鎧調査
白熱した鎧談議はとめどなく続く。
ラトーナが差し入れた食事を頬張りながらも、鎧を弄り回す四人。
そして遂にはそのギミックに着目することとなる。
兜にはボタンが二種類有った。
一つは鎧の魔法術式の起動、もう一つが着脱のためのものだ。
フルフェイスのヘルメットのように無理やりかぶるのではなく、実は兜が二つに割れて隙間を作り、容易に着脱可能になっている。
ミーナが驚いたのは、そのギミックが電磁石によるものだということだ。
魔法で擬似的に磁力を起こす無属性魔法『マグネイト』というのがある。ゲーム時代では、コレ自体が金属のモンスターにダメージを与えるものであったが、時代が進むに連れて生活のための魔法の一つになっていった。
それだけ磁力とは生活に無くてはならないもの。事実、地球世界で磁力は様々な用途に使用されている。電気で動く『モーター』はその代表といっても過言ではない。だがしかし、電磁石は別である。
電気を使用してオンとオフが可能なコレは地球世界においては既に当たり前の技術であるが、中世に毛が生えたようなこの世界においては行き過ぎた技術であるのは間違いない。
事実、地球世界で子供でも知っているようなことを、博識っぷりを見せているアリーシャは全く知らなかった。シンジもこれには流石に驚きを隠せない。
仕事がら世界を回る彼も、電磁石の技術は先進国では当たり前だが、発展途上国ではまず見ないからだという。
そもそも電磁石を見つけるきっかけが、ヒカルが発見した魔法術式だ。
低位魔法の『サンダー』とそれをある程度抑制する術式が至る所に散りばめられていたからだった。
アリーシャが、試しに自身のマジックアクティベーターを介して兜の術式を起動させた際に発見できたのだ。それだけではない、関節部分にも似た機構が見て取れる。
それこそ『アクチュエータ』と呼ばれる部品だ。
正に魔法世界で地球世界の現代技術のオンパレードといった風に、この鎧は作られていた。そして、話は何度も振り出しに戻る。
誰が、一体、どんな知識で作ったのか?
「全く、おかしなことだらけでよく解んないや」
「ほとんど私達の世界の技術じゃない……」
ヒカルとミーナは共に深い溜め息をつく。
こんな物を簡単に動かしていたタクローは何を思っていたのだろうかと、疑問に思いミーナは眠っている筈のタクローに視線を向ける。
そこにはかなり不機嫌そうな顔で、こちらを睨みつけるタクローが居た。
ミーナは驚きのあまり、声を上げる。その反応に、他のメンバーもタクローに目を向ける。そして、ミーナの声に驚いてトリスが飛び起きた。
鎧をほっぽり出してタクローへと駆け寄る。しかし当のタクローはというと、かなり不機嫌そうであった。
「頭が痛い……、吐き気と目眩が酷い……。酷い二日酔いみたいだ」
その言葉に男達は顔を見合わせたが、女性二人は心配そうに近づく。「どこか他に痛みはないか?」とか「もう少し横になったほうが良い」などと声を掛けた。
しかしタクローは仲間の心配を他所に何かを探す素振りを見せる。
ミーナが問いかけると、アイテムボックスを求めた。
鎧を外す際、身に着けていたアイテムボックスを外し、近くの机の上に置いていた。
それを手渡すと、中から一つの小瓶を取り出す。それはMP回復のための薬。それを一気に飲み干す。栄養ドリンク剤のような味にうまいとも不味いとも感じられなかった。
一息入れると、さらにもう一本飲み干す。
「ゲブッ」と一息はいて、タクローの顔色はみるみる内に良くなっていった。
「思ったとおりだ。MPがガッツリ減った時に感じた感覚が残ってたから、もしかしたらと思ったら、案の定って訳か」
タクローは一人、納得していた。しかしそれを見ていた仲間も、成る程と納得するのは先に聞いていたアリーシャの話に起因してる。
そこからは、タクローも交えて鎧の話に移行することになった。
だが、先に戦闘の話となったのはトリスが絡んできたからだ。
戦闘の際、タクローは敵の兵士に降伏勧告並びに撤退を促したのに、誰も反応を示さなかったことを話す。しかし、誰もが首を傾ける。それはタクローの声を誰も聞いていなかった、いや、正確には聞こえていなかったからだ。
タクローが戦闘を開始した際、皆が近くに居た。しかしタクローの警告を発する声を誰も聞いていない。
不思議に思ったタクローが兜に目を向けると、トリスも含めて皆が再度鎧に注目することになった。
