魔導銃量産計画の始まり
シンジとトリスが出ていった後、ミーナは「待つのもアレだから」と歯車の仕上げ作業に戻る。
タクロー達は注油作業を終えたので、スパッタに銅線を頼んだ。
用意された銅線で、アクチュエータのコイル部分を補修し組み付ける。ミーナが歯車のバフがけを終えてタクローに渡すと、オイルを注してアクチュエータの修理が完了した。
そして部屋に残ったメンバー全員で鎧の組立作業が行われる。
シンジとトリスは、工作室を出て工房を後にする。
トリスの案内で町の商店が立ち並ぶ場所に向かう途中、シンジはタクローから金貨を受け取ったトリスの反応が気になっていた。するとトリスが足を止めて、シンジと向き合う。
トリスはシンジよりも体が大きい、面と向かわれると嫌でも威圧感を感じた。
「シンジさん、タクローさんは……いや、あなた達は俺の事をなんとも思わないのか?」
シンジは質問の意図が解らなかった為、首を傾げる。
「ん~、狼の獣人って言うより熊っぽい?」
「あ、いやそうじゃなくて……。俺は獣人だって事にだよ」
シンジには全くもって意味わかずに眉間にシワを寄せる。そんな反応にトリスは獣人達を含む様々な亜人種が、人間による差別を受けている話をした。
かつてはこの世界において、亜人と人間とは共に共存する者として分け隔て無く暮らしてきた。しかしいつからか、人間は亜人を差別するようになっていった。
獣人は人間より手先が器用ではない。それは手の形が人間とは違うからだ。
ドワーフは背が小さい為に人間より早くは走れない。
エルフは長命で、叡智に優れているものの虚弱な部分がある為に虐げられる。
他の人種もそうやって比べられては差別の対象にされていった。それは一重に人間の人数が多くなっていった事も一つの要因とされている。
そんな話をした後、トリスはもう一度「自分の事をどう思う?」と聞く。
「ん~、一緒に旅する仲間……、そうタクローだったら言うだろうね」
「仲間か……。シンジさんアンタは?」
「取り敢えず、前々からタクローが言うように呼び捨てにしてくれて構わない間柄だと、俺は思うよ」
トリスは特殊な身の上の為、町を転々と渡り歩いた事がある。シンジ達の様な反応はこのアレク領に来るまで、見た事が無い。
「アレク領の人間じゃないアンタ達から、そう言われるとは思わなかったよ」
「逆に聞くけど、ここの領の人達は亜人の人達と普通に接してるのは何故だい?」
「ここいらの人間は、昔から隔絶されたような環境だからな。南の辺境なんて言われるくらいに特殊なんだ。それにここは元々亜人達が多く暮らして居たのと、代々の領主様が寛大な方々だったから……、と言う話らしい」
トリスは町中心部に目を向ける。ファストの町同様、人間と亜人達が仲良く暮らしている風景が見て取れる。
「なるほど、だからタクローに対してさっきの反応か……。納得したよ」
軽くため息を吐いて、トリスの体を軽く叩き「でも」と言葉を続ける。
少し声のトーンが落ちた事に素早く気が付いたトリスは身構えた。
「他の二人は良いとして、その話はタクローには言うなよ。アイツはその手の話を異常に嫌うからな……」
言葉には真剣味が込められている。「何故?」と言葉が出た後、トリスは生唾を飲み込む。
シンジはニコリと笑って、「取り敢えず、気にしない。まぁ、俺がフォローするから」とだけ答えた。
「さぁ、腹ペコ共の為に急ごうぜ」
軽快な足取りでシンジは歩き出す。トリスは困った顔でその後に付いて行くのだった。
町の商店が立ち並ぶ場所に着くと、食料店を探す。
トリスの案内で二店舗ほど回り惣菜やらパンやらを買い集める。工房があるせいで弁当になるようなのも充実しているとトリスに教えられた。最初に購入した大きめの布の袋に詰められるだけ、食料を詰め込む。
食事代はシンジが全て出すと、トリスはタクローに貰った金貨をシンジに渡そうとする。「いいのいいの、もらっとけ」と笑顔で差し出した手を戻すと、袋を持たせて工房へと戻るのだった。
