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罪の代償



あれは…現世を脅かす地獄のありとあらゆる悪魔なんかよりも、よほど恐ろしい 人間の言葉を話し、、人間の感情を模して、人間の皮を被った化け物、

という方が正しいと感じるくらい、俺が知るどんな悪魔よりもーー




これは…遺書だ。

俺の計画が道半ばで途絶えて、俺が死ぬようなことがあったら、

いや、計画は死んでも遂行する。それが、思念体だけになってまで世界線を渡ってきた、悲願

既に意志を引き継いでくれる者も増やした。


でも、全て上書きされて、何もかも白紙になるくらいなら、急にペンを走らせたくなった。


イカれた神父の血迷い事だと思っても構わないから、聞いてくれないか


俺の、一世一代の、最大の、罪の物語をー




初めてあの女、松永結衣に出会ったのは、


俺がドルジ教会長からリヴァイアサンの天啓を得て、斗真の護衛を扱ってから数ヶ月たった頃だった。



あれはー

斗真がまだ、高校生になったばかりの頃だった。


3年生の卒業式に、彩香君を失って、彼は酷く錯乱し、しばらく入院生活を続けていた。

俺やユナンの言葉も届かず、もうエクソシストは絶望的かと思われたが、悠真が毎日のように電話をくれて、暇を見つけては県をまたいで見舞いに来ては説得し、彼は少しづつ笑顔を取り戻せるまでに回復した。

しかし、やはり彼の体調や、責務の重さを考えると、このままイデアの任務を続けるのは厳しく、

彼にはしばらくイデアの使徒を離れてもらうことになり、本部を離れ、再びアトランティス協会に帰ってきた。



学園の話など一切語らなかった斗真が、嬉々として話すようになった


どうやら幼なじみと再会したという

名前を聞いても心当たりがない


斗真は孤児で、産まれたときからずっとここ八王子の孤児院で育った。

彼が断崖絶壁に捨てられていたあの日、生まれたばかりの赤ん坊を、毛布にくるみ連れて帰ったあの日のことが、昨日のことのように思い出せる。


あの頃から、ずっと、シスターと共に、母代わりとしてあの子の世話をしてきた。幼い頃も俺はよく知っているが、彼は元から、酷く引っ込み思案で、内気な子だった。ほとんど話をしない、友達ももちろんいない、

小学校に上がっても、高学年になっても、それは変わらなかった。

彼と仲の良かった幼なじみなどいない。


遠い親戚の家に、渋々と

いった形で何度も引き取られて、結局金銭状況や不慮の事故、病気などで何度も引き取られてはまた戻ってくるといった、窮屈な生活を余儀なくさせてしまっていた。


だから、彼が閉じこもってしまうのも、仕方がなかったのかもしれない。

だからこそ、彼が嬉嬉として幼なじみだという女の子の話を、

俺やシスターたちは最初何を言っているのか分からなかった、疑いこそしたものの、


斗真が学園の話を楽しそうに話してくれたことなど、本当に久々で、

俺たち神父も、シスターも、そのときは嬉しかったんだ。



《彼女です、葛城神父ー!》


正門前で手を振りながら叫ぶ彼、


何日か後、下校中、一緒に連れてきたらしく、彼の隣には背の高い長髪の学生服を身につけた女生徒がいた。


綺麗な女の子じゃないか、初めはそんなごく普通の感想を抱いていた。


間合いに入った途端だった


一瞬 世界から音が消え去ったかのような錯覚を覚えた。刹那、襲い来る禍々しい気配に

全身の血管が逆立ち 沸騰するような 激しい 身の毛もよだつような寒気を 感じた


驚くというよりは信じられない という方が正しいか、固まって動けなかった。



悪魔、ましてや魔人が森の結界を抜けてこの聖なる領域である協会に立ち入っていることが


身構える間もなく放心する俺に、奴は屈託のない笑みで自己紹介するといつの間にか目の前から消えていた。


魔力を感知出来るのは当然だが俺だけじゃない。シスターの中にも闘いに参加しているものは希少ながらミエルものがほとんどだし、メデューサだって少なくない。学生エクソシストは大半以上は察知出来る訓練を積んでいる。だが、皆、彼女を歓迎し、

なんの違和感なく迎え入れている。

天啓を受けた教え子のエクソシストたちですら、だ。


何故か、皆にはこの気配を完治出来ないようだった。

分かるのは、俺だけー


本部に急いでこのことを伝えると、翌日すぐにルーエンがアトランティス協会に来てその女の調査をしてくれた。

その間、何故か俺は実家に強制的に帰らされ、アトランティス協会の敷地に踏み入ることを拒否された。


事態が急変したのは2日後、ルーエンの申し出で深夜に学園まで来て欲しい とメッセージが入っていた。

学園に向かった 俺は信じられないものを見た


ルーエン神父は何か鋭利な刃物で

肩から脇腹にかけて酷い裂傷を受けていて 血まみれだった。

天使の気配も感じられず 、契約が切れているのがすぐに分かった。


《一体何があったのですか!?


