それぞれの正義
「桜田さんも…メデューサだって聞いて…
桜田さんはどうして祓魔師になる道を選んだんですか?」
私は昨夜、ユナン神父たちから信じられないような事実を聞いた翌日の早朝、朝食時間の少し前に桜田さんの部屋を訪れていた。
これからどうすべきなのか、頭の中がごちゃごちゃでどうしたら良いのか分からなくなっていたが、桜田さんは私と同じメデューサであることから、1度彼女に話を聞こうと思った。瀬野さんは私を毛嫌いしているし、ユナン神父は忙しく出かけていることが多い。かと言って斗真さんは祓魔師になることを反対しているから、きっと話してくれないだろう。
「私には選択肢がそれしかなかったから。だから祓魔師になったにすぎないのよ。」
彼女は突然訪れた私を丁重に対応してくれ、お茶まで出してくれた。 そしてゆっくりと話をしてくれた。
「私の故郷は、人口の少ない小さな村だった。
私の家系はね、古くから隠れキリシタンだった。皆メデューサでね、けど、村の住人にはずっと、気味悪がられていた。見えない敵と闘ったり、話したりしている私たちがー。あの村にはまだ理解が薄かったのよ。
街の学校にも、私のような人は誰もいなかった。
私たち家族は、ただ悪魔が見えただけ。人里離れた村だったのもあって、襲ってくる悪魔はほとんど弱い者ばかりだったのだけど、親類とも縁を切っていたし、正体も分からず、相談できる機関もない、周りから向けられる奇異の目と、正体不明の敵、ずっと、そんな恐怖と戦っていた。
中学に入って、私はその能力が原因で虐められるようになって…家に閉じこもる日々が何ヶ月も続いていた。そんなとき、私の前に現れたのが、葛城先生だった。
彼は、私たちのことを理解してくれた。仲間だと言ってくれた。」
「え!?葛城先生が!?まさか、葛城先生も祓魔師なのですか!?」
「正確には元、ね。かつて天啓を授かった偉大な祓魔師で、過去に多くの祓魔師を輩出した、今は祓魔師は辞めてただの司祭に戻ったわ。」
「ユナン神父のように悪魔祓いをしたり、祓魔師たちに教育はしていないのですか?」
「ええ、彼、五年前に突然祓魔師を引退したのよ、それからは全く関わっていないどころか、祓魔師を毛嫌いしているから、彼の前でその話は禁物よ。」
「突然…?」
「祓魔師が死と隣り合わせなのは聞いたでしょ?」
「はい。」
「五年前にね、強力な悪魔が何体も北九州の方で出てね、その地域の祓魔師では太刀打ちできないから、この協会の、先輩祓魔師たちが呼ばれて、悪魔祓いに借り出されたのよ。白百合寮にはあのとき10人の先輩祓魔師たちがいた。その中でも、、天啓を授かった優秀な生徒5人が、葛城先生、それと、もう1人、今はいないけれどイギリスから来たルーエン神父と、悪魔祓いに向かったのだけれど、先輩祓魔師は、誰も、帰ってくることはなかった。」
「そんな…」
「私は当時小学生だったから、当時のこと詳しくは知らないけど、地獄の中でも序列の高い上級悪魔ばかりがなぜか北九州市に密集して出現して、20名ほどの祓魔師が全国から戦ったけれど…その半数が命を落とした。
メディアでもその事件は取り上げられたけれど、一般人には悪魔が見えないこと、理解がないこと、混乱を産まないために、全てが偶然の事故、また自殺として処理された。ルーエン神父も、その戦いにより命を落とした。かつてラファエルの天啓を受けた優秀な祓魔師の講師だった。」
「それは……そこまで強い悪魔がいたのですか?」
「悪魔自体は低級のものの方が多かったけれど…数が異常だったのよ。それに……」
?
