セレス兵対亜人達
リッドミルの街北の平地にセレス侯爵兵達と、亜人の戦士たちが睨み合う形になった。
亜人代表として、狼の獣人ライアン・オーコネルと虎の獣人ラーガー・トゥースがセレス侯爵の元に開戦の使者としてやって来た。
彼らの主張は、領地の一部提供を求めたものであった。
当初亜人達は、リッドミルの街を丸々欲したのだが、ライアンがそれを押しとどまらせた。それは、彼なりに考えた話し合いでの解決策を模索した結果だ。
だが領主であるレイラルド・ガイガス・セレス侯爵は、彼らの求めをキッパリと断る。
それには大きな理由があった。
本来レイラルドもまた、話し合いでの解決を望んだが、彼らが欲した場所はセレス領の食糧事情を支える場所であった為だ。おまけに、そこは一つの町も含まれている。そこに住む人達はあまりにも多く、リッドミルの街や領内の町や村でも受け入れられる人数ではなかったのである。
戦いで勝ち取ることを余儀なくされた亜人達は、正式に宣戦布告と共に二人の獣人が自分達の陣営に戻る。
宣戦布告を受けても尚、リリーアは穏便な解決策を模索しているが、依然解決策を見出だせないまま、両陣営が戦闘態勢に移行した。
「さてと、始まっちゃいましたな……」
シンジは、物見台から見物を決め込んでいる。その隣にはセルヴィナが立ち、二人の後ろのはリリーアが頭を抱えていた。
「シンジ殿には良い案は無いのですか?」
「いい案ねぇ……。まぁ、北の領地五分の一でしょ? あげちゃえば良いと思うけど、それじゃ農作物や家畜関係がって話になるんでしょう? おまけに、それを管理する町丸っととなるとねぇ……」
シンジは腕を組んで、険しい顔になる。
「生産拠点の移転は時間が掛かるし、おまけに人の移動まで必要となれば直ぐに返事出来る案件じゃないなぁ……。せめて猶予を貰えれば、どうにでも成るんだけど……」
「彼等の話では、かなりひっ迫した様子でしたね」
「ああ、セレス侯爵が『無理だ』と言ったら、『じゃあ戦争だ』ってなってしまったからね……」
「では、これからはどうしたら良いと思いますか?」
「う~ん……、双方の被害は最小限に、亜人サイドには負けを認めさせて下がってもらえる様にしたい所だな……」
「最小限……」
「実際難しいと思うよ。向こうさんは結構切羽詰まってる様子だし、おまけに欲しいのは食料と言うより、町なんじゃないかな?」
「町?」
「ああ、彼らは言わなかったけど見るからに文明水準が人間より低い生活を送ってるような装備だったし……」
「そうでしたか?」
「そうだよ、狼の獣人の彼……、ライアン・オーコネルって言ったっけ? 彼の身なりとトリスの身なりを比較してみてご覧」
シンジの言葉にセルヴィナは目を閉じて、二人を比較する。
だが、一番最初にまず思い浮かんだのは二人の体型の違いだ。トリスは、狼の獣人と言われてもピンと来ない体型である。ぱっと見た感じは『熊』だ。
だが、服装を比べると一目瞭然である。
トリスは魔法の効果が付与された一般的な服装であったが、一方のライアンは着古した様な服装に金属が多めに使われた軽鎧を装備していた。
戦闘を行うのであるから、ライアンの格好は当たり前だと思ったが、シンジに改めて言われると、『古臭い格好』だと言える。
現在の人間の戦闘服は、セルヴィナが着ている魔法効果が付与された普段着とも取れる服装で、軽鎧は金属繊維で織られたジャケットに似た物で、軽くて動きやすい。
一方のライアンは、正しく『鎧』と言った古典的な物であった。
「確かに、シンジ殿の言う通りだ。確かに彼らの格好は古臭い……」
「それだけじゃないぜ、使者の二人共ルーン武器を装備していた」
「ルーン武器!?」
「現在の武器事情は、魔石とかで魔法効果を付与された武器が一般的だろう? でも、彼らはルーン文字を彫り込んで魔法効果を付与された武器だったぞ」
「そこまで見ていたのか!?」
「ん? ああ、仕事上の癖でね……、相手の格好とか容姿とか持ち物とかついつい観察しちゃうんだよね……」
「異世界の職業だったか? 主様が『びじねすまん』だとか言っていた……」
「んー……、そうだね。正確には営業だね。物の売り買いの交渉をする仕事だよ」
「シンジ殿は、商人なのか?」
「あ、そうそう、商人のお使いみたいなもんだね。それを、国や都市に売り込んだり、大手企業……ここじゃ、大きな工房みたいな場所から買い付けたりする仕事だよ」
セルヴィナは引きつった笑顔で、シンジを見る。
二人がそんな話をしていると、遂に戦端が開かれた。
亜人の軍勢は三万強が居て、前衛として一万数千が一気にセレス兵達に襲い掛かる。一方のセレス兵は当初確認されていた敵兵の数より少ない数が現れた為、伏兵を警戒して動けないでいた。
迎え撃つセレス兵は二万弱であった。
近隣からの支援は間に合わなかったのである。
陣頭指揮は、ニビラルが取る事となり、レイラルドは最後方となる自身の邸宅で事の次第を見守る形となった。
それには訳がある。
レイラルドもまた、シンジ同様に使者として現れた二人の獣人の装備に着目していた。彼らの文化レベルの低い装備が、これからの戦闘で自陣が有利であると考えたからであった。
最先端技術の結晶が埋め込まれたマジックアクティベーターと、最新モデルの魔法武具をセレス兵は装備しているからだ。
本来はモンスター戦闘を想定しての事だが、装備している物の技術レベルの優劣が解ってしまえば、何とか勝利出来るとレイラルドは考えたのである。
無論、完全に被害を受けない訳ではないが、それでも亜人達を退ける事が可能と踏んだが故に、戦争を受け入れたのだった。