天啓は、どうしたのですか?!》


ルーエンは質問には答えずに

フラフラと 血走るような目で 肩を掴み

息も絶え絶えの満身創痍といった状況で、



《葛城、この件は俺一人ではどうしようもできない、

このままでは皆洗脳される


これは、最後の綱だ。

これで、1人だけ、、

すぐに協会長に応援を要請してくれ、


お前の天啓なら打ち勝てるだろう、でも俺たちは駄目だ。多分、

ここのエクソシストも、全員ー


これを、、斗真君に使いなさい 》


そう言って渡したものは、見た事もない7色に輝く水晶玉のようなもの、

透き通るような美しさにまるでこの世のものではないかのような錯覚を覚える


手にしていればどんな洗脳や幻覚の魔術も打ち消すことができる強力なエクソシスト協会に代々受け継がれてきた秘宝だった。


《ま、待って下さい、あなたは…!?どうするのですか!?》


《俺はー 確かめなければならないことがある、、ー》


十分な説明もないままルーエン神父は覚束無い足取りで協会とは逆方向に歩いていった それが俺が、最後に交わした彼との対話だった


協会に戻ったとき、俺はありったけの聖水を実家から鞄に詰め込み、天使を召喚し剣を抜き、身構えた


だけど、広がっていたのは 数日前のおぞましい狂気とは似ても似つかない光景


ふんわりと香ばしいクッキーのような香りが立ち込める

食堂で、シスターたちと一緒に彼女はお菓子を作っていた。


確かに禍々しい気配を最初こそ感じたのに、 随分と薄れ、あるのは天使とも魔人ともつかない不思議な空気 甘く、痺れるような まるで一昔前に流行ったお香のようなー


《葛城神父さん、お帰りなさい 》


まるでそこに住んでいるかのような挨拶をし、

彼女は柔らかく微笑むとパタパタと小走りでかけてくる

が、手にしている脇差を見て顔を強ばらせる


《ど、どうしたんですか?悪魔狩りにでも、行かれるのですか?》


《………いや、なんでもないよ 》


俺はことの真偽を確かめようともせず、ただの錯覚だったと誤認した。

否、本当は既に俺も誘導されていたのかもしれない、彼女の罠に


水晶玉をポケットに入れたまま、俺は気がついたらあろうことか水晶玉を無くしていた。

しかもそのことすら忘れ、任務すらも忘れた



俺の役目は斗真を守ること

あのとき俺が犯した最初の罪は、 洗脳を打ち消すたった1つの魔水晶を斗真に使わなかったこと


無くした水晶玉は神のイタズラか、

柚の元に渡り、柚の洗脳は溶けてしまった そして自分を地獄に突き落とした あの魔人に

復讐を決意し、斗真は彼女が魔人であり自分が操られていただけであることを知らないまま全てが始まった。

それが最初の過ち



あのときなら、まだ間に合ったかもしれなかった。だけど、全ては、はるフィアの、思惑だった


ときは流れ、

忘れもしない、あの事件、、北九州市メデューサ児童惨殺事件

まだ多少は平穏だったエクソシスト界隈に、戦慄が走った。


悪魔遣いによって召喚されようとしていた大悪魔を止めるため、イデアの俺たちが派遣された。

俺と、朔夜、そして、東京から天啓を受けた神父のエクソシスト数名と、学生エクソシストたち、

反対意見もあったが、敵の人数も、悪魔の名前も強さも未知数で、何もかもが桁違いの数値をたたき出していたため、万全を帰して、、斗真も参戦のめいがくだったのだ。。


近年、依頼が東京に集中していたことや、悪魔使いの存在の台頭は教会長から聞いていた。イデアの目的が悪魔結社を滅ぼすことであることも、幾度となく彼らに我々エクソシストが打ち負かされ滅びてしまった世界があることも、聞いてはいた。

