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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
第一章 異世界(ゲーム世界)転移
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鎧と工作(クラフト)2

 暫くしてから、スパッタが言われた材料を布袋に持てるだけ持って戻ると、部屋の中から「ヒント! あと、一個で良いからヒントを下さい!」と嘆願する声が聞こえてきた。

「戻りました」と一声掛けながら、部屋に入ると男性二人と女声一人が体をくねらせながら難しい顔で唸っている。


 包丁、お鍋、包丁、お鍋、家庭用品の金属……。何度も繰り返される言葉はまるで念仏だ。

 スパッタには何かの儀式の呪文かと思ったほどだった。


「あ、あの、コレ言われたクロム鋼とニッケル、鉄と炭ですが……コレで良いですか?」


 ミーナが布袋を受け取り、中を見ると小分けにされた鉱物三種と木炭が入っている。「さてと」と言って、中身を取り出しタクローを呼ぶ。


「タクロー君、錬成お願い」

「いぇ!? れんせい? あぁん?!」


 タクローの反応をよそに、「さっきみたいにやってみてよ」と言われタクローは鉱物と木炭に手をかざしてみる。


 工作クラフトの『錬成』は錬金術師5レベルで使用可能である。しかしそれも、アイテムを選択すると勝手に別のアイテムに変わる仕様だった。

「取り敢えず……」と、意識を集中してみるタクロー。すると、鉱物と木炭が光りだす。タクローがかざした手には、不可解な文様が現れ、目の前に置かれた物が溶けた光となり混ざり合う。

 そして一つの大きなインゴットになった。

 驚いたのは、ミーナが最初だった。

「まさか、本当に成功するとは……」と言ってインゴットを手に取る。

 続いて目を丸くしたのはスパッタとタクローだった。他のシンジ、ヒカル、アリーシャ、トリスはほぼ同時に声を上げる。


「で? ミーナさん答えをお願いします」


 タクローの言葉に、周りの皆もミーナに視線を注ぐ。


「ステンレスだよ。す・て・ん・れ・す。常識だよ? ってか、すごいねこの世界でもステンレスが作れるなんて……」


 ゲーム時代には考えられなかったと付け足して、ミーナはインゴットを眺めている。

シンジとタクロー、ヒカルが「あー!!」と大きな声を上げる。それは正に彼等の世界ではお馴染みの金属だったからである。


「凄い、高位錬金術師さんだったんですか!? 錬成陣も無いのに錬金出来るなんて……。宮廷錬金術師でも、今や三人しか居ないって聞いてましたが」


 スパッタは今にもひざまづきそうな勢いだった。そんなスパッタに対して、タクローは苦笑いで、下げる頭を制する。

 一番の衝撃を受けたのは、シンジとヒカルだ。タクローが工作クラフトスキルが使えるという事は、自分達も使えるのと同義だからだ。


 ヒカルのサブ職業は魔法付与師エンチャンター

 武器防具や様々な道具に魔法効果を付属させる事が可能である。

 シンジは薬師。

 多種多様な薬品の調合が出来る。ヒカルは主に味方の武器防具強化の一翼を担っていた。またシンジは自身の弓矢に薬品を合わせて、『毒矢』・『痺れ矢』など、攻撃の為と回復系薬品の生成の役割を持っている。

 ヒカルとシンジは自分の手のひらをじっと見つめる。素材があれば、後は能力次第で工作が可能だと、今立証されたからだ。

 ミーナは鼻歌まじりにインゴットを持って、金属加工機の元へ行く。手際良くインゴットを裁断すると、旋盤で削りだしを行う。厚みを測る為の道具もしっかり揃っていた。マイクロメーターにノギス、差金など様々だ。