タクローが寝ている間に見つけた、様々なギミックをミーナが説明する。
最初に話すべきことは着脱に関してだった。
タクローは装着する際苦労した話をした。そこへミーナが簡単に装着できるギミックの発見を講説する。鎧を繋ぐケーブルを繋いだ状態で、胸部ユニットにある術式を起動させると鎧が勝手に開く仕組みにっている。
しかし、それは内部にマナが充填されていなくてはならず、外すためのモノと考えられた。その説明を受けたタクローは、鎧の胸部に手を出す。
「このくぼみはなんだろう?」
一人首をかしげると、ヒカルが見つけた術式の説明をする。そして、「本来はここに何かユニットが組み込まれているはず」と言って話を終える。
皆がそのユニットについて考えるが思い浮かばなかった。
だが、アリーシャの何気ない一言「マジックアクティベーターは人工精霊石で使用可能にしている」の一言でタクローにある疑問が生まれる。
「マジックアクティベーター購入の時にも聞いたけど、人工精霊石って精霊石とは違うの?」
「人工精霊石は、精霊石を砕いて魔法水晶と混ぜた物。精霊石はあまりにも希少価値が高いから、少しでも多くの人がその恩恵を受けられるようにと、錬金術師達が生み出したの」
『精霊石』、ゲーム時代ではアクセサリーアイテムとして装備可能なそれは、実は素材アイテムとしても使える物だった。そのアイテムはMPの自動回復という効果が有った。だが、それは『超』の付くレアアイテムだったのだ。
その点は、この世界でも変わらないらしい。更にアリーシャの話では、この世界だと大気のマナを効率よく人に、またモノに還元できる代物とのことだった。
「なるほどね……」とタクローはアイテムボックスを探る。中から取り出したのは、虹色に輝く石。
アリーシャとトリスが、目を丸くして固まった。
それは正しく『精霊石』その物だったからだ。
「ん~……」と険しい顔で、鎧の胸部にあるくぼみと精霊石を睨みつけた後、精霊石をくぼみに充てがうとものの見事に填まった。
するとどうだろう? くぼみの周りにあった魔法術式が起動を開始するではないか。
一同が驚愕の声を上げる。
「ってことは……だ」
タクローは鎧を組み立て始める。
完全に組み上がると、ミーナの説明を受けたギミックの起動術式に触れる。すると、鎧は装備者を待ち構えるかの如く開いたのだ。
その様子をタクロー以外は、ポカンと見守るより術がなかった。
そしてタクローは再度、鎧を装着する。最初に起動した際、頭にまるで焼き付けられたかのように記憶させられた鎧の扱い方。
完全に装着が完了すると、兜内部に様々な言葉がHUDに表示されては消えていく。
完全に起動させるために、鎧は再度タクローのMPを吸い上げるも、精霊石の力により回復していった。
「すげーな、完全に鎧が使えるようになった訳か」
タクローは自身の体を動かすと、すこぶる調子が良いことを気づかされる。
先の戦闘の際は、鎧がただMPを吸い上げるだけで全く回復しなかった。しかし今回は全く違う。正に、本来の機能を発揮させているのだ。
「着るマジックアクティベーター……」
アリーシャのその言葉が、皆の頭の中で反復する。そして正にそうなのだろうと、納得するに至った。
タクローは何度も、ボディービルダーさながらのポージングをとっている。
鎧内部では、饒舌に話しをしているものの周りの反応は全く無い。
帝国兵士との戦闘の際にも感じた違和感が、再度襲ってくる。
タクローが原因について意識を向けると、ちょうど口の所である魔法が発動していることに気がついた。それは『サイレンス』、沈黙の魔法。何故、そんなものが発動してるのか不明であったが、コレを切ることでようやく仲間達と話ができるようになった。
そしてまた、鎧談議に戻り……、誰が作ったのかと堂々巡りをする。
「どっかに、製作者の印とか無いのかねぇ。俺は武器防具には五月蝿い分、そういうのはチェックするぜ?」
トリスの何気ない言葉で、仲間達がタクローの体、もとい鎧をくまなく探り出した。
「とりあえず、俺は武器屋の親父に聞いてきてやるよ。ってか、勝手に持ってきたんだからそれの代金関係も聞いてきてやる」
やや疲れた表情で、トリスが部屋を後にしていった。そして少し間を置いて、「出処が気になる!」とシンジとミーナが後に続く。
かくして、ヒカルとアリーシャが鎧に刻まれているであろう印か何かを探す羽目になったのだった。




