届かない叫び
タクローが戦闘を開始してから数分後、シンジ達は帝国兵士が自分達から離れ始めたことに気がつき、動き出していた。
トリスが、武器屋の倉庫の扉を開いて中を確認する。
「荒れ放題だが、中には誰もいねぇな……」
巨体をなるべく小さく動かし、極力気配を殺している。シンジはハンターのスキルである『潜伏』を行使して全身鎧の戦闘を窺っていた。
「なら、アレがタクローで間違いないな。あの動きといい、戦い方もゲームの時と一緒だ……。自分を中心に敵を集めてやがる」
後ろからミーナとヒカル、アリーシャもその様子を物陰から観察する。
「町の外へ外へと誘導してるね。あの立ち回りのうまさはタクローくんそのものだよ」
「凄い、魔法の使い方が上手……。それに、あの鎧はまるで軍用のマジックアクティベーターと一緒で、攻撃魔法に特性付与魔法を付けてる」
「特性付与?」
アリーシャからもたらされた新しい情報に、シンジとミーナは目が点になる。
「特性付与とは、魔法攻撃に対して新しい特性を持たせること。通常のファイヤーボールでは、弾速がさほど早くない。だからタクローさんは弾速を上げる特性を与えて使用している。他にも様々特性をもたせられるらしいけど、私達の持っている一般的な物でソレを使うには人工精霊石の容量が足りない」
一同は改めてタクローを見る。
ファイヤーボールでのみ戦っているのに疑問を感じつつも、アリーシャの言葉同様タクローの放つ魔法は見たこともない速さをしていた。
「アリーシャちゃん、タクローくんのあの鎧がマジックアクティベーターと同じことをしているって思ってるの?」
ミーナの問いにアリーシャは無言で頷く。
だがミーナは、タクローがマジックアクティベーターを触れた時に使用不能にしたことを思い出す。
何故鎧は壊れず機能しているのか、その疑問をアリーシャにぶつけたが解らないと首を振った。
「しっかし、すげーなぁ……。あんだけ魔法行使して、容量不足にならねぇのかね?」
トリスは武器屋の倉庫から武器を引っ張り出しながら共にタクローに目をやる。
「あいつ、なんか焦ってる感がするな……。敵がバラけないように回り込みながら攻撃し始めてる。そのタイミングはもう少し、数を削ってからでもいいものなんだが…」
そうシンジが分析する。
そして、ソレは正解であった。
タクローは自身の魔力残量の減りが気になりだしていた。
消費の少ないファイヤーボールの魔法だが、特性付与の追加術式を展開しているせいで消費がやや多めになっている。
一発一発は微々たるものだが、ラピッドファイア(連射)をしているために大きく減り始めていた。しかし、ソレだけではない。
帝国兵士は攻撃を受けても、立ち上がりタクローに何度も攻撃を仕掛けてくる。
一人に対して何人倒されただろうか。しかし、彼等は仲間を見向きもしない。あまつさえ、動かなくなった仲間のマジックアクティベーターや回復薬を剥ぎ取り自身に惜しげもなく使用している。
それは、まるでゾンビのようにタクローには見えた。
「下がれよ! 無駄なんだよ! 死にたいのか!?」
タクローが叫ぶが、彼等には届いていない。そう、届いていないのだ。
タクローが発した声は兜から外には出ていなかった。だが、タクローはそのことに気がつかない。
何度も呼びかけるが、彼等の無反応さに段々腹が立ってきていた。
シンジは、タクローの意図に気がつき始めていた。
「アイツ、殺す気無いんだ。怪我をさせて、逃がそうとしてやがる……」
手にしていた弓を握りしめ、自分も参戦しようと考え始めた。
「でも、死人も出ているようだけど……」
ヒカルがようやく、弱々しい声を上げる。ミーナはそんなヒカルに苦笑いを見せた。
「あれは、タクローくんお得意のミスショットだよ。一緒にサバゲーしてた時もよくやるんだけど、動く相手にとっさに反応して間違ってヘッドショットを当てちゃってるんだ」
「あいつ、リアルでもやらかすんだ……。ゲームだけかと思ってた」
シンジとミーナはお互い苦笑いをする。そして、お互い「タクローはどこでもタクローだな」と感想をまとめた。
そんなさなかアリーシャは、マジックアクティベーターをタクローに向けていた。そして、異変に気がつく。
「タクローさんヤバいかもしれない」
アリーシャが使っていたのは分析の魔法。
そこに表示されていたタクローのステータスで、MPを示すゲージだけが異様な減りを見せている。
アリーシャの言葉に、一同は彼女の持つマジックアクティベーターを覗き込む。そして、シンジは悟る。焦りの原因の一つがコレであることに。
そして、意を決してシンジは参戦を決意して戦場へと赴くべく物陰から身を乗り出した。
時は少し、遡る。
シンジ達がタクローの戦闘を観察しながら、感想を述べ合っていた頃、オルスと部下たちは四人二組に分かれて全身鎧の後方、町の中心近くに来ていた。
分析役の部下が、再度全身鎧の様子を窺うといつの間にか仲間が町の出入り口近くまで押し戻されつつあった。
「野郎、弄んでやがる……」
全身鎧の動きは、仲間を回り込み一箇所に追い詰めるような形を取っているものの、急所を外して攻撃している。しかも厄介なのは、背後を取ろうとして動く者には容赦無く頭目掛けて魔法を当てていた。
「やっぱり、長期戦に持ち込むつもりなのか?」
やや焦り気味のオルスが背後から小声で質問する。
「間違いありませんぜ。あいつ、いつでも殺せますって具合で、少しずつ頭数減らしてやがる。その証拠に、回復して向かっていく奴に対して何度も急所外して攻撃してやがる……」
その言葉にオルスは、かつて自分達がアイン村でしてきたことを思い出していた。
まともな武器もない村人達に対して自分達がしてきたことを、今正に自分達がやられているのだ。
「くそったれ、とっとと終わらせちまうぞ。頭数が減ったら、それこそお終いだ!!」
オルスは、焦りと怒りで顔を歪める。道向かいの物陰に潜む、もう一組の仲間に合図を送るとグレネード片手に一斉に走り出そうとした。
その矢先、全身鎧の居る処より少し手前の物陰から一人、ゆっくりと弓を持って現れるのが見えた。服装から見ても、仲間ではないと判断したオルスは持っていたグレネードを銃と持ち替える。
仲間には突っ込むよう指示を出すと、自分は弓を持った男を狙い、引き金を引いた。
タクローは自身に向けられる幾つもの銃声を聞いていた。ふと、少し遠くからも一つの銃声が聞こえる。
何気にそちらに目を向けると、友人が倒れる姿が目に入る。
その友人に目もくれず、七人の男たちが爆発物を片手に走ってくる姿があったが、それには目もくれない。
全てがスローモーションのように見える。
倒れたのは、自分と歳が同じと解ってからはまるで古くから知る友人のようにお互い馬鹿を言い合ったりしていた奴だ。
そして倒れる友人にもう一人、友人が駆け寄ろうとしていた。いつも気がつくと隣でニコニコ笑っていた彼女。何かにつけてお節介をやくのが、たまに煩わしいと思っていた。そんな、彼女もなにかの衝撃を背中に受けたように曲がり、地面に倒れた。
遠くから、怒声が響く。それはもう一人の友人とこの世界で知り合った獣人だ。
その後ろには、やはりこの世界で知り合った可愛らしい女性。
「やめろーーーーー!!!!」
タクローは叫ぶ。だが、届かない。
友人達を撃った男は、爆発物を新たに駆け出してきた友人達目掛けて投げつけた。




