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最後の賭け




「これから行うことはイデアへの叛逆だ。だから今の柚の天使、オリフィエルでは戦いに不向きだ。 だから今の天啓を捨て、契約を切り、新たな 契約を結ぶ必要がある。ちょうどここの地下に魔窟がある、

教えてくれ、交わした契約の内容を、」



「え…魔窟って、悪魔と、ってことですか?」





「ああ、不安かもしれないが、今のオリフィエルでは結衣の悪魔に勝てる見込みはない。契約のことは心配するな。肉体的な代償を求めない悪魔もいる。私が君の身体に影響がないよう厳選しよう。」


「……」


「私の言う事が分かるね、柚、あの悪魔は拷問の悪魔だ。広範囲の攻撃 最強の矛を有する悪魔と言われている。もし結衣が制御出来なければ、またあのときと同じようになってしまう。最悪の自体を考えたとき、治療と回復を主とする今の柚の天使では勝てないんだ。それに、作戦通りいったとしても朔夜との対決は免れない。そのとき、少しでも戦える人員が欲しい。何せこちら側は4人しかいないんだ。 」



言っていることは分かる、でもー、


《柚、一度ここから今すぐ離れなさい。あなたは今、多くの情報を得て取り乱しているだけ。落ち着いて、普段のあなたならそんな妄言に惑わされたりしないはずです。》



頭の奥でオリフィエルが何か語りかけている。 でも催眠のように頭がぼーっとしてうまく働かない。



脳内に、幼いときのビジョンがぼんやりと浮かび上がる。


あ… あれは私の故郷だ。


もう1人の私が、目の前にいる。ボロボロの服、乱れた髪、全てを呪うような暗い瞳で、私を見つめる。


ーー


四方八方が山に囲まれているド田舎だった

人口は2000人にも満たない小さな村だった。

近所で嫌な結束が出来ていたよね。


まるで私に語りかけるように皮肉に笑いながら囁いてくる。


小さな理由一つで、その家は村から爪弾きものとされ、迫害し、追い詰められた。

呪われた家系だと言われていた桜田家ももちろんその対象だったわ。


毎日、出歩く度に陰口をたたかれた。

私たちにだけ、お店のものを売ってくれなかった

学校では何年も虐められた。小学校になっても、中学校に入っても、ずっと、ずっと。



私は、普通がほしかったわ。

煌びやかな生活なんていらない。贅沢じゃなくたっていい。貧乏でも構わない。

周りから危害を咥えられたりしない、

危険に晒されない生活ー、悪魔にも人間にも脅かされない普通の日常ー

だから、簡単に惑わされてしまった、甘い、甘言にー

そうよね?柚、


《契約を他者に話すのは禁忌に触れる。そうすればもう能力を与えられない。いや、今後一切、典型は望めなくなるのですよ?エクソシストだってそれは分かっているはず。あなたの契約はまだ叶わない。だけどそれは天使の力なくしては叶えられないことを、

この3年を棒に振るつもりなのですか?柚、君の祖母の想いを、無駄にしてはいけない、あなたは自由になれる、だからー》



私は居場所が欲しかっただけ。仲間が欲しかっただけ。

私は逃げたわ。罪をなかったことになど出来ない、それでもとにかく、あの学園から、三鷹から、誰も私を知らない遠くまで、



長い年月がかかったわ。日常に戻るまでに、

やっと受け入れてくれる人ができた。

仲間にも恵まれた。

ずっとこのままでいたかった。



でも、あの人が全てめちゃくちゃにした。

私が積み上げてきた一つ一つの努力を、信用を!何もかも全て!

私の傷をえぐり出して、微笑んで、こう言った


(あなたは、私を知っているのですか?)

そう言って私に同情するような瞳で近づいてきて、

そしてー




嫌、聞きたくない、知りたくない!





