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復讐から生まれるものは






あの日の姿で、あの子が微笑むのを見た。





「久しぶり、元気だった?」




彩ー


「彩香!」


私が発した声は声にならず、別の人物の声にかき消された。それは、中等部の制服を着た、過去の私自身だった。屋上のフェンスに背を向けもたれ掛かるように立つ彩香の向かい側、勢いよく開いた扉から過去の私が息を切らして走ってくる、


また、私……?

もう1人の自分を観測しているという、この常軌を逸した体験に頭が痛くなる。


今度は何を、見せられているんだ…?


先程まで見せられた実体のない幻覚と分かりきっていた体験と違い、今回は実体が…ある。だけど、声は出せず、周りの景色や人が、どことなく透けているように見える。私がそのままどこか別の時間に、時空転移したかのような、不思議な感覚。過去か幻覚を見ているけれど、この世界に干渉は出来ない、そういうことはわかった。



それにしても、こんな、記憶、あっただろうか?私は冷静に頭を働かせる。これを見せているのはドルジという教会長だ。ということは試練の1部、本物でないにしても、これは過去の私が改ざんした過去と深い関わりがあるー。と思う。


だけど私にはこのシーンの覚えが全く無かった。


いや、ただの幻想か?

この人たちは平気で結衣を消そうとした。エクソシストを拉致して思考を操って、ハルフィア討伐となばかり正義を歌って、やっていることは恐喝、洗脳だ。



私まで惑わされてはいけない。そう、分かっているのに、、、


あの頃と変わらない姿で、あどけない笑顔を私に向ける彩香に、どうしようもなく 胸が締め付けられる思いに駆られる。


何度、彩香に会いたいと願ったことだろう。

何度、彩香に謝罪したいと願ったことだろう。






「ど、どうしてここに?自宅待機命令が出ているのではなかったのですか?」


「最後にね、斗真に、どうしても言っておきたいことがあって、、抜け出して来たの」


「抜け出して来たって、、彩香…あなたという人は、」




「幸せだった」


「え?」


「確かに、世間体から見たら、私のやっていた仕事は、後暗いことなんだと思う。辛いことや、苦しいことばかりだったけれど、でも、今の生活に満足していた。私には、あれが幸せだったんだよ。

…なのに、斗真は私からそれを無理やり奪った。」


「…何を、言っているのですか」


「…私は斗真が見ているような人間じゃないんだよ。」


「違う…違う、私は…!あなたの罪は濡れ衣だった!あなたは何も悪くない!」


全く噛み合わない。話の内容が、分からない、一体、

何の話をしているんだ…!?


でも、私は、この会話を、いつだったか、どこかで、聞いたような気がする。

先程までの感情とは全く違う、別の感情が私の中に生まれ急速に広がっていく。

全身に寒気が駆け巡り冷や汗がとめどなく溢れてくる。

これは、、恐怖…?私は、恐れているのか?

一体何に?


「全部、私が、、あの写真も、あの動画も、全部ー」


「止めろ!聞きたくない!!彩香は操られているだけです…こんなことを言うように、あいつらに!」


駄目だ、これは駄目だ、この先を知ってはいけない、逃げなければ、私は、私でいられなくなってしまう、


……自分の中に生まれた知らないはずの記憶、

そして知らないはずの感情が、濁流のように押し寄せる。


過去の「私」が逃げるように目を背けて走り出そうとした刹那、彩香が「私」の腕を引き止める。


「また、逃げるの?悪い癖だよね、もう、終わりにしよう?こんなことを続けても、誰も幸せになんて、ならない」


「!……げてる」


「え?」


「馬鹿げてる、意味が分からない、無理なんだよ、不可能なんだよ、絶対に彩香に勝ち目なんてない。

私には、君を助けられる力がある!罪から遠ざけ、被害が及ばないようにするだけ、何も金や名誉を望んだりしてない!復讐するわけでもない!当たり前の日常を、君に返してあげられる、ただそれだけなのに、どうして、、私は、あなたを助けたいだけなのに…」