だけど、俺は、ずっと半信半疑だった。


実際の闘いはかなり拮抗していた。いや、今となってはただの時間稼ぎに踊らされていただけなのだろう

そこで俺は、漆黒の髪は真っ白な白髪に変わり、瞳も赤く染まり、眼帯を身につけた変わり果てたかつての仲間、ルーエンの姿を見た。



ルーエンは孔雀に似た悪魔、ビフロンスと契約

し我々を襲ってきた。


悪魔もそうだが何しろ契約者である人間も、これまでとは桁違いの強さで、たった1人に、俺も教会長も、厳しい戦いを強いられていた。


朔夜は応援部隊を呼ぶために1人少し離れたところで、近隣の各教会に指令を出していた。


このときまだ建物内に多数の生存反応を感知した朔夜が、子どもたちを救出するために、咄嗟にまだ優勢に闘えていた斗真に思念を送った。


あの時、誰もが予想しなかった。

こんな結末になるなどとー


激しい赤い閃光のような光が頭上で見えたとき、すぐにわかった。

天使との契約が強制解除されたか、契約者の死亡、

どちらかを意味する信号だった。応援部隊と合流し、すぐに敵を引き離して、慌ててたどり着いたとき、

目の前の光景を現実と認めることに初めて躊躇した。


夥しいほどの血痕が地面や壁一面に紅い花を咲かせていた。

折り重なるように倒れた北九州市の地方の協会で行方不明になっていた孤児院の子どもたち、全身から血を抜き取られたかのように顔色は青白く変色し、息絶えていた。


そのすぐ後ろには、巨大な召喚陣、その真下に繋がれていたであろう鎖がバラバラに切れて転がっていた。

既に、悪魔使いも悪魔も、その場を去った後だった。



斗真はある事切れた男性の前で気を失っていた。

この男性は、悪魔の気配もしない、一般人だった。


この男性は、あの女の兄だ いや、兄にさせられていたと言った方がいいのかもしれない。


このとき、契約のリングは今何処にもなく、既に

強制的に召喚陣を無我夢中で描き、精神に語りかけたことを覚えている。



《何があった、サンダルフォン

なぜ契約を解除した!?》


向こうから語りかけてくるとき以外、俺たちは簡単に天使と意思疎通できる訳では無い。

闘いの召喚時以外天使を呼び出すことは本来禁忌とされている。ましてや他人の加護に 土足で踏み入り対話を求めるなど前代未聞行為だ。


罪深い、穢れと言われている 行為ー、最悪、自分の加護すら切られる可能性だってある中で、俺は天界の門に向かってひたすら名前を呼び続けた。


だが、何度目かの咆哮の後、

門が開き神々しい姿のまま現れた


《能力を悪用し、己のために乱用し続けたからだ 》



《乱用……?詳しく教えてください!》


《お前はあの女生徒に手をかし円城寺を守らなかった 》


《女、生徒…?》


このとき、否、本当はあの倒れていた男性を見たときには全ての真相に薄々気がついていた

だけど認めたくなくて、受け入れることを脳が拒否していた。


《あの魔人の目的は私 天啓を切り離すこと

彼に罪を犯させ、記憶を改変させざるを得ないほどの苦しみを与え 私を彼から乖離させることであった


《……なんですって》


声が、わなわなと震える



《実際、全てを知った円城寺は現実を拒否し、記憶を改変した。自分も、他人も、》



思考が拘束で目まぐるしく回転する

憎しみ、悲しみ、恐怖、恐れ、嫉妬、動揺、怒り、ありとあらゆる感情が怒涛の如く襲い 俺を急き立てる


だが真っ先に俺が口にしたことは




《悪かった……俺が全て悪かった!待ってくれ、お願いだ、》


無様に、地べたに這いつくばりながら許しを乞う こんなことをしても惨めなだけで何も好転しないことだって、天啓はそんなに生易しいものではないこともよく分かっていた



同情の余地など何もないことは俺が1番よく分かっていた。

でも、自分などどうなったって構わない

真っ先に頭をよぎったのはあの子の絶望し何もかも諦めてしまったあの表情


ようやく回復してきたばかりだった

ようやく笑顔を見せてくれるようになったばかりだった

真っ先に悟った。

これは、知られてはいけない

この悪夢のような現実は、一生胸の家に隠しておかなければ


でも俺はよく知っていた。彼はエクソシストでいられないならば意味が無いと言うことも、それ以外に彼を救う道が俺には見つけられなかったことも、


だから、


《ーを、天啓を、取り戻すためにはどうすればいい!?もう一度、どうすれば戻ってくれる》


開いていた門がゆっくりと閉じていく うっすらと天界に消えていき、


ーお前が真に罪を懺悔し、償うというのなら、、、




正しい現実を探し受け入れろ、

改ざんした記憶は4つ ー


そう脳に直接語りかけるように告げ、意識は分断された。


俺はすぐにこの女の認識がメデューサのただの一般人で、協会に通うクリスチャンであったこと、たまたま結社に狙われ両親を殺され、実験現場に居合わせた兄も殺され、結社に連れていかれ悲劇のヒロインのような認識に改ざんされていることに気づいた。


でも、俺と柚だけは違った。俺は直後に天使から真実を聞いたから、能力が効かなかったことは分かるが、柚も改変から弾かれたことには驚いた。

それだけあの魔水晶が強力だったのだろう。


結衣の喪失後の彼は、地獄だった。彼女を探してくれ 助けてくれと懇願し、俺たちがどうしようも出来ないと断れば、こちらがもう辞めてくれというほどに朝から晩まで神への祈りに時間を費やした。自分に天啓が切れたのは彩香君の自殺を方じょしたときだという認識に改ざんされていた彼は、必死に罪を清めようと、マリア像の前に、懺悔室に一日中スゴすようになった。

こんな無意味なこと、辞めてくれ


俺やシスターが無理やり彼を引き離して聖堂を閉ざしても、も、彼は自室に引きこもり、

生きているのか死んでいるのかも分からないような生気のない瞳で、ただぼーっと1点を見つめているだけ。

食事も手をつけず、誰の言葉も耳を貸さなくなってしまった。

やむなく入院させざるを得ず、こんな生活が何ヶ月も続いた。





彼が洗脳を受けていたのはあろうことかまだ6歳にも満たぬ頃、その頃から魔人の予言によりはるフィアの狂気となりうる天啓を手に入れる彼を見張り、

全てを魔人の掌で踊らされていたのである。


しかしこの悲劇を受け入れることを拒んだ。


本当は、分かっていた。もう、以前のあの子に戻ることができるのは、たった一つだけだということも







記憶が改変されていない柚は、復讐を続けようとしていた。

魔人に手を染めようと1度は協会を去ろうとしたけれども、2週間にも渡る悠真の説得の末、決死の覚悟を乗り越えて、この憎しみを封じて、復讐から手を引くことを苦渋の決断をした。