「柚、私を信じろ、斗真も、君も、君の家族も、必ず助ける。」


葛城神父が、肩を掴み、私の目を見つめ、力強くそう呟く。


……いつの間にか、あの悪夢の光景は消えていた。


《復讐は復讐しかうまない、悪魔使いに落ちれば、あの憎む女と同じになるのですよ》


あ…

先程からずっと語りかけていたオリフィエルの言葉が、ようやく聞き取れるようになってきた。


でも何故だろう、今は、酷くオリフィエルの言葉が浅はかで、無慈悲なものに聞こえる。


もう、守り続ける必要はないんだ、だって私は知ってしまった。エクソシストが天啓を受けたままでは長く生きられないこと、

信じるべき神に1番近いイデアの方達が冷酷非道な実験を行っていること、

お金を巻き上げていること

私は、、、


(そうだね、オリフィエル、復讐しても結局はあの頃の罪がなかったことにはならない。ずっとそう言われてきたし、皆も私にそれを望まなかった。

でも、人は、綺麗事だけでは生きてはいけない。

聖書にある言葉をどれだけ守ったって、得られるものは限られている。

神を信仰するのは、人間だけ、人間は弱く脆い生き物だから。

何か縋るものを、いつもどこかで求めてる。

希望だけでは生きていけない。恨み、憎しみからは逃れられない。


私はーその程度の人間よ。

どう足掻いても、斗真や、瀬野のように純粋じゃない、)


《待ちなさい、柚、復讐の先には何もない、あなたはもう禁忌を犯しては駄目》


《たとえ何もなくても!! 私はー!》



長い沈黙のあと、私は覚悟を決めて顔を上げ、まっすぐ神父を見つめる。




「私の契約は、、ー」


《待って、柚、戻ってきなさいー!》





「 」


「分かった、君の願い、天使に変わって私が必ず、聞き届ける」


キーン


耳鳴りのように甲高い音が、辺りに響き、

願いを口にした途端、左手の契約の証である指輪が燃えるように熱く、赤く光り出す


そして、パリンという小さな甲高い音とともに、指輪は粉々に砕け散ったのを私は見ていた。ーただ、見ていた。

………………………………………………………





ドルジ神父と、一方的に振り払うように別れ、試練会場へと早足で歩く。


頭が割れるように痛い… さっき受けたイカれた装置の副作用だろう。だけど、九条院という男が差し出した薬は、飲む気にはなれなかった。あの教会長よりかは幾分かマシだが、

張り付いたようなあの忌々しい笑みが忘れられない。そもそも、心が読めるというだけで酷く恐ろしい存在に感じる。私が塗り固めた嘘も全て見透かしているような気がして、あの男とは関わりたくない。

気配だけで分かる、ものすごく強力な熾天使の加護を受けている。きっと恐ろしく強い。

それはドルジも同じだった。あの人も、この本部も、やっていることはめちゃくちゃなのに、あの人の言葉にはなぜか戸惑い掻き乱されている。


見た目の年齢と実際の年齢はきっとかけ離れているだろう。きっと肉体ですら仮のもので、、器を借りているだけで、実際は思念体のような いや、何を考えてるんだ。どれだけ跳躍した力があろうと人間に違いない。