「いいえ、何でもないわ。とにかく、ユナン神父と葛城先生は生き残ったけれど、多くの祓魔師が亡くなったの。その事件がきっかけかはわからないけれど、、葛城先生はその後すぐにイギリスの祓魔師の元に修行に行くといってイギリスのカトリック教会へ留学していった。
でも葛城先生は、たった三ヶ月で帰ってきて、突然、祓魔師をこの世から消し去るべきだと主張し始めた。」
「え!?」
「白百合寮の祓魔師たちを祓魔師の道から遠ざけさせようとした。何を知ったのか、なぜ突然祓魔師を辞めるべきだといいだしたのか、私には今もわからないけれど、当時の祓魔師は葛城先生の言葉に動かされたのか、半数ほどが彼に従い祓魔師をやめ白百合寮を出ていった。私はまだ小さかったけれど、私も昔葛城先生に言われたこと今も覚えている。
祓魔師に未来はない。祓魔師を続けても破滅をうむだけだ。祓魔師になってはいけない。」
「……祓魔師に、未来が、ない?
それは、いつ死ぬかわからないことをいっているのでしょうか?」
「さあね。葛城先生はあれ以来、1度も祓魔師の教育や訓練をしていないし、悪魔の気配を感じても、悪魔祓いの依頼があっても知らないフリだからね。」
………。もしかして…葛城先生は、私がまだ何も知らなくて、ユナン神父たちの行方を尋ねたあのとき、わざと、知らないフリを…?ううん、きっとそうだ。あのときの葛城先生は何だか怪しかった。私に祓魔師のことを知られたくなかった?それとも、もう自分には全く関係ないから、知らないフリをしていた…?
「きっと、あの事件が葛城先生を苦しめているのよ。あの犠牲になった生徒たちは、皆、葛城先生のクラスメイトでもあったのだから。」
教え子たちが亡くなってしまったから…本当にそれだけ?留学をたった三ヶ月で帰ってきたことも気になるし…、葛城先生が祓魔師を否定するのは、何か他に大きな理由があるような気がする。
「話が逸れたわね。…私は、自分の身を守る、ただそれだけのために、祓魔師になったのよ。」
「桜田さんは…将来的にも祓魔師を?」
「まさか。瀬野や紫苑寺と違って、私は狡い人間なの。誰かを助けたくて、悪魔から守りたくて祓魔師になったわけじゃない。ただ、それしか選択肢がなかったから。」
「天啓は、いつごろ授かったんですか?」
「ここにきて1年が過ぎた頃よ」
「そんなに早く…?」
「元々私はキリシタンの末裔だったからじゃないかしら。信仰心も大切だけど、きっと遺伝ね。」
「そう…ですか。」
「メデューサだからって、戦いたくなければ、戦わない道だってあるわよ。メデューサの能力は大人になれば自然に消えていく。普通の人間と変わらないの。でも戦わず、シスターにもならないなら、白百合寮にい続けることは辞めた方がいいわ。あそこは、シスターたちには全員、表向きは修道院候補生の養成所で、通っているから。………瀬野や慈恩寺の意見を抜きにして、あなたは、どうしたいのか、よく考えるのね。」
…わたし、は……。
(あなたは戦う必要はありません。普通の学生生活を送ってほしいんです。)
(あいつは戦えないんじゃない。他の一般市民とは違うんだ。戦わない奴を、命を懸けて守る価値などない。)
(瀬野や慈恩寺の意見は抜きにして、あなたは、どうしたいの?)
