タクロー魔法使用禁止令
図書館に通い始めて三日目。
シンジは魔法関係の本を読んでいた。カインツと出会った際、彼が口にした言葉『次元回廊』というワードを探すためだ。
広辞苑のような厚さの魔法の種類などが書かれた本を数冊、机に重ねて険しい顔で睨めっこしていた。
ヒカルは、魔法を構成するための術式に関する本を読んでいた。
「これ、入門書みたいだけど面白いなぁ。魔法を使うための術式は、一種のプログラミング言語に似てるのね。ルーン文字が一つの命令形をなして、ソコにまた別の文字を組み合わせてやる感じか……」
「ここをこうすると……こうなるのか……」ブツブツと言いながら、読みふけるヒカル。
タクローもまた、魔法に関する本を読んで眉間にしわを寄せていた。「どうしたの?」とミーナがタクローに近寄ると、読んでいた本のあるページをミーナに渡す。
「ここに来て最初の日、俺もヒカルも詠唱魔法を使ったじゃないですか。あれ、偶然発動したからいいものの、下手すると発動しなかったかも知れないって話が書いてあるんですよ」
「これ? 『マナ』によるスペルジャミングって、やつ?」
「そう。地上には、あちこちにマナが濃い所、『マナスポット』があって、ソコでは詠唱による魔法は発動されないって記述っすよ……」
ミーナがタクローから渡された本を読み進めると、そこには詠唱魔法に対してボロクソともいえるような内容が書かれている。
大気中に有るマナは、魔法を構成するための要素とされ、人が体内にマナを取り込むとゆっくりではあるが、魔法を発現させるための力として体内に蓄積される。
魔法を行使するのは、体内にあるマナが人の思念に反応して発動するイメージタイプと、力の込められた呪文を言葉として詠唱し発動するスペルタイプ、また呪文を紙などに記しそれに念を送ることによって発動するスクロールタイプの三つに分類されている。
かつて、『魔石』という魔法を発動させる術式をインプットできる存在が発見され、現在では魔石を使用しての魔法の行使が、最も安全かつ安定した魔法の使用法である。
スペルタイプは言葉で間接的に魔法現象を発動し、人が体内に持っているマジックポイントを使用し実行させる。しかし、マナは魔法現象を構築させるための要素となってしまっているために、詠唱による発動を阻害する効果もある。
濃度の濃いマナに対して、直接的に魔法を現象として構成するための命令をしない限り、魔法は構築されず、マナはマナとしてそのままになってしまう。
詠唱は発動させるための手段でしかなく、時間も必要な上に、自身のマジックポイントに依存する形になる。また、詠唱は個人の持つ魔力に対して、体内に取り込んだマナが異常な反応を起こすことがあり、魔力の低い者は言葉を発する器官からの暴発もあり得る。
「よく解らないけど、まぁ、場所によっては詠唱は意味ないってことだね。おまけに、暴発って怖いね……」
「まぁ、うん、そうなんですよ……。おそらく、言葉自体が実行するための鍵だから、声帯の所から発現してしまうケースもあったんじゃないですか?」
「首が飛ぶね……」
「魔法を構成させるための素かぁ……。俺が魔力高くて良かったぁ……」
タクローは心底安堵感を覚える。
「でも、タクローくんのあの魔法は何だったんだろうね?」
「プロテクション・フィールドですか?」
「そうそう、あんな馬鹿でかいのは流石にゲームバランス崩壊だよ」
「ソレは、その巻末辺りにちょこっと書いてますよ」
スペルタイプでの魔法発動は、詠唱者自身の魔力と体内にあるマナ、大気中にあるマナが反応して魔法現象が発現する。故に、個人の魔力値が高い場合はソレに対するマナの反応も大きくなり、周囲のマナを一気に魔法現象へと体現させる。
「なるほどね、理解したわ。となると、限界突破のタクローくんの魔法がでかくなるのは必然って話か」
「まぁ、ソレが自身で暴発したら目も当てられないっすけどね……」
「プロテクション・フィールドで、アレだけの規模なら、爆裂魔法のエクスプロージョンはどうなんだろう? 核兵器に匹敵する威力だったりして」
半ば冗談めいたミーナの発言であったが、タクローは引きつった笑いしか出なかった。
何故なら、この世界に来て使った魔法、プロテクション・フィールドとファイヤーボールを実際に目の当たりにしている。それゆえに、想像できてしまうからだ。
「なら、タクローは魔法使用禁止な」
シンジが分厚い魔法書からは目を離すことはせずに一言告げる。
「まじかー……」と、心底ショックを受けたるタクロー。それを慰めるミーナ。
一方ヒカルはというと、読んでいた本に熱中し図書館の司書から紙とペンを借りて、一心不乱に本の内容を書き写していた。そんな様子が、タクローには勉強に熱心な学生のような姿として目に映る。
「ヒカルは、何してんの?」
「勉強っていうか、まぁ、研究? これ、本当に面白いんですよ。魔法の術式を構築すれば、詠唱のリスクもないし、大気中のマナを自在に魔法として使うことができるんです。きっちり、リバースエンジニアリングしてやれば、新しい魔法も構築できるかも」
やや興奮気味に言葉をまくし立てる。
「り、りば……なに?」
「リバースエンジニアリング。まぁ、細分化して分析するってことだね。ヒカルちゃんの場合だと、ソフトウェアのことになるのかな? 俺の場合だと、機械系だからハードウェア分野でも使う言葉だよ」
「そう、魔法術式がパソコンとかでいうところの、プログラミング言語に類似してるポイントが多いんですよ。……元が、ゲームだからかな? とにかく、コレさえ読み解ければ確かに誰でも魔法が使えちゃう訳ですよ」
その話は、さらにタクローを失意の底ヘと誘うのだった。




