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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
第一章 異世界(ゲーム世界)転移
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転移

 異世界ヴァリヴラ。そこにあるルクセンドル大陸。


 大陸を二分するように存在する大国、ミーティアラ王国とアレクシア帝国。そして間に様々な小国が点在する形になっている。


 荒廃した大地が多いアレクシア帝国は、ルクセンドル大陸全土に対し宣戦布告し、肥沃な国土を広げるための侵略戦争を行っていた。しかし、この世界には人々を脅かす『モンスター』が存在する。

 モンスターはどこにでも存在し、人々を襲う。

 人々はモンスターの脅威に晒されながらも、ソレと戦いながら過ごしていた。そのために、アレクシア帝国の侵略もモンスターと各諸国を同時に相手にしなければならず、時間を要する戦いになっていた。


 剣と魔法が戦う上での基本となるこの世界。

 化石燃料は無く、機械となれば魔法の力で動く『魔導エンジン』というものを搭載した魔導機械文明が発展していた。しかし、魔導機械は極めて高価な代物故に、一般の人間が所持することはなく、主に国が所有、管理している。

 そのため、人々の暮らしは昔からあまり進歩することなく、馬車や徒歩といった移動手段が主になり、それぞれの町や村は基本的には自給自足となっている。

 魔導エンジンで動く列車や自動車が作られはしたものの、貴族階級の人間でなければそれらを利用することは困難である。


 かつて魔法は、『魔道士』や『魔法使い』と呼ばれる特定の者にしか扱えなかったこの世界であったが、ある時を境に誰でも魔法を使えるようになった。それに伴い、マジックアイテムの開発やそれまで既存とされていた魔法から新しい魔法の構築など、魔法文明は大きく進んでいくこととなっていった。


 近年では、マジックアイテムで詠唱することなく簡易に魔法が発動できるようになり、それに伴いモンスター等の戦いにおいても大きく様変わりしていく。しかし、魔法が誰でも使えるようになったのは、何も人だけではない。


 モンスターもまた、様々な魔法を行使できるようになっていた。しかし、幸いにも知性の低いモンスターは魔法が使えるようになったことに気がつくことはなく、偶然発動できるようになったモンスターの数は極めて少ない状態であり、よほど運が悪いような状況でもない限り、魔法の使えるモンスターに出会うのは稀な話である。


 このような世界で、様々な生活を送る人類。人と呼ばれるモノには、亜人種も含まれる。

 様々な獣が人の形になった獣人。背中から翼を生やした翼人。ドラゴンが人の形になった竜人や、トカゲが人の形になった蜥蜴人リザードマン。そして、エルフにドワーフなどの他種族がそれぞれに入り乱れて生活をしている。

 かつてはそれぞれの人種が個々で生活圏を持って生活していたが、時代が進むに連れそれぞれがそれぞれの生活圏に入り暮らすようになっていったのである。




 ルクセンドル大陸、ミーティアラ王国領外れの町の近くの草原。そこに、四人が寝転がっている。

 澄み渡る青空が広がり、大地には短く伸びた青々しい草が風に揺られ、たなびいている。吹き付ける風は四人に心地の良いものとなっていた。


 呆然と空を見上げていた四人。自分達が今まで居た場所ではないこの現状に、酷く混乱を覚えて思考が停止していた。


「なぁ、コレは夢か?」


 沈黙を破ったのは、ローブを身にまとっている男性。

 むくりと体を起こして、辺りを見回す。そこには、よく知る三人が奇怪な格好で寝転がっている。

 自分の格好にも目をやると、それもまた変な服を着ていた。


「ゲームしすぎて、寝落ちの夢?」


 軽鎧の男も起き上がり、周囲を見回す。


「ってか、なんでコスプレなの? 俺はコレ恥ずかしすぎなんですけど」


 女物であろう鎧をまとった、ややメタボ気味の中年男性。


「ってか、コレって最終戦装備じゃない?」


 やや露出の多い作りの神官服を着た女性が最後に体を起こす。

 彼等は自分達がつい今し方までプレイしていたゲームの格好をしていた。

 しかし、ゲームキャラとは異なり、自分達の本来の姿形でゲームの装備をまとっていたのだ。故に、襲い来る強烈な違和感がそれぞれに突き刺さる。彼等が事態を理解するべく動き出すのに長い時間を要することになったのは言うまでもない。