分からない、分からない、なのに、私は、この光景を、知っているー。



「斗真はいつも私のためだとよく言うけれど私はそんなこと望んでいない。

斗真だけが正しいと思っている世界でしょう

私のためなんかじゃない、自分の、ためでしょう?」


私に直接向けられた言葉ではないと分かっているのに、冷や汗が頬を伝い、全身が震えるような悪寒が押し寄せてくる。


どうして、そんな目で私を見る、同情、軽蔑、落胆、そんな感情の入り交じった目で、、

そんな目で私を見るな。

そんな目で、私を…!


「彩香はあのままで良かったのに、、、彩香もーしなければ…」


「私」の独り言のように呟いた小さな声に一瞬目を見開き驚いた表情をした彩香は、俯きながら、聞き取れない声で何かを呟くと、くるりと私に背を向けてカバンから何かを取り出す、そして、、、「私」の目の色が明らかに変わるのを見た。




そこで景色は突然暗転した。

グニャリと歪んで何もかもが真っ暗な闇の中に消えていく。


………………………………………………………………




うっ…

目眩と吐き気が酷い、、明滅する視界の中何とか人影を捉える。


「あまり彼に幻覚をかけないで下さい、ドルジ神父、あれは脳をダメにする、天慶に影響があるかもしれない」


!聞きなれた声が間近で聞こえる。

ようやく定まってきた視界を頼りに周りを見渡すと、見覚えのある廊下、人物、現実に、戻った…のか?


「これから、本物が始まれば半日、最悪24時間返っては来られない。だから早く慣れてもらわないと困るからね。。」



「先程試練の成功率のデータを取りましたが、成功率は20パーセントもありませんでした。彼は我々の予想以上に脆い人のようです。器は無事でも、それ以外は…」



「誰が、…あんた達の、思い通りになるものか…!私は、絶対に許さない、絶対に、 」



何が成功率だ、何が器だ、ふざけるな…

ふらつく頭を抑えながら2人を睨みつけ吐き捨てるように呟いた。



「また昨日のような無謀な行動を起こされては困る。やれやれ、全く、君はどうしてそんなに自分の命を粗末にするのかな、エクソシストとしては致命的、クリスチャンとしてもあるまじき行為だ。突発的な自殺衝動を抑える幻覚をかけたから、これ以上馬鹿なことを考えても無駄だよ。

とにかく、もうすぐ集会が始まる。聖堂に来なさい」



「どうあっても、私をエクソシスト協会の駒にさせるつもりですか、、」





強く睨みつけ憎悪を吐き出す。だが教会長はものともせず一瞥もくれずに歩いて行ってしまった。



昨日のような無謀な真似…か。

あの時の記憶ははっきり覚えている。昨日、私は彼らが私を連れ去ろうとした時、逃げ場がないと悟った私は、廊下の窓のステンドグラスを、自分の短刀で…


今考えれば、あのときは冷静じゃ無かった。

人はよほどの力を入れなければ手首を切ったくらいでは死なない。



「結衣……」


もう届くことのない名前をポツリと呟く。

守れなかった…また、あなたを…。



「大丈夫ですか?突然あなたを操るような非礼を、申し訳ございませんでした。ドルジ神父に変わって謝ります。」




思考に沈んでいた中、正面から声をかけられる。そして目の前に差し出された手には小さな錠剤が数錠入ったケースが握られていた。


「先程の、幻覚の副作用を抑える薬です。気休め程度ですが…本当は私の治癒能力の方が効き目はありますが、あなたは私たちの力を嫌っているようですので、、」



…朔夜、といったか、何なんだ、この男は。


私をいきなり訳の分からない機械に繋いで洗脳紛いのことをして、拉致して…黒いフードの女よりかはマシそうだが、ドルジというあの黒幕の男と一緒にいたやつだ。信用出来ない。ここにいる人達は皆そうだ。私の安全を保護するだとか、典型を戻してあげられるだとか、優しい言葉を囁いてはいるが決して否は認めない、目的のためならどんな実力行使にも出る。

