芽生える不信感
夜更け、月明かりだけが教会のステンドグラスからさしこむ、誰もいない聖堂の一番前に座り、マリア像をぼんやりと見つめていた。
夜の聖堂は昼間の明るい景色とは違い窓から差し込むわずかな月明かりと、非常灯の明かりしかなく、聖堂内は静けさと闇が拡がっている。祭壇の横にある名前も分からない三体の銅像は不気味なシルエットを醸し出し佇んでいる。
寮に来て2週間が過ぎた。
学園生活は日々平和に、何事もない日常を過ごせている。不安だったけれど、少ないけれど友達も出来た。
贅沢はできないけれど、食事も、部屋も申し分ないくらいで、寮の規則も大体覚え、あれほどわかるはずがないと思っていた聖書も、少しづつだが理解できるようになり、教会での1日を、私は受け入れていた。斗真さんもユナン神父も私に優しくしてくれる。記憶が戻らなくても、私生活には何不自由などしていないくらいだ。周りから見たら、私は恵まれているだろう。こんなに運良くことが運んだのは、斗真さんと、ユナン神父の計らいだ。
ここの人達は私を受け入れてくれた。戸籍もお金もない私を、高校に通わせてくれた。
ーーだけど、、1人になると不安になる。過去の私を知る人物が著しく少ないこと、いや、いたとしても斗真さん以外に接触してきた人物がいない。初めは、事故の1時的なもので、すぐに記憶は戻るだろうと思っていた。
なのに.....何もかもが私の知らない場所、知らない人物、、
そしてなにより、私は、理解できていないことがある。ずっと、疑問に思っていたこと
私は、クリスチャンの儀式が、ミサや、礼拝、などの習わしが、あまり好きでは無い。
こんな教会に1番近く身を置く身でありながらなんて不謹慎なんだろうとは思うけと、でも私にはこの100ヶ条以上もの規則が、誓約が、胸の奥にずっと引っかかっている。鉄壁の規則でまるでがんじがらめにされているようで、
私は普通の学生や、日常生活についての記憶はないけれど、その一般常識はある、はず。だから、その常識からかけ離れたまるで囚人のようなこの決まりが、私は、.....
!
突然背後から礼拝堂に足音が響いた。驚き振替ると、ユナン神父が微笑を浮かべながら立っていた。
「ユナン神父……」
「礼拝堂に祈りに来てくれたのですね。良い心がけですね。祈りは終わりましたか?」
「あ…はい。一応」
てっきり消灯時間を過ぎて部屋から出たことを叱責されるかと思っていたのでその変わらないいつもの態度に少し驚く。
ユナン神父は夜中だというのに外出でもしていたのだろうか。ミサの時など教会での催し時に身につけていた白の祭服を着ていた。
いつもは後ろで束ねていた髪が今はそのまま降ろされたままだ。 さらに、外は雨でも降っていたのだろうか、長い髪に水滴が多々残っていた。傘、差さずに出かけていた...?
「ユナン神父、風邪、引きますよ。」
私はポケットに入っていたハンカチを差し出す
「え?ああ、ありがとうございます。」
ユナン神父は今気づいたかのように一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにいつものような笑みに戻り、ハンカチを受け取ってくれた。
「.....あなたは、優しいのですね。不安もたくさんあるでしょうに、何も聞かず、愚痴の1つも吐かずに、、」
「...そんな、、皆、よくしてくれますから。」
「私たちクリスチャンにとって、全員が神について同じ認識を持っているわけではないんです。」
マリア像の方を見つめながらユナン神父がポツリと呟いた。
「無償の愛を誓えるまでに、数多の時間を要する人もいる、ときに、信じられなくなり自分の忠誠心が折れることもあります。
私たちだって、祈りが本当に聞き届けられているのか不安になるときがあります。聖書の教えに背くことも、理解できず苦しむときだってあります。」
私はユナン神父が何を言いたいのか分からずそのまま話をただ聞いていた。
「神はあなたに決して信仰を強いているわけではない。全てを捧げようと、受け入れようとしなくてもいい。ですがその心の片隅に、信じる心がほんの少しでも抱いていてくれたら、嬉しいと、私は思います。」
そういいユナン神父は背を向け出口へ歩いていった。
「あのっ!私、信じたいと、思っています。いつか、クリスチャンであることを誇りに思えるようになりたい……その気持ちは、本心です。だから…」
「教会とは希望をつむぐ場所、信じる心が、あなたを守ることを願っています。」
少しだけ振り返りそう告げると、出口を出ていき、そのまま夜の暗闇に紛れて消えた。
…ユナン神父は、まるでエスパーかのように私の不安に対する答えをくれた。
彼には、全て見透かしていたのだろうか。
翌日、土曜日の午後、教会の正門を掃除していたとき、見知らぬ男性が2人のシスターと共に階段を上がってくる姿を見た。私の知る修道院の方ではない。ミサの日でもないとすると、訪問者だろうか?
