アルフからの依頼
アルフ・フォルン・アレクは全力で走る。
頭脳派で有る彼は、剣技にも優れているものの、体力面ではかなり劣る。ゼェゼェと息を切らして、向かう場所は王立図書館。
「ハァハァ……、え、エンディ……、頼みましたよ……。タクロー……さん……達……を……」
言葉を発する余裕など無いが、頭で考えた事がそのまま言葉として口から漏れ出るのは、それほどまでに余裕がない証拠だった。
つい先日まで、アルフは自分の家たるアレク領はトルツェの町に有る自宅に戻っていた。これまでの報告を父親にする為と、町の工房から技術者数名を王都に補填する為だ。
トルツェの工房は、アルフが思った以上に魔導銃生産のスキルが向上し、量産数がかなりの数となっていた。また、ミーナが宿題として残した、銃の砲身内にスリットをなめらかな曲線を描いて掘ると言う作業も行われている。
今後の為に必要だと、ミーナが残したモノだ。
出来の良い何本かを渡され、ミーナに見せなければならない。それの受け取りも兼ねていた。
全ての要件を済ませて、アルフが再び王都に戻ろうとした際、父親であるライクラからもたらされた情報は、危機を知らせるものだった。
アレク領は今や、全員が魔導銃を装備する事になったのもこの為だと聞かされた。
箱型の奇怪な魔導車、『エム・ワン』。
その攻撃力は、魔導銃の比ではないと言う。
情報をくれた従兄弟には、感謝の言葉も無いと言ったように、アルフは真剣にその話を聞いた。
「事態は急を要するやもしれない……」
父親の言葉にアルフは、従者であるエンディ・レイダスと共に王都へ再び舞い戻る。
しかし、一足遅かった。
戻って一息吐いた頃、帝国が攻めてきたのだ。
もう少し先かと思われた事が、急に降りかかる。
直ぐ様、エンディを使いに出す。
大陸最強と目される人物への救援要請だ。
一方のアルフは、自身が認める知恵者の知恵を借りるべく、走り出す。
(あの人は、今日もあそこだろう……)
シンジは賢者の事を調べる為、ほとんど毎日、王立図書館に通っているのは知っている。
そう簡単に調べ終わる量では無い事は、昔から知っていたので、容易に想像が付いた。
もし、その場に居なくとも、エンディが伝えてくれる手はずになっている。
アルフが王立図書館に辿り着く頃には、戦火は図書館近くまで来ている。
自分の足の遅さを呪いながら、周囲を警戒する。
ところどころに、帝国兵を見かけては、不要な戦闘を避けるべく行動する。
正面玄関は、開けた場所に面している為、目立つと考え、裏口の一つを目指した。
目指した場所の扉は、少し開いた形になっている。
侵入者があったのか、または逃げる際に閉めなかったのかと考えを巡らせ、前者であれば面倒だという答えが出る。
直ぐ様、背負っている長い布包を取り、布を剥がすと、ソコには真新しい魔導銃が出てくる。
『MG2017A』と名付けられたソレは、アサルト(Assault)のAを付けられた強襲型だ。
ミーナの宿題其ノ二として、改良銃として突撃タイプを作るよう命じられていた。
出された課題は、『取り回しが良い事』と『扱いやすさ』の2つだ。
トルツェの工房には、スルト・ブロケンやスパッタ・メルト以外にも、優秀な鍛冶師は何名か居る。スルト達は、たまたまミーナから直接的な指導を受けた為に、王都に連れてこられた。
だが、残った者達は、常に量産化の決まったMG2017と向き合わされたのだ。
その中で、改良案を体現出来る者が現れる事は何らおかしな事ではない。
MG2017Aは、威力こそ従来品とは劣るものの、銃身を短くした為の扱いやすさや、軽量化による取り回しの良さは群を抜く。
マガジン(弾倉)は従来品よりコンパクトになったせいで、弾数は少ないが動き回る事を考えれば、どうということは無いと、アルフは考える。
