深まる謎
朝食を終えて荷物を整えたタクロー達。とはいえ、全身鎧以外は全てアイテムボックスに詰め込むだけの簡単な作業だ。
全身鎧はトリスが持ってきた棺桶にきちんと組み立てた状態で収められる。
絵面的には、死んだ人が鎧をまとって入っているといった状態である。それを遅めにやって来たトリスが担いで、外に停められている馬車に詰め込む。
アルフ・フォルン・アレクを始めとする、アレク公爵配下の人間達が出立の準備を行うのをタクロー達とアリーシャ、トリスが眺めていた。
そこへ自警団のメンバーが、見送りにやって来る。
カインツはトリスの元に来て、これからの旅の無事とこれまでのことを名残惜しそうに話し出す。
トーニャとストラはアリーシャとハグをしていた。
ジュドはそれを遠くから見守っていた。彼は弟を失った悲しみから癒えてはおらず、ただただ寂しそうに眺めている。
トリスと一頻り話し終えた後、カインツはタクロー達の元にやって来た。
「あなた達には、本当に助けられた。私自身、命まで救ってもらって心から感謝している」
深々と頭を下げるカインツに、タクロー達は恐縮する。
「こちらこそ、色々助けてもらったんです。気にしないでください」
「ハハハ、アルフの奴も言ってましたが、本当に謙虚なんですね」
カインツの言葉に四人は顔を見合わせる。アルフ・フォルン・アレクは、曲がりなりにもこの町を含む領地の主の息子。
そんなアルフに対して、町の人は敬意を持って話をしていたが、カインツにその感じは無い。
「ああ、私は元、領主アレクの兵士長なんですよ」
そして、カインツは軽く笑い声を上げる。
「アルフが、小さい時から知ってましてね。まぁ、そんな訳です」
「カインツ、変な話はしないでくださいよ」
いつの間にか横で困った顔でをした、アルフが立つ。
「おお、アルフ。英雄殿達をちゃんとエスコートしてくれよ」
「解ってますよ、兵達も居るんですから、大丈夫です」
ニヤリと笑うと、「父上によろしくな」と告げて背を向けた。
アルフが準備が整ったことを皆に告げ、タクロー達とトリス達がそれぞれ馬車に乗り込む。
テイガとその娘ラトーナが、食事の後片付けを済ませて見送りに出てくる。
それだけではない、気がつけば町の人々も少しずつ見送りに出てきた。
アルフの号令で馬車が動き出す。そしてそれに合わせて兵士達も歩き出した。
町中を北に進む。
いつしか、見送る町の人々が増えていた。
時折感謝の言葉や、見送る言葉が贈られた。そして何度も『銀の魔法使い』という言葉が贈られた。
町の北門へとやって来た一行は、ファストの町から次の町へ旅立つ。
タクローが何気なく外を眺めると、北門の所で手を振る女の子の姿が見えた。
その子は先日タクローが弾丸を摘出した女の子だった。タクローが手を振り返すと、「ありがとう」と言っているように思われた。
馬車が町の外の道に出る。続くアレクの兵達も出終わると、門は閉ざされた。
澄み切った青空の下、馬車に揺られて移動するタクロー達。見る景色はどれも新鮮で、眺めていて飽きがこない。
そんな中、トリスが思い出したようにタクロー達に声を掛ける。
「そういや、武器屋の親父から預かりもんだ」
近くに居たシンジに、一つの茶色の封筒を渡す。
「ん? なにこれ?」
「鎧の出処を調べてもらったら、ソイツが出てきたんだとよ。だいぶ昔に鎧を武器屋に置いてった奴がいたらしい。なんでもそいつが、『完全に着こなせる奴に渡せ』とか言ってたってことが曾祖父さんの台帳だか日記だかに書いてあったんだと」
シンジは封筒を開ける。糊付けされてはおらず、簡単に中身が取り出せた。そしてそれは何も書かれていない紙切れが一枚。
「何だこれ?」
シンジは紙の表裏を見る。
なんにも書かれていないのを確認すると、次は日の光にかざしてみた。やはり、何も書かれていなかった。
タクローが「どれ」と手を差し出す。
封筒と一緒に受け取ったタクローは、封筒の中身と紙切れを確認する。やはり何も書かれていないと思ったその時だった。
紙を持つ手から不思議な熱を感じる。そして、紙を見ると青い光の文字が出てきた。タクローの横でそれを見ていたアリーシャが驚きの声を上げる。
「マナ感紙。しかも限定術式が織り込まれてる」
「まなかんし?」
タクローは首をかしげる。
