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全身鎧を着た魔法使い  作者: 大和 改
二大国家戦争
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避難

 ミーティアラ王国の姫、リリーア・ニルス・ミーティアラは王城の中を走っていた。

 王都に渦巻く『色』を見たからだ。


 玉座の間に駆け込むと、部屋の主が座る椅子を睨みつける。


「お父様、一体何が起きてるのですか!?」


 玉座に座るは国王、サナビルド・ニルス・ミーティアラその人だ。


「血相を変えてやって来たという事は……、相当まずいのだな?」

「はぁ!? 何を言っているんですか!?」


 サナビルドの言葉に、言葉を失いかける。


「すまんな。トーマスに全権を委ねている故、把握出来ていないのだ……」

「私だって、全然解りませんよ! でも、王都に渦巻く色は『死』ばかりで……」


 リリーアは、王都に渦巻く黒い靄のような『色』を見た。それが意味するのは、『死』だ。

 かつて、自分の母親が他界する際に見たモノと一緒。彼女が初めて知覚出来た『色』である。それが、今は王都には立ち込めている。

 サナビルドは、深い溜め息を吐くばかりだった。


「もぅいいです!」


 リリーアはサナビルドの元を去る。




 リリーアは、王国宰相であるトーマス・ロッツ・アクリバルが居る部屋の扉を勢いよく開け放つ。その場に居た全員が、目線を向けるが、相手がリリーアと解ると直ぐ様机の上に目線を戻す。

 机の上には、都市の全体図が描かれた見取り図が置かれている。その上には、木で作られた模型が置かれていた。


「トーマス、東地区は放棄した方が良いのではないか?」


 トーマスの横で意見を述べるのは、剣聖ザイアン・ストーリス。セルヴィナ・ストーリスの父であり、リリーアの剣の師匠だ。


「ザイアン殿、簡単に放棄と言いますが……、では、東地区に残った民や兵はどうするのです? ここは一旦、前線を下げるのみにして、東地区の戦闘地域の集中化を図るべきです」


 トーマスの言葉に、ザイアンは唸り声を上げる。

 対人戦闘が未経験であるがゆえに、意見は混迷を極めているようだった。


「トーマス、民の避難はどうなっているのです?」


 リリーアの言葉に、トーマスは無言で首を振る。


「救出部隊の編成をしたくても、兵が足りないのですよ……」


 トーマスを代弁するかの様に話すザイアン。

 リリーアは、大きく息を吐く。


「剣聖親衛隊は?」

「門前にて待機中です」

「何故、向かわせないのです?」

「彼らは最後の砦のようなもの。おいそれと、死地に向かわせる訳には……」


 リリーアは現状を理解してはいない。だが、この部屋に居るすべての者達から発せられる『色』が、まずい状況になっている事を表していた。


「そうですか……」


 リリーアはトーマス達に背を向ける。


「どうされるおつもりですか?」


 低いトーンで呼びかけるトーマス。それは、『無茶をするな』や『勝手なことはするな』と言った意味合いが込められている。


「どうするもこうするもないわ……。あの方が居ないのなら、戻られるまで持ちこたえるまでよ……」

 リリーアもまた、覚悟を決めたように、静かな口調で言い放つ。

「あの連中……。特に、あの得体の知れない者に委ねるおつもりですか?」


 トーマスの言葉に、リリーアは鼻で笑う。


「貴方は見ていないから、そう言えるのよ……。私の『目』に誓って断言するわ。彼が、彼こそがこの絶望的な状況を変えてくれるわ」


 トーマスは静かに息を吐く。


「娘が誓いを立ててまで付いて行った者だ……、姫の『目』と、娘の心に私は期待しよう!」


 そう言い放つと、ザイアンは近くに待機させていた側近二人を呼びつけ、リリーアの後ろに立つ。


「姫、どうされるおつもりで?」

「ザイアン……、ありがとう」


 リリーアのお礼の言葉に、ザイアンは困ったような表情を見せる。


「姫のお心を伺ってから、どうするか決めますので、礼は早いですぞ……」

「そう……。なら、そうね……」


 リリーアは漠然としていた考えをまとめる。


「民の避難誘導を行います。王城が立地条件的に避難所として最良だとトーマスから聞いています。ならば、今こそ、ソレを実行するべきですね」


 かつて、トーマスがリリーアに語った都市の構造をリリーアは思い出す。


 王都ウンディエネは、特殊な構造に改良されている。

 王都を囲う壁は、密閉する構造になっていた。最後の手段を使う時の為に作られている。かつての宰相、ライクラ・フォルン・アレクが考案した『浮城』と呼ばれる最終防御形態を行使する為の構造だ。

 王城の地下にある水の神殿は、王都に清らかな水をふんだんにもたらしている。だが、とめどなく溢れ出る状態でもあるのだ。

 その水で王都を満たす為に、壁は密閉構造になっているのだ。

 一つ間違えば、ただの籠城だ。だが、そうならない為に都市部には避難用の地下通路やシェルターが設けられている。王城もまた、巨大な地下通路があり、それは王都の外につながっている。

 つまりは、敵をおびき寄せ、王都に閉じ込めて封殺する為の仕掛けとなる。だが、これは最終手段であって、正に諸刃の剣でしか無いと、立案者が言うほどの備えでもあった。

 無論、一度もこの手段が取られた事はなかった。

 だが、王城にはその時の為の一時避難場所として、城門をくぐった先は巨大なホールとなっている。

 リリーアは、そこを一時的に開放し、民をそこへ避難させる考えをまとめた。


「城にいる兵を城門に集めて。トーマス、そこからはお願い……」


 トーマスは、頭をかきむしり険しい顔をする。


「彼が、戻る保証は有るのですか?」

「大丈夫よ、彼は来るわ……」


 嘘だ。


 トーマスはリリーアの様な特殊な能力は持っていない。だからこそ、リリーアは平然と嘘をついた。だが、そこには願いも込められている。


「はぁ……、解りました……。ありったけの兵を導入しましょう。総力戦を視野に入れ、城門前に全兵を集結させます。民には、城に避難させる為の避難警報を鳴らして、こちらに全体が向うようにします。ですが、姫。良いですか? これが、最終防衛ラインです。これを破られたら、全てが終わります。良いですね?」


 リリーアは、トーマスに目線を向けて、強張った表情ながらも、口元を緩め、笑ってみせる。


「お願いします」


 こうして、都市に新たな避難警報が鳴り響くのだった。




 シンジ達は、路地をジグザグに進む。

 何故一直線に王城を目指さないのかと、都民から質問の声が上がる。

 急がなければならない状況では、真っ先に目的地に向かうのが当たり前であるはずだ。だが、シンジの考えは違った。

 大勢で行動する場合で、なおかつ不利な状況では、待ち伏せや挟み撃ちには対応できない。主力と成る者が、たったの三人では敵の攻撃にさらされた際に、余計な被害が出てしまう。

 故に、シンジは路地をジグザグに警戒しながら進む。

 曲がり角で、曲がる方向の道を警戒し、覗き込んで状況を調べる事が出来るからだ。

 入り組んだ路地を進むのに、一直線に行くのであれば、周囲を警戒す為と、攻撃にさらされた際に対処する為の人員が多く必要とされる。だが、曲がり角を監視し進むのであれば、壁が味方になってくれる。だから、監視要員と、対処要員は隊列の前後に居れば良いのだ。

 それ故に、時間は掛かる。


 そんな時、都市部に新たなサイレンに似た音が鳴り響いたのだ。

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