馬鹿な私だって分かっていた。たった一人で、抗ったって、

状況を悪くするだけ。エクソシスト中を敵に回してまで成し遂げなければいけないことなど、もう私にはない。



しばらく薄暗い通路を歩いていると、突破開けた部屋に出た。



ここが…試練の間か、、。


巨大な頑丈そうな石造りの扉が何ものにも頼らずに佇んでいる。辺りは壁のようなものは見当たらず、空間の中に突如現れたといった感じだ。

燭台の灯りが当たりを煌々と照らして、更に不気味さを醸し出していた。


扉の横に淡い光を放った小さなパネルがある。そこに手をかざせば、資格保持者ー、天啓を授かる資格のあるものにのみこの扉は開かれるといっていた。


息を飲む。

私は1度天啓を剥奪された身、15の時、彩夏を死に追いやった罪、それが私の最大の過ちと思い、長年、祈り続けてきた。

だけど、本当の理由はそれだけじゃなかった。

私が天啓の能力を悪用して、周りや、自分自身をも洗脳し、改ざんした記憶ー、

それが、私の本当の罪、その罪を、受け入れ、克服することが出来れば、私の試練は合格し、再び サンダルフォンの加護が私に宿る。

そう、言っていた。


この扉を開けた瞬間に私という肉体は眠りにつく。そして、精神だけが、試練の間へと導かれる。そこで私は過去を見るー。試練は全部で4つある、

過去を、そこでの世界を肯定するか、受け入れる、それだけが試練突破の糸口だ。


強制的に聖堂から弾き出されてしまう。

試練は何度でも挑戦できる。だが、挑戦者の精神が持てば、のはなしだ。出来なければ、永遠に、生と死の狭間を彷徨うことになる。

危険なのは過度のショックから精神に異常を来たして、廃人と化することだ。

外部からの干渉は一切不可能、失敗して弾き出されるか、合格して、取り戻すか、自ら目を覚ますしか、方法はない。


それが当時のエクソシスト長、ドルジ神父の父とイデアの神が400年前に交わした契約ー、

こんな天啓システムを、本当に人間の力で作り出せたのか?凄まじい技術が使われていることは人目で分かる。

本来天啓を授かるタイミングは、神聖な聖堂で祈りを捧げている時に降りてくるものか、眠っている際に精神のシオンに天使から語りかけてきて授かるもの、

それを無理やり己の罪を克服したら天啓を得られる試練を人間が作り出し、そのシステムの執行を了承した。

どうやって呼び寄せたのか、疑問は山ほどあった。

気配を探るが、天使の気配どころか空気が澱んでいるような嫌な空気だ。


深く深呼吸する。


ドルジ神父の言う通りだ。私は、罪人だよ。

そんなことは、私が1番よく分かっている。

じゃあ何故協力せずにあそこまで憎しみを抱いたかって?


私を1番傍で守ろうとしてくれていた人さえ、裏切り者だと思い込み続けて、

1番守りたかった人も、守れなかった。

私を信じてくれていた人の言葉さえ信じられずに、失ってしまった。


私の計画はもう全て破綻している。

実の所、

エクソシストがどうなろうが、八王子の街が壊滅しょうが、私には興味がなかった。



でも、、ただでは終わらない


いや、終わるものか、


これはただの執念なのかもしれない。

意地と言われればそれまでだ。でもー、


私が尽く改変し、闇に葬り去った過去

出来ることならば一生思い出したくなどない。

だけど、それしか選択肢がないのならば、


ゆっくりと1歩を踏み出す。後ろの扉が音を立てて閉まっていき、だんだんと光が薄れていく。

完全に閉じられたとき、私は急激な眠気に襲われ、瞼を閉じる、そして、暗闇に飲まれていった。


どこか近くで、試練開始の機会じみた声が響いて、そのまま私は意識を失った。



………………………………………………………


ここ、は……?

目を覚ますと、見知らぬ住宅街の中に、立ち尽くしていた。


否、見知らぬ 土地では、ない、ここは、私が小学校高学年まで住んでいた親戚のいる街、三鷹市だ。


そして、見覚えのある、一軒家、 、こ、の家はー




女の人の怒号と共に、玄関から何か大きな物が投げ捨てるように放り出されたと思うと、 小さな子供が俯きながらフラフラと玄関から出てきた。


捨てられたのはランドセルで、衝撃で教科書が散らばっている。

少年は学生帽を深く被り、俯きながら教科書を鞄に拾っていた。…小学高学年くらいの少年、いや、


あれは、、私だ、過去の…

この家は、1番最初に引き取られた親戚の家で、中学に上がるまでここで、叔母さんと叔父さんと、私より2つ年上の姉さんと暮らしていた。お金にはあまり困っていたという話は聞いたことはない。叔母さんは専業主婦で、娘も、私立に通わせていたし、世間体がどうとかで、私も私立の附属小に通うことを要求された。