エクソシスト病解明のためにエクソシストを解剖実験したり、魔人を有無を言わさず殲滅することが正義だと考えているような歪んだ連中の考えなんて、理解したくもなかった。

だからといって、はるフィアの理想にも賛同することは出来ないが…

はるフィアは、悪魔の力を押さえ込み自らのものとし、今の支配関係を覆し、契約の代償を最小限に抑えて、能力を自在に操れるようにすること、全ての人間が、悪魔と契約しその力で身を守る術を得ること

能力に耐えられない老人や子供、精神的に弱い人間は死に、欲望の尽きない非道で極悪な人間ばかりが生き残る、秩序も倫理もないめちゃくちゃな世界が出来上がる。

そんな世界、異常だ。つまり、ハルフィアを壊滅しようとしているこのエクソシスト協会が目指している理想も、どちらも異常なんだ。



「どうして、私が、こんな目に…」


瀬野も、柚も、ユナン神父も、たくさんのシスターがいるのに、私だけが…

なんの力もない、私なんかより、よほど優秀なエクソシストはいるのに…

私はひっそりとアトランティス協会でエクソシストをしているだけで、良かったのに…




「……何度も言いましたが、私たちは貴方に天啓を戻してあげられる方法を知っています。ここで試練をウケるだけで、一生エクソシストとして正式に活躍出来る、貴方の能力なら幹部にだってなることすら出来るはずなのですよ?アトランティス教会は学生で身よりもないあなたを不憫逆に思って、誰も何も言わなかったかもしれない。だけど、この先修道士になるつもりもない、天啓の見込みもないのにエクソシストでいようとするあなたを、いつまでも受け入れてくれると思っていたんですか?」


「…」



「それに、正式なエクソシストの称号がなければろくに暮らしていけない、私たちは逆にあなたを助けてあげられるのですよ?今のあなたでは、結衣さんを絶対に守れない。」


「……」


「それが分かっていて貴方たちは私から結衣を奪ったじゃないですか!結衣を、、どうしたのですか…結衣を返してください…」


結衣は生きているのかー、



本当に聞きたいことは喉元まで出ているのに、どうしても言えない。


認めてしまうのが嫌だった。口に出してしまえば、本当に現実になることを恐れて…



「…あなたの行いは矛盾している。結衣さんを助けたければ、契約を叶えるか悪魔祓いしか方法はない。私たちなら彼女の悪魔を祓える力があります。だけど本人の元にいない悪魔を祓うことは出来ない、ハルフィアに捕まっていることが分かっているなら、ハルフィアに奇襲をかけてハルフィアを壊滅させることを目的としている私たちと利害は一致しているはずです。こんな所で意味のない祈りをいつまでも捧げて、無駄なことに時間を費やしているくらいなら、試練を受けて天啓を取り戻して私たちと共に戦って、ハルフィアを滅ぼし、彼女を契約から解放する、その方がよほど理にかなっています。」






「理に叶っているかとか利害が一致するかとか、そんなことはどうだっていい、私は…ただ、教会の地下にあんな酷い施設を作って、囚人や魔人を殺して、ワクチン開発のための実験台としか見ていないエクソシスト病を発病した患者たちを、作り出したエクソシスト教会に、従いたくなかった、ただ、それだけです」



違う、そんなの言い訳だ。私はずっと黙認してきた、、私だって、同罪なのに



「…施設?実験台…なんの話しですか?」


「え?」


知らないのか?アトランティス協会の地下のあの惨状を、天啓を受けたあいつらの側近の彼が?まさか、


「……とにかく、試練の説明会が始まります。礼拝堂に。」



「だから私は、試練なんて…」



「先程は私が強制的に終了させましたが…本物の試練はクリアするか、主に失格とみなされるまで抜け出すことは出来ません。その間、あなたがどれだけ助けを乞おうとしても、私たちは何も出来ないので、それだけは覚えておいて下さい。」