 自分達が居たはずの、自分達の部屋。

 それまで、プレイしていたゲームから急な意識の喪失と目覚めによる場所や格好によるギャップが、現実からあまりにもかけ離れて過ぎていたのだ。大きく混乱するのは至極当たり前。

 最初は夢だと決めつけて、頬をつねったりなどの自傷行為を行いはしたものの、一向に自分達の知る現実に戻ることはなく、また、他の人からの痛みですら現実に戻してくれることはなかった。


 途方に暮れる四人、しかし、時間は過ぎていくと言わんばかり周りの景色が少しずつ少しずつ変わっていく。空に輝く太陽は、次第に位置を変え、風や空気は温度を変化させていく。

 そして、四人の体にも空腹といった現象が訪れる。


「とりあえず、現状コレが夢だろうがなんだろうが、目が覚めないのはしょうがないと考えるしかな……」


 立ち上がって大騒ぎをした四人であったが、ローブを着た男は地面に腰を下ろす。


「さしあたって、コレからどうするかまずは考えてみませんか?」


 立ち上がっていた三人は、ローブの男に促される形で、地面に腰を下ろす。


「どうするったって、どうするよ? この状況は、まず何なのかよく解からんだろ?」

「そうだね、周りを見る感じだとあっちに町なのかな? 家みたいのが集まってる場所があるけど」

「景色を見る限りでは、見たことがない景色ですね。唯一、似てる感じなのは、北海道辺りかな?」


 それぞれが、腕を組んだりして現状の把握に尽力する。


「装備の確認ですが、衣装はゲームの衣装ですよね? ってことは、ゲーム世界ってことになるんですかね」

「ゲーム世界に飛び込みましたなんて、アニメや漫画じゃあるまいし……」


 しかし、四人は沈黙する。

 着替えた記憶もなく、着ているゲーム衣装。武器は持っていないものの身に着けているものは、アクセサリーに至っても細部まで作り込まれている。

 コレだけ凝ったコスチュームは買えばそうとう高額になるであろうと、四人は自分の格好を改めて見回す。


「どう考えても、この服おかしいですよね。手の込んだコスチュームだけど、俺はコスプレの趣味はないので、こんな衣装は持ってないですし」

「俺は少しコスプレはするけど、こんな体型だから露出の多めの女戦士の鎧なんて流石に駄目でしょ。ヒカルちゃんはともかく……」

「ちょっ、ミーナさん、エロい目禁止ですよ!」

「まぁ、俺もタクローも格好的には違和感無いから大丈夫だな」

「シンジのそれと違って、俺は動きづらくてかなわんよ」


 四人は、先程までゲームをそれぞれの自室でプレイしていた。

 タクロー、シンジ、ヒカル、ミーナ、彼等はそれぞれがゲームの格好をしたプレイヤー自身となっていたのだ。


「とりあえず、ここにいても埒が明かない。皆、あそこに見える町みたいな所に行ってみないか?」


 タクローの提案に、二人ほど険しい顔を見せる。女装をしたミーナと、露出の多めの服を着たヒカルだ。


「流石に恥ずかしいよ、この格好は」

「アタシも無理」


 シンジとタクローは顔を見合わせる。

 ゲーム世界であれば、アイテムボックスのアイコンをクリックすれば、アイテム一覧から身に着けている衣装や装備を変更できる。しかし、現実は違う。

 自分達が見ている視界にはアイコンも無く、ましてやクリックの行為はできない。

 困ったタクローは自分の身に着けているものを、くまなく調べるとそこには見覚えのあるモノが二つ腰に付いているのに気がつく。


「これ、アイテムボックスと金貨入れじゃないですかね?」


 タクローが腰から外して三人に見せる、三人も同様に腰にゲームでのアイテムボックスアイコンに似たこぶし大の小箱と布の巾着が付いている。


「こんな、小さい箱がアイテムボックス?」


 シンジは小箱を開けてみると、中は黒く底が見えない不可思議な空間があった。

 タクローは小箱に手を入れようとした。すると、箱の口に不思議な光の輪と記号が混ざり合う正に魔法陣と言えるモノが展開し、タクローの手はその魔法陣へと吸い込まれる。

