービル・リッチと渡り合う。

 イービル・リッチの爪が、魔法召喚による鎌が、闇の魔法が襲いかかる。三種三様の攻撃。しかも昆虫系モンスターの支援じみた攻撃のおまけ付きだ。

 H・Rソードの光が帯を引く。銀の鎧に行き渡る、マナの流れの光が帯を引く。暗闇の中でそれはまるで、多色の光のダンス。

 時折見せるのは、ファイヤーボール・ショットの炎の煌めき。


「よくあんなに動けるもんだよ……」


 ミーナは苦笑いで、昆虫系モンスター達と後から湧いて出た死霊系モンスターと対峙していた。その手には銃ではなく、両手剣が握られている。

 列車が通る為に作られたトンネルとは言え、銃だけに頼れる程に広くは無い。敵が迫れば近接戦闘となってしまう事は必然である。


 アリーシャも懸命に戦う。

 手に持っているのはマジックアクティベーターのみだが、容量を考えて巧みに戦っていた。しかし数の暴力は次第に彼女を追い詰める。気がつけば、トンネルの壁に背中を預けてしまっていたのだった。


 アリーシャは自身の置かれた状況を瞬時に悟る。正に絶対絶命だ。

 助けを求めようと、周囲を見る。

 トリスは離れた位置で、昆虫系モンスターの群れを相手にしている。

 シンジは、馬車から援護射撃に追われている。

 ミーナは息を切らしながら、剣を振るう。

 アルフは馬を、エンディはその援護で手一杯だ。

 タクローは光の帯を靡かせ、イービル・リッチを一体屠った。しかし更に四体が彼に襲いかかる。


 誰にも自分を助ける余裕など有るはずがないと、アリーシャは思った。そして覚悟の元、多種の魔法を連射する。

 しかし昆虫系モンスターの群れが、飛び出して来た。



「ヒカル、スイッチだ!!」



 タクローの声が響く。ヒカルは身を震わせて、立ち上がる。


「ホーリー・レイを俺の方に、その後にホーリー・セイバーを二発!!」


 ヒカルは、膝を震わせながら言われた通りの魔法をタクローに向けて発動する。


「シンジは光の矢を三連! 1時の方向へ。ミーナさんはヘイト確保よろしく」


 タクローの指示に合わせて三人が、これまでの動きからまるで機械仕掛けの何かの様に動き出す。


 アリーシャは呆然と宙を眺めた。飛びかかる昆虫の群れ。自身の終わりの知らせと思ったが、タクローが掛けた三人への声に安堵感を感じた。


(ああ、やっぱり……)


 胸の中でアツイものが込み上げ、一滴の涙が溢れる。そして、アリーシャの眼の前に銀の背中があった。


「大丈夫か!?」


 力強い声と共に、炎の魔法と光の剣による攻撃で昆虫系モンスター達はボトボトとその身を地面に還す。

 アリーシャは声が思うように出ず、頷いて見せる事で答える。



「タクロー君、リッチ残り二体」

「了解、昆虫と死霊は各位分散。あとトリス、その武器は限界だぞ!」


 アリーシャを助けるべく無理に敵陣を突っ切ろうとしたトリスだったが、無理をしたが為にその手に持つハルバードはボロボロになっている。


「ミーナさん、『らいおん』をトリスに」

「任せるニャりー」


 ミーナはかつてのゲームキャラ時の喋り方になった。それはミーナだけではない、シンジもヒカルもまるでタクローに引っ張られる様に行動する。

 三人はタクローと息を合わせる様に戦いを変えていった。

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