「あの方は…?」
私は隣で共に掃除をしていたシスターの1人に尋ねる
「ああ、彼は神父葛城様よ。秋霖学園の講師もしているのに、知らないの?」
「あの人が……」
私はまだ転校してきたばかりでまだその先生と対面したことはなかった。
最初に寮に入るときにユナン神父が言っていたこの教会の残り1人の司祭であり、秋霖学園の講師も務める、葛城誠人様。
その人は30代くらいの男性だった。背の高い黒髪の日本人らしき人で、博士か学者が身につけていそうな全身黒で統一された長いコートのようなフォーマルな制服を着ていた。
その雰囲気からも彼の階級が特別だというのが分かる。
こちらに近づいてくるようだった。私は箒を近くに立てかけさっと身なりを整え先生の元へ歩いていく。
この教会で一番偉いお方だ。失礼のないようにしなければ。
「おや、君は……」
「葛城先生、お初にお目にかかります。私は…」
「やぁ、新しい暮らしは、慣れたかい?結衣」
「え……」
そういい私の頭の上にぽんと手を乗せ優しく微笑んだ。
「私を、知っておられるのですか?」
「もちろん。数週間前にうちの学園に転校してきた生徒だね。それに、アトランティス教会のクリスチャンは皆私の子供のようなものだよ。」
ああ……そういう意味か。
私は先程までの緊張感がほぐれ、逆に拍子抜けしてしまった。
「あの、葛城神父は、どんなかた、なんですか?」
「はぁ...そんなことも知らずにここに来たの?」
シスターは軽蔑するようにそう呟き、私が立てかけた箒を奪うように取ると何も言わずに去って行ってしまった
.....私、何か気に触ること、聞いちゃったかな、、。
「結衣、おはようございます」
「あ、」
物陰の柱の裏から斗真さんが制服と鞄を持って
「おはようございます」
.
「葛城神父はこの教会の一番古くからの司祭でね、」
先程の話を聞いていたのか、彼について説明してくれる。
「アトランティス教会は昔は、形だけは豪華だけれど、信仰者の少ない閑散とした教会だったんです。修道院にも今ほどシスターはいませんでした。
白百合寮と孤児院を併設されたのも最近で、彼は本当に、小さな子供から私たちシスター、この教会に通う一般のクリスチャン1人1人を忘れずにずっと覚えているくらい、すごく敬虔で、慈悲深い方ですよ。ご存知の通り学園の講師の方に本業としているので、ここではあまり見かけることが少ないですが、何かあれば葛城神父にも伝えるといいですよ。」
「へぇ、兼業なんて、すごいですね。」
確かに、私を見て穏やかに微笑むその表情と声色は、どこか何年も会っていなかった友人に接するような、懐かしい感情を内に秘めているように感じた。
だけど、気のせいだろうか、私を見ているのに、その瞳の奥には私ではない別の誰かを、見据えているかのような、私に向けてくれた言葉や、笑顔、それさえも、一瞬無理に取り繕っているかのような、少し不自然に、思えたのだった。
放課後、私は図書館で本を読んでいた。部活動に入っていない私は、図書館というとても時間を潰すのに最適な場所を見つけ、最近はここでよく皆が帰宅する時刻くらいまで読書をすることが日課になっていた。
何故かというと、本音は、寮に帰るのが気まずいから
当番はまだ来たばかりだからという理由でまだ外してもらっている私は、掃除も料理も買い出しも他の人に任せてしまっている。
執務室にいる神父たちの手伝いが私に出来るはずもなく、ただ帰ってすぐ部屋にこもりきり、食事だけする生活が、何だか申し訳なかった。
それに、、、
