まるで泥の中を進むような
伝承の生まれ変わりとは正直にいってしまうとツッコミどころが多いのだ。まずたくさんある例題の中でも、産みの親の話は全くと言っていいほど出ないのがそれだ。生まれ変わるのならば産んだものが居るはずだろう?育んだものが居るはずだろう? 自分の子どもがある日いきなり「自分は生まれ変わりなので本当の親のところへ行きます」だなんて言われて納得するか?
俺の場合、その産んだものとは、前世の父と母なのだろうか?
本当の父母に、引き寄せられて異世界に来たと?
俺の体は、心は、魂は、誰のものと一致するのだろう?
神殿に、その答えはあるのだろうか?
俺になって数年、未だに生まれ変わりとは言い切れない。俺は死んだ次の日に異世界にいたのだ。明確には次ではないかもしれないけど、死んで目覚めたら異世界に居た。
目の前で唸り涎を垂らす狼のような熊のような生き物に、噛まれる寸前に気がついた(・・・・・)。「あっちいけよ!」そう無様に叫んだことが本当になった。生き物は何かに叩き退けられたかのように弾けとんだ。言葉通り、パァンという破裂音を残して肉塊になって弾けた。俺は、ボタボタと落ちる肉を見ながら血液や体液を浴びたのだ。
気が狂いそうだった。いや…もしかしたら、ここでもう狂っていたかもしれない。
01
なんやかんやあり、省略してギルドまで来たわけだが、ここにある書庫にもぐり調べて調べてやっと”生まれ変わり”なるものを見つけた。俺には当てはまらないかもしれない。でも何かに縋りたくて。ほかにも仲間がいるかもと信じたくて。何か明確な言い訳が欲しくて。俺は自らを生まれ変わりだと疑う事にしたのだ。
そう思ってさえいれば、他の不安を見て見ぬふりできたから。俺は、どうなってしまったのか、考え続けなくてすんだのだ。…それが自分への言い訳に十分なっていないことも知ってる。たまに起こる発作も、その不安を誤魔化せなくて起こるんだ。
俺は本当はどうなってしまったのか?
死んだのは夢なのか? だとしたらこの体は、何故親を知らない? どこで生まれどう育った? 何故あの生き物に殺されかけていたのか? なにが現実でなにが本当なのだろう?
分からなくて、夢なら必要ないだろうと自棄になって食事を放棄したこともある。ひたすら書庫で眠りもせず今の俺の状況を説明する言葉を探したことも。でも、いつも倒れる直前に止められた。その人は俺が始めてギルドに来た日に受付をしていた男だ。
その人はいつも「もっと自分を大切にしてください」と困ったように眉を寄せていた。
でも、申し訳ないけど俺はその時、大切にする必要なんてないと思ったんだ。腹はどうしようもなくすいたし、めまいがした。眠気はひどくて頭はガンガンと傷んだ。
でも、現実であることを認めたくなくて。認められなくて。
この体は本当に俺の体なのだろうか? 死んだ後にこの体に魂が入り込んだのでは? 奪ったのでは? そもそも死んだところから夢で、まだ寝ているのでは? 死んだはずが生きていて、でも植物人間として夢を見続けているのでは?
悩めば悩むほど、いやになった。
居場所を作ることすら億劫で、生きるための活動がいやで仕方なかった。
02
「ドクター、あいつの動きを止められる?」
「出来るけど」
「お願い。あとは俺が狩るから」
最近組んでいる奴を俺はドクターと呼んでいる。それは俺が呼び始めた訳じゃあないし、所以もしらないんだけど、名前を呼び合うほどの仲でもないし、ドクターは特別嫌がらないからそれでいいのだと思う。
ドクターはとてつもなく多才なやつで、さっきみたいに出来るか?と問うとその返答は殆どがyesなのだ。
淡々としているドクターは、いつあっても悲しみのなかにいます。と言った辛気臭い面をしているけれど、それを我慢してしまえば相棒としてはとてもいいやつなのだ。報酬は破格の値段を示してくれるし、学校の試験で使う薬草や素材なんかも、頼めば一緒に採集してくれる。
ドクターがこの町に現れたのは割りと最近の話なんだけど、それなりには時間がたっている。それなのに、この人は俺以外に組む奴が居ないと言う。この、狭い町の中で、この人は、未だに閉ざされた世界のなかに生きているのだ。
そんなドクターと採集をしていると、たまにどうしようもなく胸の奥がざわつくことがある。
それは、今みたいな、ドクターが遠くを眺めているとき。風がドクターの髪を靡かせて顔をよく見えるようにした。その横顔が、悲しそうな横顔が。
どうしようもなく、俺は、ざわざわ苛々するんだ。この人は、どうして踏み出さないのだろうか。どうしてひた隠しにして一人で苦しんでいるのだろうか。
…自分のことを棚にあげているのは分かっている。俺はこの人に普段の俺のことをひた隠しにしているし、金がなくてギルドに足しげく通っていることも話していない。ほかのギルドメンバーとも深い関わりを持つ訳じゃない。
でも、そんな俺でも人脈はあるのだ。関わって、生きている。でもこの人はそれをしない。どこまでも排他的だ。要らないと言われているようで不快だと、誰かが言っていた。俺はそこに不満がある。ドクターは回りが見えてない。俺は…この人はそこまで賢くないと知っている。人を要らないと言うほど、他人のことを考えるほどこの人には余裕がない。俺と組んでいるのも俺がそう言ったからだし、依頼も行動も、全て俺が決めている。
それも不満だ。俺はこの人と本当の関わりが持ちたい。
書きなぐってしまいました




