運命られた宿命
中等部 エクソシスト科のない 普通科の何の変哲もないただの公立中学
天才と崇められ、イデアの使徒として最年少の
幹部の中でも最高位にいた私は、 自分のことを特別で、神に選ばれた人間で、周りを下等生物としか見ていなかったのかもしれない
このときからもう私は、クリスチャンから外れた
罪人だった
遅くまで本部で会議をし、 早退したり、度々学校を休むことは日常茶飯事、授業など、
受ける気などなかった
クラスメイトの名前すら、私は覚えようとしなかった
どこか、見下していた 彼らとは違う、と
だから、本当の私は、天啓を与えられるような綺麗な魂なんかじゃない
実際、中学 で私に天啓が降りたとき、天使は私に最初にこう告げた
私たち円城寺家は、
母も、父も、義兄も、妹も
先祖代々 数百年に渡り私たち円城寺家は罪を犯し、
殺し 殺され、不幸が続いてきた
人間の醜いありとあらゆる負の感情に縛られ、
地獄に堕ちた 者ばかり
《我は、汝に 天界の力を与える その力で、あなたの悲しき宿命 円城寺家の
負の連鎖を断ち切りなさい
人々のためにのみこの力を使い、真に祈りを捧げ、
エクソシストを牽引しうる 使徒となりなさい
1つ
汝は決して 能力を自分のために使ってはならない
1つ
任務に関係のない人間に能力を使ってはならない
1つ
お前の家族を赦しなさい 誰も、恨んでは 憎んではいけない
これらの盟約を全て破ったとき 契約を破棄し我々は
お前たちを二度と救いはしない 》
ー思い出した
第3の試練が始まるその刹那、走馬灯のようにあのときのお告げを思い出す
何故、忘れていたのだろう
円城寺家は血に塗れた 穢れた宿命
人は追い詰められたとき 目に見えない存在に縋る
それに漬け込むのが悪魔や、魔人の誘惑
私たちは勝てなかった 誰1人
私はその連鎖を断ち切るための鍵だった
なのに私は、自分を穢れのない清き魂として、選ばれた存在なんだと、
周りは私をそう過大評価した
更にまだ思春期の成長途中の私にとって、神のように私を崇め、崇拝し、尊敬され畏怖の念を一心に受けながら育ったこの異常な日常を、異常と気づくことが出来なかった
イデアの使徒どころか、何一つ、天啓を受けた後輩にすら足元にも及ばなかったのに
私も、先祖と同じ、いや、私が1番罪人だった
両親を忌み物を見るような目で見て、
フィオナも、姉さんも 血の繋がった 家族を、
姉さんは存在すら消した
私に相応しくない人間は全員 都合のいいように、
そんな愚かなことに、今更気づく
彩香だって
本当は、、、
夕暮れの屋上 ビリビリに敗れた制服と水を被ったように濡れた髪から水を滴り落としながら薄ら微笑む、目の前に彩香がいる
いつか、夢か何処かで見た場面
私が向かい合うように立ち、惨めな姿の彼女をまるで憐れむかのような瞳で見ている
ど、どうしてここに?自宅待機命令が出ているのではなかったのですか?」
「最後にね、斗真に、どうしても言っておきたいことがあって、、抜け出して来たの」
「抜け出して来たって、、彩香…あなたという人は、」
これはー
この記憶には見覚えがよくあった
つい先日、教会長と呼ばれるやつに洗脳まがいの術をかけられたときに見た光景、あれは私を追い詰める幻想だと思い込んでいたけれど
今なら分かる これは確実に、現実に起きた、過去の記憶ー
そして、私が、目を逸らし続けていた
あの日の真実ー
「幸せだった」
「え?」
「確かに、世間体から見たら、私のやっていた仕事は、後暗いことなんだと思う。辛いことや、苦しいことばかりだったけれど、でも、今の生活に満足していた。私には、あれが幸せだったんだよ。
…なのに、斗真は私からそれを無理やり奪った。」
「…何を、言っているのですか」
「…私は斗真が見ているような人間じゃないんだよ。」
「違う…違う、私は…!あなたの罪は濡れ衣だった!あなたは何も悪くない!」
全部、私が、、あの写真も、あの動画も、全部ー」
「止めろ!聞きたくない!!彩香は操られているだけです…こんなことを言うように、あいつらに!」
あの時は、知らないはずの感情が、濁流のように押し寄せ、激しく動転してしまったけれど、今は冷静に頭が働き、淡々と2人を観測している
あの日同様、過去の「私」が逃げるように目を背けて走り出そうとした刹那、彩香が「私」の腕を引き止める。
「また、逃げるの?悪い癖だよね、もう、終わりにしよう?こんなことを続けても、誰も幸せになんて、ならない」
「!……げてる」
「え?」
「馬鹿げてる、意味が分からない、無理なんだよ、不可能なんだよ、絶対に彩香に勝ち目なんてない。
私には、君を助けられる力がある!罪から遠ざけ、被害が及ばないようにするだけ、何も金や名誉を望んだりしてない!復讐するわけでもない!当たり前の日常を、君に返してあげられる、ただそれだけなのに、どうして、、私は、あなたを助けたいだけなのに…」
私は、この光景を、知っているー。
この先の言葉も、