「松永さん、」
肩を揺すられるような感覚に目が覚める
司書の先生だった。
「もう下校時間過ぎてるわよ、ここも鍵かけるから、早く帰りなさい」
「あ、、すみません!」
いつもはアラームをかけ、読みふけって時間を忘れることを防いでいるのだが、この日はアラームをかけわすれていた上、気温も最適で、窓から暖かな夕日が差し込むこの場所で、気づけば眠ってしまっていたようだった。
慌てて時計を見ると、6時を少し過ぎたところ、白百合寮の定められた門限まであと30分しかなかった。
規則に大きく書かれていた上神父からも特に門限だけは必ず守るように釘を刺されていた。
私は急いでかばんに荷物を詰め込み校門まで走る
既に生徒は誰もいない。
走ったら間に合うだろうか。
だが元から体力がなかったのか、運動不足の私はすぐに息が上がり進まなくなっていた。
そうだ、近道からいけば、。最初のとき地図をもらっていたので、ルートは頭に入っていた。
私はいつも通る大通りを外し、閑静な住宅地が立ち並ぶ裏路地から回ることにした。雨上がりで地面は水たまりでところどころぬかるみ元々日が当たらず暗く湿った道がさらにその薄暗さを増していた。
ふと20メートルくらい向こうに、人影が見えた。
まるで吸い寄せられるかのような意識とは裏腹に足が1歩ずつ進んでいく
人影だと思ったそれは、正確には少し違った。
黒い、モヤ...霧..、 のような、
あれは.....一体...
「あれに近づいちゃ駄目だ 」
突然 どこから現れたのか、私の腕を誰かが引いた。
気配も何も感じなかった私は、驚き振り向くと、そこには背の高い若い男性が目の前にいた。
その人は肩くらいの長さの赤色に近い茶髪の人で、青と紫を基調とした和装のような、今の時世から考えると、少し変わった服装をした方だった。
「一人?裏路地は通っちゃ駄目だよ それにこの時間は危ない 」
こんな所にこんなあやしい身なりをしている人なのに、不思議と、恐怖は感じない。私の思考は麻薬にでも犯されてしまったのだろうか、
「あの、あなたは...?私のことを、知ってますか?」
「.....いや、ただの通りすがりだよ、、」
よく考えたら不審者は私だ。
初めて会ったただ心配してくれただけの人に、私は何を聞いているのだろう。
でも、どうしてだろう その人から目が離せない
私の奥深くの心の中から、湧き上がる初めての抱いたこともない感情、
「いつもの大通りで帰るんだ、いいね」
彼はぼーっと見つめていた私から視線をソラスト、そう告げて迷路のような入り組んだ裏路地をスタスタと歩いていく。
「え?」
どうして、、私が大通りから帰ってるって、、
この胸騒ぎは何だろう。彼は私がなくした記憶と関係のある人物?でもただの通りすがりだといった。
そんな確証もない予感と予兆の警鐘がなっていた。
「あの、、!待って下さい!」
咄嗟にそう叫ぶ だけど彼は聞こえなかったのかわざとか分からないが立ち止まることなく過ぎ去っていく
私は視界から消えないように彼を追いかけた。
だけどどんどんその姿が遠ざかっていく
ふとその人は不意に左の道に曲がった。私は慌てて彼が消えた方角に曲がった、しかしそこは、、行き止まりだった。住宅地の合間を塗ったように訪れる角地、そこは、ごみ捨て場になっていた。そのフェンスは塀と隣接されるようなたてつけになっており、その高さは人間の背丈の2倍以上あった。
消えた……?そんなはずは… 確かにここを曲がったのに。
ため息をついた。
はっ!今、時間は!?
