迷う者、逃げる者
朝の一件を終えたタクロー達は、ようやくリリーア達と合流する為に動く。
2日程出遅れた形になってしまった為、一路西へ一式トランスポーターを走らせた。本来の道から外れているため、時間が掛かるとリリーアから聞かされていた為、道なき道に土煙を上げて走行していた。
昼になり車を停め、昼食を終えた頃だった。
タクローがふと疑問に思った事を口にした。
「所で、これから行く場所って誰か知ってるの?」
全員が顔を見合わせる。
「お姫様の話だと、魔導車の通行路を西に真っ直ぐだよね?」
「うん、私もそう聞いたけど……」
ミーナとヒカルが顔を見合わせ、首を傾げる。
「ちょっと待て、俺とアリーシャは知らないぞ。元々『こちら側』の人じゃねぇから……」
「私達は現在は帝国の領地となっている、東側の者。西側は把握してない……」
タクローはイツキ達を見ると、彼女達は無言で首を横に振る。
「走り出してから、かれこれ三時間近く……。この停車位置もそうだが、何処に道があるんだろ?」
運転を担当していたミーナが、苦笑いを浮かべる。
「あ、あはは……。西側にひたすら走れば道が見えるかと思ったんだけど……」
タクローは大きくため息を吐く。
一式トランスポーターに設けられた窓から見える景色は、むき出しの大地とアチラコチラに見え隠れする木々と草花。
「迷ったんじゃない?」
「まさかぁ?」
「ミーナさん、途中で進路をアチコチ変えてたよね?」
「……」
ミーナはタクローから目線をそらした。
リッドミルの街への行き方を知るものはここには居ない。
リリーアとセルヴィナは先にリッドミルの街に行ってしまっている。どちらかに残ってもらえばこんな事態にはならなかった。
『後悔先に立たず』とはよく言ったもので、今が正にそのときであった。
風景を見渡しても、誰も現在位置を把握できない。おまけに、舗装されて居る道にすらたどり着けないのだ。
イツキ達を含む全員が、深い溜め息を吐く。
「カーナビさえ有れば……」
タクローがボソリと漏らすと、ヒカルがため息を吐いた。
「そしたら余計道を覚えないでしょ。まぁ、自分が関わってる仕事だからこんな事は言っちゃ駄目なんだけど……。初期段階は、簡易地図とまともじゃないGPS精度だったから、補佐的な物だったカーナビも、今じゃ自分で考えて最適なルート算出と、到着予想時刻計算が出来るようになったせいで、カーナビに頼り切りになって、道を覚えなくなった人が結構多いらしいわよ……」
「ああ……、なんとなく解るかも……」
「便利さを追求した結果、考えたり覚える事を放棄させてる気がするって、私は思うわ……」
タクローとミーナは「確かに」と口を揃えた。
「で、アリーシャとトリスはこの土地勘が無い。タクローさんとミーナさんも土地勘が無いと……。じゃぁ、現在地を知る方法は皆無……。なら、方位が解ったらどうかな?」
「方位かぁ……。西側にまっすぐって話だっけ?」
「そう」
「でも、ミーナさんが右往左往してたぜ、文字通り……」
「あはは……」
タクローとミーナ、ヒカルは深い溜め息を吐く。
「方位が解れば、少しはましなの?」
アリーシャはヒカルに声を掛ける。
「まぁ、解れば……ね」
「なら、現在地の割り出しと方位なら少しは出来る」
そう言うとアリーシャは一式トランスポーターから外に出た。それに続く形で全員が外に出る。
「時計を使う」
アリーシャは胸元から取り出したのは、懐中時計だ。
この世界で今の時代、時間を知る方法で最もポピュラーなのは、マジックアクティベーターによる時間表示だ。だが、アリーシャは何故か肌身離さず懐中時計を所持していた。
「短針を太陽に向けて、長針との間が南……だから、この一式トランスポーターのタイヤ痕から見ると、私達は北を目指している事になる……」