(無理にとはいいません。ですが結衣、あなたが私たちの仲間になると決めた暁には、私はあなたを全力で、サポートします。)
翌日、図書室で読書をすませたあと、部屋に戻る途中、
「あの被害者の女性の身元はまだ分からないのですか?」
執務室の中から瀬野さんの声がした。僅かに開いた扉から中が見え、執務室の書斎にユナン神父が パソコンを開き何かを調べていた。その隣に瀬野さんが書類に目を通している。少し離れた場所にあるデスクに斗真さんと桜田さんもおり、祓魔師の勉強だろうか?机に向かって勉強をしているようだ。
「それが……意識は取り戻したのですが…。鞄も何も身につけていなかったため身分証のようなものもなく、捜索願も出されていないようで… 」
一昨日私を襲ってきた悪魔つきの女性の話のようだった。あの女性の悪魔祓いは無事成功し、近所の病院で今は入院中と聞いていた。
ユナン神父が瀬野さんに何かを耳打ちする。
「記憶がない?」
「取り憑かれていた記憶はもちろん、自分の名前や住所、何もかも記憶喪失のようで…
知らない、分からないの一点張りで…かなりショックだったのか、精神状態もあまり良くなく、今は面会も誰も受け付けられないようで…」
「おかしいですね…あのバンドハイパーには人の記憶を操る能力などないのに…とすると、エクソシズムの副作用、とかではないですよね?」
「そんなまさか…今まで多くの人間の悪魔祓いをしてきましたが、記憶がまるごとなくなった人などありませんし、海外でも前代未聞です。」
「となると、その被害者はバンドハイパーに取り憑かれる以前に、別の悪魔からの呪いを受けていた、ということになりますね。
そんなことができるのは、悪魔結社の人間でしょう。」
…悪魔結社?昨日は聞いたことのない単語だ。何だか不穏な響きのする言葉だった。
「なんらかの理由で悪魔結社の人間に狙われていたのでしょうか?」
「いえ、彼女の右のこうには黒いコウモリのような不思議な模様が描かれていました。おそらくそれは悪魔結社の構成員のしるしではないでしょうか。」
桜田さんが思い出したように不意に口を開いた。
「本当ですか!?なぜそれをもっと早く言わなかったのです?」
「てっきり知っているものだと思ったので。」
彼女は少し俯きそう告げる。
「というと、なんだ?どういうことになる?」
「彼女は悪魔を従えてはいなかったし、結社の中でも力はなかったはずよ、誰かがあのバンドハイパーを使ってあの女性にとりつかせ何らかの理由で松永家を狙った、と考えるのが一番妥当よ。」
頭を抱え唸っていた瀬野さんに対して桜田さんがピシャリと言い放つ。
「任務の内容は何だったのでしょう?結衣の家に入り込もうとして…」
「記憶や思考を操る強力な悪魔は何体かいますが、彼女には取り憑いていなかった。となると、その悪魔を利用している悪魔つきの人間による仕業とみて間違いないでしょう。」
「そもそもどうして紫音寺の家を狙ったんだ?徘徊するわけでもなく…。いくら取り憑かれているとはいえ、女性の身体であそこまで高い門を超えてまで家に行く理由があるのか?」
「生贄として連行するつもりだったのでしょうか?」
「それならあんなふうに、2重に呪いをかけてまで大掛かりにやることではないかと。」
「実際、結社の幹部1人でも動けは私たちは手も足も出ませんからね。」
ユナン神父が嘆息し呟く。
「人じゃなかった…?家の中に、結社の人間が手に入れたい何かがあって、それを取りに来た、とは考えられないかしら?」
「手に入れたい何か?」
「例えば、知られてはいけない情報、とかね」
「自分の家はこまなく確認していますよ?おかしなものがあれば、すぐに気づきますよ」
「あんな広い屋敷なんだもの、探せていない細かい場所だってあるはずよ。それに、地下通路や隠し扉なんかが仕掛けてある可能性もあるしね。」
「………斗真、1年前の、あの事故、本当に、事故だったんだよな?何か隠していることが、あるならー」
「何もありません、2人には鑑識だって入ったんですよ、今更そんな話蒸し返さないでください、考えたくもないんです、あのような連中」