その間、2人にどんな対話が交わされたのかは分からない。だけど、あそこまで闇に落ちかけていた柚の心を救ったのは、、凄いと思う。俺には、出来なかったから。


助けたい人が目の前にいる

声が聞きたい

もう一度、笑ってほしい



あの女に会わせることだけは避けたかった俺は、

何とかして天啓を取り戻せないか、

俺だけでもあの子の代わりに改変した記憶を1人で探し始めた。



能力の改変がどこまで及ぶのかは本当に分からなかった。


俺には最後の一つ以外何が改変されたものなのか全く分からなかった。


当の本人すら覚えていなかった。覚えているものはいなかった。

改変された記憶や過去は例え誰が偽物と気づいたとしても無かったことにはならない。改変は元には戻らない


物的証拠まで残せるこの記憶改変能力は相当厄介だった。

戸籍も、家族も、故郷すらも疑わなければならない。



俺の能力の一つ、サイコメトリー

物や人に触れて過去の記憶を読み取る能力だ

これはどんな改変も洗い流してしまう

私が思いついた方法はこれだけだった

斗真に関するありとあらゆるものや場所で試した、

これは果てしなく 道のりだった。


最初の改変はわりとすぐにわかった。

本家を調べて、初めて存在を 知った。円城寺繭という斗真の義理の姉、悪魔遣いと取り引きし自ら身を滅ぼした悲しい少女



だけど残りの2つが探せど探せど分からない


それから半年以上がすぎたある日だった

あるとき、国際便でフィリピンから バルびな協会に宛先人不明の不思議なエアメールが届いた とうちに連絡があった。

宛先にんが不明だったため中を開けたという

そこには、うちのシスターであるフィオナが、

国外逃亡同然に国を出て、指名手配されていた けいが 時効により無効になったという旨の内容の手紙だった。


バルびな協会はその手紙を私のところに送ってきた。


フィオナが母国で、金に困り娼婦をしていたこと、そこで裏切りに会い濡れ衣を着せられて国外逃亡してきたことは知っていた。

そしてうちにくるまでの半年ほど隣市のバルびな協会の修道院ににいたことも


本当に些細な違和感 だった。 バルびな協会の神父と、話したフィオナの話、ただの世間話のつもりで、なんの意図もなかった。

だけど、バルびな協会の神父やシスターから聞いたフィオナの素行や性格は私たちの認識と大きく異なっていた。

何人もの新人シスターを虐めて退所に追い込んだり、修道院に務める男性修道士やお祈りにくるクリスチャンの男性に手を出し何度も揉めたという


だから私はフィオナに尋ねた バルびな協会ではどんな生活を送っていたのか?


でもフィオナは円城寺邸で家庭教師をしていたことはよく覚えているが、バルびな協会など知らないという。

まさかと思った。


懸念はみるみる確信に繋がっていき、

彼女の本性と、斗真の本当の出自を知った


そして同時に、この目に見えるものが何一つ信じられなくなった。



そして3つ目はその後すぐに意外なところから分かることになった

彩香君の自殺の真相だ。



蹂躙学園 で起きた、あの 橘さんの自殺

彼が何年経っても怯え、懺悔にくる あの焦燥、恐怖、の滲んだ感情を、俺はどうしても自殺幇助だけが原因ではないような気がしていた。だから

もう一度その事故を調べ始めた


もしここに自殺以外の第三者の意思が介入しているとなれば、それは自殺ではなく殺人だ


あの事故の真実を知ったその時、彼に降りかかる全ての不幸と、初めて俺は神を呪った。


このとき、決意した。


初めは、ただの義務だった

あの子を20歳のその時まであらゆる敵から守り続け、そばで見守ること

これがイデアの使徒に抜擢され天啓を得るための条件だった。


彼は恐ろしく優れた才能を持っていた。

代々エクソシストの家系デモなんでもない人間がその純粋さと清廉さだけでわずか中学生で最強

サンダルフォンの加護を受けた。

守るどころか、こちらの方が助けられたことも数しれない。


でも彼は愛を知らない 幸福を知らない

俺はこの子の封じた記憶をただ一人知るものとして、一生守り続ける。そして彼には、ごく普通の、ありふれた人生をー



この時まで、俺はあの魔人を恨みこそすれど、復讐する気はなかった。あれはちょっと天使の加護を得ているだけの生身の人間の手でどうにかできる存在じゃなかった。俺よりも圧倒的に強いはずのルーエンまでも勝てなかったのだから



でもー、水面下で、ずっと準備してきた。

ドルジ神父や朔夜がはるフィアを滅亡させるために世界線を旅してきたのと違って、俺はずっと探していた。たった一つのあの女の弱点を


そして、最後の賭けでようやく分かった。あの女の招待がー




俺は許さない 彼を、再び地獄の 底に叩き起したあの女を、それが、たとえ、

悪魔だろうが人間だろうが、異世界人だろうが、関係などない


この手で、俺は、あの2人を、絶対に、


《絶対に殺してやるーー!!》

……………………………………………--………


!!



凄まじい爆音の如き衝撃でフロアが揺れた。


爆発のような轟音に飛び起きた私は、自室を出て

とてつもなく大きな 瘴気の気配に気づく。


慌てて廊下に出ると、非常ボタンが押され、隔壁が下ろされている。



うっ


頭の中に直接囁きかけてくるような感覚




この気配を、私は知っている

この術を、私は、知っている



「結衣さん! これを!」


彼が投げた小さな輝石を受け取る

幻聴は消え、世界に音が戻る


「朔夜、さん、、一体、何が…」


「結界を破られた


強力な悪魔が一体、ここに乗り込んできている、」


「え!?こ、この本部に??!」


そんな馬鹿な という思いが率直な感想だった。だが、真剣そのものの彼の表情から察する


「なぜか天啓が使えないんです!気休め程度の血晶石じゃ幻覚が大きすぎて対処出来ない 」



「使えないって、どうして 」




「呼んでも出てこないんです リングに反応はあるから契約状態にあることは間違いないのに、、

とにかく、

他の候補生やシスターたちは地下から安全な場所に逃がしましたが、

圧倒的に数が足りてない。

今は戦える兵と、数人の若いエクソシストだけ



ドルジ神父と、葛城神父とも連絡が取れなくて、」


「え? そんな…」


「効果を抑えるのに精一杯で予知も使えない、居場所もさっち出来ない



あなただけでも見つかって良かったです、安全な場所に転送しますから、地下に」


「待って!


