魔導銃製作開始と魔導鎧強化計画
アルフから言い渡された期間は、今この時から三日以内に何とかして欲しいとの事だった。
帝国兵が攻めてくるかも知れない状況で、これはかなりの譲歩だと彼は言う。試作品を王に献上し、アルフが見た帝国の武器とソレを得た自分達の銃生産の話をしたいとの事だ。
王都まで行くのに最短でも十日。
生産の為の準備を合わせると十三日となる。だが、道中でのモンスターとの戦闘などの不測の事態を考えると二十日は掛かると、アルフは見ていた。
魔導鉄道が来ていないここトルツェの町からでは、馬車で北のガルア渓谷を越え、シャンナ村を通りセコルの町まで行かなければならない。
魔導鉄道の魔導列車に乗ってしまえば、王都まで楽な旅になると伝えられる。
全ての話を聞き終えた後、シンジが「ちょっと良いかな?」と手を上げる。
アルフに促され、シンジは前に出る。
「なんで魔導鉄道はこの町に来てないの?」
「昔、私の祖父の時代に一度ここまで鉄道を作る計画があったのですが、予算とこの街に経済的魅力が無いと判断されて、断念されてしまいました……。ガルア渓谷の王都側入り口までは来ているのですが……」
残念そうに肩を落とすアルフにシンジは「なら」と話を切り出す。
「銃の製造権を主張してみたら? そうすればこの町に価値が生まれない?」
アルフは考えてもいなかった話に、雷に打たれたような衝撃を覚える。
「その発想はありませんでした……。有用性ばかり考えてて」
タクローとミーナ、ヒカルが寄り添うようにヒソヒソと話す。
「始まったよ、商社マンシンジが……」
「こういう事はトコトン目ざといよね」
「アイテムのマイショップ販売の売上、ギルド内で常に一位だからなぁ……」
シンジは、タクロー達をキッと睨みつける。三人は明後日の方向を見て、視線を合わせないようにした。
そして更に話を続ける。
「もしくは設計図を買ってもらうってのも良いね。法外な値段を吹っかけるも良し、もしくはお互いで精査した値段でも付けて買ってもらう。その資金を元手に鉄道を作るってのもありじゃない?」
その話をアルフは真剣に考える。
「前者の方がこちらにはかなり有益ですね。買い付けの為に列車の往来が頻繁にされれば、こちらの経済的効果は高いと思います。後者は逆に難しいかも知れません。鉄道の権利は国が持っていますから……」
シンジは「成る程」と事情を察する。だがアルフはこの件は交渉する価値ありと判断していた。これは正しくそういう物だと感じていたからだ。
だがタクローの言葉が決まりかけていた話に水を差す。
「でもさぁ、この銃の間違いって設計者はどう思うんだろう? おかしいと思ったら、普通直さない? んで、きちんと直ったらこっちで作った物と全く同じ物になっちゃうよね?」
ミーナはその言葉にハッとする。
「先に大量生産している可能性と、更に修正した物の生産とを合わせると、圧倒的に数の不利が出るね」
「確かにタクローの言う事は解るが、数の不利はもう確定事項でしょ?」
ミーナはシンジにニヤリと笑って見せると、タクローを見る。
「じゃぁ、タクロー君はこの不利をどう変える?」
「どうにも出来ないと思いますよ? まぁ強いて言うなら、こちらの性能を上げるとか?」
ミーナが「どうやって?」と聞くと、タクローはアルフの持ってきた方の銃を手に取る。一瞬ミーナはマジックアクティベーターと同様な事になるかとヒヤリとしたが、爆発する兆候は無かった。
「そうだなぁ……。コイツの構造がエアガンのソレならいっそ、完全に似せるとか? もしくはきちんとした実銃を作ってしまうかですね……」
ミーナは腕を組んで考える。
タクローが言った実銃は火薬が無ければ成立しない。しかしここまでで、火薬の存在は見当たらない。
おまけに実際にここにある銃は、火薬を必要としない様に設計されていると見ていた。
「なら、エアガン構造だな……。でもエアガンって言ってもどうする?」
「ホップアップシステムを入れたら? 鉄球を縦回転させて飛距離を伸ばす。まぁ、重い物が回転加えてどれだけ飛距離が伸びるかは解らないけどね。BB弾ならかなり飛ぶけど……」
ミーナはシンジを見る。
シンジは「ミーナさん、出来る?」の問いにミーナは無言で頷いた。こうして魔導銃量産計画の最終方針が決定する事になった。
帝国の銃を元に、タクロー達の世界の『エアガン』を模倣した物の制作が決定したのだった。
話し合いが決まる頃には既に日は暮れてしまっていた。アルフは解散を促すが、ミーナは工作室に残ると主張した。
「そこの製図板貸してくれない?」
ミーナは今晩中に設計図を描き上げると宣言した。
これまでの流れを黙って聞いていたスルトがなら俺も付き合うと言ってミーナの横に並ぶ。
スパッタがスルトの顔色を伺うべく表情を見ると、「お前もだよ」と無言の訴えがあった。がっくりと肩を落としてスパッタも横に並ぶ。
「じゃぁ、頑張って」とその場を後にしようとしたタクローは、後ろから羽交い締めにされる。羽交い締めをするのは、もちろんミーナだ。
「タクロー君、もちろん付き合ってくれるよね? ね?」
軽く舌打ちした後、タクローは渋々付き合うことになった。
そして、その夜は遅くまで工作室に灯りが灯ることになったのだった。
一夜明けて、工房内が慌ただしく動き出す。
