崩壊した都市
シンジが亜人の陣営に向かう一方で、タクロー達はスレイブ・オプナ入り口で息を潜めていた。
中世の古都を思い出させる様なその場所は、かつて石造りの家々が建ち並び、都市の到る所には木々が立っていた『名残り』だけがそこにはあった。
全てが焼かれ、瓦礫と化している。
木々は炭化して、無残に立ち並ぶ。
到る所から、未だ火の手が上がっていた。
アチコチからは焼け焦げる臭いが立ち上っている。中には、ヒトだったモノが炭化してブスブスと音を立て、強烈な臭いを発している。
「すげぇな……。コレはヒデェ……」
タクローが表情を歪めて、周囲を窺う。
瓦礫の隙間から、都市の中央部がかすかに見える。そして、そこには灼熱に彩られた真っ赤な鱗の巨大な物体が陣取っているかの様に見えた。
直ぐにでも、ソコにいるであろうドラゴンへ殴り掛かりたい衝動を抑えて、タクローはミスティックアーマー・ファイターのHUDに表示されている画像を見る。
「タクローさん、とりあえず少人数で都市に入り、助けられる奴らを探さないか?」
トリスが小声でタクローの耳元に話しかける。
「良いけど、トリスはこの臭いの中で大丈夫か?」
タクローは一式トランスポーターから出た際、兜を装着していなかった。
都市から立ち込める様々なモノが焼ける臭いに、たまらず兜を被らずには居られない程だった。
その他のメンバーも未だ一式トランスポーターに引きこもり、魔導レーダーなどで周囲の状況を確認している。
現在、外に居るのはタクローとトリスのみである。
いざとなれば、メンバーも共に都市に入る事にはなっているが、それまでは臭気を避けるために一式トランスポーターに籠もっていると言う話である。
不意に魔導通信機から、アリーシャの声がする。
「トリスは、特殊なニオイを嗅ぎ分けられる分、他の香りを嗅ぎ分けられない。本来、私達が嗅ぎ分けている香りは彼には全く解らないわ」
アリーシャの言葉を受けて、タクローはトリスを見つめる。
「ん? ああ、そういや言ってなかったか……。そうだ、能力の代償らしいぞ……。エルフの集落の婆さんも目が見えないからマナが見える訳だろう? お姫さんもそうだ、色がどうたらって言っていたから、おそらくあの姫さんは、本来の色が見えないはずだ……」
「だから、センターの下水道で平気に動き回っていたのか……」
皆が臭気に晒され不快感を露わにしていた時、トリスは一人平然としていた。ただ、あの時はアンデットが出す『死』のニオイに翻弄されていたため、表情を歪めていたに過ぎない。
犬やましてや狼は、本来鼻が利くで有名な動物だ。
その獣人たるトリスもまた、鼻が利くとタクローは思っていた。実際、特殊なニオイを嗅ぎ分けられるという意味では鼻が利くと言えるが、本来誰もが感じる匂いを嗅ぎ分けられないと言うのはどうなのだろうかと、タクローは考える。
そんなタクローの気持ちをトリスは察した。
「なぁに、生まれつきだからな……。逆に本来の香りってやつは解らんから、苦労しないぜ」
そう言ってトリスはタクローの肩に手を置いて、ニコリと笑った。
トリスの体質を完全に理解したタクローは、二人で都市部に潜入する事を提案する。
ひどい臭気の中で動いた場合、仲間を危険に晒すリスクが高いとタクローは判断した。だが、トリスは自身で危険を察知出来るだけではなく、生存者も立ち込める臭気に関係なく嗅ぎ分けることが可能であるからだ。
理由の説明を受けたメンバーから、納得した返事を聞き、タクローとトリスは都市部へと入っていった。
都市スレイブ・オプナ内部は正に壊滅的と言って相違無い。
家は半壊から全壊に至るまで、バリエーションが豊かであった。強い炎に巻かれたのであろう、木造部分は炭化し、ほんの少し触れただけで倒壊する家も多々ある。
そんな中でヒトが生き残っているなど、到底思えやしなかった。
都市の中心部に近づくと、巨大なドラゴンが寝息を立てていた。
面長な正に『ドラゴン』と言った顔に付いている目は、完全に閉じられている。
あまり物音を立てないよう、タクローとトリスは慎重に行動するのだった。