行かなきゃ

私ー」


私はとてつもなく嫌な予感を感じ踵を返し走り出した


「待ちなさい、結衣さん!一人で勝てる相手ではー」







静止を振り切り全速力で掛ける

ここの結界が鉄壁だったのは、ドルジ神父の能力があったから、でも、今、何らかの理由でドルジ神父はここにいない。

恐れていたことだった。 私は葛城神父を甘く見ていた。

まさか、彼がイデアに反逆するとは思わなかった

何となく気付いていた。あの正体がバレた日から、

あの張り付いたような笑みの中で、瞳だけは笑っていなかった。冷たい、炎で 私を睨みつけていた。


葛城神父は私を、本気で ー


魔人だったから?ううん、それだけじゃない気がする。

はるフィアにいたときのことは分からないけれど、


私と葛城神父との間に、何かあったことは明らかだ。

でも、それを知る時間の猶予はない。


斗真さん、がいない。

試練の間に 隔離していたはずの彼がいない

やはり……彼の契約は斗真さんを守ること

彼を連れて行ったのは葛城神父で間違いないだろう。


だが、駆けつけた地下の、私が眠っているはずの冷凍ポットにも、誰もいなかった。

何で?どういうこと !?これは私の予想だにしないことだった。


まさか、攻めてきた悪魔というのはー

みるみる青ざめていくのを感じる


誰かが、カプセルを開けた、、

そして、この地下に ー

この秘密を知っている人間は、ドルジ神父と九条院さん、そして、葛城神父しかいないー


あの子が、目覚めたら、私はー!