叔父さんはほとんど家に帰って来なかった。週に1度、長い時は1ヶ月近く帰って来ないときもあった。私を孤児院から 養子に迎え入れたのは叔父さんだった、でも、何の仕事をしているのかも分からない、私ともほとんど口を聞いたことはなかった。


でも、帰ってきた日は決まって、叔母さんの私への一方的な非難や2人の喧嘩になるのが常で、 私はそれが特に嫌だった。


あの事故が起きるまでー

ある日、2人を乗せた車が事故で崖から転落した。


女の人は、叔母さんだ、いつも口を開けば私への当てつけばかりで、折り合いが悪かった娘さんや滅多に家に帰って来ない夫のストレスのはけ口にされて、苦手だった。


少年が歩き出すと、彼女は心底不愉快そうな表情で睨み、勢いよく扉を閉めた。


……


私は、当然ながら、見えていない、か。

これは、何の試練なんだ?改変した過去は、こんな子供のうちから?



クスクス



黄色い笑い声が聞こえる。

遠巻きで数人の女子たちが

からかわれている私を見て バカにしたように嘲笑していた。

その中には、義理の姉の繭姉さんもいた。


姉さん…!


駆け寄り、その手を撮ろうとするも、もちろん通り抜けてしまう。

何だか、数十年ぶりに再会したかのような懐かしさを感じた。

実際は、記憶を封印してから2年もまだ経っていないのに、そう感じるのは、まだ能力が完全に解けていないことを意味した。


あ……


ここで気付く。私は、改変した記憶を覚えている、、少なくとも、これが1番最初に能力を使ったときだと思う。…解けてきている、

何もしなくても、記憶が戻るという現実に違和感を覚える。

それなら、なぜこんなものを用意した?こんな大がかりな施設で、リスクまで犯して、



そう考えるも束の間、場面は切り替わり、

昼間でも誰も近寄らないような断崖絶壁の、草むらの中に、1人の女性がいた。真っ赤なドレスに、赤く派手な髪色、歩いてこけまできたのか、靴もドレスの裾も泥だらけだ。そして、背中にまだ生まれて数ヶ月くらいと思われる小さな赤ん坊を背負っていた。


この人は…?

この、記憶は、まだ知らない。

見覚えがない。こんな派手な女性、私の知り合いにはいないはず。

そう記憶を巡らせていたさ中、突然背負っていた赤ん坊を抱えるように持ち直し、

崖の方へゆっくりと近づいていく。


明らかに嫌な予感がした。


心臓が五月蝿いほど高鳴っている。 実体などないのに冷や汗が伝うようや感覚を感じる。


これは試練であって過去だ、干渉はできない、そう分かっていたのに、足が勝手に動き、その女性の元に走り近づくことを止められない。


それは、手が届く距離まで近づき、相手の顔を見た刹那、私は驚き声を失い、立ち尽くしていた。


「……フィオナ?!」


淡い藍色の瞳に、金髪の長い髪、

場にそぐわない真っ赤なドレスに高いヒール、ブランドらしきかばんを身につけ、今の地味な服装のシスターの姿からは想像も出来なかったから気づかなかった。でも私の知るフィオナそっくりだ。


なぜ、、?