「…助けをって…見せるものって、私の過去ですよね?なんですか、殺人鬼にでも殺されるとか?ホラーゲームみたいに鬼ごっこでもさせられるのですか?」



「いいえ、あなたに過去にそんな体験はないでしょう?あなたの言うとおり、ただの過去です。ただし、本物の。あなたの記憶とは違う、本当の現実。あなたが改ざんする前の、正しい世界」


「だから私は、改ざんなんてしていない!ただでさえ、こんなに不幸なのに、自分からこんな現実を望むわけがない!私にそんな力があったとしたら、もっと自分に都合のいい世界にしたはずでしょう!」



「試練が嫌ならでは地獄へいき悪魔と契約してきますか?」


「…」


「地獄へ行けないのなら、試練に合格し天啓を取り戻すしかない。これはチャンスなんですよ、斗真さん。普通のエクソシストは、罪を冒し天啓を失ったらほとんど0に近い確率で同じ天使はそのエクソシストの元には戻らない。それを、あなたの封じた記憶を乗り越えられたら、再び力を貸すと言っているのですよ、それを、どうして拒もうとするのか、私には全く分からない。」



「…とにかく、すぐに来て下さい。遅刻は失格とみなします。…」



「私は試練を受けるなんて一言も…ちょっと、朔夜さん!」



彼は単調にそう告げると足早に去っていってしまった。

私はあれでもアトランティス協会で平和に過ごしていたのに、、拉致されただけでも許せないというのに、、


こいつらの思い通りに行かせるのは癪だ。



だけどわかっている。私1人まともでも、私1人が足掻いたところで、何も好転などしないということを。


私が協力しなくても、彼らは

いや、彼らならば是が非でも私を逃がしはしないだろう。

そんなことはわかっているんだ。


私の精神が悪魔に負けても、契約すら得られなければ、すぐに彼らは私を切り捨てるだろう。


例え、契約が成功し、やがて来るはるフィアとの闘いを勝ち抜いたとしても、最後には私を使い捨てる気だって


だけど、私の記憶のどれが偽物なのか、何を書き換えたのかは気になる。

私はあの呪われた血族の円城寺の血筋も、嘘だったら?私があれほど自分の穢れた血を憎んでいたのも、全て偽物だったら良いのに

そうすれば私は、自分を嫌いになる必要もなくなる。


……………………………………………………………



「これはチャンスなんですよ、斗真さん。」


「普通は1度天啓を失ったら2度と同じエクソシストの元には戻らない。」



あのとき、あの天啓が消えた日、私はどれほど自分を呪っただろうか。

どれほどやり直したいと思っただろうか。


分かっているんだ。私にとっては、最大のチャンスであり、待ち望んだ唯一の、、、


結衣は、生きているだろうか…?

あの夜、私が庇わなければ結衣は確実に殺されていた。

魔人を厚生、釈明の余地すらなく冷酷非道に拷問し殺してきたエクソシスト教会が、結衣だけ見逃してくれるなど、甘い考えだったんだ。

すぐにでもアトランティス教会に帰って結衣を探したい。

今この場所に結衣はいない。気配を全く感じない。彼女は悪魔着きだから、この施設内にいるなら必ず僅かな瘴気でも感じるはず。


あれだけ昨日は取り乱し、殺したいほど憎んでいたのに、今は冷静に頭が働いている。

馬鹿だな、私…

私に力があれば、天啓すらあれば、朔夜だって、あのローブの女だって、教会長にすら負ける気がしないのに…

今の私には、何の力もない。私の悪魔祓いは勿論悪魔にしか通用しない、それにしたって天啓を直に受けたエクソシストの方が強いというのに。


私は結衣のためだけにこれまで生きてきた。


彩香を失って、天啓が消えて、生きる意味など無かった私に、結衣が生きているとわかったとき、病院で眠りにつく結衣を目にしたとき、どれほど私は救われただろう。

悪魔付きだって構わない。契約が分からなくて、払えるエクソシストもいなくて、悪魔すら行方不明の八方塞がりで、当の本人は記憶を失って、でも、私は嬉しかった。

あなたがまた、私に笑いかけてくれる。


契約は調べても調べても分からなかった。私が天啓を取り戻して、貴方を自由にしてあげる。それが出来なくても言ってくれた。葛城先生が、時期が来たら私が彼女の悪魔祓いをやるって。