警告音がけたたましく鳴り響いている


上の階から激しい爆発音が響いた

と刹那、ガラガラと激しい地鳴りと共に瓦礫が山のように頭上に降ってきた


何とか転がるようにし、

避けて頭上を見上げる。巨大な穴が空いていた。

刹那、パリンという窓ガラスの割れる音がし、鋭い刃物じょうとなった粉々に

ガラスが 外は嵐だった。 暴風とともに

吹き荒れている。

召喚によるものなのか、世界の意思なのかは分からない でも確実に先程までは晴天だったことを考えると召喚の影響がもうすぐそこまで来ている



今、私はドルジ神父から分け与えられたほんの少しの能力しかない。

そして、今ドルジ神父はここにはいない。

そして朔夜さんは何らかの理由で天啓が使えないー


葛城神父が何をしようとしているのか、他に何人協力者がいるのか、分からない、だけど、

危険な状況にあるのはもう1人の私だ。聖域から連れ出して、何をするつもりなのか



刹那、

頭に鈍器かなにかの武器で殴られたのだと気づいたときには地面にひれ伏していた


遅れて衝撃を受けた 形容しがたい激痛が襲い来る


薄れゆく意識の中で 目の前に誰かの足元が見えた。

確かめることも、声を上げることも 出来ないまま、




( 何か吐き捨てるように呟いたような

きがした。




………………………………………………………






どのくらい時が経っただろう


頭痛と うっすらと血が滲んだ後がわかった。でも、

それほど深い傷ではなかったようで、

飛び起きるように 起き上がる


扉が、、開かない…

私を殺す気はないっていうこと?それとも能力のことを知っていて、、

?私を閉じ込めた何者かは、分からない

でも、何とかしてこの扉を開けないと

私は髪につけていたピンを針金じょうにし、なんとかピッキングの真似事をしてみる。


……ダメだ、空く気配はない。何しろ、ここはドアノブはなく、カードキーのような差し込み口があるだけ。扉の隙間に針金をさしてみたところで、意味が無い。


……もう、諦めるしかないのだろうか。 廊下からまだ警告音がなっている。

でも人が近くで戦っている様子はない。


カプセルの私が目覚めたことで、私は外に出たら確実に狙われる

結界が切れているから 私はなんの力もない。




!パタパタと走ってくる複数の足音に扉に駆け寄る。

小さなモニターから、外を映し出した。

その廊下を葛城神父、柚ちゃんと共にかけて行く2人の後ろ姿が見えた。


斗真さんが葛城さんたちの側についた、過去の私も一緒にいる。

それは私が1番恐れていたことだった。


あれを信用しては駄目だ。あれに心を開いては、、




……私は何のために、ここまで…


顔を覆い、地べたに座り込む



ポケットから何かくしゃくしゃの紙が落ちたことに気づいた。


……これ、は



遺書だった、斗真さんが

最後に私に渡した もの


契約内容すら分からず、それでも私の悪魔祓いをなんとか成功させようとしてくれていた。

必死に祈りをささげ続けていたのも、天啓を取り戻して私を救うためだった。

なぜこんなにも私を助けてくれるのか分からなかった

でも

全てを知ったとき、私は逃げた。

向き合えなかった。 怖かったから。

馬鹿な私を、

でも彼は責めなかった。



ーあのときの馬鹿な私を、助けてあげて下さい、引っ張ったいてでも真実を突きつけて下さい、そうすれば、私の天啓は元に戻るでしょう。そのとき、私が全てを諦めてしまっていても、あなただけは決して諦めてはダメです。

この世界の私にはできなかったことが、結衣ならできるから。

私が作り出した馬鹿な幻想を壊して下さい。それだけが、私の最後の望みですー



彼が最後に受け入れた私の契約の内容を、改変した記憶を、私だけが知っている。


そして、

ーそうだ、私はこの願いのために、ここまできた。

