アレクの屋敷へ
アルフの兵士達に動揺が走る。
普段ならモンスターの襲撃により、移動の大半を戦闘で消費してしまう。
帝国兵士の襲来時には、アルフの指示で上手くモンスターを避けるように進んだために、若干早くファストの町に近づけた。だがそれでも町を迂回する形になった。
しかし今回は特にそういったことを気にすることも無い移動であった。
彼等は、モンスター達と戦うことも考慮に入れて早めにファストの町を出た。結果は、夕暮れ前にはトルツェの町に着いてしまった。
ここまでの道中で、モンスター達の集団との戦闘にはなった。しかしそれは、移動の時間を大幅に削るには至らなかった。
またミーナと呼ばれる男と、シンジと呼ばれる男の活躍も大きかった。
モンスターの集団戦闘時には大きな活躍と圧倒的な力を見せつけた、銀の全身鎧。
しかし移動時に襲いかかるモンスターに対して銀の全身鎧が表に出ることはなく、二人の男による弓と『魔導銃』と呼ばれるアレクシア帝国の武器の攻撃で、移動を止めることなく前へと進めたことが大きかった。
弓を扱うシンジは、兵士達が驚くほどの長距離にある的 (もといモンスター)にも確実に命中させる。
銃を扱うミーナは、飛距離こそないものの圧倒的な攻撃力でモンスターを倒した。
気がつけば彼等はトルツェの町の入り口たる、大きな門の前に立っていたのである。
普段なら町に到着早々夕食となるのだが、今回ばかりはそうではない。兵達が隣同士の仲間とそれぞれ、これからどうするかについて話をしていた。
アルフの掛け声で町に入る門が開かれ、アルフの指示で馬車や兵士達が門を潜る。
全員が町の中に入ると、門が閉じられた。そしてアルフが兵士達に解散を告げたのだった。
兵士達は思い思いに行動を開始する。
兵士達の大半は、装備を自宅に置いて早々に酒場に繰り出した。そんな中とあるグループが、酒場で仲間達と話す。
「今回連れてきた四人、アイツ等凄まじかったな」
「ああ、特に銀の全身鎧のヤツは圧巻だぜ。帝国の新武器も目じゃないな」
「なに言ってやがる、その新武器を使いこなす奴も強かったぞ」
「いやいや、お前等ちゃんと見てたのか? 弓使いのあの命中精度の方がヤバいぜ。長距離のモンスターを馬車の中から狙い撃ちしやがったんだから」
「それ言ったら、集団戦の時に的確に回復してくれたネーちゃんも馬鹿にできない」
それぞれが四人の評価をする。しかし最後には『銀の全身鎧』の話となる。
「あんな風に魔法で戦うやり方があるんだな。あれじゃ、兵士が一体何人が犠牲になるか解ったもんじゃない……」
その場に居た全員が、彼が味方で良かったと安堵のため息を吐いた。
そして余裕の戦闘で体力を持て余した男達の、長い夜が今始まろうとしていた。
町に入ったタクロー達は、アルフの住むアレク公爵の屋敷へと向かう。
ゲームだった頃に、この町とアレク公爵という存在は無かった。それ故にタクロー達は見るもの全てが新鮮だった。
トルツェの町の中心部に位置する場所に、アレク公爵の屋敷がある。高い塀で全体を囲み、その周りには堀がある。堀は町の中に流れる地下水道と繋がっているらしく、絶えず綺麗な水が流れていた。
ミーティアラ王国最南部を治める、領主であるアレク公爵。領主らしく、屋敷の規模も大きなものであった。
馬車で屋敷の敷地内に入り、そのまま玄関まで移動する形になる。
「うわぁ、正に金持ちって感バリバリ」
タクローは辺りを見回す。ミーナも、ヒカルと一緒にキョロキョロとしている。
シンジは「アメリカの富豪の家っぽいな」と特に気にする様子を見せなかった。
屋敷の玄関に到着すると、アルフ達を出迎えるために多くの使用人達が待っていた。