「え!? 北? ちょっと、ミーナさん!?」
ヒカルがミーナを睨むと、「あれ? おっかしいなぁ」とミーナは周囲を見回す。
「西はあっち」
アリーシャが指差すと方には、小高い山と森が見える。
「あっち!?」
アリーシャは無言で頷く。
こうして、進路が見直されタクロー達はアリーシャが指定した場所へと一式トランスポーターを走らせたのだっった。
森の中を数名の亜人達が走る。
数種類のモンスターに追われていた。
息を切らして走るドワーフの青年とエルフの女性。ドワーフは足が短いせいで、走るには不向きな体型である。エルフは体力が少ないせいで、短距離は早いが長距離は走るのが困難である。
未だ体力に余裕が有るのは、獣人達だ。猫、獅子、豚と、狼の獣人。こちらは全員が女性だ。
「リアナ、ドワーフの彼が遅れてるわ急ぎすぎよ!」
猫の獣人女性に声を掛けられ、先頭を行く狼の獣人の少女、リアナ・オーコネルは足を止めて後方に目をやる。
「やっぱり、私が殿を務めます。皆さんは先に行って下さい!」
リアナの言葉に、他の獣人女性達が顔を見合わせる。そんな様子を構うこと無く、リアナは来た道を戻る。両手にはナイフが一本ずつ握られていた。
「ザックさん、シャリーンさん、大丈夫!?」
リアナは息を切らして遅れる、ドワーフとエルフを気遣う。
二人からは、謝罪の言葉を送られたが、リアナはニコリと笑って返事とした。
「先に行って下さい。兄さん仕込みのナイフ術で、私が殿を務めますから!」
リアナはそう言って、モンスターが向かってくる方に向かって走り出した。
再び謝罪の言葉が背中に投げかけられる。
少し離れた位置まで来ると、すぐ目の前にゴブリン数体とスライムやらローパーなどと対峙する形になった。
「何で、何でこんな事に……。兄さん……」
リアナは兄がいるであろう方向である、西南方向に目をやる。
リアナが朝、外の井戸で水を汲んでいる時だ、北の空に火柱が見えた。
彼女の居る都市、スレイブ・オプナは現在代表が不在と成っている為、代理人となっている代表の夫人に話をする為、彼等が住まう屋敷に駆け込む。
早朝の為、代表夫人は未だ就寝中であったが、扉を強く叩き、文字通り叩き起こす形になった。
代表であるガンガイガ・ニーズベル同様に竜人である妻、レネール・ニーズベルはリアナの呼び掛けに応えて、扉を開く。
リアナから話を聞くと、彼女もまた外に出て北の空を見た。だが、リアナが見た火柱は見えなかった。それとは別に、空に一つの影が見える。それは次第に、大きくなってレネールとリアナの目に映った。
何かが、近づいてきている。
二人は目を凝らすと、影は紛れもなくドラゴンと解る物だった。
ドラゴンは低位から上位に至るまで、多種多様に居る。
ワイバーンもドラゴン種である。
かつて『ドラゴンライダー』と呼ばれる職種があり、人がスモールドラゴンに乗っていたのも、確かにドラゴンである。
しかし、二人の目に映るドラゴンは小さいものではない。
影が見る見る内に大きくなり、一個の村と呼ばれるほどの大きさとなって、スレイブ・オプナ上空に現れた。
危険を察知したレネールは、声を大きく上げて危険を知らせた。
竜人の祖先はドラゴンが魔法で人型に成ったと言われるくらいに、咆哮じみた声は都市の中心部に響き渡る。
危機管理担当と成っている者達が飛び起き、都市に到るところに設置されている半鐘を鳴らして、住民に危険を知らせた。
何事かと家から飛び出した住民達は、一人、また一人と北の空に釘付けになった。
影はあっという間に大きくなり、都市四分の一の大きさが上空に現れる。
そして、都市の大地に降り立つと、近場に偶々立っていた獣人をパクリと食らう。
その瞬間、大きな悲鳴が上がった。
亜人達は、逃げ惑いスレイブ・オプナを捨てるように、外へと走り出したのだった。




