町の被害
タクローが帝国兵士達を全滅させた時間に遡る。
アリーシャとトリスと共に行動していた、自警団メンバーのである兎の獣人の女性ストラ・フィーアは独り、町の入口に走った。
仲間である自警団メンバーが戦っていたはずだからである。
彼等の状況は、ミーナ達から絶望的としか聞いていなかった。この目で確かめねばと、状況が落ち着いたのを見計らって飛び出した。
彼女が居た武器屋からは、さほど距離が離れていることはなく、直ぐにメンバーの元にたどり着く。そして、膝から崩れ落ちた。
そこに居た団長である、カインツ・カーバニ、ジュド・グラニス、ナッツ・グラニス、トーニャ・ベルハウの倒れた姿。その周りには人の残骸や、倒れている人々。
この光景は正に『絶望的』であるとしか言いようがない。
ストラは、力の抜けた体を奮い立たせてカインツの元に近づく。すると小さなうめき声が聞こえた。
これは奇跡だろうかと彼女は思った。そして直ぐにカインツに向けてマジックアクティベーター内の回復魔法を使用する。
だが、奇跡は彼だけではない。ジュド、トーニャも微かだが息がある。この二人にも回復魔法を使用した。
ストラからは、大粒の涙が溢れていた。
しかし、ナッツだけは助けることができなかった。
タクローの鎧の件で頭がやや疲れ気味のトリスが、宿屋から出た時には夕暮れとなっていた。
ふと、辺りを見回すとテイガを中心に町の人達が事後処理に追われている。狼の獣人であるトリスの鼻には、血の臭いの混じった風が冷たく吹いていた。
「こんな端っこの所に来たってのに、まだ帝国の影がチラつくのかよ……」
グルルと喉を唸らせ、空を睨みつける。そして、一息ついて武器屋へと歩き出した。
穴の空いた建物を補強するための、板を打ち付ける音がちらほら聞こえる。また、よく見ればそこらかしこに見知った軍服を着た者達が、町の人達と一緒に各種作業に当たっている。
「アレク公爵んトコの兵隊さん達か、遅いお着きだねぇ……」
フンと鼻息をつき、彼等を一瞥しながら歩く。
武器屋にたどり着くと、ちょうど武器屋の主人が後片付けに追われていた。「よぅ」と声を掛けると、向こうも「おお」と返す。
そして、そこに後から追ってきたシンジとミーナが合流した。
二人も武器屋の主人と軽い挨拶を交わすと、直ぐに本題に入った。
最初に鎧の扱いについてだが、料金についての質問に対しては「持っていってくれて構わない」という答えが返ってくる。
「アレは元々、俺の曾祖父様の遺品に混じってたやつだからなぁ。料金がどうのと聞かれても困る代物だよ」
その言葉に、トリス含めシンジ、ミーナは不可解そうな顔をする。
「おいおい、曾祖父様って一体どのくらい前の話だ?」
「あ~……、多分かれこれ百年以上は軽く経っているだろうな……」
「なんでそんな物が」とシンジ達が話していると、店の主人は苦笑いを浮かべる。そして、つい最近倉庫の地下室を整理していた時に出たものだと教えられた。
その時は厳重に保管される形であったようだが、整理していた際にいらない物として上の倉庫に出したと言う。
「今時分、全身鎧は売れないよ……。それに、あんな形の物見たこと無いしな」
肩を落とし気味に言う主人に対して、トリスは鎧の能力について説明する。そして、出処が知りたいと最後に付け足した。
腕を組んで、考え込んだ後「どこかに古い台帳が残っているはずだから、後で探してみる」と告げられる。
「とにかく、あいつはあんた等にやるよ。町を救ってくれたんだ、店はこんなになっちまったが、それでもこの町の大半を救ってくれたのには感謝しきれない。奴等の武器じゃ俺達はどうにもできなかった、あんな少人数にでも太刀打ちできなかったんだからな……」
悔しそうな、悲しそうな表情で武器屋の主人は町の入口の方に顔を向けた。
そして、「台帳は後で探してみる」と告げて後片付けに戻った。