彼女は大きな薄い毛布に包まれた赤ん坊をまるで荷物でも扱うかのようにざっと茂みの中に隠すように置いた。


赤ん坊は何も分からず無垢な表情で女性を見上げている。


そんな赤ん坊を淡々と無表情で一瞥し、踵を返し歩き始める。


信じられない…



草むらの中、ふと立ち尽くした彼女は、


(いなくなった、これで!邪魔者は全員!!私)

は自由!アハハハハハハハハ)


狂ったように雄叫びを上げながら両手を挙げて

歓喜する。

その彼女の表情は、未だ見た事がないほど冷たい狂気的な瞳をしていた。




私は膝を着きしばらくその場を動けなかった。理解が追いつかない。



フィオナは、いつの間にか夜の闇に消えていた。


私はフラフラと覚束無い足取りで茂みの中を覗き込む。


運良くその赤ん坊は怪我もなくまだその小さな鳴き声を響かせている。

ほっとするのもつかの間、

、森のなかから話し声がきこえ実態がないことも忘れて反射的に近くの木に身を隠した。

しばらくすると神父の服装をした大人の男性2人が神妙な顔つきで赤ん坊の元へかけより、優しく背負い、そのまま山を下って行った。



そして景色が暗転する


「………」



嫌な予感が、違う、もっと確信めいた仮説が、頭の中を走馬灯のように駆け巡っていく。


ーお前の本当の出自を受け入れろー


どこからか私によく似た声が聞こえた。

そうでないと思えば思うほど、頭の中に鮮明に浮かび上がって消えてくれない。



ーその赤ん坊が誰なのか、よく知っているはずー





ーその2人の神父が誰なのか、お前は気づいているー




ーフィオナが本当はどんな人間なのか、お前は知っていたはずー





耳鳴りが激しくなり、意識が朦朧とする。

実体もないはずなのに何故か息が苦しくなり立っていられなくなり、膝を着く。

視界がぐにゃりと歪み、周りの景色が壊れたビデオテープのようにノイズが走る。これはまずい、試練に失敗しかけている そう直感で感じた、だけど既に、そう気づいたときにはそのまま私の意識は途絶えた。




…………………



再び意識が戻った時、先程までとは違う妙な感覚を覚えた。

頬が冷たい。何か冷たい床に倒れ、その感触だと気づく。そして、先程までとは圧倒的に異なるのは、説明しがたいが、意識がはっきりしているのだ、恐ろしい痛みや恐怖、 それらの感覚は確かに感じたのに、今、触れているこの身体は、先程よりも現実味があった。


あー、 そこで気づく。


「…っ」


自我を取り戻すや否や激しい頭痛が襲い来る


何か、試練で恐ろしいものを見た。 繭姉さんが出てきた。そして、過去の虐げられていた私、そして、フィオナが出てきた。




……


とにかく、体感時間はほんの数分だ、

試練は?どうなった? 意識が分断されたかのように中途半端に場面が途切れた。

やはり落ちたのだろうか。


景色も、違う。あの暗くてとてつもなく長い通路じゃない。

よろよろと立ち上がると、数百メートル先に見える1つの扉へ向かう。

刹那、何か大きなものにぶつかって、その反動で後ろに倒れ込んだ。

一瞬、何が起きたのか分からなかった。目の前をよく見ると、ピカピカに磨かれた窓が、四方を取り囲むかのように覆われている。目指していた扉は、そのガラスの向こうにあるものだった。ここは、まるで出口のない水槽のような場所だった。

現実的な痛みにようやく脳が冷静さを取り戻す。

自分は、どうやらピカピカに磨き上げられたガラス窓に激突したようだった。


……

直前の記憶では、試練のために。石造りの巨大な空間に1人で入ったことは覚えている。だけど、その試練用の空間はもっと、自然が作り出した洞窟のような、岩だらけの空間で、燭台だけの灯りしかなく薄暗かっただった。電気でこうこうと照らされ、意味のわからない機械が 立ち並び、少なくともこんな研究室のような、人工的な部屋ではなかった。


ここは、、?誰が、私をこんな場所に、閉じ込めた…?