シンジ達が町で中で買い物をしている頃、タクロー達は鎧を組み上げ終わった。
そして油などで汚れた手を、工作室内の水場で洗う。タクローは皆が手を洗っている間、鎧の外装を磨いていた。
「ミーナさん、なんか俺さぁ……、中古車買った気分になってきたわ」
ミーナは首を傾げる。
「ああ、正確には新古車になるのかな? しかも俺専用だぜ? 少しずつ愛着湧くわ、なんかコレに」
ヒカルは吹き出した後、大声で笑い出す。
「タクローさんらしい! 全く、メカヲタもここまでくるとはねぇ」
ヒカルの言葉で全てを理解するミーナもまた、声を上げて笑う。やや赤面気味のタクローが「なんだよ!?」と言うと、二人は「別に」と言うに留まった。
タクローは無類のメカ好きで、ロボットアニメに始まり、プラモデルやらバイク、車とメカ関係をこよなく愛していた。
車をとことん弄り倒すだけに飽き足らずバイクも徹底的にカスタムしているのは、共にゲームをしていた仲間の間では有名な話だったからだ。
ミスティック・アーマー・オリジンは魔法的な要素を多く持つものの、メカニカルな部分も合わせ持っている。『メカオタク』のタクローが、好むのは仕方のない事なのだ。
そんなやり取りを終えた後、タクローは鎧を装着する。駆動関係の確認の為だ。
装着し終わり、鎧が起動する。動作チェックの為に体を動かすと、以前と比べてかなり体が軽く感じられた。それはちゃんと駆動部分にオイルが行き渡っている証拠だった。
工作室の扉が開く。
待ちに待った食事と思い、室内の全員が扉を凝視するとアルフが二人の人間を伴って現れた。室内にはガッカリ感で包まれた。アルフは疑問を覚えながら笑顔で挨拶する。
程なくしてシンジ達が帰ると、腹を空かせた獣達に襲われる事になった。
食事をしながら、アルフの要件を聞くことになる。
しかしある程度腹が満たされるまで、誰も聞く耳を持ってはくれない。タクローに至っては鎧を脱ぐ事もせず、兜だけ脱いで食事を貪る。
そんな様子にアルフは連れてきた色黒でガタイの良い中年男性と、布で包まれた長物を持って物静かに立つ若く細身の男性と顔を合わせて、苦笑いをする。そして彼等が落ち着くまで、暫しの時間を要した。
一通り食事を済ませたタクロー達は、ガラスの瓶に入った果実水や薬草茶を飲みながらようやくアルフとの会話が始まる。
「皆さん今頃昼食だったとは……」
タクローが鎧の胸をゴンと叩いた。
「コイツのメンテに夢中でね、気が付いたらこの時間さ」
「あ、ははっ、そうでしたか……」
苦笑いのアルフに何しに来たのか問う、アリーシャ。ニコリと笑うと若い男に持たせていた物を机の上に置かせる。しかしこの時アルフはようやく机の上に置かれている銃の存在に気が付いた。
「これは?」とメンバーを見ると、ミーナが「ちょっといじってみようと思ってね」と答えた。
そこへ色黒の男が前に出る。
「おいおい、いじるって、コイツの構造が理解できるのか?」
ミーナは「うん」と言って頷く。
「スパッタ!」大きな声を上げる色黒男に、「は、はい! 親方」と勢い良く立ち上がる。
「おっと、待ち給え。その前に皆に紹介しなければならないね」
アルフは咳払い一つついて、色黒男の前に出る。そして色黒男から紹介を始める。
「こちらはスルト・ブロケン、工房の『一の親方』と呼ばれている者だ。スパッタの師匠に当たる方だよ。もう一人は、私の従者エンディ・レイダス。彼が帝国の兵士を先にこちらに移送したからね、タクローさん達とは初見だね」
その後にアルフは連れてきた二人にタクロー達を紹介する。事前に話をしていたのだろう、紹介は簡単なものだった。
お互いの紹介を終えると、アルフは布に包まっている物の布を外す。そこにはミーナが先に置いていた物とまたく同じ銃が出てきた。
「私は、これをここで量産したいと考えてます」
そう言って、いきなり本題へと話を移行するのだった。