早口で淡々と抑揚のない声色で告げる
何処か蔑み、軽蔑するかのような
物言いに、私は固まる
「結衣?大丈夫ですか?」
私の自分の置かれた状況がわからず呆気にとられる。
気づけば扉から出てきた彼と鉢合わせしてしまった。
「どうしてこんな所に…?顔色、悪いですよ?」
「付き添ってあげていたいのですが、これから関東地方のクリスチャンが集まりで祓魔師の研修会が始まりますので、私は司祭とともにその準備の途中だったのです。」
「そんな大切な用事があるのなら早く行ってあげてください。私は大丈夫ですので、」
何とか平生を装って笑顔を作る
「そうですか?…では、何かあったら、すぐに、修道院でも私の携帯でも構わないので、電話して下さい」
そう念を押すと擁護室を出ていった。
色々な思惑が錯綜する
エクソシストのこと、私の記憶のこと、考えなければいけないことは山ほどあった。
考えるのを辞めたら、もう、このまま何も知らずに、卒業まで暮らす、そんな選択肢だってあった。だけど、私はー
「覚悟を決めるんだ…!」
私は自分に言い聞かせるように強く拳を握りしめる。
そして、執務室の扉をノックした。
「ユナン神父、聞きたいことがあるのですが、」
「どうしました?祓魔師の話ですか?、私の知る限りお話しますよ」
「いいえ、祓魔師、に関係ないわけではないと思いますが、、違います」
「?何の質問ですか?」
「悪魔結社についてです。」
「!!どこで…それを…」
「昨日、3階で聞いてしまったんです。執務室で、ユナン神父たちが悪魔結社という言葉を何度も口にしていました。教えてください。悪魔結社とは、何なのですか?私が襲われたのは、計画的な反抗だったのですか?
あの女性は本当にただの一般人なのですか?」
「結衣……」
ただ守られているだけの生活なんて嫌だ。
祓魔師に関わることはできる限り知りたい。これ以上はぐらかされ知らないままなのは嫌だ、私も本気だった。
「……悪魔結社の詳しいことは、私にも正直わからないんです。」
しばらくユナン神父は押し黙って何かを思案していたけれど、、
やがて私の真剣さが伝わったのか、ゆっくりと口を開いてくれた。
「私が現役のころ、十年前は、まだ悪魔の数は本当に少なく、低級の悪魔がほとんどでした。
ですが、五年前、北九州市で悪魔絡みの大きな事件があったのです。
未就学児10名が無惨にも悪魔に 殺された事件です。」
え!?あの事件にそんな事実があったなんて……
「あのときからです、全国の至る所で頻繁に悪魔が出現し始め、人間を脅かし始めた。そこで私は、見たのです。悪魔と契約を交わし悪魔を支配しその力を利用している人間を。」
「悪魔を支配…ですか?」
「ええ。初め私は信じられない重いでした。代償を支払っているとはいえ、長期間悪魔が人間に力を貸すなんて有り得ないことだと…。
彼らは悪魔結社、ハルフィアと名乗っていた。
悪魔を味方につけた彼らは恐ろしいほど強かった。
私たち祓魔師は、悪魔祓いによって人間を救済する慈善事業、悪魔と戦う術は身につけていましたが悪魔を操る人間と戦った経験などなく、全く、なすすべもありませんでした。」
「待って下さい、ハルフィアという集団は、祓魔師を襲ってきたのですか!?」
「私たち祓魔師は悪魔を祓うために存在している、その根底には強い神への信仰心があります。
ですが悪魔結社は神を排斥し悪魔を擁護している。
この世界に悪魔を増やすことを企む神の冒涜者です、
私たちとは、対極の存在なのですよ。
本来悪魔は地獄に存在するもの、下界と地獄には現世とわけ隔てる強力な結界があって、簡単には破られない仕組みでした。時空の歪みや 大昔から悪魔が
今のこれは自然な現象とは考えられない。だから、彼らハルフィアが
結界の裂け目を開き地獄から悪魔を呼び寄せているのです。彼らはかつて祓魔師として活躍していた者、メデューサであったものたちが、祓魔師として悪魔を祓うのではなく、悪魔祓いと称して人間を利用したり、故意に悪魔と契約をし、特定の人間に呪いをかけたり貶めたりし金銭を得ている邪悪な悪魔崇拝教団です」
悪魔崇拝教団……
