賢者の遺産
タクロー達は馬車から降りた後、近くの草むらでレジャーシートのような物の上に腰をおろしていた。
トリスとアルフは険しい顔で、タクローが渡した紙を眺めていた。
「アリーシャちゃん、あの模様なんなの?」
タクローの問いかけに、首を振る。
「この前も言ったけど、私は知らない。あと、いい加減ちゃん付けで子供扱いしないでほしい」
アリーシャは、以前からタクローに『ちゃん』付けしないよう言っていた。そして今回もそれを言う。
苦笑いで返事を返すと、真面目な顔でじっと見つめられた。
一方シンジ達は、タクローに送られた手紙の話でもちきりだ。
タクロー自身、全くもって理解できない内容だったが、仲間達、特にシンジはタクローが読んで聞かせてくれた内容を細かく分析しようと試みていた。
「タクローさんよ」
ふいに、トリスから声を掛けられ「はい!」と声を上げる。
「あんた、大変な物を手に入れてしまったなぁ……」
その言葉にシンジ達も反応して、いつしか全員がタクローを見る。
腕を組んで、アルフが首をかしげた。
「三大秘宝、『賢者の遺産』ですか……」
その言葉に、タクローは疑問を投げかける。
「賢者の遺産と呼ばれる物は……、ご存じないですね。まぁ、この刻印を知らないわけですから」
「アリーシャ、お前も知らないのは問題だがな……」
トリスが頭を抱える。
「賢者の遺産とは、かつてこの世界に実在した三人のヒトが残した知識や技術のことです」
アルフの『賢者の遺産』に関する、説明が始まる。タクロー達は、テイガが持たせてくれた弁当を頬張りながら、その話を聞く。
『賢者の遺産』、かつてこの世界には後世になって賢者と呼ばれる三人のヒトが居た。
一人はエルフであり、一人は人間。最後の一人は記録が少なく、どんな人種だったかは不明である。
一説には魔人種やはたまた悪魔種などと言う者達もいたと言う。だが、最初の二人も実のところ定かではなく、ただ最後の一人より若干情報量が多いだけだった。
そんな存在が同じ時代の同時期に存在し、現在に至る様々な技術や知識を残したとされている。
それを後世では、『賢者の遺産』と呼称するようになった。
マジックアクティベーターを始めとする、魔導機械などは全て『技の賢者』が作り上げた。
マジックアクティベーター内の魔法術式の構成並びに構築理論、はたまた生活に必要とされる生活魔法から戦闘魔法に至るまで、新しくまた効率の良い魔法を生み出したとされるのが『魔の賢者』だ。
世界の知識の水準を飛躍的に上げ、算式術(タクロー達の世界では計算の意味)や貨幣価値の見直し、また新しい貨幣の取り決めを作り、この世界に時間の概念や様々な単位などを取り決めたのが『知の賢者』であった。
彼等のおかげでこの大陸は、飛躍的な進歩を遂げたと言う。
町や村は統合し大きくなり、小国を作った。
モンスター対策のための知恵を授られ、人々はただ怯えるだけの日々から解放された。
生活様式も変わる。
魔石や魔導水晶を作り、生活するのに必要な物や生活していくのに便利な物を次々と発明した。
夜は松明の灯りから、魔石の光に変わる。
井戸から水を汲むことはなくなり、魔石からの魔法で水を得られるようにもなった。それだけではなく、一家に一つの浴場も持てるようになったのだ。
また生鮮食品を保存できる箱、空調機や洗濯する機械と、人々の暮らしは豊かになっていったのだ。
話を聞いていた、シンジは難しい顔で唸る。
「たった三人でそこまでの知識や技術を生み出すって、無理が無いか?」
アルフは頷く。
「そのとおりです。私達は、今は賢者達の築き上げた場所に立っているだけ。では、賢者達は何故その場所に至れたか。それは大きな謎に包まれているんです」
「タクローさんの鎧がもし、賢者の遺産だったらよぉ、なんで賢者はタクローさんを知っているんだ? って話になるよな。一説には、『賢者は未来を見ていた』っていう話もあるくらいだからそこら辺のところなのかもな」
タクロー以外の全員が深妙な面持ちで黙り込む。
一方のタクローは、食後の一服とばかりにタバコを吸っている。ふと、上を見ると広い青空が見えた。
「なぁ、なら賢者を探せば良いんじゃない?」
タクローのいつもの突拍子も無い言葉に、そこに居た全員が「はぁ?」という言葉を吐く。
「だって、三人の賢者の一人が鎧をあの武器屋に置いたと仮定すると、賢者は手紙以前に既に未来に干渉してる訳だろ? だったら、何らかの形で痕跡を残したりしてるんじゃない? なら、探せば俺達の目的の大きなヒントにならないか?」
シンジ、ミーナ、ヒカルは大きな溜め息をついた。
「いいか、アルフ氏の言葉を聞いてたのか? 記録が少ないんだぞ。であれば、それを探すのも容易じゃないだろ」
やや疲れたような口調になるシンジ。「お前はちゃんと話を聞いてたのか?」と最後に付け足す。
「だったら、俺への手紙。あのミスティック・アーマー・オリジンはどう説明する? 記録じゃない。俺は痕跡って言ったんだよ」
その言葉に全員が雷に打たれたような衝撃を受ける。
「大体、言い伝えとかみたいなやつや、他人の記憶による記録なんて大体紆余曲折するもんだぜ? だったら、そういうもんじゃなくこういったアイテムを調べてれば何か解るかもしれないぜ」
タクローは煙を吐きながら、宙を見る。
その場に居たメンバーはタクローの言葉に納得し、それぞれの思いを話し合った。
シンジは決断する。賢者の遺産と賢者に関わる情報を集めようと。
決断してその場で立ち上がったシンジの目に、異様な光景が映った。
シンジのスキル『遠見』が、遠方からこちらに近づく集団を捉える。
「なんかモンスターの群れかな? そいつらがお出ましなんだが」
シンジの言葉にアルフは直ぐさま、シンジの見ている方向に目をやる。懐に入れていた望遠鏡を出して覗き込む。
「ゴブリンの集団? オーガやトロールまで居る」
全員が立ち上がり、二人が見る方向に目をやる。
しかし狩人職でもなければ、裸眼で遠くを見ることは叶わない。
「なんで、こっちを目指してんだ?」
「最近、モンスターの動きが活発化しているって噂がありましたが、多分それが関係しているかと」
「いや、なんで、こっちを目指してるんですか?」
「ああ、彼等には既に私達のことを捉えているんでしょう。まぁ、我々は餌か何かなんでしょうね」
アルフは、休んでいた兵士達に号令を出す。途端に戦闘準備に入る兵士達。
「タクロー、食後の運動だってさ」
そう言ってシンジは、アイテムボックスから弓矢を取り出す。
「俺はこれを使おう。ヒカルちゃんも使う?」
ミーナは帝国兵の銃を取り出した。
「私は後方で支援します」
ヒカルはマジックアクティベーターを取り出した。そこにアリーシャが、自分もと続く。
「はいよ、タクローさん。鎧」
いつの間にかトリスがタクローの横に棺桶を立てる。
「はぁ……、食後の運動ねぇ」
溜め息混じりに、鎧を装着する。
かくして、モンスターとの団体戦が始まろうとしていた。