トリスが「邪魔したな」と声を掛けて、シンジとミーナを連れて武器屋を後にしようとした。
「トリス!」
少し離れた所から、大きな声が聞こえる。トリス達三人が振り向くと、そこにはストラ・フィーアが荒く息をして立っていた。
「ストラじゃねぇか、どこに居たんだ?」
「馬鹿! 捜したんだよ!」
物凄い剣幕で近づくストラに、やや後ずさりするトリス。落ち着くようなだめると、彼女からはポロポロと涙が溢れる。
「ナッツが死んだわ……」
町の入口での状況は武器屋に逃げ込んだ際、簡単に聞いている。驚きはしなかった。「そうか」と寂しそうな目で答える。
シンジ、ミーナは掛ける言葉が見つからなかった。
「でもね、団長とジュド、トーニャは生きてるの!」
「なんだと!?」
「でも、全然回復魔法が効かないの。アンタ、戦いには詳しいんだから一緒に来て」
ストラに腕を掴まれ、トリスは引っ張られていく。そこにシンジもミーナも付いて行くことにした。
町の入口付近の一軒の家に入る。
日は完全に落ち、辺りを魔法石によるライトが照らしている。
家の中には布をあてがわれ、その布を赤く染め上げた人々が横たわっている。その数は二十七名で、老人から子供と様々な年齢層に及んでいた。
全員が帝国兵士の攻撃による被害者だ。
ストラの話では、もっと居たらしいのだが今生き残っているのはこの人数だと言う。
彼等に共通するのは、何故か回復魔法が効かないということだ。一時的には回復効果が出るものの、傷口は塞がらず皆衰弱してしまうと言う。
ちょうどやって来たアレク公爵の兵士達が、総出で回復役に当たってくれているおかげでなんとか持ちこたえてる感じだと、ストラは涙ながらに話した。
トリスはカインツの元に行き症状を見るが、「どうなってやがる」と言うに留まる。彼にもまったく原因が解らない。
その傷跡は切られたような物ではなく、体に小さな穴が空き、周りは少し火傷を起こしたように見える。
「じゅうそう……」
ミーナがつぶやくと、シンジが「それ言うなら、重傷でしょ」と険しい顔で頷く。
「違うよシンジくん。これ、銃創。銃弾による怪我だよ!!」
静かな部屋に、ミーナの大きな声が響く。一斉にミーナに視線が行く。
「そうか!! 銃弾が残ってるってことか!」
シンジも、大きな声を上げた。
周りの雰囲気など、気にせずに二人はどうするかについて話し合う。
「なんだ、なにか解るのか!?」と近づくトリスに、二人は「『外科医』は居るか?」と聞く。しかしトリスは「はぁ?」と返事を返すだけだった。
「タクローくんの突飛な発言って、ホント的を射ることが多くて驚くわ……」
ミーナが頭を抱え込む。あるとき、タクローがミーナと町を歩いた時に言った一言だ。
『なんか違和感あるなって、思ったら。この町に医者ってか病院無いよね?』
その時は適当に返していたが、その後に『魔法があるから、医者いらずか』と笑っていたことが思い出された。
「あの野郎の一言って、後でじわじわ来るから時々ムカつく……」
その話を聞いたシンジが複雑な表情を浮かべる。
「そうだ! タクローくんだ、彼なら、なんとかできるかも!!」
ミーナはふと、リアルで共に遊んだ時のことを思い出していた。
「シンジくん、タクローくんを呼んで来て、大至急!!」
困惑の表情を浮かべるシンジを急かすように、部屋から外に誘導する。訳も解らず、シンジはタクローの居る宿屋へ駆け出した。
「ミーナさんよ、一体どういうことだ?」
トリスもまた、困惑の表情を見せていた。
「彼、変な知識だけは豊富だからね……。なんてったって、サバゲーじゃぁ、リアルメディックだし……」
やや引きつった笑みで、全体を見渡すミーナ。トリスは腕を組んで、険しい顔で黙りこくった。
傷を負った人々は、何度も掛けられる回復魔法でも一向に良くなる兆しは無かった。