ふと気づくと、監視カメラのようなカメラが至る所に頭上に設置されており、ガラス窓の向こうにはまるで鑑賞室とでもいうように大きな椅子がひとつ、向かい合っておいてあり、その周りには多数のモニターが設置されていて、いくつかは電源が入っていて、何かが映し出されている。

その画面を見て硬直した。そこに映し出されているのは、遠目からでも分かる、この部屋、この無機質な空間を移している、呆気なくシラケた顔で見つめる私がそこにいた。



こんなの…まるで監禁じゃないか


青ざめたのもつかの間、

刹那、ぴーっという機械音と共にガラス窓の更に向こう側の扉が開き、誰かが入ってきた。



黒いローブに、コート、フードを深く被り、 馬鹿げた狐のお面の、あの女だった。


この女との出会いは史上最悪だった。あの手も足も出ずにボロボロにされた屈辱と、羞恥と、そして何より、、、

結衣を、、


「これは一体どういうことですか!?ここは私が向かった試練の会場と全く違うのですが、あなたか私をここに閉じ込めたのですか!

それにこれは監禁ですよね!



私に一瞬顔を向けるが、そのまま椅子に座り、何やら機械をいじっている。

お面のせいで聞いているのか、表情も何も分からない。


「それに、試練は私の過去と向き合うためのものだって! 私は受け入れたはずです!なのになぜ現実に戻ってしかも訳の分からない場所に閉じ込められているんですか!?やるなら早く次の試練を見せて下さい!」




痺れを切らし、ガラス窓を叩きながら叫ぶ。




女は突然スっと立ち上がると、何かのスイッチを押し、


「言ってくおくけど、その中は防音防壁だから、」

この関内スイッチを押さない限り、意味が無い。ただの時間と体力の無駄よ」



淡々と機会じみた、いや、変革された機械的な声でそれだけ告げると、そのまま女は何事もなかったように席について作業を再開している。


…その余裕じみた態度に怒りばかりが湧き上がる



「私の先程の試練は失敗、したのですか?答えてください!」


……


自分の意思で受けに行ったはずなのに、

これではまるで、、使い捨ての駒と同じじゃないか


「何で私ばかりが、こんな目に…私に何を期待しているのか、どっちにしろ私は、もうすぐ死ぬというのに…」


「!…」



彼女は一瞬だが、こちらを向き、拳を握りしめ立ち上がり、何か言いかけた、


だが何も発することなく、席につく。


…?




時計も窓も何もない、どのくらい時間がたったのか、半時間か、それこそもう夜が明けたのか、体感時間ではもう何日もたったようなきがする。



惨めだー


薄暗い部屋に監禁され、衣食住もままならない、罪人のような鎖に繋がれていないだけ、マシなのかもしれないが、

ここが本当に試練会場なのか私には分からなくなってきていた。何のために、何の目的で、ここに、いつまで、いなければいけないのか、 何もかもが分からない


「馬鹿だな…私… 」


壁に力なく凭れ、呟く。

あのときから、私は何も変わっていない。

イデアの任務を放棄して、勝手に記憶を消して過去から逃げて、今の私はエクソシストとしての能力すらほぼ失われている、

今の私は約立たずだ、、

なのに、死ぬのは怖いのかー、、、


本当は分かっているんだ

改竄した記憶のままでいる方が私以外の人間も救われる。

これは私一人で、住む問題じゃない。




彩香、、、結衣……


どちらにしろ、私が真実を知ったところで2人は戻らないー


自暴自棄になるだけだ。罪悪感で死期を早めるだけにしかならないだろうその真実を知るものは、ここに一体何人いるのだろう。



感情など何も読み取れない この女は、私を誰よりも知っているような気がする。だけど、私には正体が誰であれどうだっていい。

力を取り戻し、殺すだけだ。この女を殺す、今や私の希望はその1つだけだった。


数刻後、なのか数日後なのか、いつもの女ではなく、入って来たのは


私が2番目に顔を見たくなかった人物ー、

突然今まで何をしても決して開かなかった 扉が内側から開き、


「遅くなったな、斗真、準備が整った、迎えにきたよ」


葛城は満面の笑みで、扉を開きそう告げた。


「…あなたは何を言って、」


「少し休息だ。今のままじゃ覚束無いだろう


そういい私の元まで歩いてくる。


「近づかないで下さい!この、犯罪者が」



「犯罪者、か、アトランティス協会で研究していたのはドルジや朔夜も同じだとうのに、朔夜には殊勝なんだろう?

