魔導機械工房(マキナファクトリー)
魔導機械工房。
近年、技の賢者がかつて残した様々な知識により、魔法を使った機械による生活が一般的になっていた。
そしてソレを作るためにも、魔法による工作機械が使われる。
魔導機械工房はそれらの制作とメンテを一手に担う場所である。そこには様々な職人が居て、それぞれの得意とする分野で鋳造から製造、機器の補修を行っていた。
工作機械が大きな音を立てて動いている。金属を削る音や、叩く音。
様々な匂いが入り混じり、正に一つの大きな製造工場と言った形である。
工房内に入ったタクローとミーナは、どこか懐かしく感じた。
どちらも製造関係の仕事に就いている為にそう感じたのだろう。ミーナに至っては、目を輝かせて辺りを見回していた。
そこへ一人の若い男がやって来る。
「どうも、アルフ坊っちゃんから話は聞いてます。みなさんを案内するよう言付かったスパッタ・メルトと言います」
スパッタは被っていた安全用のヘルメットを脱いで、お辞儀をする。ニコリと笑った顔は、どこか少年の様にも見えた。
タクローを始めとして、それぞれがスパッタに挨拶をする。
「坊っちゃんの話で、工作室を一部屋貸し出すように言われてるんで、ご案内します」
スパッタの案内で工房の奥へと進むタクロー達。ミーナは終始辺りを見回し、興奮気味であった。
「おお、旋盤があるよ! あっちは溶接機かな? グラインダーかぁ、いいねぇ。あっちでは、小さい窯で鋳物かぁ……。まじかよ、プレス機まであるのか……。ボール盤だぁ!! へぇ、凄いなぁ……工作機械のオンパレード。まじかよ、内面研削から外周の研削機械も!?」
ミーナはこの世界に来るまでは、実家であり父親の経営する町工場で常務という職に就いていた。
その工場は下請けの下請けで、様々な金属部品を製造していた。
小さい工場のため、大きな部品では無く大きくても十数センチ程のものばかり。従業員は十人にも満たなく、常務であるミーナも基本的には従業員と共に製造に携わっていた。
大手企業の孫請けなため、経営状況もあまり良くは無かった。しかし彼等は製品一つ一つに対して、真摯に向かい合い仕事をこなしていた。
最初は信頼を勝ち取るため、次に信用を落とさない為にと作業していたが、各企業から受注が増えると、更に生産に対する意欲を向上させる事に繋がっていった。
それは一重に、ミーナの父親である社長の人柄あっての事だった。
そんなミーナが今、子供の様に目を輝かせていることが、タクローは同じ製造系の仕事をしていた身として、少し羨ましく思える。
タクローは工場で働く一従業員に過ぎず、過剰労働など当たり前。残業や休日出勤、達成できないノルマを課せられるのが日常であった。
誰かが労働基準監督署に通報すれば少しの間は楽が出来るが、それもほんの束の間で、一、二週間もすればまた元通り。いや、休んだ分ノルマが上乗せされる始末であった。
その為にタクローは現状に全く楽しむ要素が見当たらない。
周りで切磋琢磨している人々を見ても、自分が置かれていた状況を考えると、ため息しか出てこない。
場所によっては、きちんと労働環境が整備された大手企業もあったらしいのだが、タクローが住んでいた所は片田舎に近く、そこには大手ではなく小会社しか無い。なので大手企業並の努力など皆無であった。
「働く場所があるだけありがたいと思え」などと言う始末に、ほとほとうんざりしていたが、タクローは逃げ遅れた人間になってしまっていた。
同期は辞めてしまっていて皆無であり、後輩かやたら使えないでたらい回しになっている先輩しか居ない。
タクローは周りを見て、少し羨ましく感じ始めていた。
工房で作業する人達は多種に渡る。
ドワーフに獣人、人間にエルフ。彼等は一生懸命モノ作りに励んでいた。
タクローは惰性に任せて、日々作業をしているだけ。自分の趣味を維持するためだけに、働いているに過ぎなかったのだ。
だからだろうか、いきいきとしたその姿が眩しくさえ見えたのは……。
しかしもう一人、目を輝かせ始める者が居た。
ヒカルである。
とある一区画では、パソコンの様な物のモニターを見つめて、一生懸命タイピングしている者達の姿があった。
『魔導演算機』、マジックアクティベーター購入の際にも目にするソレは、魔法術式を打ち込み、それを各機械や魔石などに書き込む物であった。
ソレだけではない、演算機の名の通り、術式の解析から術式を組み合わせて新たに作り出す事も可能である。
昨今の使われ方としては、分析や解析が主で、それ以外では既存魔法の掛け合わせなどが行われているのみである。
この工房では、基本的に魔石への書き込み作業が主体であった。
スパッタの案内で、ようやく目的の場所に着いた。
ミーナとヒカルが何処かに行ってしまうと言う珍事が何度かあったために、暫しの時間を要した。
扉を開くと個室になっている。周囲には小さいながらも、様々な工作機械が並んでいる。
部屋の中心部には大きな作業台があり、その隣には製図板もあった。そこはまるで、試作機械製造の為の部屋と言った様を呈している。
「この部屋をお好きに使って下さい。解らない事があれば自分に聞いて欲しいです。今は親方が、忙しいので助手の自分で本当に恐縮なのですが……。これでも二級マキナ技師なので」
『マキナ』この世界では、魔法で動く機械の事をそう言う。
魔導機械とタクロー達が呼称していた物がそれである。確かに魔導機械とそのまま発音する事もあるらしいが、一般的には『マキナ』と呼称されている。
マキナ技師とはそのまま魔導機械の技術者だ。
彼等の元は鍛冶職。金属を扱うがゆえに、いつの間にか機械の技師へと、その槌を振るう先が変わっていったのであった。
スパッタに礼を言って、タクロー達は作業台に棺桶から取り出して全身鎧を置く。その隣には、魔導銃が置かれた。
「さて、まずは鎧から手を付けますか……」
腕を組んだミーナが、鼻息荒く鎧を見つめるのだった。