「斗真はいつも私のためだとよく言うけれど私はそんなこと望んでいない。
斗真だけが正しいと思っている世界でしょう
私のためなんかじゃない、自分の、ためでしょう?」
「……彩香はあのままで良かったのに、、、彩香の記憶も、消さなければ…」
私」の独り言のように呟いた小さな声に一瞬目を見開き驚いた表情をした彩香は、俯きながら、
酷く悲しそうな声色で呟く
変わってしまったんだね…
そう呟くと、くるりと私に背を向けてカバンから何かを取り出す、それは、、、私が肌身離さず身につけていた契約の証のリング
どこで手に入れたのかは分からない、だけど、目の前の「私」の目の色が明らかに変わるのを見た。
「斗真が変わってしまったのはこれのせい
こんなのがあるから、、こんな力があるから、、貴方はー」
「返して下さい! !」
咄嗟に「私」は彩香に掴みかかるかのようにフェンスまで追い込み
無我夢中で制服のリボンを引っ張り 彩香はリングを握った手を離すまいと握りしめている
不意に引っ張っていた制服のリボンが彩香の首元からするりと抜けて私は咄嗟に数歩後ずさる
彩香はその反動で握りしめていた左手をはなしリングが空中に投げ出された
私は彩香の手を離れたそれを一心に掴みかかり、彼女の身体を無意識的に押しのける
そのとき、金属の軋むような聞きなれない音がフェンスから発し、同時に 短い彼女の悲鳴
私はしゃがみこむようにリングを手にしたのを確認するとくるりと振り返る
ー振り返った先に、彩香はいなかった ー
鞄と、ちぎれた制服のリボンが床に 散らばり
フェンスの一部が老朽化していたのだろう、壊れて消失していた
目の前の私は震える足でフェンスの下を覗き込む
そして、激しく絶叫し、頭を抱え呻き
何か独り言を取り憑かれたように呟き続けている
「私のせいじゃない 私のせいじゃない 私のー」
他責に走り惨めな醜態をさらけ出し、一心不乱に天使を召喚し 祈りを捧げる
「これは全て事故だ 私のせいじゃない 彩香が悪いんだ
彩香は勝手に自殺した 自分の罪に耐えきれずに 私は関係ない 私はー」
《やはり、血筋は争えない ーか、》
無表情だった天使は一瞬酷く悲しそうな瞳で蹲り気を失う私を一瞥すると、
《次で最後だ
円城寺 次はないと思いなさい 》
そう言い残し消えた
………私は、客観的にこの光景を見ていた
フラフラとフェンス越しまで近づき見下ろす
遥か地面には、真っ赤な死に花を咲かせて仰向けに倒れる彩香の変わり果てた姿があった
場面が暗転し、今度は何もない真っ白な空間、
本当は、何処かで、心の奥底で、理解していた
私が彩香を殺した
突き落としたことが事故だろうと故意だろうと、私が彩香を殺したことに変わりは無い
彩香は援助交際をしていた噂は事実だった それを受け入れたくなくて、
いや、ただ私の天啓に傷がつくって、勝手に思い込んでー
完璧な人間など、どこにもいない
人は学び成長していく生き物だ
価値観や考え方が、完全に一致する人間もいない
多くの人間が、この理不尽な社会の中で、本音も、建前も、使い分けながら器用に生きている
彩香もそうだっただけ
人と人が分かり合えないのは仕方のないこと
育ってきた環境も、行き方も考え方も全く異なるのだから
私が未熟だったのは天使の警告を聞き入れなかったから
ただ、そこからが全ての過ちの始まりだった気がする
ああ、そうだ
こんな絶望的な情景の中でも、懐かしさか
抱いたことのない感情が広がっていくのを感じた
私は、嬉しかったんだ 見下して、バカにして、散々な態度をとってきたのに、こんな私に向き合おうとした馬鹿なやつがいたこと
何度 冷たくあしらっても、懲りずに接してきたやつがいたこと
友達だと言ってくれたこと
私の仕事を褒めてくれたこと
人生で、初めて、心から笑える人に出会えたこと
本当は、涙が出るほど嬉しかった
毎日、彩香と馬鹿みたいなやり取りも、放課後のたった2人の、部活とも呼べない化学室を間借りして
ラジオを作って、ああでもないこうでもないと言いながら、音が鳴ったときに2人でハイタッチした喜びも、
ラジコンのおもちゃのソーラーカーを作って、何故か彩香のだけ後ろにしか動かなくて2人で大笑いしたときも、
私の初めて知る感情だった
彩香が、間違った道を選んでしまったならば、引き戻すことこそが、私の役目だったはずなのにー
何度も、救いを求めたサインを出していたような気がする
なのに私は、その手を振り払って、逃げた
あれから、ずっと、何度も何度も墓前で 、夢の中で、
彩香に謝罪した 数え切れないくらい
でも、今 私が本当に伝えたいこと、
ありがとうー
こんな私と友達になってくれて、
私を最後まで信じてくれて
本気で向き合ってくれて
ずっと伝えたたかった気持ちに、今更気づく
おめでとう 斗真
最後に、私のよく知る彼女の声が、聞こえた気がした
頬に当たる床の冷たさに目が覚める
大理石が散りばめられた冷たい床に私は倒れていた
ここは、、試練の間の入口だ
さっき私が入った場所と同じ、
合格、した、のか?