「あれ以来私は結社の人間に会ったことはありませんが、ここ最近の依頼の多さや、強力な悪魔が次々と増えていることを考えると、彼らの仕業でしょう。
最近力をつけてきた集団で…どのくらいの規模なのか、構成員やアジトどころか、彼らの目的も、不明なんですよ。」
それならば、私たちは、悪魔だけじゃなくて、人間とも、戦わなきゃいけないってことになる。
悪魔と戦うことだって…私にはまだ……
それなのに、同じ人間同士で戦わなきゃいけないなんて、そんなの戦争と同じだ。。。
「悪魔結社の人間は、一時の力と富に心酔しているだけの哀れな集団ですよ。」
どこか遠くを見つめながらそう呟くユナン神父は、何かを思い出しているような哀しい表情だった。
ユナン神父は元は長崎の教会の神父だったが、二年前に、ここの修道長から、このアトランティス教会に来て欲しいと頼まれたらしい。
表向きは人員不足の神父を補うため、本当の目的は、ルーエン神父を失い葛城先生も戦わなくなってしまい、祓魔師を教育できる人間がほとんどいなくなってしまったからだった。
ユナン神父の話を聞き私はふと葛城先生のことを疑問に思った。
葛城先生も悪魔が見えて、気配を感じることができて、それなのに、、見て見ぬふりをし続けているなんてやはり想像がつかないのだ。
葛城先生は私たち寮生のことを本当の家族のように接してくれる優しい人だ。シスターたちにも 信用されているし、子どもたちの評判もいい。
葛城先生が留学中にあった出来事がきっかけであることは間違いないだろうが、1体何があったのか、どうして突然祓魔師を辞めてしまったのか、分からない。
「そう言えば、ユナン神父は葛城先生が祓魔師を辞めた理由をご存知ですか?」
「葛城神父が祓魔師を辞めた理由ですか?……私は、五年前の事件で教え子を多く失い傷を負ったからだと思っていました、本人も最初にそう言っていましたし…
何せ私が二年前に赴任してきたときには既にただの司祭に降りていたので、疑問を感じたことはないのです、、」
「そうですか…」
確かにユナン神父が二年前にここに移ったころにはもう葛城先生は祓魔師ではなくなっていたのだから、それもそうよね…
「私も自分の長野の教会で、祓魔師の隊長として参戦しましたが、あの事件は本当に悲惨でした。。私の隊員も2人犠牲になりました。葛城司祭が祓魔師を続けることが辛くなった気持ちはよく分かります。私も何日も塞ぎ込み後悔した日がありました こうすれば良かった、ああしていれば彼らは犠牲にならずにすんだ。とか、
ですが私は悪魔を見ることができる、天啓も授かってたたかったこともある数少ない祓魔師でした。だから、日本の市民 のためにも、私は祓魔師を辞めることを考えたことはありません。
祓魔師を続けることが私にとって使命であり何より生きがいでした。
私は幸せですから。己の信じる信仰心が報いられ、神の愛を受け人々を救うことができることが」
「ユナン神父……」
「それにー、今回犠牲になった祓魔師たちのおかげで、興味深い事実に築くことができましたから。」
「…興味深い、事実ですか?」
「ああ、こちらの話ですよ、私、少し祓魔師の身体について研究していましてね、解剖の結果新しい発見があったのですよ」
「…死体を、調べたんですか?ユナン神父自身で?」
「まさか、鑑識や医師ですよ。ですが私たち祓魔師の新たな発展と能力向上のために重要な役割を果たしました」
…祓魔師の未来のために必要だ、そういともたやすくなんてことないような軽い口調で淡々と語る彼が、私には理解できない感情だった。
刹那、執務室の扉からノックが聞こえた
「すみません、ユナン神父。今よろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。」
「…お取り込み中すみません。早急にお伝えしたいことがございましてー」
中から現れたのは修道長だった。よっぽど急いでいたのか額には汗が滲み息を切らしているようだ。
修道長は私の方をちらと見て言葉に詰まる。
「構いません、話してください。」
「はい、それがー。」
え!?