あの9月の、月食の夜に、悪魔の力が1番弱まる日、メデューサの子供を囮に、悪魔を呼び寄せて…


恐ろしい計画だってことは分かっていた。子供たちを危険に晒す、だけど、


それでも、あなたには、、普通に生きて、幸せになって欲しかった。

なのに、記憶すら取り戻さないままいきなり殺されるなんて、そんな無慈悲な話があるだろうか。




本当は、分かっているんだ。馬鹿な私だってー。魔人を情状酌量の余地なく無差別に拷問、断罪を正当化してきたアトランティス教会の地下施設を作った張本人たちが、危険な魔人を宿す結衣だけを野放しにしてくれるわけなどないって…。思いたかっただけなんだ。


私には、結衣しかいなかったからー。


それに、魔人だからって、過去にどれだけ罪を冒したとしたって、死ぬことが断罪だとは、私は思えない。私だって、それくらいは分かっていた。あの研究所は違法だってことくらい。だけど、エクソシスト病の研究所を、野放しにしていたのは、エクソシスト病が改名されなければ、エクソシストに未来がなかったから。それに、私が天啓を取り戻した時、そんな運命は嫌だった。自己満足で、身勝手な理由だと思う。そんな浅はかな理由で、いくら罪を侵したとはいえ、同じ人間だった彼らを、殺されていくのを見て見ぬふりしていたのだから。



ー言ってくれたのに。


「今度こそ、結衣を救ってあげなさい、ここの寮で暮らせるように、全力で協力する。シスターたちにも説得しよう。大丈夫、結衣を守ってあげられるのは、君だけだ。もう二度と、後悔しないように、」






葛城先生も、事情を知らなかったとはいえ、身よりもない素性も不明の結衣を、ユナン神父は、快く受け入れてくれた。


全部嘘だったのか?



駄目だ。もう辞めよう。

とにかく、聖堂に行かなければ、、

仮にもここはエクソシストの本部、身寄りも、頼れる親戚も友人もいない私には、ここを追い出されたら、

エクソシストの幹部全員を敵に回すことになる、東京の教会はほとんどがエクソシスト教会の生きのかかっている、そうなれば確実にアトランティス教会からも破門だろう。

そうすれば私は、今の学園の学費も、寮の家賃も払えなくなって、私の居場所はどこにもなくなる。そもそも、これまでエクソシストの勉強ばかりしてきたんだ。学力など中の下だし、エクソシストにしか取り柄のない私を受け入れてくれるところなどない。

それに私は来年で18だ。運良く寮併設の普通かの高校に入れたとしてもすぐに卒業し、就職しなければならない。

学園を度々休み、学歴も、お金もない、誰がこんな人材を欲しがるだろうか。

私には結局、ここしか居場所などないんだ。




フラフラと重い足取りで聖堂まで向かい、扉を開いて目にした光景に絶句した。


アトランティス教会の数倍も広い大聖堂に、多くの人が集まっている、


元々のこの協会のシスターや、修道士が壁際に取り囲むように立っており、神父階級の人間は祭壇上に立ち何やら忙しなく動いている。

そして、長机に、大体、20人くらいだろうか、それぞれ異なる制服を着た私と同じくらいの年代の男女が座っている。

その学生らの中に私のよく知る制服を見つけた


「柚!」


長い黒髪に秋霖学園の制服を着て、何やら分厚い本を読んでいた。知り合いがいたことに安堵している自分がいた。やはり、柚も、私のように…?