ミーナが描き上げた設計図を元に、作業者達がそれぞれの部品作りを始める。最初は試作用として三丁用意する事になった。
当初ホップアップシステムを、可変可能な機構にしようとしたが、プラスチックの弾を飛ばすのとは訳が違うと判断され、バレル上部に縦回転を与える突起を作る事になった。その突起の高さを三段階で製作し、飛距離が長い方を制式採用とする事にした。
もちろんマガジンが下になる様に直さなければならないので、基本は一から製作する形を取る。その時、ミーナの遊び心か職人魂かは解らないが、爆縮機構が通常のものよりも効率の良いと思われる機構に変更される事になった。
本来は金属の袋の様なぷっくりとした形状の物の中心部で爆発の魔石による魔法現象を起こし、唯一出口となる細い管状の部分から爆発で膨張した熱と空気が排出される際に、鉄の弾を飛ばす仕組みになっていた。
しかしミーナはこの機構を見直し、円柱の一番下に爆発の魔石を配置し全ての圧力を一気に排出出来る機構を作り出した。その為に木製の銃床部分の製作も一からやり直しとなる。
工房内には金属加工職人は実力の上から下まで入れて総勢十五人。
魔導技師と呼ばれる者はスルト、スパッタ含めて十人。他は仕上げ作業や、図面通りか検査する者、組み立てを行う者合わせて二十三人総出となった。
そうしてようやく一昼夜掛かりで試作三丁を仕上げる事になった。
一方タクローはと言うと、ミーナの設計図製作に付き合わされたせいで昼近くまで寝ていた。アリーシャに起こされなければ、昼を過ぎていたかも知れない。
遅めの朝食を取ると、他のメンバーが見当たらない事に気が付く。
トリスは工房の手伝いに行っていた。金属を扱う以上、力がある者は重宝されるからである。
シンジはアレク邸の書庫で賢者関連の資料を調べていた。ヒカルは気になる事が有ると工房に向かった、とアリーシャが話してくれる。
面白そうなのはどれだろうと少し考えたタクローは、ヒカルの所に行ってみる事にした。
工房内に入ると、職人たちが慌ただしく作業をしている。アリーシャと二人で眺めながら歩くと丁度、ミーナに会ったのでヒカルの所在を聞いた。
彼女は魔石に術式を組み込む魔導演算機の並ぶ部屋に居ると言われたので、アリーシャの案内でそちらに向う事にした。後方から「やっぱりこっち手伝って」と言われたが愛想笑いと共にきっぱりお断りした。
ヒカルの元へ行くと、彼女は何かを頬張りながら魔導演算機と睨めっこをしている。
「なにしてんの?」
「ふえ?」とタクローとアリーシャを軽く見て、直ぐに魔導演算機の画面と向き合う。
「タクローさんの鎧って四属性魔法しか使えないでしょ? せめて私の光属性の魔法も使える様になってもらうのに、一個ガジェットを作ろうとおもってね」
「ガジェット?」
「そそ、魔法をなんか面白い形で使える様にしようかと思ってね。ほら、工作室にガラクタあったじゃない? アレで懐中電灯モドキを光魔法攻撃の道具に出来ないかな? って」
昨日、ミスティック・アーマー・オリジンのメンテナンスの際にタクロー達は隅っこにあった様々な魔法道具と思しき残骸を見つけた。
スパッタに聞くとそれは、試作段階で断念した物との話だった。その中に光魔法を携帯状態で正面を照らす正しく『懐中電灯』の魔道具版があった。
しかしこの世界では、『ライト・ボール』と言う魔法がある。
ファストの町でアリーシャが最初に使って見せてくれた魔法だ。その為必要性が感じられない上に、貴重な人工精霊石を使用する価値は無いと判断されて破棄された物だ。
ヒカルはそこに目を付けた。
何故彼女がタクローに自分の得意とする光魔法を使わせようと思ったのかと言うと、昨晩のアリーシャとの話に遡る。
アレク邸宅にて、アリーシャと同室となっていたヒカルは寝る前に王都への道のりについて、何気なく質問する。アリーシャは掻い摘んで説明するが、彼女もそんなに詳しい訳ではないと前振りをした。
そしてこの町の北、最初の難関と言える場所ガルア渓谷の話になる。
「ガルア渓谷を抜ける際に、トンネルを抜ける事になる。そこは昼間話した鉄道設置の為に掘られたトンネルが一番の近道なの。別にトンネルを迂回しても良いのだけれど、切り立った道と多種のモンスターで道のりは困難。でもトンネルならモンスターはレイスやスケルトンと言った悪霊系がほとんどだから、火魔法や光魔法で対抗出来るので、迂回より若干楽」
「あ、悪霊!?」
ゲームではなんてこと無いただのグラフィックだったが、前回のモンスター集団戦に置いてモンスターがやたらリアル過ぎる事にやや嫌悪感を抱いていた。それがヒカルの一番苦手とする悪霊ともなれば、どれほどなものか想像に難くない。
「ヒカルさんは光魔法得意って話だけど?」
「そりゃそうよ、得意ですよ……。だって職業僧侶だもん。マジックアクティベーターの魔法設定でも得意魔法なら効果が高いって言われて、適当に『ターン・アンデット』やら『ホーリー・セイバー』とかぶっこみましたよ……」
「なら、安心」
ニコリと笑ったアリーシャの表情に、顔から嫌な汗が大量に吹き出す。
(いやいやいや……、なに言ってのこの子は!? 幽霊とか怖くないの!? 私ホラーはめっちゃ苦手なんですけど!!)
そして彼女は決心する、「そうだ、タクローさんに任せよう」と。