その違いは何なのかな、私だけ随分嫌われてしまったものだな、」



「何を戯言を、よくも」



「これだけ動けて、話せたら問題ないな、 」



「貴方も私をここに閉じ込めたのですか!?試練と関係などあったのですか?」


「……いや、こんなものは何の関係もないよ、」


何だって?関係が、ない?



「あそこで何を見た?死すら厭わなかったほどのトラウマを、、延々と見せるなんて、こんなのは試練じゃない、天啓に必要などない、こんなことを続けていれば、普通の人間ならば精神が崩壊してしまう、

私は君を助けに来たんだよ、斗真」


「はぁ?意味が分からない、貴方がたは私に試練を受けさせるために連れてきたんでしょう?」


「ああ、そうだね、でも、私は今日、イデアを裏切る」


「なんですって?」


耳を疑うような言葉だった。


「試練などもう受けなくてもいい、こんなものはクリアしたところで何になる?闘いに利用されて使い捨てられるだけだ。

この試練を全てクリアし、得られる天啓は 人工的に作り出されたもの、リスクがかなり高い使えば使うほど寿命を削る。

私は君を、解放したいだけなんだ」


「…解放?馬鹿な、そんなもの 必要ない。試練を超えなければ典型を得られないというのなら、受けなければいけません。

私が、エクソシストでいられないなら、生きている価値などない のですから」


「斗真、君は死が確定した人間だ、

その意味が、分かるね?」


「…いつなのですか、」



「年内、早ければ、10月ー、ここは強固な結界で固められてはいるが、、関係ない、前々回は結社の強力な悪魔遣いに破られた、前回は、突然ステージ4の肺癌になって、最後には、自殺した」


「……」


何となく、気づいていた。最近、嫌な夢をよく見た。臨死体験、のように、、知らない世界の、知らない私が、立て続けに命を落とす、そんな悪夢を、、

その全てが名誉とは程遠い悲惨だった。



「典型を得れば覆すことができる、などとドルジ辺りは言うが、私はそんなものはただのまやかしにすきない。確定した死はただの生半可な天慶を得ただけでは覆らない。たとえ試練を乗り越えても得られる天啓は、良くても7代天使か大天使だ。斗真が昔得ていたサンダルフォンほどの熾天使クラスの天啓はこの人間が作り出したシステムでは得られない。

斗真、君は利用させられているだけなんだよ、7代天使の天啓を得たとしても、エクソシズムを使えば使うほど残りの寿命をさらに縮めることになる。はるフィアとの決戦で、勝っても負けても君は助からない。

その半年、ただあいつらに身を捧げて終わって

良いのか?」



以前と同じ天使じゃ、ないー

その言葉は私に少なからず打撃を与えた。

私が向き合わなければいけないのはサンダルフォンだけだ。他の天使ではダメだ。それに、そのクラスの天啓でなければ、私は彼らと戦えないのに…




「私はずっとお前を見てきた。産まれたばかりの 頃から、ずっと、私はお前を助けたいんだ。」



「私に同情など必要ない! 私は馬鹿な自分が改変した過去を知らなければ、、そうすることが彩香や、結衣への、繭姉さんへの償い、、皆知らないのでしょう!?」


言っていて声が震えるのを感じた。私を誘うためだけの嘘なのかそうでないのか、本心も目的も分からない、ただ、スタンガンを突きつけて恐ろしく笑っていたあのおぞましいビジョンが脳裏をよぎる。