彼に真実を突きつけるために、




顔を上げ、拳を握りしめる。


君には私の全ての能力を3分の1ずつ与えてある。

ひとつは 思考誘導 まぁ、洗脳のようなものだ。

この力は天使と直接リンクしていないから、エクソシストや戦闘訓練を詰んでる人間には使えない。 能力範囲は500メートル弱、

使わないに越したことはないが、無いよりはマシだろう。


ひとつは物体に触れてその過去の記憶を読み取る能力だ。

遡れる時間は一度に24時間だ。

触れたものと記憶の 共有ができる。

ただ強力な能力だから脳波に影響をきたす可能性がある

セキュリティの解除やパスワードを知るために使え

だが乱用はするな


その能力が、今役に立ったのだ


何百時間目かのビジョンから、ようやく扉の解除キーを見つけ出した。


軽快なブザーが鳴り、ドアが開く


開いた……!


外の空気を吸った途端、自分が能力を使いすぎたことに気づく。

息が絶え絶えで、うまく呼吸ができない。吸うたびに 肺が痛み

頭がズキズキと激しく 痛む

視界が明滅し、ぼやけ焦点が定まらない。

血流が逆流しているかのような 激しい

動悸も覚える。だけど、


歯を食いしばり、立ち上がる。条件が揃わなければ私は 死ぬことはない。やるんだ。それだけが私をつき動かしてくれる。

まだ、終わるわけにはいかない。

私は壁を伝うように歩き始める。



「結衣さん!

良かった、無事でしたか…、!そ、その怪我…

すぐに治癒を 」



「必要ない 」



手をかざし青い柔らかな光が覆う

が 私は振り払う



「ポッドにいた彼女がいなくなった

斗真さんもいない 多分、2人は共闘するつもりよ 時間がない、」



「こっちもエクソシスト予備生が全員いなくなりました

共用の端末も破壊されていて、位置も分からない。

監視カメラも全て機能を停止しています」



「召喚実験をするとしたら、あそこしかない

感じる 強力な、あの悪魔の気配を

まだ、この協会には来ていない。それでも、確実に近づいてきている。

結衣と合流して、この本部を爆破するつもりでしょう」


「そんなーっあなたは逃げて下さい 」


「それは出来ない、何度も言ったはず、それに、誓約書で 例えどんな状況になろうとも戦う

彼女が対立したとき私は身を呈して戦う それがイデアの使徒と交わした破れぬ誓い」



「それは葛城さんや教会長がいることが大前提だ!今は2人ともいない、それに私は天啓だって」


「守ってもらうつもりはない。朔夜さんは応援が来るまであの悪魔を足止めしてくれるだけでいい



最終目標は、悪魔と彼女を絶対にここから逃がさない

そして、斗真さんを取り戻す



私は、「私」を止める。

彼女がはるフィアに着けば、あれが解放されてしまう。それは世界の終わりを意味するわ」


「あれ…?とは、、?大悪魔ダンタリオンのことですか?」


「いいえ、悪魔よりも、もっと恐ろしい計画 ー私がこの破れぬ誓いをかけられたとき、ジョーカーが教えてくれた。

はるフィアの本当の目的、理想郷とも呼んでいる新世界をー

ダンタリオンはその鍵を握る始まりにすぎない」



「私が盾になるので、朔夜さんはセキュリティルームに着くまでに武器庫で武器を回収しましょう、天使が呼べないなら、武器は多い方がいい 」


「ごめんなさい、結衣さんっ」



「え?…さ、朔夜さん…?」


………………………………………………………………………


セキュリティルームに向かう最後の階段を登り終えた先にある、非常口の扉を虹彩認証で開ける と同時に結衣さんを突き飛ばした


……………………………………………………


「ハア……っハア……」


肩でなんとか息をし、立ち上がり、短剣を構える

既に多勢に無税、天啓も使えない、味方も見当たらない、それでも、ここを通すわけには、いかないーー!