「あら、斗真、遅かったわね、」


「あなたも、連れてこられたのですね、怪我は、ないですか!?」


「?私は天啓を受けているから当然でしょ、私の天使レベルだと最前線で戦えるって、本当に本部の一員になれたなんて、夢みたいだわ、」



「…良いのですか、柚は、アトランティス協会を、あの八王子の街を捨てて、」


「捨てたわけじゃないわ、はるフィアが攻めてきたら街どころかエクソシストが滅びる。今こそ、私たちエクソシストはバラバラになっていちゃいけないの、本部の判断は正しいわ。はるフィアは私たちエクソシストにとって最大の脅威よ。結社さえ滅ぼせたら、私たちは解放される。」


「試練とやらを、あなたもウケるのですか?」


「ええ。大いなる大義のためならどんな試練も乗りこえられるわ、いや、必ず」



「……大いなる大義って…、」


柚は…こんなことを言うようなやつだっただろうか。もっと不器用で、過去に受けた傷のせいで、自分から人との距離をおいている、エクソシストだって、職にするつもりはないって、言っていたのに?


「でも試練は、そんな生半可なものではありません。私も、先程まで試練の予行練習、に似たものを見せられました。私たちにとって、相当なトラウマや、忘れたい過去を容赦なく突きつけてきます。あれはまだ第一の試練ですらなかった。本当の試練はもっと厳しいものでしょう。」


「?私には、トラウマや忘れたい過去なんてないわ」


「柚…私には気を遣わなくても良いんですよ、同じ歳なんですから。無理、しないで下さい」


「気なんて使ってないし、私は斗真が何の話をしてるのか分からないわ」



「え…?な、冗談、ですよね?」


「確かに、苦労はしてきたわよ。小さな田舎の集落で、私はメデューサの家系に産まれて、エクソシストや悪魔に理解のなかった住民たちに長年迫害を受けてきた。だけど、葛城先生と出会って、この東京に来て、仲間と出会って、私は生まれ変われたの。あの街での生活は、今は良い思い出よ。忘れたいなんて、思ってないわ」


「い、いえ、故郷のことではなく、東京に来て、秋霖学園に来る前、三鷹の学園に通っていたでしょう」



「?私は三鷹市には行ったことなんてないわ。誰と間違えているの?」


「まさか、そんな…」


柚は、確かに葛城先生に勧められて、秋霖学園に転校してきた。だけど、その半年前、迫害に耐えかねた柚の家族は、柚をエクソシストに理解ある東京に行かせた。そこが、三鷹の、成城学園だった。だけどその学園は、私の姉さん、繭が東京中の学園に、エクソシストの悪評を流した最発端となった学園。

違法行為は無かったものの、悪魔の能力によって貼られた悪い噂は、簡単には払拭出来ず、長い間私たちエクソシスト予備生を苦しめた。

秋霖学園もまだ、当時ほど強い効力はないにしろ、長年培われた悪評は、未だ消えずに残っている。エクソシストと関わると不幸になる、悪魔を呼び寄せる疫病神、最初はそう言われてきた私たちも、時代の流れが変わり、戯言、頭のおかしい新興宗教団体、妄言だと、信じない者が圧倒的に増えた。瀬野のように、人柄の良さから友達を作って、味方を増やして対抗出来るほど、私たちは器用じゃない。


柚は成城学園、そこでは酷い虐めに合っていた。心も身体も疲弊していた柚に漬け込んで、悪魔と契約させようとしたクラスメイトがいた。

彼女は柚を巧みに操り虐めっ子に復讐を果たす約束をし、柚はそれを了承してしまった。

その結果、強力な悪魔が柚のクラスを突如襲いかかった。柚に特に酷いいじめをしていた3人は殺され、その他大勢のかたん者は大怪我をおった。その被害者の全員が柚を少なからず虐めていた生徒だったため、柚は最初復讐てはないかと疑われた。

クラスメイトの柚への虐めが露呈した後、教師は、責任を問われ、それに精神を病み自殺した。


自分と同じ目に合わせてやりたい、仕返ししたい、そう願わせ、それを本当にやってのけた、加害者、ハルフィアの一味だった女は柚以外の記憶を消し、柚の心に深刻な爪痕を残して姿を消した。



忘れたというのか?

