現行品と試作品
山間から朝日が射すと、一式トランスポーターが照らし出された。
8月も半ばとなり、暑かった昼とは違って夜は少し肌寒いと感じる。シンジ曰く、『大気が汚染されていないから、温暖化とは無縁なのだろう』と言う言葉が、誰よりも早く起きたヒカルの脳裏を過る。
全員が未だ寝ている。
タクローとトリスは、一式トランスポーター内の床に厚手の布を敷いていた。空調が使えない訳ではないが、二人は『冷たい床が心地良い』と言って床を選んだ。ミーナは運転席と助手席を跨ぐように横になっている。
アリーシャと、オペレーター役として残ったイツキ、サツキ、シズクはソファーや椅子などで思い思い寝ていた。
ヒカルはというと、モニターの有る中二階の床で横になっていた。
長期戦闘に備えて、簡易の水回りを備えている一式トランスポーター。電車や飛行機に備わっている様な小さなトイレと洗面所が有る。おまけに、ほぼタクロー専用と化している小さなシャワールームも完備している。それは、ミスティックアーマー・ファイターが有る部屋に全て集約されていた。
そこには小さなロッカーがあり、中にはタクローが着る特殊なインナースーツも入っている。MPの伝達をより良く流す為に魔導伝達金属を繊維状にして、伸縮性にとんだ布に織り込まれている。実際戦闘時に着ることは少ないが、ミスティック・アーマーの起動試験時に着ていた物が収められているのだ。
現在のミスティックアーマー・ファイターは正式採用モデルである為、このインナースーツでデータを取ってから使用している。
実は、もう一つミスティックアーマー・ファイターがこの世には存在する。
それは、現行の鎧が置かれているケースの背中合わせに置かれていた。
180度回転して、それが露わになる。
ヒカルは、ミスティックアーマー・ファイターのケースの開閉スイッチ付近に隠されたもう一つのスイッチを押す。
ケースはクルリと回転して、もう一つのミスティックアーマー・ファイターが現れた。
現行モデルよりも、ややゴツい作りになっているソレは、タクローとミーナが思いつく限りの装備を持たせている為、大柄になってしまったのだ。
『対〇〇装備が欲しい!』や『〇〇の攻撃耐性を上げたい!』などの攻防一体型の作りであったが、大きくなれば重量が上がり、動きが鈍くなってしまう。
ファイターのコンセプトは、縦横無尽に動き回れる鎧となっている為、これはかなり的はずれな規格となってしまっているのだ。だが、作ってしまった。
むしろ、コレが最初に作られたファイターなのだ。
名は『ミスティックアーマー・プロト・ファイター』と付けられたが、実際これまで日の目を見ることはなかった。何故なら、作り直した現行モデルをタクローが気に入ったからである。
基本的に、両者共にモンスター戦闘を想定して作られているが、現行モデルは対人戦闘にも有効である。
ヒカルはアンデット化したプレイヤーキャラクターとの戦闘風景を思い出していた。
「やっぱり、現行モデルの方が断然動けるわね。アンタが起きる事はあるのかしらねぇ……」
ため息を吐いて、笑った。
実働試験も何もしていない未知数の鎧。おまけに、未だ解明もされていない上に使う事も出来ない『ワイズマン・レコード』と言う魔法術式を内部に書き込まれている。
ほぼ、ミスティック・アーマー・オリジンからのコピー品に近い部分を多く有したこの鎧は、『オリジン』に次いだ『ナイト』同様に使用できる魔法の数は少なかった。
現行モデルは使用用途不明な『ワイズマン・レコード』を無くし、これによって得た容量を多種の魔法に分散できる術式を書き込まれていた。
飛翔機能は、現行モデルと同等に採用されている。だがこれは、プロト・ファイターで試作したシステムをそのまま採用した形であるため、こちらの方が先と言える。
だが、これもどう作動するのか全く解らない状態であった。