「君が典型を乱用するほど悲劇だ、そんな苦しい過去など知らなくて良いだろう?そんなものは忘れて、もう一度1から始めれば良いじゃないか」


「忘れる?全てそのため?余計な記憶を消すために結衣も殺したんですか」



「…殺したりしてないさ、だけどしばらくは会わせられない。お前のためなんだ、分かってくれ」


…そんな戯言、誰が信じられるだろうか、きっとただの口実だ。だって私はこの目で見た、断末魔、飛び散る血しぶき、床に広がった夥しい血痕ー悲鳴、そして怒号

あの今でも鮮明に蘇る光景が、私を襲う

ただ怒りだけが湧き上がった

血が滲むほど、拳を握りしめる、


「私のため?私のためですって?ただ平穏に暮らしたかっただけの私たちを監禁して洗脳して、いきなり闘えだなんて言われて! あんたの指図など受けない、もう私は誰も信用などできない!」



「そうね、気持ちはよく分かるわ、斗真、」


!み知った声に振り向くと、

柚の声に振り向いたがそれは私が思い描いていた人物とは全くかけ離れた外見に身体が硬直した。





真っ黒で艶やかだった長い黒髪は、全て白髪に染まり、綺麗な翡翠色だった目はルビーのように真紅色に変わっている


長いコートを羽織るようにきていたから、最初は分からなかっただが、左手が なかった。


「ゆ、柚…!?一体、何が」





大丈夫よ、代償は支払ったけれど、身体にも精神にも問題はない。


「貴方、まさかー」




その全てが嫌というほど物語っていた。



「悪魔に、身を…? 何で…柚が、そこまでー」


あれほど、あれほど悪魔を憎んでいたのに、、




「あなたも私も、ただの被害者なのよ、ここにいる人は、皆ね」






?何故か柚は哀しそうな瞳で私を見ると、そう呟いた。..



「……もう、終わらせましょう。この馬鹿げた洗脳をー」





「私はあなたを友達だと思ってる、暗闇から救い出してくれた。葛城神父も同じよ、裏切られたように感じて、信じられない気持ちはわかる、でもお願い、一人切りにならないで、自暴自棄になっては駄目、だから、これで最後でいいの、もう一度だけ、私たちを信じて、諦めないで、」


「私に...この試練を放棄して、あなたたちと一緒に反逆者になれって?そんなこと、できるわけー

第1の試練は合格したんです、だから、まだ第2の試練は終わってない、続きを見ないとー



葛城神父は分かる、元々イデアだったし、良くも悪くも私の護衛が天使との契約だから、離れるわけにはいかないだろうから。だけどなぜ柚がそんなに私を引き留めようとするのか、

柚は列記とした純血のクリスチャンだ、その穢れなき血筋を泥で塗るようなー、



「斗真、このままじゃあなたは自滅するだけ、、よく考えて、過去を知る方法は試練だけじゃない!知っている人はここにいる!」


私が柚の手を振り払い出口に向かおうとしたとき、その言葉に硬直した。


え? 驚き振り向く。


「そんな、まさかー、葛城神父」


「...ああ、柚は嘘をついていないよ。彼女は初めから、記憶誘導にかかっていない、」



「そして私もー、」
















どうしても知りたいならば、私が見せてあげよう、だがそれは全て終わってからだ」


「斗真、お願い、私たちの計画にはあなたが必要なの、私たちは裏切り者よ、失敗したら、皆殺される。」


泣きそうな顔になりながら手を差し伸べてくる。その身に黒い闇を振りまきながらー


「これが、最後の賭けなんだ、頼む」


そうやって膝をつき、地面に頭がつくぐらいに深く 頭を下げた。


………

私は、抱いていた覚悟も、憎しみも、ここではなんの意味も持たないことを知った。


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