シンジやミーナ、ヒカルの視線が紙に注がれる。
「有る特定のマナを感知して、文字や図柄を浮かび上がらせることのできる紙」
タクローにはいまいちピンとこなかったが、ミーナにな思い当たることがあった。
「俺達の世界で言うところの『熱感紙』みたいなものかな。多分……」
「ああ、レシートとかに使われてるアレか」
「昔はワープロとかに幅広く使われたんだけどね……」
やや遠い目をするミーナ。
「で、タクロー。なんて書いあんだ?」
シンジが近寄ると、タクローも紙に目を落とす。
「はぁ? 何だこれ!?」
タクローの反応に、馬車内に居た者達皆が紙に注目した。
しかしタクロー以外ただの光が浮かんでるようにしか見えず、文字が書かれているとは到底思えなかった。
「限定術式が、多分だけどこの紙は設定された人物にしか読めない仕様にさせているみたい」
横で紙が光り始めた時、アリーシャが感じたことを話すと誰もがタクローの顔を覗き込む。
黙り込んでいるタクローに業を煮やしたシンジは、「なんて書いてあるんだ?」と聞く。
シンジの顔を見て、暫くの間が空く。
「意味が解からん。いいか、読むぞ……」
タクローは紙に書かれていることを読み出す。
『親愛なる、鈴木拓郎様。これを読まれているということは、遂に魔導全身鎧ミスティック・アーマー・オリジンを手にされたのですね。これからの貴方の活躍を見ることは叶いませんが、きっと良い道を歩まれると信じております。夢と可能性の世界でその鎧は、貴方の良き力の一つとなります。どうぞ末永くご愛用いただきたく思います。 追伸:自身で抱え込むのも程々に、時には仲間を頼ってください』
全員が押し黙る。
「なんで俺の本名知ってんだ? コイツは」
トリスの話で、この手紙はかなり昔だと聞いたばかりだ。
だが、書かれている手紙の内容はタクローのことを完全に知っている誰かが書いた物だと思われる。その証拠は、出だしに書かれていたタクローの本名。
日本人の鈴木拓郎の名が書かれていたのだ。
トリスとアリーシャはやや蚊帳の外だが、タクロー達にとっては大問題だ。
「トリス、この手紙は鎧を持ち込んだ人物が置いていったんだよね?」
「あ、ああ……。そうらしいぜ」
タクロー達四人は腕を組んで、難しい顔で考え込む。
「そもそも、この鎧。ミスティック・アーマー・オリジン? は、タクローのために作られたってことだよな?」
シンジの言葉に、三人は頷く。
「ってことは、タクロー含む俺達があの町に来ることを予見、もしくは知っていたことになるな」
「俺は、その続きの一文が気になるね。『夢と可能性の世界』ってやつ。つまり、ここは俺達の居た世界と別だと知っている話じゃないか?」
「そうね、タクローさんの言う通りだと思う。そうじゃなきゃ、わざわざそんな下りは書かないもの」
唸り声を上げる四人に対して、アリーシャはトリスを見つめる。
アリーシャの視線に気がついて、顔を上げるとアリーシャは頷いて見せた。トリスは深い溜め息をついて、そのサインに返事を返した。
「っていうか、結局鎧の謎は深まるばかりだね……。でも、もしかしたらこれがなにかの鍵なのかも知れないよ?」
ミーナの言葉に三人は「なんで?」と返す。
「オリジン、意味は確か……起源とか始まり的な意味だったはず。であれば、この鎧から何かが繋がっていく気がするんだよね」
ミーナの言葉にタクローはふと、ある物の存在を思い出した。
「そうそう、鎧に印が入っていたのを見つけたんだった。銃創の一件で皆に言うの忘れてたけど、アリーシャちゃんとヒカルとで見つけたんだよね」
タクローはアイテムボックスから、一枚の紙を出した。
シンジ、ミーナがそれを見ても首をかしげるだけだったが、トリスは違った。馬車から身を乗り出し、大きな声でアルフを呼ぶ。
移動する隊列の戦闘を行くアルフは、自身が乗っている馬の速度を緩めて馬車に近づく。
「どうしたんだい? トリス」
「コイツを見ろ! あの鎧に刻印されていたらしい」
アルフは紙を手に取り、表情が固まった。
トリスに紙を返すと、急いで隊列の先頭へと馬を走らせる。そして隊列の移動を止めたのだった。
丁度昼になる時刻だったために、アルフはついでにそのまま昼の休憩を取るよう皆に指示を出したのだった。