ふと我に返り腕時計を見ると、既に午後6時15分を過ぎていた。
門限を過ぎていた上、道にも迷い、挙句の果てに膝あたりまで泥水が跳ね制服は泥だらけになっていた。何やってるんだろう、私…
ひらけた住宅街に出て、ようやく私の知る道にきたころには、日はしずみ、明かりがつきはじめていた。
結局、寮についたのは夜7時を回っていた。
私は寮にかけこむ。
談話室にはユナン神父と斗真さんが深刻な表情で話し合っていた。
「結衣!!どこへ行っていたんですか⁉︎」
「何かあったのかとずっと心配していたんですよ?」
私を見るや否や2人は立ち上がり駆けつける。
「…その服は一体?まさか何かに襲われたのですか!?」
「いえ!これは、違います。走っていたら泥水が跳ねただけです。」
「…とにかく、無事で良かったです。斗真、瀬野に無事でしたと報告お願いします。」
「はい。」
斗真さんはそのまま玄関から出ていく
「門限を破ってしまいすみません…」
「とりあえず、着替えてきなさい。」
私は全員の心配の種の意味がよく分からなかったが、言われた通りに部屋着に着替えると談話室へ向かった。
談話室には2人の他に葛城神父に瀬野さんも来ていた。
「何があったのか、話してくれますね?」
ユナン神父がそう優しく諭すように聞いた でもその目は有無を言わさない威圧感を感じた。
なぜ全員が集まる必要があるのか、自分がとてつもない過ちを犯したような気がしてきた。
私は重い空気の中事情を話した。まるで尋問のようにー
図書館で本を読んでいたらうたた寝してしまったこと、そこでいつもの通学路と違う住宅地の中の細い裏路地を通っていたこと、そこで道に迷ってやっぱり引き返して帰ってきたこと、制服は転んで水溜まりに入ってしまったこと、
一通り話終え、神父を見る 彼らは何も言わず、しばらく沈黙があった
「...その裏路地で、何かありましたか?」
ポツリと、俯きながらユナン神父が訪ねた
「.....いいえ。」
「嘘だな」
瀬野さんが露骨に呆れた声で呟く
「え?」
「分かるんだよ、嘘を付いているかどうかな」
「……」
それってどういうこと?
聞きたい気持ちを押さえ込み、私は息を飲む。
「.....はぁ、、お前の不注意で居眠りして、勝手な判断で通学路を無視した挙句、連絡1つ寄越さず、さらに何があったか、その理由もいえない、、とんだ常識知らずなんだな、君は
「...申し訳ありません」
「まぁまぁ、あまり責めてはいけません。いくら規則に明記されていたとはいえ、具体的な理由も知らずに、ただ守れというのは難しかったのかも知れません。
「勝手な理由で門限を破ったことは私の責任です。本当にすみませんでした……」
「チッ」
瀬野さんは舌打ちし、強く机をたたき立ち上がるとそのまま出ていった。
「結衣、あまり気に病まないで下さい。瀬野も本当はあなたのことを心配していただけです。」
斗真さんが優しく肩を叩きそう励ましてくれた。
あの反応は、とてもじゃないけれどそうは思えなかった。
「今後は、このようなことが起きないよう、気をつけなさい」
終始真顔で一言も話さなかった葛城先生は、最後にそう告げると、その場は解散となった。
私は自室に戻り先程の話を思い返していた。
瀬野さんを、また怒らせてしまった…あんなに温厚そうだった、葛城神父までも、、これじゃいつまでたっても信用されなくて当然だ。
皆が私を探し回っていたときき申し訳なくなる。
でも、どうしてそこまで、、、という気持ちもある。1時間、遅くなったのは事実だ。でも、
そこまで守らなきゃいけない理由って?
。ここは郊外で人気も少ないし、不審者の多い街なのかな…
でも、だとしてもどうしてあんなに…
ユナン神父も斗真さんも最初は取り乱していたけれど私を責めなかった。先生は最初から態度を変えていなかったし、正直、あの人のことは知り合ったばかりでよくは分からない。
あの人は、ただの通りすがりの知らない人だった、そういうことにしよう。
あの時は頭に血が上ったかのように一心不乱に追いかけていたけれど…
やはり冷静に考えると、馬鹿みたいだ。
ストーカーもいいところだ。
「彼女は本当に……なのですか?」
「あなたも分かっているでしょう。教会を出ても彼女は……です。私たちしか……ですよ。あの脅威から守ることができる……は。」
?
「それは……ですが私はもう、……ことが不安なのです。」
翌日、休日だったが特に行く宛もなく寮の3階の書庫で読書をした後、部屋に戻るため廊下を歩いていたとき、どこかの部屋から誰かの話し声が漏れ聞こえてきた。
「忘れたんですか!?5年前のあの北九州で起きた惨殺事件を!」
最初は何を話しているのかも聞き取れないほどの大きさだったが、ちょうど私が通り過ぎようとした部屋の前で、刹那、責め立てているような怒りの混じったさけび声が聞こえ驚き立ち止まる。
執務室の扉がわずかにあいており、瀬野さんの後ろ姿が見えた。
書斎に座り向かい合っていたのは、ユナン神父だった。
今、惨殺事件って、言ったよね?