「おかえりなさいませ、坊ちゃま」とメイド服を着た女性達が声を揃える。アルフは「ご苦労さま」と声を掛けて、馬を降りる。
使用人の一人が馬を預かり、厩舎へと連れて行く。続いて他の使用人達が、馬車の荷物を降ろし始め、次いでアルフに促される形で、タクロー達は馬車から降りた。使用人の一人が棺桶に手を掛けた時、トリスが「ああ、コイツは俺が持つ」と言って棺桶を馬車から降ろした。棺桶自体がかなり重く、普通の人間一人が持つには大変な物だったため、力自慢のトリスの役割になっていた。
アルフの指示で、使用人達はタクロー達を来客用の部屋へと案内する。
トリスを含む男性陣とアリーシャとヒカルとで、隣同士の部屋に案内された。
夕食の準備が整うまで寛いでいるよう告げられたタクロー達は、ヒカル達と合流し今日の旅路を振り返っていた。
それから暫くして、領主がタクロー達に会いたいとの話でメイドの一人が迎えに来る。メイドの案内に従い、タクロー達は領主ライクラ・フォルン・アレクの待つ部屋に向かった。
部屋に入ると、そこには白髪でやや歳老いた男性が部屋の中央部分にある椅子に腰を掛けていた。パッと見た感じで、そこが応接室だと解る様式であった。
「やぁ諸君、アルフから話は聞いたよ。初めまして、私が領主ライクラ・フォルン・アレクだ」
タクロー達は、物腰が柔らかそうな男性といった印象を覚える。そして、それぞれ挨拶を交わした。
一方、アリーシャとトリスは顔見知りだったらしく、簡単な挨拶を交わす感じだった。それからライクラは、客用のソファーに腰を下ろすよう促した。
「それで、銀の全身鎧のお方はどちらかな?」
「あ、はい、俺です」
タクローを見たライクラは、座りながらも深く頭を下げる。
「アルフから聞いた。帝国から領地たるファストの町を救ってもらい、本当に感謝している」
感謝の言葉を受けたタクローは返答に困り、「お気になさらないでください」と言う。
アルフから事前に話を聞いていたライクラであったが、詳しい話はまだとのことでこれまでの話を聞かせてくれとタクロー達に言う。
了解したタクロー達は、帝国が攻めてきたところからの話を詳しく説明した。
ライクラは、深妙な面持ちで話を聞く。
「実は、アルフが一人帝国の人間を捕らえていて、君達が来る前から尋問をしているのだよ。どうにも、ファストの町周辺で起こったらしい魔法現象の調査だと言っている。心当たりは無いかね?」
アルフは、帝国の兵士グレクセン・オーデヴァルを捕らえて、ファストの町に入る前に数名の部下を使って自身の屋敷に連れ帰していた。そして、グレクセンにはアルフの部下による尋問が行われたのである。
尋問にて全てを話したグレクセンは、アレクの屋敷内にある牢に捕らえられていた。
ライクラは尋問にて話された内容を聞いていたために、ある程度を把握していた。そしてその内容をタクロー達に話して聞かせる。
タクローから、ドッと汗が出た。
(やべぇ、あれ、俺のせいだ……)
帝国の兵士達が攻めてきた事情を知ったタクローは、自身の起こした事の大きさを今改めて知ることになったのだ。
アリーシャとトリス、シンジにミーナ、ヒカルがタクローを見る。タクローは誰とも目を合わせないように、顔を伏せた。
この世界に来て初めてタクローが使った魔法『プロテクション・フィールド』。術者を守る魔法の壁は、この世界の新しい法則により大きな変化を体現した。
それは正にこの世界に一つの大きな波を生む。
既に帝国側に、その波による影響が生まれていた。
そう、これは正にバタフライ効果の如く、ルクセンドル大陸に大きな変化をもたらせ始めていたのだった。