「取り敢えず、劣化も考えてこのギアは一から削り出しちゃお」


 淡々と作業を進めるミーナを見て、スパッタは顎が外れる勢いだった。その動きには無駄がなく、いつの間にか円盤が作られ更には外周に溝が彫り込まれていく。


 スパッタはアルフの使いの者から「彼等に工作機械を使いたいと言われたら、丁寧に教えてあげて欲しい」と言われた。

 しかしどういう事だろう、逆に教えて欲しいくらいの技術力だ。それは彼の師匠にも匹敵する。


「あなたは一級魔導技師なのですか?」


 震える声でミーナに声を掛けると、笑い混じりに「なにそれ?」と返答が返ってきた。


「ああ、タクロー君。他に破損箇所はない?」


 ミーナの問いかけに、タクローは違和感を覚えた左膝関節を調べてみた。


「問題ないね、欠損等は無いみたい。多分、オイル切れかな」

「なら、このギアだけで大丈夫だね。後は注油か」


 タクローはスパッタに機械油について聞くと、「取り敢えず」と三つの缶を工作室の戸棚から取り出した。


「粘度違いで、三種類あります」


 何故かスパッタの声はうわずっていた。タクローは首を傾げながら、用意されたオイルを一つ指で摘んでこする。手近な場所にあったボロ布で指を拭きながら、三種類の粘度を指で擦って確かめる。


「硬すぎると、素早い動きには使えないなぁ。ビショビショじゃぁ直ぐに流れるね。取り敢えず、中間のコレで問題ないでしょ」


 缶の一つを手に取る。

 次いでタクローはスパッタに注油機を聞くと、直ぐ様準備される。

 礼を言うとヒカルと二人がかりで注油を始める。一方のミーナは、着々と歯車の形を整えていった。

 そんな様子を眺めていたシンジ。


「ミーナさん手際良すぎ。それも工作のスキル?」

「何言ってんの? 俺、これが本職だよ……」


 苦笑いで返事をする。「ああ、そう言えば」とシンジは納得した。


「腹減ったー」


 注油作業中のタクローが、声を漏らす。

 するとそこに居た皆が「そう言えば、お昼過ぎてない?」などと話し出す。


 時間はいつの間にか正午を過ぎている。朝から休み無く作業をしているタクロー達三人は既に限界を迎えている。ミーナは集中力で若干こらえていたが、暫くすると「休憩」と言って製作の手を止めた。

 タクローとヒカルは可動部分の注油作業をまだ続けてはいたが、そのスピードは見る見る遅くなっている。

「仕方ない」とシンジは立ち上がり、人数分の食料調達に行く事を告げる。


「適当によろしく」


 タクローがシンジに伝えると、ミーナとヒカルも「自分も」と続く。「はいはい」と苦笑いで答え、部屋を出ようとするとトリスが荷物持ちを買って出る。

 二人が出ようとした時、タクローが思い立った様にトリスを呼び止めた。「これ」と言ってトリスに投げられたのはルクセン金貨が一枚。食料の相場では破格とも言えるものに、トリスが驚く。


「おいおい、コレで何を買えって言うんだよ!?」

「いや、大食漢だからそんぐらいなきゃ駄目じゃん? 鎧を担いでもらってるお礼だよ」


 満面の笑みで答えるタクローに、トリスは手を震わせる。


「い、いや、気にしないでくれ。俺は何も恵んでもらうつもりでやってるんじゃねぇし、それにこっちは仲間を助けてもらったんだ。礼はこっちが尽くすもんだ」


 タクローに金貨を返そうとすると、タクローは首を振る。


「いや、これからも頼むと言うには安いかもだけど。マジで助かってるから、お礼は当たり前だろ? 余ったら、好きにして良いから。あと、『恵む』って何よ?」


 最後の言葉でタクローはムッとした顔をしてトリスを見た。タクローはトリスを哀れんでいるつもりは毛頭なく、普通に謝礼のつもりだったからだ。トリスが別の形が良いと言えば、タクローはそれに従うつもりであることも伝える。


「貰っときなよ、ここに来てからあんまり食べまくってないみたいだし」


 タクローもそうだが、シンジも彼を見ていた。

 アレク公爵邸で出される食事は、上品な物ばかりだが、普通の人間の胃袋を満たすくらいでしか無く、トリスの様な大食らいには少なすぎると思っていた。しかしトリスは文句を言うことは無かった。それは一重に、領主に気を使っているものだと思っていたのだ。

 シンジの助け舟もあって、トリスは金貨を受け取る。握りしめた拳を見つめ、次いでアリーシャを見ると普段はなかなか見れない優しい笑みでトリスを見ていた。

 精一杯の感謝を述べると、注油作業をしながら「気にすんなー」と軽く返された。

 そうして、シンジとトリスは食料の買い出しへと出かけたのだった。

 二人が行った後、アリーシャがタクローに礼を言う。「なんで?」と返された時には驚いた。

 しかしタクローもそうだが、ミーナもヒカルも不思議そうな顔でアリーシャを見る。

 それは『お礼は当たり前』と言っている様だった。

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