 そして、タクローの脳に直接箱の中に収まってるアイテムのイメージが流れ込み、『コレが欲しい』と選んだモノが手に収まっている感覚があった。

 タクローは魔法陣から手を引き抜くと、その手には確かに回復アイテムである『ポーション』が握られていたのだった。


「コレ、四次元ポケットだ……」


 タクローの様子を見ていた三人は、目覚めた時と同様に言葉を失う。

 そして、三人は言葉を発することをせずにそれぞれの小箱に手を差し入れる。小箱どれもに、魔法陣が現れて手がソコに吸い込まれていく。

 困惑の表情を浮かべる三人が、もぞもぞと手を動かしアイテムを探る。

 一方のタクローは、もう一つあった、布の巾着の口を開けてみる。巾着の方も口を開けると、中は黒い空間だった。

 何も言わずに、タクローは手を差し入れるようとすると、小箱同様に魔法陣が現れ、手がソコに吸い込まれる。すると、コレも小箱同様に中に金貨がどれだけ入ってるかというイメージが頭の中に浮かんだのだ。


「こっちは、四次元財布ってところか……」


 ボソリとつぶやき、数枚の金貨を取り出す。金貨を見ると、様々な模様が描かれていた。


「これ、ゲーム通貨のレアル金貨か……?」


 金貨には模様以外に、文字もあった。しかし、タクロー達の知る日本語の文字でも英語の文字でもなく、ゲーム内で使われていた文字が書かれていた。

 だが、ゲームでよくある字幕の表示よろしく、何が書かれているのかについてはイメージとして読み取ることができたのだ。

 タクロー以外の三人は、アイテムを地面にぶちまけていた。


「全部、ゲームアイテムだね」


 ミーナはうなだれる。

 ソコには女戦士用の鎧が数種類出されていたのだ。

 中年男性の姿(現実の姿である)として、ここに居るミーナはゲームキャラの女戦士の装備しか持っていない。一方のヒカルは、多種にわたる神官服をアイテムボックスより出していた。


「私はとりあえず、露出少なめでなんとかなるかな」


 アクセサリーアイテムである、フード付きマントを身に着けると三人から少し離れる形を取り、マントに包まってもぞもぞと着替え始めた。


「ミーナさんは、俺の衣装を着てみてくださいよ」


 タクローは自分のアイテムボックスから、一枚のローブを差し出す。


「ゲーム内だと、装備制限あるけど……」


 そう言ってミーナはローブを受け取り、自分が身に着けていた鎧を脱ぎだす。鎧の下、下着も女ものであった。どんよりとした表情で、上半身の下着を外し、パンツ一枚になる。ソコには、女物の下着を着けた中年男性が立っていた。


「あからさまに、変態ですね」

「ちょっ、マジやめて。変な目で見ないで、俺にこんな趣味無いから」


 少し、泣きそうな顔をして慌ててタクローのローブに袖を通す。

 痩せ型のタクローに合わせた物なのだろう細い作りのローブは、やや太り気味のミーナには少し窮屈なものとなった。


「まぁ、着れるだけましかな」


 肩を落としつぶやくと、今まで脱いだ物やぶちまけた物をアイテムボックスに突っ込んだ。

 そうして、四人は改めて向かい合う。


 現状の確認は終わった、自分達の置かれている状況が未解明なら取る行動は極めて少ない。『停滞』という選択肢もあるのだが、状況が解らないのであればそれは愚行に等しい。

 であれば、選択肢の幅を広げるためにも歩いてみることこそが最良である。

 彼等は、それぞれが社会人として自分達の道を歩んでいる。だから、多少のトラブルに対しては自己で回避や打開できる。

 しかし、今の起きているトラブルは、全てにおいて常軌を逸している。だからこそ、四人で寄り添いながら歩みを進める。


 景色全体を見回しながら、自分達の状態を確かめながら、慎重に。        


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