剣を扱わせたら、セルヴィナ・ストーリスにも肉薄すると噂されたアルフ。
走ったりなど、大きな動きは不得意だが、紙一重で躱すと言った小さく、体力を消耗しない戦いは得意分野だ。
正に、アサルトが自分にはあっているのでは無いかと思う程であった。
グリップを握り、スライダーを引いて、弾丸を装填する。
銃の扱いについてアルフは、王国内に置いては自分が一番だと思っている。
その理由は、銃を作り直したミーナと、銃を更に改良したタクローから、しっかりとした指導を受けたからに他ならない。
姿勢を低くし、銃口を目線の先に向けて、アルフは歩き出す。
正に警戒移動で、薄く開いた扉に手を掛ける。
右手で銃を構え、空いた左手で扉を開ける。
銃口は真っ直ぐ前を向ける。
室内に入ると、左右を確認する。
銃口は目線と一緒だ。
シンと静まり返った室内に、緊張しながら一歩踏み出そうとした。
「アルフ……?」
物陰から静かにだが、自身の名を呼ぶ声がする。
声の先に、目線と銃口を向ける。
「どちら様ですか?」
「俺だよ、俺……。シンジ」
物陰から、シンジが姿を見せ、遅れて顔を覆ったミーナが出てくる。
「ああ、俺はミーナだよ。こんな格好で失礼」
軽い笑いを含んだミーナの声に安堵して、アルフは銃口を下ろした。
「良かった……。お二人共、ご無事でしたか……」
「ああ、なんとかな……」
「図書館内には、お客さんは来てないみたいだねぇ……」
「アルフはなんで、ここに?」
「シンジさんを探しに来ました」
シンジは頭の上にクエッションマークが出るほどの表情で、首を傾ける。
「こういった状況で、どうすれば良いか……、知恵をお持ちでは無いかと思いまして……」
アルフの言葉に、シンジは困った顔をする。
「ミーナさん、どうしよう?」
「俺に振らないでよ……。俺は、隠れるか、逃げるかだと考えてたよ……」
「だよねぇ……」
「戦ってはくれないのですか!? 今は、王都の危機などですよ!」
アルフの悲痛とも言える声に、シンジは更に困った顔をする。
「現状では、どうにも出来ないよ……。タクローだって居ないのに……」
「タクロー殿達なら、エンディが――――」
「あ、王都に居ないよ?」
シンジの言葉に、アルフは次の言葉を失う。
「い、いな……い?」
シンジとミーナが揃って頷く。
「最高戦力無しに、どうするんですか!?」
顔を見合わせたシンジとミーナは、互いに首をかしげた。
「逃げるか、隠れるか……だねぇ……」
「だよねぇ……」
「王都の人々は!? 逃げ遅れた者達はどうするんですか!?」
アルフの言葉に、二人は言葉を詰まらせた。
シンジは、内戦の真っ只中で銃弾に倒れる一般市民を見た記憶がある。
その中には、子供も含まれる。
暫く難しい顔で黙り込んだシンジは、アルフを見据える。
「最良の避難場所は?」
シンジの真剣な表情に押される形で、アルフは言葉を選んで口にする。
「王城です……」
「避難誘導出来る、人員は?」
「わ、私達だけかと……。ああ、ですが、戦闘中の兵達に協力を得られれば……」
シンジは、腕を組んで目を瞑る。
「激戦区は?」
「都市の東側一体です」
「戦車の把握できてる台数」
「俺は、6台見たかな……」
「私は、3台です」
「音からすると、その倍以上はいるな……。歩兵は相当多いと考えられる」
「そうですね……、東区画だけでもかなり広い。ソコを圧倒するのであれば……。千……、いや、万はいるかも知れません」
シンジは溜息を吐いて、後頭部をかきむしる。
「どうあっても、交戦は避けられないな……。くそぅ、逃げるにしても、隠れるにしても一緒だ……。助けるなら、尚の事……」
がっくりと肩を落とすシンジに、ミーナは背中を軽く叩く。
「なら、救出クエスト。行ってみますか」
大きな溜息を吐いて、シンジはやる気が無さそうに「了解……」とだけ答えるのだった。