あの半年間の、柚の冒した罪と、立ち直るまでの苦悩も?


「斗真?大丈夫?」


「え、えぇ、それよりも、瀬野やユナン神父がどうしてるか知りませんか?別れも言えなかった教会の皆さんが心配です。」


「……皆なら大丈夫よ。応援して送り出してくれた。だから、期待に答えて、いい知らせを持って帰りましょう。皆のためにも。」


「……」



本当に?私があんな騒ぎを起こして、葛城先生が本部のスパイ、生徒が2人も突然訳の分からない命懸けの闘いのために連れていかれたというのに、

柚はこんな機械的な模範解答を言うようなやつじゃなかった。もっと不器用で、

まさか、柚に、何かー洗脳を?


柚は熾天使、序列の高い天使の天啓を受けている。

確か、柚は天使とうまく身体のリンクを切り離せずにエネルギーの調節がうまくいっていない。

だから天使の負荷が彼女の生身の身体に多少であるがかかってしまっていて、

だから激しい闘いや、長時間の闘いは命にかかわる危険な状態になるためお互いに避けていた。



そんな柚に与えられる試練は、きっと、エネルギーをコントロールすること

天使の力を最大限に引き出すにはリンク者の精神状態に比例する。

過去のトラウマが彼女の能力の妨げになっていたとしたら、

エクソシスト協会は、それを、、その事件自体をなかったことにしたんだ。


エクソシスト協会に絶対的な忠誠を誓わせるために?

思考を操って、任務に支障を来すかもしれない記憶や、余計な感情を消し去ってしまえば、

闘いや、計画に何の疑問も恐怖も抱かず、ただ命令に従うだけの、忠実な人形が出来上がる


皆どこかおかしいと思っていたんだ。突然故郷を離れさせられ、命の保証もない、死と隣り合わせの、はるフィアを知らないエクソシスト

らにとっては、訳の分からない計画に加担させられているのに、

柚は本当は、純粋で心優しい人だ。メデューサでさえなければ、普通の生活を送れていたのに、、



こんなやり方…卑怯だ。


ああ、そうか、

やってやろうじゃないか、、そっちがその気なら、私だって、!


もう絶望するだけの人生は終わりだ。


抗ってやろうじゃないか、この、最低な運命に…!






必ず、滅ぼしてやる。あのローブの女も、葛城も、九条院も、ドルジも、この協会ごと、私が、この手でー。




「意気込みだけでは誰も救えない。更に、復讐心は原動力にはなっても、後に残るのは破滅だけだ。他人も、自分自身もね」


「!」



「ドルジ…!試練とやら、受けてあげますよ、お望み通りにね、」


「そうか、どういう風の吹き回しかは分からないが自発的に受け入れてくれるなら手間が省けてよかったよ、強制的に連れていかずに済むしね。まぁ、でもせめて神父を付けて欲しいな。」


「早く会場に連れて行ってください、猶予なんてないのでしょう?」


「ああ、優秀なエクソシストが大勢その場に長く留まり続けることは危険だ。ここを押さえられては、試練も何も、出来なくなる。奇襲を仕掛けられる前に、天啓のウケる見込みのある者を1人でも多く試練を突破させなければいけない。」



「貴方は、知っているんですか?私の、改ざんした記憶とやらを」


「いいや、知らない、正確には、君が天啓が戻らない理由は、我々が長年探しても分からなかった。彼女が現れるまではー。地獄から君の天使を呼び戻したのも、試練のチャンスを与えるように交渉したのも、全て彼女だ。」