ヒカルはミスティックボードを操作して、鎧の状態を調べる。
現行モデルは一式トランスポーター内のモニターでチェック出来るが、プロト・ファイターはそれが出来ないからだ。
有事の際、もしくは現行ファイターが壊れた際にはこちらにフェアリーストーンを移植して起動出来る様に、メンテナンスは欠かせない。
これは、ヒカルにとってはある意味日課になってき始めていた。
「ん? んん!?」
ミスティックボードに、小さな異常を現す魔法術式という名のコード表記が現れた。
「おっかしいな……、昨日は何ともなかったじゃない……。何で?」
ヒカルはミスティックボードを操作し、異常箇所を調べる。
「内部の……、中心点……。コア装着部付近……、え!!?」
ヒカルはミスティックボードを手近な場所に置くと、鎧のケースを開く。
ダイレクトに異常箇所を調べるため、胸部アウタースキンを外した。
インナースキンの胸元に、鎧のエネルギー核たるフェアリーストーンが収まる場所。その中に刻まれた賢者の紋章、『ワイズマン・レコード』が淡い光を放っていた。
「何かに反応してる!?」
直感がヒカルの中に電撃のように、一つの答えを導かせた。
直ぐ様ミスティックボードを手に取ると、マナの流れとそれに付随する鎧の反応数値を調べる。
「近い? でも、このトラックから周りに何も無いし……上は……空よね? ……地下?」
ヒカルはかつての都市、レパスの風景を思い出す。
「水の都で、四段の階段状になった都市構造……。景色は綺麗だったなぁ……。まぁ、グラフィックがちゃんと作られてるって話か……。クリエイターさんが凄いって話ね……」
ブツブツと独り言を言いながら、次第に目的を見失い、脱線し始める。
「イカンイカン、えっと、何か重要な……イベントに関わる何かなかったっけ?」
「水神の聖杯か?」
「ああ、それそれ! って……うわぁ!!?」
急に声を掛けられ、ヒカルは驚いた声を上げる。
「なんだよ?」
寝起きで不機嫌そうなタクローが立っていた。
軽いため息と共に、「はよ」と朝の挨拶をすると隣に有る洗面所に向かう。そして、顔を洗った。
「びっくりした……。考え事中に、背後に立たないでよ……」
「仕方ないだろう、コイツはキャンピングトレーラーと違ってめちゃめちゃ狭いんだから……」
その言葉に、「それもそうだけど……」と仕方なく納得するしか無かった。
「で? 何かあったのか?」
「この子に刻んだ、ワイズマン・レコードが反応してるのよ。今まで、こんな事なかったのに……」
「何に反応してるんだ?」
「多分、同じモノに共鳴してる感じね……」
「共鳴?」
「うん、地下に何か有るのかも。周囲から、何らかの信号を拾ってる反応値が出てる」
「この、紋章から?」
「いえ、鎧から……、と言った方が良いかも……」
タクローは苦笑いをする。
「待てよ、俺が着てもいない上に、コイツには動力もついていないんだぜ? 一体どこからMPを?」
「あれ? 鎧はどれも微弱ながらMPを持っているって言わなかったっけ? ミーナさんからも聞いてない?」
「聞いてません」
「魔導伝達金属と魔石が大気中のマナに反応して、ものすごく微力ながらMPを保持する形を取ってるみたいよ。オリジンから、それは観測されてるよ?」
「まじか?」
「まじまじ。でも、何の役にも立たないからねぇ……」
「それが、今は……」
「みたいですな」
タクローはヒカルの話を受けて、腕を組み唸り声を上げて考える仕草を見せる。
「まだ、朝も早いし、朝食前に軽く調べて見るか?」
「皆は?」
「まだ、寝てるな」
ヒカルはニッコリと笑い、タクローの提案に賛成の意を示した。
こうして二人は、早朝の散歩がてら下の階層を調べる事にする。
事前調査で、周囲にはモンスターは一切存在しない。最下層も、イベント戦で一掃されていた。
タクローは普段着で外に出る。それに、ヒカルも続くのだった。