静まり返った広間は虫の気配1つせず、不気味な静けさが漂っていた
でも、この試練が本物で1つも偽りがないのだとしたら、違和感がある
天使はいった、次はないと
だから、このとき天使は私の罪を見逃し、私の天啓はまだ消えていないことになる
私の認識では、彩香を失って、病院のベッドで目を覚ましたときには既に天啓は失われていた
この次の改変で、私の天啓は切れたことになる。それが私が目を逸らし続けていた、最後の試練
考えを巡らせる中、
咄嗟に試練の間に入るまでの喧騒を思い出し立ち上がる
確か、闘いの真っ只中だったはず
ローブの女、否、もう1人の結衣そっくりの女の子が私をここまで連れてきた
葛城神父や、結衣とは真っ向から対立するイデアの使徒の1人だと思うけれど、、
彼女は何者なのか
なぜ私の改変した過去を全て
知っているのか
なぜ結衣を殺そうとするのか
なぜ私に、そこまでして天啓を
考えてもキリがない疑問を無理やり封じ
私は聖域の扉を開いた
扉を開けた瞬間、目の前の景色に絶句した
…え?
私の背丈より数cmほどの高さから全て天井が真っ二つに両断されたかのように吹き飛んでいた
生暖かい風が頬を撫でる
階下を見下ろすと、先程まで激しい闘いを繰り広げていた正門付近も、物音1つ聞こえない
代わりに、四方をぐるりと囲むように立ち入り禁止テープが貼られ、
異様なのは、そのすぐ隣の道路では、普通に車が行き来し、歩行者が大勢歩いていることくらいか
彼女は、何処へ行ったのだろう
人の気配1つしない崩壊した聖堂、瓦礫をかき分けるようにフラフラと覚束無い足取りで歩く
2人が、命懸けで、必死で守ろうとしていたのは、
こんな馬鹿みたいな現実を、こんなことすら、乗り越えられない私の弱さ、浅はかさ、何もかもに嫌気がさす
たどり着いたのは、結局、私なんかが、何も成し遂げられるものなど何一つないという現実
もう、終わりにしてしまおうか
何度もそう思った 少し前の私なら、
自殺は罪だと分かっていながら、何処かで救いを求めてた
幻覚でも見ようものなら、すぐに私はそちら側を選んだと思う
だけど、何故だろう
今はそうは思わない
こんな私にも、手を差し伸べてくれる人達がいる
特に
分かりませんか?私が貴方に力を貸す理由」
自分よりも、他の誰よりも、 私はあなたを守りたい、助けたい、死なせはしない 」
そう震える声で言って
彼女を泣かせるわけにはいかない
何者なのか、どうして私にそこまでしてくれるのか、何1つ分からないけど、、
次に会ったら、教えてくれると、言ってくれた
彼女のことを
そして、私の記憶を
本物の結衣は、何か大きな目的のために動いている
その目的のために私が記憶を取り戻させるわけにはいかない
だから、試練を破壊しようとして、聖堂を爆破したのだと思う
そして、彼女の目的とはるフィアは通じている
おそらく葛城神父も、結衣のその目的を知っている
知っていて2人は、協力関係を結んだ?
いや、あのとき、朔夜さんが言っていた
彼から聞こえる憎しみ、怨嗟、の声
時折 絶叫のような 憤怒の感情
それらは確実に結衣に向けられていた と言っていた
ならなぜ今まで
葛城神父の行動は不明だけれど、
それすらも、彼女ならば、全て知っているような、全て見透かしているかのような、
彼女に会わなければ
そして、最後の試練 を、超えられるかどうかは、そこで決まる
なぜか、確信に近い仮説があった