「…あの女は、何者なんですか?」


「…試練にクリアすれば、いずれ分かるだろう」



「……拉致してきて、たった2日でそんな大役を私なんかに任せて良いんですか?貴方も思考が読めるなら、私が何をしようとしているか、お見通しのはずですよね、」


「天啓を取り戻し、はるフィア襲撃の後全て終わったらこの協会を滅ぼそうとしていることか?僕やロープの彼女に復讐しようとしていることか?君の気持ちはよく分かる。愛する者を理不尽に奪われ、無理やり強力させられているだけだ。だが、それは一般市民から見たら、の話だ。エクソシストにとって1番大切なことは何か、一般市民を救うこと?エクソシストが世の中に理解される日が来ること?どれも違う、後継者を絶やさぬことだ。今、エクソシストは未曾有の危機に陥っている。エクソシスト病は改名されず、天啓の素質のあるエクソシストの減少と、世間からの厳しい目、予備生はどんどん隊を離れ、更に強大さを増し、我々に牙を剥き始めたはるフィアと魔人たち、エクソシストはもう、風前の灯だ。君は我々の最後の希望だ。私と朔夜、葛城だけではあの男、クラウスには残念ながら敵わない、でも、君が戻れば、イデアの使徒が集結すれば、奴を抑えられる希望がある。我々はこの計画に命を懸けている。ロープの彼女もそうだ。だから、全てが終わったら、僕たちは、君の復讐を受け入れよう。」


「なんですって…」


何を言っているのか、こいつはー


「僕たちは、君に殺されても構わない。そう言っているんだよ、円城寺君」


「な、にをー、ふざけるな…何で、何で、そんなー一国の、エクソシストのトップを担う貴方が!そんな弱気な人だったなんて」


「僕や朔夜は、数え切れない罪をお貸してきた。この時間跳躍の能力と、朔夜の予知能力を使って、このエクソシスト協会の栄光と繁栄の裏には、数え切れない憎しみと苦しみの連鎖があった、僕がこの地位に上り詰めたのは、数々の屍の上に成り立ってきた。穢れのない純粋な人間にのみ天啓が与えられるという言い伝えも、エクソシストは正義だなんて、神に近き神聖な

聖人だとか、そんな理想論を、思い込んでいた時もあった。でも実際は違う、欲望を捨て去りあらゆる七つの大罪を捨て去り世間から隔絶し

どんなに聖人君子に近づく努力をしたって、結局、大悪魔を操る魔人には敵わない。我々はエクソシスト病で大半が死ぬ運命だ。教え子たちに散々大義を解きながら戦死し、病死し、ていった

はるフィアさえ滅亡させれば、僕だけが生き残らなければならない理由などない。

それに力を使い過ぎた。もう次の世界線に跳ぶ力もない、まぁ、君の復讐が叶うとしたら、僕が戦いの後、まだ生き残っていられたら、の話だけどね。」


屍の上に成り立ってきただって?そんな人間でも、天啓を得られるのだとしたら、私が今までやってきたことは、一体何だったんだ。私が今まで、必死に祈りを捧げて、全てをエクソシストに捧げて、あらゆる欲望を振り払って、やってきたことは、全て無意味だったというのか?


「君はどうしてそんなに純粋さを求めるのだね。人は過ちを犯す生き物だ。それはエクソシストだって同じ」


「!」



どこかで、私は同じような言葉を聞いたことがある。


『人は、間違ったり、悩んだり、傷ついたりしながら成長していくんだよ。誰もが過ちを侵さないようにするということは、その失敗を、苦しみも、涙も全てなかったことになってしまうんだよ。』


「それに君はー、罪人を酷く嫌っているのに、自分だけは特別か?記憶を改変して、洗脳して、なかったことにして、」


「…それ、は…」


「まぁ、試練で全て突きつけられるだろうから、あまり君を追い詰めたくはないのだが、イデアの任務を放棄して、我々を長年欺いて逃げて、君だって、十分、罪人だよ、円城寺君。」




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