その不穏な言葉に耳が離せなくなった。
「 瀬野、またその話ですか、北九州での事件は本当に悲惨でした、忘れたことなどありません。でも、その事件と今の結衣は関係ありません。」
「関係がない...ユナン神父も、本気でそう思ってるんですか??無条件に庇うあいつと、同じじゃないですか。」
「瀬野...私は結衣のことはほとんど知りません。又聞きした噂しか、私の耳には入りませんでしたから。だけど今の彼女は天涯孤独で、お金もない、その上記憶もなくし、1番不安なのは結衣でしょう。まだ未成年なのですよ。それなのに弱音も吐かず、本当によくやってくれています。
「それは...だけど、
私には分かるんです。…を受けているから、5年前の事件で感じた彼女の気配と、今の彼女は全く ー それに、ーが切れたとしてもどんな人間でも後遺症で僅かな瘴気を感じますし、相もあるはず、なのに今の彼女には それが全くない、おかしいです、ユナン神父、ちゃんと彼女の身元を調査してください!」
「入院中、警察からも役所からも今も調査を依頼しています。だけど簡単に明らかになりはしません。ずっと隠れていたのですから。瀬野だってそれは分かるでしょう
「もしかしたら、彼女は、ーーなんじゃー」
「!結衣を追い出したいからって、戯れ言ばかり宣うのはやめなさい!彼女の受け入れに関しての話し合いは散々したでしょう!?とっくに終わったことなのに、なぜ蒸し返すのですか!?
異論を唱えるなら、ちゃんとした証拠を揃えてきてください!
先程まで穏やかに諭すように返していたユナン神父が、その言葉を境に突然机を強く叩き立ち上がり叫ぶ
「彼女は…なんかではありません!!あなたは結衣を見殺しにするのですか!?結衣のような人間を守るのが、私たちの使命でしょう!」
「あなたは、誰でもいいんですね、どんな人間でも無条件に無限に愛する、それがあなたの信念 」
「あなたの信条はいずれ身を滅ぼしますよ、ユナン神父、、!もしあの女が…でないなら、この教会は…いや、紫苑寺が、、 」
怖くなり、後ずさるようにその場を離れる。
ところどころ聞こえない部分があったし、聞いたことのない知らない単語があり、理解できない部分もあった。だけど、
ーー私の受け入れに関する話、、それが神父や、寮の皆を集めて行われたことは分かる。そこで、もちろん、反対意見が上がらなかったなんて、そんなはずがないこともー
推測でしかないが、これはとても辛い仮説、私が考えるのを辞めて頭の片隅に追いやっていたことだった。
図書室で夕食までの時間潰しをしていたが、嫌でも今朝の話が脳裏に過ぎってしまい、
ーー集中できない。
二人とも、一触即発のただならぬ空気だった。少なくとも、ユナン神父のあんな様子は始めてで、不安ばかりが頭の中に芽生える
斗真さんに偶然紹介されて、初めて会う人達のはずなのに、この教会の人達は、私のことを知っている人がいる。そして、それを頑なに隠している。
「どうしかしたんですか?」
図書室で本を開いたまま先程の考え事をしていたらいつの間にか隣に斗真さんが座っていた。
「いえ…何も」
咄嗟に目をそらす。
彼が、きっと誰よりも私をここで暮らせるように、頑張ってくれたんだろう。
でも、寮の瀬野さんや、シスターの雰囲気を見ると、絶対に全員は納得していない。
どうやって決めたの?多数決じゃ、ないよね?
..聞きたい、だけど、、
この人を、私は、まだ信じていいのか、分からない。それはここに来る前から、ずっと。私はこの人のことをほとんど知らない
今、この人のことが本当に分からなくなった。
彼は、私の何を知っているの…?
「明日、一緒に登校しましょうか」
「え?」
「いつも私たちの帰宅時間に合わせようとしてくれていたのでしょう?だからいつも図書館で本を読んでいた。
「.....」
「私は部活動も入ってませんし、今までは諸用で遅くなっていましたが、その用事もしばらくはありませんので。結衣が嫌でなければ、ですが...」
.
「いいえ、そんなこと 、ありがとうございます」
.....気を遣わせてしまっただろうか
それでも、明日から彼と学園に行ける それは少し嬉しかった。