「まだ立ち上がるか、君も随分しぶといな」


離れたところで中枢である核 のシステムを弄りながら余裕 顔を上げ私を 見る


「何故ですか……葛城神父…

私はあなたから 生き残る術を教えてもらいました。イデアに選別された後、

あなたを、師匠だと思い、あなたに戦いの術を教わった、あなたは誰よりも忠実な使徒だったはず!」



強力な 瘴気を三体も感じた私は結衣さんを守りきれないと判断しここに向かう途中にある転送陣で無理やり結衣さんを外に飛ばした

いくら死なないといえ、苦痛や痛みは受け取る それに死の条件が分からないまま闘うのは危険すぎる。


離れた彼女が地方のエクソシストを集めてくれ 、増援にきてくれるまで、持ちこたえなくては


そこで立ち塞がったのは、私が2番目に尊敬している私の恩師の姿だった

その立ち塞がり、狂気じみた笑みを浮かべるその間際まで、私はずっと彼を探していた。

共に闘ってくれると、信じてー


「またそれか、君は本当に純粋だな、斗真とよく似ている

状況が違えば、私たちはいい 仲間になれただろうな」


「葛城様、今は」


……葛城、様…??

斗真さんはまるで崇拝するかのように彼をそう呼ぶ



「ああ、」


近くには半堕天使と リヴァイアサンが私に容赦ない攻撃を 浴びせてくる。


予知出来なかった あの男が、堕天していたこと

どうやって私を、いや、そんなことを考えている暇は無い


近くにカプセルの中で眠っていたもう1人の結衣が、 寄り添うように斗真さんがその方を抱いている。肩で呼吸し、苦しそうな息を漏らしている

近くには巨大な魔法陣と、

召喚の反動障害だろう。 大悪魔ほどのクラスの召喚には術者の身体に大きな反動を与える。契約主であったとしても、長年眠りについていた悪魔を起こし、呼び寄せるのは相当の負荷がかかるはずだ。


そして、召喚は完了してしまった。もうすぐアレがくる。

ドルジ教会長ですら封印に 2日かかったあの史上最悪の悪魔がー





「召喚者の名に命じる、

天使ウリエル、天軍の総士霊魂をそこなわんとてこの世を徘徊するサタン幾多の悪魔を天主のみちからにより地獄に閉じ込め給え」


………


「ウリエル!?……ウリエル!ー一体なぜ、、天啓が使えないんだ…こんなこと、聞いた事がない…っ 」


「何度やっても無駄よ、」


刹那、黒く、長い髪をたなびかせ

割って入った女を見た


「あなた、はーーっ ッツ…!」


短剣を構える間もなく、

高速で矢のごとき無数の杭が 次々と一直線に飛んでくる

防戦しきれずいくつかを 被弾し、膝を着く


額に当たり切れたのだろう血が流れる生あたたかい感覚ー

明滅する視界の中で、彼女が振り向き

薄く笑った。


あの、予知夢で見た女だった


「なぜ、あなたがー」


それは私が、エクソシスト予備生の中でも1番優秀で、真っ先に試練をクリアした人物


(私、もっと強くなりたいんです。オリフィエルの力をうまくコントロール出来れば、持っとたくさんの人を救うことができる)



(私、エクソシストになって本当に良かった 天啓は私の、宝物です)



(九条院さんは、エクソシスト全員の、試練を知ってる、んですよね 私の、馬鹿な過去も、全部


居場所のなかっ他私に、葛城神父たちはずっと寄り添って時間をかけてくれた、)

私、恩返しがしたいんです。エクソシストの皆に


そう、微笑む彼女の姿が、今も脳裏に よぎる



「あなたに恨みはないけれど、、あの女の味方は全員殺す、1人残らず、全員葬り去ってやる」


そこには憎しみの炎だけが宿った瞳があった





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